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人間の町

「おい椿、この先に町が見えるが、あそこに行くのか?」


「あれは人間の町ね……。私たち鬼の村に行くにはあと数日かかるし、今夜はあの町の宿屋に泊まりましょう……」


 先ほどまで浮かれているように上機嫌だった椿であるが、人間の町に向かうことになり、不安そうな表情に変わった。


 新右衛門と椿が町に入ると、道行く人々が椿を見て驚いたような表情をしている。


「おい、なんでここの連中はお前を見て驚いているのだ?」

「私が鬼だからよ……」

 椿はそれだけ言うと、うつむいて宿屋まで話すことはなかった。


 宿屋に着くと、宿屋の主人も椿を見るなり顔を硬直させた。


「おい! 鬼の娘と宿泊とはどういうことだ?」

 宿屋の主人は新右衛門たちが宿泊を頼むといきなり激怒した。


「待て! 事情はわからぬが、一晩泊めてくれればよい。迷惑はかけない!」

 新右衛門は黙ったまま話さない椿の代わりに宿屋の主人と交渉した。


「まあ何かあったらお前が責任取ってくれるなら構わねぇが、部屋は一つしか貸さねぇから、二人で同じ部屋だが文句はねぇな!」

「ああ、それで構わぬ」

 宿代は椿が黙ったまま主人に渡し、二人は一人部屋に二人で泊まることになった。


「椿、お前はその木箱みたいな布団で寝てよいぞ! 俺は床で構わん」

 新右衛門は椿にベッドで寝ることを譲り、自分は床で寝ることにした。


「なんで私が人間に嫌われているのか気にならないの?」

「聞かれたら嫌なのではないのか? 俺は椿が答えたくないことであれば、聞かなくてもよい」

「新右衛門は優しいのね……」

 ようやく椿の顔に笑みが戻った。


「そう言えば、さっき宿屋のオヤジが時間外なら風呂に入ってよいと言っていたな。俺は入ってくるがお前も一緒に行くか?」

「え? あなたの世界ってそういうものなの?」

「まあ、風呂があればなるべく入るようにしているが、お前は風呂嫌いなのか?」

「そ、そういうわけではないけど……」

 椿は少し恥ずかしそうな感じであったが、新右衛門と一緒に浴場に向かった。


「おい! 男湯、女湯の区別はないのか?」

 新右衛門はこの宿屋の浴場が一つとは知らずに椿を風呂に誘っていたのであった。


「あの一緒に入るのは良いのだけど、あまり見ないで欲しいの……」

「ああ、お前とは反対側を向いて入る」

 

 この宿屋では浴場は一つしかなく、時間で男と女が入る時間をわけていた。

 しかし、新右衛門たちは時間外に入ることしか許されず、必然的に混浴となっていたのだった。


 新右衛門と椿はお互いに背中を向けながら風呂に入る……。


「明日の朝早くこの町を出よう! 鬼の村に行けば、お前がこんな嫌な思いをすることはないのだろう?」


「……うん」


 この一言を交わしただけで、新右衛門と椿はその後は無言のまま風呂に入り、そして部屋へと戻った。


 二人が寝ようと思ったその時、窓の外から女性の悲鳴が聞こえるのであった……。

 

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