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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
86/163

No85

「では、今日の授業はこれで終わります」

「起立、礼」

四時間目の授業が終わり、やっと昼休憩になってみんながワイワイと騒ぎ出す中、担任である谷口先生が声を掛けてきた。

「甲野君、この後少しいいかしら?」

「はい。構いませんよ」

「じゃあ、生徒指導室まで来てもらえる?」

「分かりました」

教室まで来ていた葵、優ちゃんと結衣、楓に今日は一緒に食事出来ない旨を伝えた後生徒指導室まで移動開始。途中購買でパンと飲み物を買ったのでお昼を食べ損ねる心配はこれで無い。買い物をしたので少し時間がかかってしまったが、ドアをノックして入室するとすでに谷口先生の姿が。促されて椅子に座わり一息ついた所で早速本題に入る事に。

「えっと、俺何かしましたか?」

「あぁ、今日呼び出したのは少しお話を聞きたかったからなの。別に甲野君に何か問題があって呼んだんじゃないから安心して」

「そうですか。ホッとしました」

「最初に言っておけばよかったね。ごめんね」

「いえいえ」

「話としてはそんな感じだからお昼を食べながらお喋りしましょう」

「はい」

先生からそう言われてパンと飲み物を袋から取り出し、モグモグ。

「受験する大学を決めたみたいだけど、勉強の方はどんな感じ?」

「う~ん、専門的な知識が多くて難しいですね。一つ分からない所があると一々調べるので時間がかかって大変です」

「そうね。でも分からない点を分からないままにしておくのは一番駄目な事だから、面倒だと思うけど理解するまで時間がかかってもやるべきね」

「はい。後々の事を考えても不明点を後回しにはしたくないので」

「うん。それと学校の授業の方はついていけてる?三年生になってからレベルが一気に上がったと思うけど」

「今の所はなんとか。これ以上となると本格的に予習復習に時間を割かないといけないなぁとは思っています」

「甲野君には悪いけど、これから授業はもっと難しくなるわよ」

「オーマイガー……」

「一応うちも進学校だから受験がある三年生になると最後の追い込みをかけるのよ。生徒には申し訳ないと思うけどね」

「くぅ……、こうなりゃ睡眠時間を削り、食事を取らないという最終手段を講じるしかないな」

「それは駄目。まだ若いから無理が利くけど、絶対に年を取ってからガタがくるわよ。それに効率の面から考えても悪手だから止めておきなさい。私も無理をしているあなたを見たくないし」

「でも、勉強の時間をなんとか捻出しないと追いつけなくなるので。多少の無理は許容するしかないと思います」

「じゃあ、学校の授業で分から無い所は私が教えてあげる。放課後に一~二時間程度しか取れないけどそれでもいい?」

「わぁ。凄く助けになります。ありがとうございます」

「構わないわよ。あとは……、なにか困っている事や悩んでいる事は無い?」

そう言われて少し考えてみたが、これと言ってな…………あ~、一つあったわ。困っているというかどう対応したらいいか分からないっていうか。そんな問題が。

「実は一年生から結構な頻度でアプローチされていて、つっけんどんな態度を取るのもあれだし、かと言って不必要に仲良くするのも違うと思うしどうしたらいいのかな?と悩んでまして」

「そうねぇ。二年生と仲良くしているのも妹さんや優さんが居るからだし、今は卒業した先輩達と仲が良かったのも有馬さんが居たからだしねぇ。下級生とはなんの接点もないものね。一年生はそう言った事情を知らないから積極的な行動に出ていると考えるべきね。私としては適当に流して構わないと思うわよ」

「それで引いてくれますかね?」

「暫くは変わらないと思うけど、続けていれば諦めると思うわよ。私の方でも一年の学年主任に一言伝えておくわ」

「ありがとうございます。結構負担になっていたので助かります」

「任せて頂戴」

流石頼れる担任!こうして話を聞いてくれたのも今回が初めてじゃないんだよね。本人は担任教師として当たり前と思っているだろうけど、なかなかどうして普通じゃ難しいと思う。面倒ごとにはなるべく介入しない、生徒本人に任せる等自身の仕事を増やすような真似をしない人が多いんじゃないかな。その点谷口先生は教師の鑑だと思う。彼女に何度助けられたか分からない。本当に有難うございます。



今日はバイトがある日。現在時刻は十九時を過ぎた辺りで、お酒目当てのお客さんが本格的に来店し始める時刻。カランカランとドアベルが涼やかな音を立て来店を知らせたので、音の方へ目をやると見慣れた人が。『いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ』と声を掛けると彼女はお気に入れの端の席へと迷うことなく進んでいき着席。注文を受けて厨房にオーダーを通して出来上がった品を持っていき終了。心地よいBGMが流れる中少し声量を落として彼女が俺に声を掛けてきた。

「こんばんは。仕事の方はどう?」

「順調です。かれこれ二年以上やっているので今ではほとんどの事が出来ますよ」

「そう。もうそんなに時間が経ったのね。時間の流れが早いわぁ」

「早いですよね。軽食の調理を一部任せられたのがつい最近の事に思えますよ」

「うん。でも、味は最初と比べて良くなっているから確かに成長しているわよ」

「あはは。ありがとうございます。毎日練習していた甲斐がありました。ところで先生は今日は早めに仕事が終わったんですね」

「えぇ。大きな仕事は粗方終わって細々とした作業のみ残っている状態だから早く帰る事にしたの」

「お疲れ様です。ちなみに普段は何時くらいまで仕事しているんですか?」

「大体二十三時か二十四時くらいまでかしら。あとは家に仕事を持ち帰ってやる場合もあるわね」

「完全にブラックですね。労基法とかあったもんじゃない」

「まあ、教師なんてそんなもんよ。夏休みとかの長期休暇も関係なく仕事しているし、兎角やる事が膨大なのよ。ただでさえAクラスの担任な上男子生徒もいるから尚更ね」

「あ~、俺のせいでごめんなさい」

「言い方が悪かったわね。甲野君が謝る事じゃないわ。寧ろ感謝しているのよ」

「感謝……ですか?」

「そっ。男子生徒が在籍しているクラスを担当できるって凄い事なの。それで普通であれば学年が変われば担任も変わるんだけど、私の場合は甲野君とプライベートでも付き合いがあるじゃない?」

「はい。一緒に遊びに行ったり、旅行に行ったりしてますね」

「そういう風に仲の良い関係を築けている教師を学年が変わって新しい人に変えるのは問題があるのでは?って会議した事があるの。話し合いの結果Aクラスの担任は三年間私が受け持つ事が決定。これは学校創立以来初の事なのよ」

「それは凄いですね。俺としても学年が変わるごとにコロコロ変わるより谷口先生がずっと受け持ってくれた方が嬉しいです」

「ふふふ。嬉しい事を言ってくれるわね」

「本心ですよ。……でもそのせいで仕事量が増えたりはしないんですか?」

「報告書とか関係者用のレポートとか確かに仕事は増えたけど、それ以上にこうしてあなたと仲良くなれたんだから結果オーライかな」

「なんかそう言われると照れますね」

まさか、先生からこんな事を言われるとは思ってもみなかった。恥ずかしいけど、嬉しい。小っちゃい身体で毎日頑張っている姿は庇護欲が湧くし、何かにつけて構いたくなってしまう。こんな事を本人に言ったら怒られるだろうけど。……卒業したら先生とも会えなくなるのか。大学に入ってもバイトは続けるつもりだからバイト先では今みたいに会って話す事は出来るけど、それも週に一回程度。寂しいな。

「どうしたの?なにか考え事?」

「あ~、そのですね……、卒業したら先生と会えなくなるんだなぁ~と思って」

「確かに学校と言う場所では会う事は出来ないけど、こうしてカフェでお話したり、また遊びに行ったり、旅行に行く機会もあるだろうから全く会わないって事は無いわよ」

「ですね。でも、今まで一緒だったのに急に離れる事になるとちょっと……、辛いものがありますね」

「ふふっ。まだ卒業まで一年あるんだから、寂しがるのは早いわよ」

「そうですね。ありがとうございます」

「どう致しまして」

会話を楽しんでいると時計の針は二十時に差し掛かっている。先生も食事はとうに終わり、今はお酒を飲んでいる。女性ならカクテル等の甘めのお酒が好きな人が多いが、先生はウィスキーを飲んでいる。なんとも渋いチョイスだが、見た目とのギャップが凄い。合法ロリがウィスキーを飲んでいるとかネタか?って話よ。して、飲み方としてはトワイスアップが多いかな。ストレートやオン・ザ・ロックは偶に飲む程度。他のお酒に関しては飲んでいる姿を見た事が無いので、あまり好きじゃないのかな?と思っている。カシスオレンジとかカルーアミルク、マンハッタン、アレキサンダー等甘めのカクテルが女性人気が高いがそちらには一切目を向けない辺りかなりの拘りを感じる。……気になるし聞いてみようかな。

「あの、先生ってウィスキーしか飲まないんですか?」

「そんな訳じゃないけど、年の離れた姉が好きだったのよ。その影響かしらね」

「えっ?お姉さんいたんですか?」

「えぇ」

「へぇ~。どんな人なんですか?」

「美人で頭も良くて、人気者()()()のよ」

「だったですか?」

「私が幼い事に死んじゃったのよ」

「すみません。変な事を聞いてしまいました」

「昔の事だし別に謝る事じゃないわよ」

そう言いながらも寂しそうな顔している。不用意に踏み入った質問をするべきじゃなかったし、接客業としてもこれはNG行為だろう。心地良い時間を提供しなきゃいけないのに、相手にこんな表情をさせるなんてダメダメ過ぎだろ俺。

「もうっ、本当に気にする事無いからね」

カウンターから少し乗り出して頬をプニッと突っついてきてそう言ってくれた。もう、この人には敵わないな。尊敬できる人であり、いつまでも一緒に居たいと思う人。でも、お姉さんに関する話で見せた顔はどうしても心に引っかかる。いつの日か話してくれるだろうか?その時はそんなに遠くない内に来るかもな。

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