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全部滅ぼしてね、セツナ  作者: 245
殺す気なんて無かった
2/15

調伏師セツナ

ご覧いただきありがとうございます!

でもすみません、この章は片手間で書いたものでクオリティ低いかもです。

次の章からちゃんと書くつもりですので、世界観感じ取るくらいでお読みいただければ幸いです。(勿論話のテーマ自体は拘って書きましたが!)

 セツナは木々がパンケーキに見えてくるほど腹を空かせていた。重い荷物を背負い、ふらふらと力無く歩く姿が痛々しい。


 荒野で物珍しいサーカスの一座に出会ったのがそもそもの発端だ。サーカスではルーレットによる賭博が行われていたのだ。金と運の熱狂に晒された人々の狂気的な笑みと、一筋縄ではいかない一瞬の勝負。そんなものを指を咥えて見ていられるわけがなかった。


 結果として有り金、食料、下着以外の衣服、その他好みのがらくた。あらゆるものを失ってしまったのだが。セツナは今や胸と股だけ覆っただけの恰好である。


 セツナが背負っているのはやけに重い頭陀袋だ。本当に重い。今にも捨てて寝そべりたいくらいである。これの中身を質に出すことも一瞬考えたが、強い意志によってなんとかそれを食い止めることができた。


 深い森をあてもなく彷徨い、そろそろ亡くなった祖母が天国から手をこまねき始めた頃、セツナは力尽き倒れた。


 それから数時間後。セツナは街の少女によって発見された。


 その場にいた二名の男女(・・・・・)と共に。


 * * *


「いやあ、ほんとに助かった! 何から何までありがとね! アンちゃん!」


「い、いえ……」


 セツナは無我夢中で食事にありつく。アンと呼んだテーブルに座る少女こそが食事の提供者だが、若干引いている。

 アンではない澄んだ女の声がセツナをたしなめた。


「気を付けてください。セツナは賭け事になると周りが見えないんですから」

「いやあ面目ない」


 セツナは呑気にへへと笑って獅子鳥肉のシチューをかきこむ。腹を満たせた満足が幸せそうな表情に現れていた。すでに下着姿ではなく、簡素な麻の服を身にまとっている。


「ま、無鉄砲はおもしれえから良んだけどな」

「適当言わないで」


 テーブルに腰掛けるのはセツナの他に三人いる。生真面目そうに諫める栗色の髪の女と、切れ長の鋭い目つきの男。名はそれぞれクレーヌとアングという。そしてもう一人が、怪訝な顔ながらもセツナにシチューを振舞ってくれた心優しき少女アンだ。


「ええと。三人でレイフォンまで来たんでしたっけ? すみません、ちょっと混乱してて」

「はい。私がセツナを負ぶって三人で・・・。直前で力尽きて、助けがなければ飢え死にしてましたけど」

「いやあ、空腹には勝てんね!」


 セツナは一人で呑気に食べている。テーブルの傍らには空の頭陀袋が置いてあった。


「失礼ですが、アングさんは……」


 少女はおずおずと尋ねた。その野蛮な目つき。そして森には様々な害が立ちはだかる。


「はい。お察しの通り魔剣ですよ」


「こう見えても調伏師です。えっへん」


 クレーヌはこともなげに言うが、この世界で調伏師はかなり希少な存在である。


「なるほど……それで森を抜けられた、と」

「妙に野良が多かったですね。大変でしたよ」


 野良というのは野良の魔剣、つまり調伏されておらず攻撃性を有する魔剣を指す。


「だからこそレイフォンは森林城塞と呼ばれるほど、森の上に入り組んだ街を作ったのでしょう?」

「ええ。中心部に行けばもっとおいしいものが食べられますよ。……お金さえあれば」

「無いねえ」


 セツナらがたどり着いたレイフォンという城塞都市は密集した森の木々の上に造られている。魔剣たちの脅威に対抗するため、人間たちは多少不便でも身を護るための防衛手段を用いざるをえなかった。


 その時、扉のほうから激しくノックする音が鳴った。この少女の家は手狭だが一本の大樹に寄り掛かるような細い三階建てで、その二階に四人はいる。


「アン! 中に入れろ!」


 それは焦りとも怒りともとれるような男の威圧的な声で、とにかく開けないでやりすごすのは難しいらしかった。


「すみません、ちょっと……」


 アンは逡巡したのち、弱弱しく階段を下りて行った。


「おい。早速見つかったぞ。窓から逃げるか?」

「別に悪いことしてませんし、このままでよいでしょう。ね、セツナ」

「そだねえ」


 呑気に三人で待っていると、やがてアンが一人の男を引き連れて二階へ上がって来た。厳しい表情をしている。


「あんたらが旅人か。ようこそレイフォンへ。よく森を抜けてこれたもんだ」


 そこには明確な皮肉が込められていた。歓迎されている雰囲気では既になかった。


「出て行けって言うなら出て行くけど」


 先制したのはセツナだ。急に顔を引き締めて、刺し殺すような目にアンはぞくりと悪寒すらした。


「……話が早くて助かる。今レイフォンには魔剣盗賊ってのが出るんだ。あんたらを疑うわけじゃないが、住民も不安がるんでな」

「なるほど。じゃあ出ていこっか!」

「そうですね」


 すぐさま三人は立ち上がった。アンと男はびっくりして声も出なかった。


「世話になった」


 アングがアンの頭にぽんと手を軽く載せたところで、ようやくアンは我を取り戻す。


「しょ、正気ですかっ。出て行ったらまた魔剣に襲われます! それで行き倒れていたんですよね。無謀です。せめてアングさんの傷が治るまで……」


「アンちゃん」


 セツナがアンを制した。柔らかく笑んでいる。


「お気遣いありがとう。でも私達は旅人だから。心配ご無用だよ」

「そんな……」

「じゃあね! シチュー滅茶苦茶美味しかったよ!」


 言うなり、セツナは颯爽と階段を駆け下りていった。「失礼しますね」とクレーヌ。二人の仲間も続いて消えていく。


 やがて、都市の入り口たる大樹の梯子門を軽快に滑っていくのが見えた。


「これもレイフォンのため。彼らが無事森を抜けるのを祈ろう……」


 アンは力なく頷いた。所詮旅の縁。彼らに肩入れするいわれはない。だが目の前で精いっぱいシチューを頬張っていたあの女の子が死んでしまうかもしれないのはなんとも心苦しかったのだ。


 セツナ達は地表まで下りて、少し離れた所で荷物を下ろしていた。てっきり先を行くものだと思っていたから、何をしているのだろうとアンと男が身を乗り出して見る。大きな布のようなものと黒い棒の骨組み。その他様々な品々を魔法のように取り出す。


 セツナたちは森を進むことなく、テントを張っていた。


* * *


 野営の準備を終えると日は既に落ちていた。油の鼻につく匂いがして、ランプの明かりが三人をおぼろげに照らしている。

 魔剣が最も活発化するのは夜。夜の森など危険極まりない場所だが、三人にとってそれは脅威ではない。言われた通り次の街を目指すという選択肢は取らなかった。いや、取れなかった。


「おいセツナ。昼間、匂ったぞ。あの娘からは特に強かった」


 大樹の根元に寝そべったままアングは言った。だが、いつでも戦闘態勢に移れるよう警戒は怠らない。


「分かってる」

「やるんですね? セツナ」


 セツナは何かを考えるようにじっとランプを見つめている。思いつめたような不幸そうな顔だ。


「……うん。魔剣はすべて滅ぼすよ。絶対にね」

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