14 洗濯物のルール
翌日、私が休憩室で作業をしていると、全体訓練を終えた見習いたちが帰ってきた。
「ふー、あっついあっつい……あっ、ディートリンデ様」
「こ、こんにちは」
「ええ、こんにちは。……あっ、待ってちょうだい」
私がいるからか、既に上半身裸になっていた何人かの見習いは慌てて服を着ようとしていたので、彼らを止めた。
皆が帰ってくるまでの間に部屋を片づけて、昨日屋敷で作ったものもセットしておいた。それについて説明しておきたい。
「汚れものは、床に置かないでね」
「えー……どろどろなんですよ」
「分かっているわ。でも今後のために、話を聞いてちょうだい」
そうして本日出席している十四人の見習いが全員部屋に集まった――汗と泥の臭いがかなりひどいけれど、我慢だ――ところで、私は部屋の隅にある長テーブルを手で示した。
「これからは、衣類を床に置くことを禁止します」
予想通り、私の言葉を聞きあちこちから「えー!」「なんで!?」という声が上がった。
「じゃ、どこに置けばいいんですか!?」
「あそこのテーブルよ」
数日前までは見習いたちの私物が山積みになっていて掃除係の使用人も呆れていたテーブルは、食事などに使うものよりも低い。この高さがちょうどいいと思った私は先日、上のものを片づけた。
いらないものはどんどん捨てたので見習いたちは戦々恐々としていたけれど、「捨ててもいいものも結構あったんだなー」ときれいになったテーブルを見て感心したように言っていた。
そこには今、大きな箱が複数、それから浅い大きめの木箱が置かれている。
「あそこを、洗濯物置き場にします。まず……エトヴィン、実演してくれる?」
「はい、もちろんです」
私が声を掛けたのは、バルトのクラスでは最年長のエトヴィンだ。
彼は十八歳で、普通ならとっくに従騎士になっていてもおかしくない年齢だ。でもそれは彼の能力云々ではなくて、彼は二年前に大怪我を負って療養していて、その間昇格試験を受けられなかったからだ。
そんな彼は周りの「悪ガキ」たちをまとめる、頼れるリーダーだとバルトからもらった資料には書かれていた。
癖のある黒髪に青色の目を持つ彼は人なつっこい大型犬みたいで、十五人の中でも率先して私に近づき、「ディートリンデ様」と呼んでくれた。
やって来たエトヴィンにシャツを脱ぐよう指示し、それを浅い木箱の上に置かせた。
「まず、脱いだ汚れものは全てこの木箱の中に入れてください。洗濯係の使用人の皆様には、木箱の中に入っているものだけ回収してもらいます」
「でもそれって、すぐに溢れませんかー?」
まだ幼さ残る顔の見習いに問われたので、私は彼に微笑みかけた。
「ええ、溢れるわ。でも、きちんと畳んで置けば全員分入るようにしているわ」
「じゃあわざわざ畳まないといけないじゃないですか!」
「……いや、畳めばいいじゃないか。それくらい俺たちがするべきだろう」
説明しようとしたら、エトヴィンが代わりに言ってくれた。
最年長の頼れるエトヴィンに突っ込まれたからか、文句を言った見習いはしゅんと大人しくなった。
……バルトも言っていたけれど、これからもし困ったことがあればエトヴィンに相談すればいいかも。
「そして、新しいシャツはここにあります」
「それ、箱ッスよね?」
テーブルの上に置かれた三つの箱は、特に幼い見習いたちの関心を惹いたようで、何人かは私が言うよりも前に箱に歩み寄って、しげしげと見ていた。
「ええ、箱ね。……箱の横にはそれぞれ、何と書いている?」
「小、中、大、ッス」
「そう。……洗濯係の使用人の方には、この箱の上部から畳んだシャツを入れてもらいます。そしてこの箱の下部には隙間があるので――」
聡いエトヴィンはそれを聞くと手を拭き、「大」の箱の前に移動してしゃがんだ。箱の下部には隙間があって、洗濯係が入れてくれたシャツをそこから引き出すことができた。
エトヴィンが「大」サイズのシャツを引き抜くと、次のシャツが下りてくる。こうすることで、皆が自分のサイズのシャツだけを引っ張り出して衣類をグチャグチャにすることはなくなる。
単純な仕掛けではあるけれど目新しいのか、見習いたちは目を輝かせると「俺もやる!」と箱に手を伸ばしそうになったため、私は箱の前に立ちふさがった。
「だめです。今皆は汚れた服を着ているのにすぐにきれいなシャツを取ったら、汚れが移るでしょう? エトヴィンのように汚れたシャツをあっちの箱に置いて、汗や泥汚れがひどい人は軽く体を拭いてから、こっちのシャツを取りましょう」
「えー」
「えー、じゃありません。はい、行動開始!」
パン、と手を打つと、それまではちょっと不満げだった見習いたちも慌ててシャツを脱ぎ、箱に放り投げ――ようとしたけれど私がちらっと睨むと慌てて畳み、わくわくしながらシャツを引き抜いていた。
「おー、ちゃんと出る!」
「いっつもおまえ、シャツをグチャグチャにしておばちゃんに叱られてたもんなー!」
「これなら残ったシャツが踏まれなくて済む!」
見習いたちは、きゃっきゃとはしゃぎながら新しいシャツを着たり、私お手製の箱を観察したりしている。
……バルトの前では真剣な目をしている見習いたちも、やっぱりまだまだ子どもみたい。
皆が着替えを終えたところで、バルトが入ってきた。
途端、一斉に姿勢を正してお辞儀をした見習いたちを見回してバルトは頷き、そしてテーブルに置かれた箱を見てきた。
「……それが昨日、ディートリンデが夜更かしして作っていたものか」
「えっ、あれ、ディートリンデ様お手製なんですか!?」
「使用人が作ったんだと思ってました!」
見習いたちが驚いたように言うので、私はちょっとくすぐったく思いつつ頷いた。
「ええ。……本当はもうちょっと中身を工夫したかったけれど、私の力ではこれが精一杯だったわ」
「いや、俺も途中までしか見ていなかったが、ここまでのものを考えて作ってくれるとは。……これでおまえたちが床を散らかすことが少なくなりそうだな」
最後の一言は見習いたちに向けられ、彼らは困ったように笑っていた。




