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卜伝の稽古

 新右衛門を看病した老人は伝説の剣豪・塚原卜伝つかはらぼくでんであった。


「なぜあなたがこの世界にいるのですか? それも人の村ではなく鬼の村などに……」

「鬼の王とやらに呼ばれたらしい。死んだと思ったらこの世界にいたわ。私がこの村に住んでいるのは、この世界に来た時に面倒を見てくれたのが、あの鬼道丸だからだ」


(鬼道丸というのは何者なのか? あいつも鬼なのか?)


「この世界では自分の死期がわかるらしくてな。私の寿命はあと10日みたいだ。そこでどうだ? お前は残りの10日間私の弟子にならないか?」


 新右衛門は卜伝の提案に茫然とした。

 あの伝説の剣豪が修行をつけてくれるということが信じられなかった。


「卜伝先生、よろしくお願いします」


 新右衛門は正座し、卜伝に深々と頭を下げて弟子入りをお願いした。


「では、最初の3日間は私が普通に生活しているから、お前はいつでもスキがあると思えば、その木刀で一本を取りに来い! いつでもよいぞ」


 そこから新右衛門は3日間、卜伝のスキを狙っては攻撃するが、一本どころか、攻撃前にすべて気づかれてしまい、近づくことすらできない。


「新右衛門、殺気を消すんだ! 攻撃に入るときも相手を斬ることより、自分の技に意識しなさい! あとは自分の中の心の声を消してみることだ」


 新右衛門は卜伝に言われるとおり、意識を自分に向け、心の声も無音にするように意識して何度も挑みかかるが、それでも卜伝に剣が届かない。


 寝食以外の時は全て稽古。齢83の卜伝もよく修行に付き合ってくれると新右衛門は心からこの剣豪を尊敬するのであった。


 ちょうど3日目に入った頃、新右衛門は越前の海で師匠の鐘巻自斎かねまきじさいと稽古している時のことを思い出した。


 自斎との稽古の時もよく殺気を消すように注意され、そんな時、新右衛門は海の音を聞いて心を落ち着かせて剣の稽古に励んだことを思い出した。


 新右衛門がよく耳を澄ますと、風の音や卜伝が作っている夕飯の鍋の音など普段より、辺りの音がよく聞こえた。


(良い匂いと音だ)


 鍋の匂いと具材が煮え立つ音を意識していると新右衛門は自然と囲炉裏の方に向かって行った。


 (あれ、目の前に卜伝先生がいる……)


 新右衛門はようやく稽古のことを思い出し、新右衛門に気づいていない卜伝に向かって木刀を振り下ろす。


「惜しかったな! もう少しで一本取れたかもしれないぞ!」


 新右衛門の一撃を卜伝は鍋蓋なべぶたで防ぎ、にっこりと微笑んだ。


「新右衛門、何か掴んであろう。明日から奥義伝授に入る。今晩はしっかり食べなさい」


 卜伝は作っていた鍋料理をお椀に盛ると、新右衛門に食べさせた。


(なんだ? さっきの一撃は防がれたとはいえ、卜伝先生に届いたぞ)


 新右衛門は卜伝が言う通り、感覚的に何かを掴んでいることを実感していた。


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