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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
88/163

No87

「おはよ~っす」

「おう、真司おはよう。元気だったか?」

「一応な。お前の方はどうよ?」

「あ~、ボチボチかな」

「そうか。ところでお前受験する大学決めたんだってな」

「おう。今は必死こいて勉強しているよ」

「わざわざ大学に行く意味あるのか?ただ面倒なだけじゃね?」

「んな事無いぞ。より専門的な勉強が出来るし、そう言った時間を取れるのも今だけだしさ」

「俺達男は適当に結婚して悠々自適な生活を送れるんだぞ。将来だって困るような事も無いし」

「まあ、普通はそうだよな。でも俺にはやりたい事があるからその為にも大学は出ておきたいんだ」

「ほう。将来の夢ってやつか?」

「そこまで大それた物じゃないけどね」

「ふ~ん。俺には分からんな。目の前に楽な道があるのに敢えて苦難の道を選ぶなんて。もしかしてお前マゾか?」

「ぶふぅ!変な事言うんじゃねぇ!誰がマゾだ」

「だってそうだろう。高校に毎日通っているだけでも異常なのに大学に進学するとか狂ってるとしか言えねぇ」

「お前さぁ……。大概失礼な奴だな。でもまあ言わんとしている事は分かるよ。俺が世間一般の男性とは異質だってな。でも、他人から何を言われようが俺は俺が選んだ道を往くよ」

「ははは。お前らしいな」

「あたぼーよ!」

「んっ。元気出たみたいで何より」

「…………ありがとな」

「もしかして受験の事で悩んでたのか?」

「いや、そっちは問題ないよ。別の事でちょっとな」

「俺でよければ話を聞くぞ」

「真司は自殺についてどう思う?」

「はっ??」

「ふざけている訳では無く真面目な話」

「……個人的な意見だが単純な善悪で見るなら悪だろうな。人間以外の生物で自殺をする生き物はいないし、自殺は人間にしか許されていない行為とも言える。だからと言って許される行為では決して無い」

「じゃあ、何かしらの理由があれば?例えば死んだ方が楽と思えるほどの苦痛を味わっている、精神的に追い詰められて死んだ方がマシという状況になっている、深い悲しみや行き場のない感情が爆発して自殺を選ぶとかさ」

「ふむ……。確かにそういった前提条件があればまた別かもしれないな。だが世間一般では悪という認識が根深く浸透しているし、必ず誰かに迷惑が掛かる。悲しむ人がいる。どれほど辛く、苦しくても生きるべきじゃないか?」

「迷惑が掛かる、悲しむ人がいるってのは、他の死因でも同じだろ。ただ死に方が違うだけで」

「その死に方が重要なんじゃないか?特に宗教では教義で明確に自殺を禁じている所もあるし」

「じゃあ、一生苦痛を味わい続ける事を良しとするのか?それじゃあ、救いが余りにも無い」

「家族や友人、知人、医者等に相談するなり、話を聞いてもらうなりすれば多少は楽になるんじゃないか?」

「確かにそれも一つの手だろうけど、それで救われるなんて奇跡みたいなもんだろ。現実は良くて対処療法程度で根本的な解決にはならないよ」

「じゃあ、自殺を是とするのか?苦しい、辛い、悲しいから死にます。それを安易に容認するのか?」

「それは……。否だ」

「はぁ~。あのさ、どうしてこんな話を振って来たんだ?悠らしくないだろ」

「この前のバイト帰りに自殺しようとした人がいたんだ」

「はっ?いや、まて。もう少し詳しく説明してくれ」

「そうだな。端折り過ぎてたわ。少し長くなるけどいい?」

「構わないよ」

こうして真司になぜ俺が悩んでいるのか、そしてこんな話をした理由を説明する事にした。



あれはバイトが終わり、迎えに来た葵と一緒に家路に向かう最中の事だ。車が行き交う交差点で信号待ちをしていたら、やけにフラフラと力なく佇んでいる女性が目に入ったんだ。最初は危なっかしいなぁ、酔っぱらってんのか?と思っていたが、彼女は横断歩道で立ち止まる事なく交差点へと進んでいく。他の人は下を向いてスマホを弄っているので気付くことは無い。今ここで彼女見ているのは恐らく俺と葵のみだろう。ヤバイ!このままでは死ぬ。車に轢かれ、アスファルトに擦り付けられて全身の皮膚が裂け、肉が抉れ、骨はあらぬ方向に曲がり、血を辺り一面に撒き散らした凄惨な状況が作り出されるのは時間の問題だ。止める?無関係の人だぞ?他の誰かが動くんじゃないか?こんな時にも事なかれ主義の思想が浮かぶ辺り俺ってやつは本当に救えないな。あぁ、もう時間が無い。今すぐに動かなくては助ける事が出来ない。躊躇い、怖気づき動けない俺に鋭い声が投げかけられる。

「兄さん!助けましょう!」

葵の声でハッと我に返った。うじうじと考えている暇は無い。すぐに駆け出し、間一髪の所で助ける事が出来た。あと一歩遅ければ彼女はミンチになっていただろう。無事助け出せたのは良いが、辺りは騒然としている。当然だろう。今まさに自殺しようとしていたのだから。このままではすぐに警察が来て事情聴取やなにやらで面倒な事になるのは火を見るよりも明らか。だからと言って逃げるのは後々の事を考えると得策ではない。あまり使いたくない手だがコネを使うしかないか。スマホを取り出し、電話帳からある人に電話をかけよう。数回のコール音の後凛とした声がスマホ越しから耳朶を叩く。

『もしもし』

『もしもし。甲野です。今お時間宜しいですか?』

『構わないわよ。何かあったの?』

『はい。今駅前に居るんですけど、自殺しようとした人を助けたんです。それでこの後はどうしようかと……』

『分かったわ。状況を察するに警察もそちらに向かっているだろうから、私もすぐに行くわ』

『助かります。では、俺はこの場所で待機していますね』

『お願い。それと警察官からなにか言われたら私の名前を出してね。悪いようにはされないから』

『ありがとうございます』

『じゃあ、また後で』

『はい』

俺が電話したのはストーカー事件やヤンキー暴行事件でお世話になった刑事さんだ。普段から何かあったらすぐ連絡するようにと言われていたので連絡した次第だ。さっきも言ったがこういったコネはあまり使いたくないのが本音。が、今回みたいな時は致し方なしと割り切るしかないな。


警察はすぐに来て交通整理や見物人を捌いたり、目撃者から話を聞いたりしている。俺と葵も当然話を聞かれたが、刑事さんの名前を出すとなぜか敬礼されて後回しになった。疑問が頭を過る中待つ事二十分程だろうか?刑事さんを姿を見つける事が出来たが、なにやら話している様子でまだこちらには気付いていない。更に五分程経った後こちらに向かって歩いてきた。

「刑事さん!」

「甲野君。お待たせして申し訳ないね」

「いえ。こちらこそご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「さて、早速で悪いけど話を聞かせてもらってもいいかい?」

「はい」

今迄の出来事を仔細に述べると、思わずと言った感じで溜息を吐く刑事さん。

「はぁ~。これはまた厄介な事態になったね」

「と言いますと?」

「事情聴取をした警官に話を聞いたんだが、彼女の自殺の理由は過酷な労働による過労と精神的苦痛、先の見えない将来に対する不安等が要因みたいだ」

「それは……。何と言えばいいのか」

「あぁ、君が気に病むことは無いよ。今の社会システムや政治の問題であって君に何かしらの問題があって起こったものではないんだから」

「そうですが……。目の前で死のうとしている人がいるのに俺動けなかったんです。無関係の人だぞ?他の誰かが動くんじゃないか?って考えて一歩を踏み出せなかった。葵が声を掛けてくれなかったら俺は彼女を見殺しにしていたんです。だから、だから……」

自然と頬を涙が伝う。どうしょうもなく浅ましく、自分本位な最低な男だよ俺は……。

「そうなるのが普通だよ。でも君は自ら動いて彼女を救った。だから悔やむ必要も、悲しむ必要も無いんだよ。君の行動で一つの命が救われたんだから」

「刑事さん……」

その言葉で心がスッと軽くなるのが分かる。でもどうしても考えてしまう。こうなる前に出来る事は無かったのか?救いの手を差し伸べる事は出来なかったのかと。



「という出来事があってな。もっと俺に出来る事は無かったのかってずっと考えているんだ」

「成程ね。お前にその心意気は大したもんだと思うよ。尊敬もするし、凄いとも思う。けど、お前に出来る事なんて何も無いんだよ」

「どういう事だ?」

「見ず知らずの他人にどうやって救いの手を差し伸べるんだ?あなたを助けますとか言って回るのか?この世界で自殺する奴なんて年間何十万人いると思ってるんだ。今回だって偶然が重なっただけだろ」

「それはそうだけど……。でも、少しでも助けになりたいんだよ」

「…………それは全ての人を助けたいのか?それとも手の届く範囲でか?」

「全ての人と言いたい所だけど無理なのは承知だ。だから俺の手の届く範囲で助けたい、救いたい」

「はっ、大した偽善だな。悠、お前の考えは立派だが半面非常に危ういという事は理解しているか?」

「一応は。それに偽善ということも分かっている」

「そうか。たくよ~、なんで俺はこんな奴の友達になったんだかなぁ。全部理解した上でやろうってんなら俺も力を貸すよ」

「いいのか?真司にはなんのメリットも無いんだぞ」

「んなもんいらねぇ~よ。覚悟を決めた友に力を貸すのは当たり前だろ」

「くっ……。真司、ありがとう」

俺に出来る事はちっぽけかもしれない。誰も助けられないかもしれない。でも、それでもやると決めたんだ。心が壊れてしまいそうな人を、苦悩と苦痛で身動きが取れなくなった人を、明かりが無くなり暗闇の中を歩いている人を救う。それに俺は一人じゃない。真司に葵、彼女達、先生、他にも頼れる人達がいるんだ。だから、必ずやり遂げて見せる。

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