No94
デートの場所と言って思い浮かぶのはどんな所だろうか?水族館、映画館、遊園地、動物園等が定番どころだが、悪くも無く良くも無いと言った所。間違いなく楽しめるが、距離を縮めたりスキンシップを図るには些か物足りなさを感じる。じゃあどこに行けばいいんだ?という話になるが答えは一つしかないだろう。
そう、お家デートだ!狭い空間に彼女と二人っきりとなれば否応なく接触する機会も増えるし、距離も縮まるだろう。更に、あわよくばその先までいく事も可能だ。ここまで言えばもう分かると思うが、今日は彼女達が我が家に来ます。んで、今はせっせこと掃除やらなにやらをしている所です。掃除機を念入りにかけて、ゴミをすべて捨てて、窓を開けて歓喜したうえで消臭剤を軽く振りまけばあら不思議。男臭かった自室がほのかに石鹸の香気が漂う空間に大変身。最後はエロ本やらエロ動画の始末だ。これが難しい問題で、単に隠すだけでは何かの拍子に見つかるかもしれない。かと言って処分するなんてのは以ての外。親友である真司に預けるのが一番安全なのだが量が多いので断念。こういう時デジタル媒体だと楽なのだが、あいにくと俺は紙媒体派なので無理なのです。散々悩んだ末庭にある物置の奥にしまう事にした。勿論ダンボールをボロボロにして埃をパラパラッと被せてしっかりとカムフラージュしたのでバレる可能性は限りなく零に近い。で、動画の方だがPCのキャッシュを全て消去の上、ショートカットを纏めているフォルダを階層の奥深くに設定してパスワードまでかける。当然ブックマークも消去しているので無問題。取り合えここまですれば大丈夫だと思うが、一番安全なのは既存のSSDを抜いてダミーのSSDに入れ替える事だろう。プラスPCの起動時にパスワードも設定すれば確実。だがそこまですると流石に怪しまれるし、逆に疑って下さいって言っているようなものなので少し緩さというか甘さがあった方が良い。ちゅー訳でやる事は全てやり切った。もうそろそろ彼女達が来る時間だし居間で待っていますか。
現在時刻は十一時をちょい過ぎた辺り。そわそわしながら待っているとインターホンの音が鳴り響く。パタパタと音を響かせながら玄関まで行き扉を開けると、見慣れた顔が揃っていた。
「やっほー。遊びに来ました~」
「ハル君、今日はお世話になります」
「悠君、お久しぶり」
「ようこそ、わが家へ。立ち話もなんだからどうぞ中に入って」
俺が促すと玄関で靴を脱ぎ中へ。その際チラッと見たが、三人とも脱いだ靴のつま先側を玄関扉の方へ向け揃えていた。しかも脱ぐ際にクルッと後ろを向いて、靴を脱ぎながら揃えるような形で上がってしまうのではなく、正面(家の中)を向いたまま靴を脱いで玄関に上がり、体の向きを変えてひざを折って靴を180度回して隅に寄せていたのでしっかりと礼儀作法が身についているんだなと感心してしまったよ。これに関しては老若男女問わず間違っている人が兎に角多い。ハッキリ言ってバットマナーであり、場所によっては恥をかくことになる。逆に言えば確りと出来ていれば育ちの良さや、品の良さをアピールできる。事実俺もこうやって見ている訳だしね。……改めて考えてみると俺の彼女達って礼儀作法が滅茶苦茶しっかりしているんだよな。男女比が偏っているからなのか、親の教育のせいなのかは知らんけどさ。おっと、ついつい考え込んでしまったな。待たせるわけにもいかんし俺の部屋へさっさと移動しようか。
「どうぞ、入って」
「「「お邪魔します」」」
満を持して俺の部屋に彼女を連れ込んだ……、間違えた。招待したわけだが、緊張するな。感想が欲しい所だが、もし『なんか臭い』とか『汚いし、なんかダサい』とか言われた日には死にたくなるしなぁ。怖いけど聞きたいという面倒臭い女みたいな状態になっているが、さてどうしたもんか。
「へぇー、綺麗にしているんだね」
「うん。シンプルだけど品の良いインテリアのお蔭でバランスもとれてるし」
「男性の部屋ってもっとごちゃごちゃしているかと思ったけど違うんだね」
結衣、楓、柚子の順番で感想を言ってくれた。ふぃ~、流石俺の彼女だぜ。心無い事を言われるかもと思ったが杞憂だったようだ。
「個人的に物が沢山あるのが嫌いでさ。掃除も面倒になるし、片付けとか大変じゃん?だから必要最低限+αくらいで纏めているんだ」
「うんうん。良いと思う。凄く綺麗だけどお掃除はハル君がしているの?」
「基本的にはね。たまに葵や母さんがやってくれるけど」
「へぇ~、偉いね」
「んにゃ、掃除くらい誰でもするだろ?」
「ううん。家事全般は女性の仕事だし、男性がやるなんて相当レアケースだよ」
「なにその男尊女卑社会。九州男児も真っ青だよ」
「んっ?そうかな。当たり前だと思うけど。それと九州男児ってなに?」
「あ~、まあ気にしないで。でも当たり前か……」
結衣が当然の様に言っていたが、どうにも腑に落ちない。前世では男女平等、家事も仕事も男女問わず行う物っていう認識だったからかな?こんな話を前世のフェミニストが聞いたら発狂ものだろうな。
やれ女性蔑視だの男女差別だの、時代錯誤も良い所だとか口撃してくること間違いなし。古き良き時代の大和撫子はもう存在しないのだろうか?と思った事は一度や二度では無い。そう考えると本当にこの世界に来て良かったな~と思うよ。
「ハル君どうしたの?」
「悪い。少し考え事してた。取り合えず座って、座って」
皆が腰を下ろした所で柚子が最初に口を開いた。
「私男性の部屋に来たの初めてだから何もかもが新鮮に見える」
「「私も」」
「そうかな?変わった物とかも無いし、普通じゃない?」
「そんな事無いよ。なんとなく悠君の臭いがするし」
「あー、分かる。落ち着くいい臭いだよねぇ」
「ずっと嗅いでいたいくらい好き」
「ちょ、ちょっと待った。三人とも俺の臭いとか言ってるけど、もしかして俺臭い?悪臭を振りまいてたりするの?」
「あっ、ごめん。言葉足らずだったね。不快な臭い……汗臭いとか、体臭がキツイとかじゃなくてなんて言うんだろう?」
「柚子さんの言う通り不快な臭いじゃないんだけど、癖になるというか脳にダイレクトに刺激を与える臭いだよ」
「う~ん、柚子さんと結衣の意見を統合するとフェロモン臭とでもいうのかな?」
「「それだ!!」」
「楓ちゃん頭良い~!」
「実際にそんな臭いがあるのかは分からないけどね」
「マジか……。俺からフェロモンなんぞがでているとは」
でも、楓の言う事にも一理ある。例えば男だと女の子の香りがする、なんか甘い香りがする等々思い返せばあるわ。という事はだ、これもフェロモン臭という事だよな。取り合えず俺の体臭がヤバいって話じゃなくてホッとしたぜ。
「話してたら喉乾いてきたから飲み物持ってくるね」
「うん」
言ってから立ち上がり、居間の方へ移動しようとしたその時ノックの音が響く。
「どうぞ」
「失礼します。飲み物を持ってきました」
「おぉ、ありがと。丁度欲しいと思っていたんだ」
「それはよかったです」
葵がナイスタイミングでやってきてテーブルの上に飲み物を置いてくれる。さり気無い気遣いが出来るよくできた妹だよ。最高だね!
「葵ちゃんありがと。そうだ。よかったら葵ちゃんも一緒にお話ししない?」
「折角兄さんと一緒なのに私がいたらお邪魔じゃないですか?」
「そんな事無いよ。ねっ、楓ちゃん、柚子さん」
「うん。一緒にお話ししよう」
「よかったら悠君の昔話とか聞きたいな」
三人がOKの返事を返したのを聞いた後、葵が俺の方をチラッと伺うように見てきたが、俺の返答は決まっている。
「勿論OKだよ。可愛い妹を除け者にはしないさ」
「ありがとうございます。じゃあ、お邪魔しますね」
うむうむ。最近構ってあげられなかったからこういうチャンスをしっかりものにしないとね。
「う~ん、ほんとに無駄な物がないんだねぇ。……あっ、モリモリ君だ」
「あー、うん。結衣から貰ったやつだよ」
「わー、飾ってくれてるなんて嬉しいな」
「まあね。思い出の品だしさ」
「高一の時にショッピングモールで遊んだにプレゼントしたやつだよね」
「そうそう。あの時初めてモリモリ君の存在を知ったんだよ。あのインパクトは今でも忘れない」
「あはは。驚いてたもんね」
「初見の人はみんな驚くと思うよ。てかさ、キモかわ系のゆるキャラって括りなのに筋肉モリモリマッチョっていうのがね……」
「えー、そこが可愛いんだよ。そうだ!来月新作が発売されるからハル君にプレゼントするね」
「え゛っ!?いや、結衣の気持ちは大変嬉しいけど一体いれば十分だから」
「そう?」
「うん」
あんな狂気の塊みたいなぬいぐるみを二体飾るとか頭おかしくなるだろ。ていうか、夜中目を覚ました時あの悪魔的ぬいぐるみが目に入って何度叫んだことか。チャイ〇ド・プレイも真っ青だよ。
「まあ、モリモリ君は好き嫌いがハッキリしているし、苦手な人は苦手だからね。なかには結衣みたいな狂信者もいるけど」
「楓ちゃん酷い。なんであの可愛さが分からないかなぁ?」
「私もどちらかと言えば苦手ですね」
「葵ちゃんと同感」
「葵ちゃんと柚子さんも敵だったとは。最早この場に味方は誰もいないの?」
「いや、敵とか味方とかじゃなくさ、単純に好みの問題だろ。例えば結衣がクソゲーって思う作品を面白くて大好きって言う人もいるわけだろ。だから、そうなんだ~って流せばいいんだよ」
「なるほど。布教活動をもっと頑張らないといけないって事だね」
「「「「……………………」」」」
駄目だこの子。話が全く通じない。大好きな事の話になると途端に難聴&都合の良い解釈をする耳になるんだった。くっ、このままでは延々と説法を聞かされる羽目になる。それだけはなんとか回避せねば。なにか話題、話題。
「あー、柚子は大学生活どう?楽しい」
よし、これでなんとか最悪の事態は回避できるだろう。たぶん……。




