回復って自給自足なの?
世間はまだ夏休みである。
家に出ると待っているのは灼熱地獄なんだが、天気がここ数日悪いため気温はそこまで高くない。
「洗濯物干せねぇ・・・」
雨は正直好きではない。単純に濡れるから嫌という理由だが、むしろそれ以外にあるのだろうか。
しかも大雨で近所の川は氾濫を起こす。
ニュースは大雨の情報ばかり。
「公共交通機関は全面運休か。まあそうだよなぁ」
雨音ばかりが鳴り響く。
ピコン
通知が来た。
「誰からだ?」
『やっほー。みーちゃんの家は大丈夫?』
シロさんからだ。引っ越しを終え、もう実家に帰ってるみたいだ。
つまり顔も本名も知らないご近所さんだ。
「まあ俺の家はそこそこ高い位置にあるからなぁ」
『大丈夫ですよ~』
ピコン
『なら良いけど。一応水着は持った?』
「何故に水着?まあ濡れる覚悟なんだろうな」
ピコン
「ん?」
続いてまた来た。
『浮き輪も持ったか!ビーサンにグラサンも!!』
「どこに行く気だ?え~っと」
『グラサン?』
ピコン
『ごめん間違えたww
ゴーグルだww
勢いで言っちゃった』
どうやらビーサンの流れで言ったみたいだ。
「ラップでもやってたのか?」
『どこに行くのかと思いましたよww』
ピコン
『ごめんごめん。これじゃあマジで海に行く装備だった』
『心配しましたよ』
ピコン
『この文だけ見ると私馬鹿すぎるww』
『本当ですよww』
相変わらずのアホの子ムーブであった。
その日の夜、いつものメンバーで集まった。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様~」
「んんん・・・お疲れ~」
「シロさんさては寝てましたね」
「マジかw」
「みーちゃんよく分かったね!」
「いや本当に寝てたのかよ」
「流石みーちゃん。シロの理解者」
「待って明かり点けさせて」
「しかもガチ寝かよ」
「やっぱみーちゃんはシロの理解者なだけあってよく分かってるね~」
「流石みーちゃん」
最近、本当にシロさんの理解者になりつつあるようでちょっと恐怖を覚えてる。
「いやさらっとフェードアウトしてますけど、ルアさんもですからね?」
「ほら俺は今の理解できなかったから」
「そうだよ。みーちゃん諦めて」
どうやら諦めるしかないらしい。
「それで今日は何する?」
「私はレベル上げたい」
「俺は何でも良いですよ」
「じゃあレベル上げるためにダンジョンに籠るか」
「「はーい」」
「息ぴったりじゃん」
理解者って呼吸までぴったりなのだろうか・・・。
ダンジョンの中にて俺たちは・・・
「「やばいやばいやばいやばい!!」」
「ほら頑張って二人とも」
「シロさん!早くルアさんを起こして!!俺もう無理耐えれない!!!」
「まだリキャストを終えてないの!!」
「痛い痛い痛い痛い!!!」
「みーちゃん頑張れー」
「シロさんヒール!!」
「MPが無いから自分で回復して!!できるでしょ!!」
「出来るけども!!火力が減っちゃいますよ!」
「みーちゃんの負担が大きすぎるww」
「頑張って!!」
「仕方が無い!自己回復!!」
この日、俺はタンク兼ヒーラー兼DPSという最強の存在になった。
「よしっ!ルア君起こすよ」
「えー」
「お願いします!!ルアさん起きてください!!」
「みーちゃんが可哀そうだから起きるか」
「ありがたいです!」
「いやぁみーちゃん大変そうだね。あっMPは蘇生に使ったからもう少し待っててね」
「みーちゃん頑張れ」
「流石に死ねる!」
その時モンスターは俺への強攻撃の詠唱を終え、俺のHPを削り切った。
「いやぁ大変だったね~」
「そうですね」
「みーちゃんがげっそりしてる」
「なんか疲れました」
俺が死んだあと、蘇生はされたがそれ以降ヒールが飛んでこない事件が起きた上にタンクが一度死んだことで、シロさんが俺の蘇生と引き換えに倒れ、あとは壊滅の道だった。
「なんか凄かったな」
「大量のモンスターに襲われた挙句、壊滅って」
「いやぁやっぱりみーちゃんは面白いね」
「流石のみーちゃんだったな~」
「タンクは物理魔法の防御力はあってもメンタルは豆腐なんですよ」
「ちゃんと軽減バフ炊いて」
「そうだよ。私のヒールはメンタルは癒せないから」
「うわぁーん」
この日、俺はタンクとして一つ成長したのかもしれない。
「それで今から何します?」
「あっ私、装備が欲しいから行きたいダンジョンがあったんだ」
「なんでシロはそれを言わなかったの?」
「いやぁ眠かったから。みーちゃんをヒールしている内に目が覚めた」
「大変な時に目を覚ましたんですね」
「へへへ」
「へへへじゃないよ」
「じゃあ二人とも申請しちゃうよ」
「「へーい」」
「本当に息ぴったりだな」
再びダンジョンに潜る事になったのだが・・・
「何故にルアさんはミュート何ですか?」
「あっ本当だ。何かあったのかな」
「・・・」
「まあいっか。動けてるみたいですし」
「そうだねー」
ここで俺とシロさんは同じことを思ってしまっていた。
「「(女か!?)」」
やはりアホの子は考えていることもアホであった。
「あー眠い」
「そう?私はめっちゃ目が冴えてるよ」
「いや直前まで寝てる方が凄いですからね」
「へへへ」
「へへへじゃないわ」
「にしても今日は結構雨降ったよね~」
「凄かったですよね。今も振ってるけどかなり収まりましたよね」
「ねー」
「そういえばさ」
「はい」
「みーちゃんの家ってどの辺なの?」
「大学の門出て右の方に進んでたら高校があるじゃないですか。あの付近です」
「マジで実家から近いんだけどww」
「シロさんもこの辺何ですね~」
「そうだよ~」
「ほぇ~」
こんな感じでだらだらと会話しているとある人からチャットの通知が来た。
『もっと話してww』
そう、なぜかミュートにしているルアさんからだ。
「いやあね。ルアさん俺達かなり世間話してましたよw」
「本当だよ。多分私たち、お互いに住所を頑張れば特定できる感じの話をしてたからね」
「全くですよ。想像以上に近所な気がするんですから」
ピコン
『もっとなんか話して』
「だそうですよ。シロさん」
「だってみーちゃん」
「お互いに話のネタを押し付け合うって・・・」
「私たちって結構赤裸々に話すよね」
「そうですよね」
「あっ、今私ストーカー紛いの被害に遭っているんだ」
「は!?」
「直接的な被害はないんだけど、私のキャラからSNSをのアカウントを特定されたりログインしたら必ずチャットが飛んでくるの」
「いやいや被害食らってんじゃないですか。というか垢BANできる案件ですよ」
急に恐ろしい爆弾を投下してきた。
「やっぱり運営に通報した方が良いかな」
「当たり前でしょ。ストーカー紛いというかもはやストーカーですよ」
「そっかー」
ピコン
『あんまりひどかったら本気で通報考えたほうが良いよ』
「ルアさんもこう言ってますし、やったほうが良いですよ」
「うん。今度来たらしてみようと思う」
まさか身近にストーカー被害を受けているとは思わなかった。
顔が見えないという事を良いように利用するというのもオンラインゲームではあるあるなのだ。
「あっやばい。軽減帰って来てない」
「ヒールはちゃんとあげるよ」
「ありがとうございます」
「あっ、スタンくらった」
「は?」
「ごめん、今無理。自分でよろしく」
「自己回復!!」
タンクにも回復手段があるが、装備によって使えるアビリティが変わるのがこのゲームの特徴だ。つまりタンクと言っても一概にこれって言うのがないのだ。俺のタンクは物理や魔法のバランスが取れ、自分よりも周りを守るようなジョブとなっている。そのため自分自身にかける防御バフは少ないが自他共に回復できる魔法を有している。そのため俺はタンク兼ヒーラー兼DPSと呼ばれる原因である。
「ヒールって自給自足なんだなぁ」
「みーちゃんヒーラーに甘えちゃだめだからね」
「ヒーラーの仕事なのよ」
「へへへ」
ピコン
『みーちゃん、自給自足頑張って』
「タンク引退かなぁ」