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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
94/163

No93

悩みというのは尽きないもので、一つ解決したと思ったらすぐに別の問題が降りかかる。それは大きなものから些細な事まで様々だが、なぜ人間は悩み、苦しむのだろうか。いっそ思考を放棄してしまえば、何もかも投げ出してしまえば楽になるのにそれをしない。なぜか?

17世紀フランスの思想家パスカルの代表作『パンセ』で「人間は自然のなかでもっとも弱い一茎の葦にすぎない。だが、それは考える葦である」と述べているが人間とは思考する生き物でありだからこそ人間たらしめるのだろう。仮に思考を放棄してしまえば果たしてそれは人間と言えるのか?ただの肉の塊に過ぎないのではないだろうか?哲学的な話になってしまったが、要約すれば俺は今悩んでいるんだ。時間的にも今を逃してしまえば二度と叶う事はないだろうから、必死になって頭を回しているんだけど良い案が浮かばない。悶々とした中日々を過ごしている訳だけど、今は仕事中なので気持ちを切り替えねば。


「甲野君、三番テーブルの料理出来たから持っていって~」

「分かりました」

アリスさんからオーダーの品を受け取り客席の方へ歩いていき、いつも通りスマイルを浮かべて一言。

「お待たせ致しました。こちらご注文の品になります」

「ありがとうございます」

「では、なにか御用がございましたらお呼びください」

そう言って立ち去ろうとした時心配そうな声で呼びかけられた。

「兄さん、大丈夫ですか?」

「んっ?なんも問題ないよ」

「……本当ですか?何かに悩んでいるように見えたんですが」

「はぁ……。葵には敵わないな。実は少し考えている事があるんだけど、中々いい案が浮かばなくてさ」

「成程。良かったらお話してもらえませんか?力になれるかもしれませんから」

「ありがと。あと数ヶ月で卒業だろ。で、何か爪痕を残せないかなと思ってさ」

「爪痕ですか?」

「うん」

「例えば机に自分の名前を彫ったり、銅像を壊したり、校舎の窓ガラスを割ったり等をしたいんですか?」

「違う、違う。そんな昔のヤンキーみたいな事じゃなくてさ、後輩たちが昔こんな事があったんだよとか、この行事を考えたのは誰々なんだよみたいな記憶に残ったり、連綿と受け継がれる事が出来ればなって事」

「そういう意味でしたか。そうなると難しいですね」

「だろ。時期的にも早急に決めないと間に合わないと思うしさ」

「う~ん……。私ひとりではなかなか思い浮かばないので助力を頼みましょう」

「というと?」

「実はもうすぐみんながここに来るのでその時に相談しませんか?」

「おぉ、マジか。三人寄れば文殊の知恵とも言うからな。こちらこそ是非お願いしたい」

「では、それでいきましょう」

葵からのナイスアシストによりもうすぐ来るらしい面々と話し合う事決定した。仕事はいいのかって?今から店長とアリスさんに話を通してくるからたぶん、きっと、おそらく大丈夫な……はず。だよね?


それから二十分くらい経った頃に結衣・楓・柚子・真白さん・優ちゃん・先生が来店した。なぜに先生が?と思ったが部活の顧問としてしっかり仕事をしているか見に来たみたい。んで、さっき葵に話した事を皆にも話して意見を募ったんだけど、一様に頭を捻っている。こういうのはぱっと思い浮かぶもんでもないし、難しいよなぁ~なんて人事(ひとごと)の様についつい思ってしまう。

「う~、難しよぉ~。こういう時は甘い物を食べるに限るね」

「もう、結衣ったら。……食べる……か。んー、卒業生で食事会とか?」

「楓ちゃん、場所はどうするの?」

「学食を使うとか?」

「それだと全員入るかな?」

「多分大丈夫だと思う。……けど学食で食事とかいつもと変わりないよね」

「だね」

「卒業生全員でタイムカプセルを埋めるとかはどうでしょう?」

「学校なんて早々に閉鎖する事も無いし、十年後、二十年後に母校に集まって開封とかいい思い出になるわね。優ちゃんナイスアイデア」

「ありがとうございます」

ふむ。確かにいい案だな。柚子が言った通り学校なんて早々に閉鎖する事も無いし、人生で一番輝いていたであろう時期のタイムカプセルだからより思い出深いだろうしな。これは盲点だった。

(わたくし)がぱっと思いついたのは卒業記念パーティーでしょうか。場所はホテルの会場を借りればいいですし、予算に関しても会費制にすれば問題ないと思います。教員も含めて皆でワイワイと楽しむ事が出来るので最後の思い出作りにもってこいだと思います」

「「「「おぉ~!」」」」

真白さんの意見に結衣・楓・柚子・優ちゃんが揃って感嘆の声を上げている。かく言う俺も同じだ。ちょっと考えれば浮かびそうだが、灯台下暗しとでも言うのか完全に頭から抜けていた。

ここまで出た意見は食事会・タイムカプセル・卒業記念パーティーだが、食事会とパーティーはほぼ同じなので合わせてしまっていいだろう。となると二つか。甲乙つけがたいし、両方ともいい案なのでどちらも採用してしまうか。となれば次は問題点の洗い出しか。丁度先生もいるし相談してみようかな。

「みんな、様々な提案をしてくれてありがとう。一応タイムカプセル・卒業記念パーティーの二本立てで計画していきたいと思います。それに伴い幾つか気になる事があるので、先生に聞きたいんですがいいですか?」

「構わないわよ」

「では、一つ目です。予算なんですが、これは完全に生徒側の実費で賄うのか学校からも援助してもらえるのか。どちらでしょうか」

「それに関しては経理や理事長、他の先生方に話してみないと何とも言えないけど、恐らく援助は出来ると思うわ。割合までは分からないけど」

「なるほど。では二つ目です。他校の生徒の参加は可能でしょうか?」

「基本的には無理ね。あくまで私立蒼律学園の生徒が対象だから。甲野君は誰か誘いたい人がいるの?」

「はい。真白さんと金城さんを誘いたいなと思っています」

「悠様」

「そう。んー、その二人なら身元もしっかりしているし以前交流会でもお世話になった学校の生徒だから特例でなんとかなるかもしれないわ」

「本当ですか?」

「恐らくね。これも話し合ってみないと分からないけど」

「じゃあ、なんとか特例で認めて貰えるようお願いします」

「分かったわ。それと、もしパーティーが実現したら大変な事になるから覚悟だけはしておいてね」

「というと?」

「関係者が大挙して訪れるという事よ。甲野君の知り合いはもとより、行政、警察、医療、その他諸々の機関から大勢来ると思うわ。当然マスコミもね」

「ちょ、ちょっと待って下さい。俺の知り合いは分かりますけど、なぜに関係ない人までくるんですか?」

「忘れているかもしれないけど、甲野君は特別監察対象に認定されているのよ。面識はなくても色んな人が複雑に絡んでいるの。当然対象の卒業記念パーティーとなれば来るわよね。第一企画者が貴方なんだもの」

「うぐっ……。忘れたわけでは無いんですけど、暇ではないだろうし来るはずないって思っていて」

「甘いわね。相思相愛で付き合っている彼女が三人もいるのよ。もう、甲野君の重要度はうなぎ登りなんだからね。自覚は無いみたいだけど」

「すみません」

「まあ、そんな感じでかなり大変だと思うけど、実行するという事でいいの?」

「はい。俺の方でも色々と頑張って計画しますが、みんなにも手伝って貰えると嬉しいです」

「「「「「勿論協力します」」」」」

こうして爪痕、もとい記憶に残る行事をしたいというぼんやりした思いが今形になり動き出した。果たして後年まで語り継がれる伝説となるのか?それは俺の努力次第だろう。

これで話は纏まったし終わりだなと一息つこうとした所で待ったの声が響く。

「兄さん、お誘いするのは真白さんと金城さんだけですか?」

「一応そのつもりだけど何か問題でもある?」

「はい。あります」

「悪いんだけど教えてくれない?」

「私と優さんが誘われていません」

「あっ……」

「完全に忘れていましたね?」

「いや……その……、はい。ごめんなさい」

「優さん。私達って兄さんにとってどうでもいい存在なんでしょうか?」

「そんな事は無いと思いますよ。たまたまど忘れしちゃっただけじゃないかな」

優ちゃんのフォローも空しく葵がジト目でこちらを見てくる。変に言葉を連ねるのも言い訳がましいし、ここは素直にこう言うしかないな。

「俺にとって葵は大事な存在なんだ。何があろうが忘れないし、決してどうでもいい存在なんかじゃない。最愛の妹なんだから」

「兄さん。……私の方こそ辛く当たってしまいごめんなさい」

「気にしてないから大丈夫だよ。改めて葵と優ちゃんも卒業記念パーティーに参加して欲しい」

「はい。勿論参加します」

「僕も記念に行ってみたいので参加します」

ふぅ~、なんとかなったか。葵がこんなにつっけんどんな態度を取るなんて滅多に無いんだけど、最近構ってあげられなかったからな。そのせいかもしれん。彼女とイチャイチャするのも大事だけど、もっと周りに目を向けないと大切な物が知らずに手から零れ落ちていたなんて事になりかねん。葵から『兄さんなんて大っ嫌いです』なんて言われた日には死ねるし、そんな悪夢を現実のものにしないよう今後注意していこう。なにはともあれ直近で葵を構うとするか。

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