No89
初夏に吹き抜ける風が心地よい今日この頃。皆様はいかがお過ごしでしょうか?俺はデートの準備をしています。今日は公園デートなので気張った格好をする必要はなく、寧ろラフな格好の方が好ましい。という事で少し早い気もするがハーフパンツにカットソーというファッションで行こうと思っております。持ち物に関しては特に無いので小さい鞄にハンカチとかティッシュとかスマホを入れておしまい。よっし、準備が整ったのでレッツゴー。
公園の入り口が今回の待ち合わせ場所なのだが、辿り着いた時にはすでに待ち人はいました。
「お待たせ~」
「ううん、私達も今来た所だよ」
「そっか。じゃあ、移動しようか」
「うん!」
結衣が元気一杯に返事を返してくれる。四人で歩きながら芝生が敷き詰められた開けた場所に行き、シートを敷いて場所の確保は完了。各々座った所で、誰ともなく口を開いた。
「程よく暖かくって気持ち良いね」
「だね。七月に入れば本格的に暑くなって、厳しくなるしね」
「うん。ん~~、は~」
楓がなんとも言えない声を出しつつ伸びを一つ。つられる様に俺も体を伸ばしたらボキッ、ボキッ!っと大きな音が二度、三度と鳴ってしまう。
「悠君、大丈夫?凄い音鳴ったよ」
「どこも痛くないから大丈夫だと思う。偶々大きな音が鳴っただけだよ」
「う~ん、ならいいけど。いつもそんな大きな音が出るの?」
「普段はそんなに鳴らないかな。ポキッ、ポキッくらいで。というかこの関節から出る音?ってなんなんだろうね?普通に考えて体から異音が鳴るとか怖くない?」
「まだ科学的には解明されていないんだけど、関節腔内に発生した気泡の破裂音ではないかという研究結果があるわ。じゃあ、関節を鳴らすのは問題無いのかという話だけど関節がポキッと鳴る瞬間=気泡が弾ける瞬間は、関節内に大きな負荷がかかるの。その負荷が軟骨や骨を傷つける可能性があるから極力止めた方がいいみたいよ」
「ほぉ~。柚子って物知りだね。俺そんな話全然知らなかったよ」
「私も偶々ネットサーフィンしていた時に見た記事を覚えていただけだよ」
「いやいや、それでも凄いよ。やっぱり柚子は勉強家だなぁ」
「こういった雑学や豆知識を調べるの割と好きなんだ」
「へぇ~」
「私もゲームに関する事なら凄い調べるよ。裏技とかバグとか効率の良いレベリング方法とか」
「結衣はゲームに関してだけは半端ない情熱を掛けるもんね。それを勉強にも向けて欲しいんだけど」
「だって勉強よりゲームの方が面白いし。それと楓ちゃんなんかお母さんみたい」
「おか……。私そんな年じゃないんだけど。あと子供は結衣みたいなゲーマーには絶対に育てないし」
「うわぁ、そんな事言っちゃうんだ。その発言はゲーム好きに対する宣戦布告だよ。楓ちゃんは今全世界のゲーマーを敵に回したね」
「そうだね。はいはい」
「ハル君~、楓ちゃんがイジメる~」
「よしよし」
抱き着いてきた結衣の頭を撫でながら、楓の方を見ると何とも言えない顔をしている。このままだと少し蟠りが残りそうだし、なんとかするか。
「楓は結衣の事を心配して言ったんだけど少しキツイ言い方になっちゃったね。でもそれは結衣の事を大事に思っているから言える事なんだよ。結衣もゲームの方が面白いのは分かるけど勉強も少しだけ頑張ろうな。受験もあるしさ」
「うん。楓ちゃんごめんね」
「私の方こそキツイ言い方してごめんね」
「よっし!これで仲直りね。はい、握手」
ふぅ。これでよしっと。仲が良いほど喧嘩するという諺があるが、お互いの事をよく理解しているからこそ些細な出来事でどうしようもない溝が生まれる事もある。最初に埋める事が出来れば良いんだが時間が経つにつれより深く、広くなり手の付けようがなくなる。この二人にはそんな風になって欲しくないし、今後俺が緩衝材になって仲を取り持つ事の重要性も否応なく増すだろう。まあ、今は少し沈んでいる空気を変える事が先決か。そんな事を考えていると目の前にコロコロとボールが転がってきた。
「よいしょっと。どっから転がって来たんだこれ?」
辺りを見回すもボール遊びをしている人は見当たらない。しばし、キョロキョロしているとトタトタと覚束ない足取りでこちらに寄ってくる人影が。
「あ~、こんなところにあった~!おにーさん、それわたしの~」
「君のだったんだね。はい、どうぞ」
「ありがと~!」
ボールを取りに来た幼女が満面の笑みでお礼をしてくれた。なんとも微笑ましい光景だな。そのまま帰ると思いきや俺の顔をジッと見たまま一言。
「おにーさんもいっしょにあそぼう!」
「お誘いは嬉しいけど、今は彼女達と一緒にいるから無理かな」
「え~、やだやだーー」
参ったな。目の前で駄々を捏ねる幼女を前に為す術がない。困り果てて彼女たちの方を向くと笑顔でこう言ってくれた。
「一緒に遊んであげて。私たちの事は気にしないで良いよ」
「うん。結衣の言う通りだよ」
「子供は一回こうなると引かないからね。相手をしてあげて」
「悪いな。少しだけ遊びに付き合ってくるよ」
「おにーさん、いっしょにあそんでくれるの?」
「おう」
「やったーー!!」
こうして幼女と遊ぶ事になってしまった。あくまで、しょうがなくだからね。決してロリと遊べる!最高かよ!とかあぁ~、マジ小っちゃい子天使!とか思ってないからね。俺は紳士であって変態では無い!そこを間違わないように!いいね。読者への注意も終わった所で彼女達に見守られつつボール遊び開始。
another view point
ハル君が幼い子と一緒に遊んでいる姿を見ていると思わず口から言葉が漏れてしまった。
「私に子供がいたらこんな感じなのかな?」
「そうだと思う。ハル君は意外と子煩悩だし、なんだかんだ言いつつ溺愛しそう」
「分かる。楓ちゃんも私と同じこと思ってたんだ」
「うん。それにしても子供か……。こうして男性とお付き合い出来るだけでも奇跡みたいな物なのにこれ以上望んでいいのかな?」
「それは……」
「二人の気持ちは良く分かる。そもそも男性とデートしたり、当たり前にイチャイチャしたりって普通じゃないもんね。悠君と一緒に居るとそこら辺の感覚が麻痺しちゃってこれが当然ってなっちゃうけどね」
「うん。柚子さんの言う通り、普通だったら相手のお家に行って少しだけ喋ってさよならだもんね。どこかに出掛けたり、手を繋いだりなんて有り得ないし。そう考えると私達って幸せ者だよね」
「そうだね。でも、もし叶うのならば結婚して子供を産みたいな」
「それは私も同じ。愛する人の子を産みたいと思うのは女として当たり前の感情だと思う」
「だね。こうしてお付き合いしているけど結婚するかどうかは悠君次第だし、現状に満足していたら愛想を尽かされるかもね」
「柚子さん~、怖い事言わないで下さいよ~」
「でも本当の事だよ。結衣ちゃんも楓ちゃんも先を見据えているなら悠君に相応しい女性になれるよう努力しなきゃ」
「はい」
「そうですね。それにハル君を狙っている女性は沢山いるわけですし、確実に付き合う女性はこれから増えると思うから、うかうかしてたら捨てられちゃうかもですしね」
「「……………………」」
楓ちゃんが恐ろしい事を言った為私と柚子さんが無言になってしまう。ハル君に捨てられるとか世界の終わりだよ。もう生きている意味が無いし、努力を怠った自分を殺したいほど憎むだろう。そうならないよう一層励まなくては!柚子さんも同じ気持ちなのかグッと握りこぶしを握っていた。
another view pointEND
幼女と遊びつつ、彼女達の様子を伺うとなにやら話し込んでいる様子。どんな会話をしているか分からないが楽しそうだったり、落ち込んだり、意気込んでいたりする姿から察するに盛り上がっているみたい。となればこちらも遊びに集中できるわけで。ボールを蹴ったり、投げたりするとキャッキャッと大はしゃぎ。子供って何しても面白そうにするし、全力で取り組むから可愛いよね。小っちゃい手足を一所懸命に動かしている様も微笑ましい限り。なんだかんだで数十分ほど遊んだ所で母親が登場。
「うちの子がお世話になりまして、すみません」
「いえいえ。こちらも楽しかったのでお気になさらず」
「もっと早く来るつもりだったんですが、この子があまりにも楽しそうなので躊躇ってしまって」
「そうだったんですね。お母さんはどこにいるんだろう?と心配していたんです」
「ご迷惑をお掛けしてすみません。一応近くで見守っては居たんですが……」
「あ~、そう言う事ですか。でもなるべく傍にいてあげた方が良いですよ。不審者とかもいますし」
「はい。ご忠言痛み入ります」
「とんでもないことです」
「では、私達はこれで失礼します」
「おにーさん、またねー!」
「ばいばい」
幼女が手を振りながら挨拶をしてくれたのでこちらも返事をして、姿が見えなくなるまで見送った後彼女達の元へ。
「お疲れ様。大変だったでしょ?」
「まあね。元気一杯だったから少し疲れたよ」
「だよね。沢山動いたしお腹も減ったんじゃないかな?」
「うん」
「それじゃあ、お昼にしましょう」
結衣の一言によりお昼ご飯と相成りました。ご飯については各人が手作り料理を持ち寄る形となっているので実に楽しみ。
「まずは私からね。サンドウィッチです。具材はたまご、ハムとレタス、ツナ、ポテトサラダ、イチゴのラインナップとなっています」
楓はサンドウィッチか。定番の具材+デザート系で攻守ともに固い布陣だ。
「私はいなり寿司だよ。基本のやつと、上に卵、にんじん、ほうれん草が乗った三色いなりの二種類を用意しました~」
結衣はいなり寿司。しかも三色いなりという初めて見るものもある。これは見た目がカラフルで美しく、実に美味しそうだ。
「私はおにぎり、唐揚げ、ハンバーグ、厚焼き玉子、鶏の照り焼き、カップサラダだよ」
柚子はピクニックといえばこれ!という正に定番料理で固めている。王道を行くラインアップだ。
「どれも美味しそうだね。早速食べてもいいかな?」
「「「どうぞ」」」
空腹も手伝ってか食が進む、進む。どれもこれも美味くて思わず頬が緩んでしまう。真白さんや葵の手料理は食べた事があるが、この三人の料理は初めて。が、前述したようにマジ美味い。単純な料理スキルだけを見るなら真白さんが頭一個抜けているが、彼女は別格なので比べるのは失礼か。取り合えずどれもこれも美味い!…………気付けばかなりの量を食べてしまった。人間満腹になれば眠気が襲ってくるわけで。飯食ってすぐに横になると牛になると言われるが、天気も良くて心地よい風が吹き抜ける中寝転がるのはどれだけ気持ち良い事か。そんな誘惑に勝てるわけもなく欠伸が出でしまう。
「ふぁ~~」
「ハル君、眠いの?」
「んっ。満腹になったら眠くなってきた」
「じゃあ、どうぞ」
そう言いながら膝をポンポンと叩く彼女。これは……、伝説で謳われる膝枕というやつでは!?まさか自分が体験できるとは。おずおずと横になり綺麗な脚、もとい太ももにそっと頭を置くとスベスベで柔らかい感触。そしてスカートの隙間から見えるパンツ。天上の楽園にでもいるみたいな幸福が全身を包み込む中そっと頭に手が置かれ優しく撫でられる。慈愛に満ち満ちた手つきで撫でられる感触に意識は次第に闇へと沈み込んでいく。あぁ、もう意識を保てな……い……。
「おやすみなさい」
優しい声に導かれる様に眠りへと落ちて行った。
その後の話になるが、一時間くらい寝た後他愛無い話に花を咲かせていたら夕日が射しこむ時間に。そろそろ帰ろうかとなり片づけをして駅まで行き解散。こうして公園デートは幕を下ろしましたとさ。




