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母との再会

 鬼道丸も失い、悲嘆に暮れる新右衛門とスミレであったが、新右衛門は鬼道丸を王都近くの丘に埋葬し、その墓に手を合わせていた。


「新右衛門様、鬼道丸がもし自分が命を落としたら新右衛門さんに渡すようにと預かっていた手紙があります」


 新右衛門はスミレから手紙を受ける取ると封を切って中を読んだ。


 手紙の中には、鬼道丸が昔、人間の世界に迷い込んだ鬼の王女と恋に落ちたこと、二人の間に子ができたが鬼の世界には連れていけない掟があり、その子を剣の師匠に預けて鬼の王女とこの世界に来たこと、鬼の世界では人間と鬼は結婚できないため、女は鬼の男と結婚することになり、スミレが生まれたこと、そして、スミレを守るためこの世界で剣士として生きる道を選んだこと、そして最後には父親として新右衛門に何もしてやれなくてすまなかったと書き綴られていた。


「新右衛門様、中には何が書かれていたのです?」

「ああ、自分が死んだら俺にスミレを守ってほしいと書いてあるだけだ」


 新右衛門は目の前の少女が妹であるということ、鬼道丸が実の父親であったこと、父が過去に鬼の王女と恋に落ち、子供ができたために人間界にいられなくなりこの世界に来たこと、そして鬼の王女は他の男と結婚することになり、その娘を護衛することになったことなど、いろいろ書かれていたが、鬼道丸がこれまでスミレには話さないようにしていたことから察し、内容を誤魔化した。


「お前の母親とやらに会いに行くぞ!」


 新右衛門は女王との面会のためにスミレと女王の住む城に向かった。


 城に入ると王宮の間に通され、目の前には色白でまるでヤマユリのように美しい女性が待っていた。


鐘巻新右衛門かねまきしんえもんと申します」


 新右衛門は、女王の前に片膝をつき、頭を下げて挨拶を行った。


「あなたが、スミレを守ってくれたのですか! 礼を言います!」

「いえ、守ったのは鬼道丸です。私は椿姫様の護衛をしていました」

「椿姫? あの赤い髪の……そうですか」


 女王は経緯を話す新右衛門の顔を見るなり、直ぐに人間の世界に置いてきた息子であることに気づいた……。


「あなたの願いは、娘から聞いています。元の世界に帰りたいのですね。その願いを叶えることはできますが、わたくしとしては、娘の護衛として今後もこの世界にいてもらいたいのですが、どうでしょうか?」


 女王は掟上、新右衛門に母であることは明かせないが、せっかく会えた息子を帰したくないと思い、新右衛門にこの世界に残ることを提案した。


「いえ、元の世界に年老いた父親を残しております故、帰りたく思います……」


「そうですか……。それはとても残念なことです……」


 女王は自分が母親だと言えないこと、息子を再び手放すことに胸が締め付けられる思いであった。


「されど……元の世界に戻っても、ヤマユリを見るたびにこの世界を思い出します! なので、いつまでもお元気でいてください!」


 新右衛門が女王をまっすぐ見てそう言うと、女王は新右衛門が自分が母親であることに気づいていることを察した。


「そうですか……。わたくしもあなたの無事を祈り続けます」

 

 女王は少し涙を浮かべて新右衛門に返事をし、周囲の者は二人の会話を理解していなかったが、女王と新右衛門だけは、お互いの言葉の真意を理解し、二度と会えない母子の再開と別れの言葉を交わしたのであった……。

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