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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
83/163

No82

今日は私立蒼律学園の卒業式です。快晴で春の陽気が心地よい中俺は大きなバッグを片手に学校へ向けて歩いています。卒業式なんだからそんな大荷物必要ないだろう?と思うだろうが、これには訳がある。卒業プレゼントをカタログ&WEBでチェックしていたんだが、中々良いのが見つからなくてさ。ボールペンとか手帳とかだと味気ないし、かと言って色紙とかになると枚数が膨大になる為NG。貰って嬉しいかつ俺の気持ちをこめられる物はなんだろうか?と悩み続けた結果手作りお菓子なんてどうだろうかと思い至った訳よ。これなら前述の条件はクリアしているし、纏めて作ればそこまで手間もかからないはず。そうと決まればあの人に相談してみようか。そうアリスさんに。てな訳でバイトの休憩時間中に聞いてみました。

「アリスさん。今いいですか?」

「どしたの?なんかあった?」

「卒業プレゼントでお菓子を作りたいんですけどどんなものがいいですかね?」

「ん~、まず何人に贈るの?」

「えっと、三十人+αですね」

「量が多いね。となると生ものは駄目か。日持ちするお菓子となるとクッキーとかチョコレートとかかな」

「やっぱり日持ちする物となると焼き菓子になりますよね」

「そうだね。ケーキとかだとすぐに傷んでしまうし、大量に作れないからね」

「クッキーとチョコレートってどちらの方が作るのが簡単ですか?」

「両方とも同じくらい簡単だよ。素人でもそこそこ美味しく作れる定番のお菓子だからね」

「じゃあ、クッキーにします」

「んっ。作る場所は自宅?」

「一応そのつもりです。ただ量が多いから材料や調理器具に少し不安があります」

「じゃあ、店の厨房を使ったらいいよ。ここなら全部揃っているし」

「良いんですか?アリスさんの聖域を侵すみたいな感じになりますが」

「聖域って……。そんなんじゃないし別に構わないよ。ただ、お店の定休日に作業をする事になるけどそれは大丈夫?」

「はい。問題ありません」

「よし。あとは君一人で作るのは大変だから私も手伝うよ。ついでに弟子も参加させよう」

「ありがとうございます。弟子こと葵には俺の方から声を掛けておきますね」

「頼むよ。材料は私の方で用意しておくし、必要な調理器具も全部揃っているから君の方ではなにも買ったりしなくていいからね」

「重ね重ねありがとうございます。材料費は全額出すので後で教えてください」

「了解」

こうして相談の結果手作りクッキーを作る事が決定しました!卒業式がある週の定休日に作りますよ~。その日は学校が終わってすぐに葵と一緒にお店へと行き作業に取り掛かったんだけどまあ~、大変。お菓子作りって意外と力仕事で特に生地を作る作業がマジで辛い。腕とかパンパンになっちゃったし、これをアリスさんは一人で全部熟していると思うと本当に尊敬する。でも大変な作業ばかりでは無くて、型抜きとか凄い楽しかった。星とかハートとか動物の型とかを生地に押し当ててポコポコ抜いていくのは爽快だし、面白い。そんな楽しい作業の後はオーブンで焼く、焼き上がったクッキーの粗熱を取ったらラッピングして終了となる。全部の工程が終了した時には時刻は二十二時を過ぎていて驚いてしまった。なんだかんだで六時間くらい作業をしていた事になる。クタクタに疲れたしこのまま解散といきたいが片付けが残っているんだよね……。疲れた体に鞭打ちながらなんとか片付けを終わらせた後、戸締りをして解散。

という事があって今に至るわけよ。俺が持っているバッグには手作りクッキー様が入っています。ぶつけたりして割れないようクッション材も入れて万全の体制で輸送中なので万が一があっても無問題。まあ、電車も男性専用車両に乗っているし、歩いている時も誰かとぶつかったりするなんて事もないし多少やり過ぎ感があるけどまあいっか。いつものように他愛無い話をしながら移動していると学校に到着。校門には私立蒼律学園第○○回卒業式と立て看板が掛けられていて結構目立つな。そんな事を思いながら少し立ち止まっていたが、時間も押しているしさっさと教室へ向かうとしようか。



卒業式の内容は去年と同じで偉い人の話に送辞に答辞、卒業証書授与に校歌斉唱等々。普通ならだるいなぁとか早く終わらないかなとか思ってしまうが、今回は有馬先輩が卒業するとあって真面目です。声をしっかり張って校歌を歌ったり、お話を確り聞いたりね。そうこうしている内に終わりを告げ、教室に戻り担任から幾つか伝達事項を言われて終了。ここでさぁ帰るかとはならずバッグを持ち三年生の教室へGO。辿り着いた上級生がいる階の廊下では先輩達が別れを惜しむように話し合っていたり、泣きながら抱き合っていたりと心にグッとくる光景が繰り広げられている。そんな中有馬先輩の教室まで行き『失礼します』と一言告げてから中に入ると一斉にこちらに視線が向けられて毎度の事だがビクッとしたよ。

「あら?悠君どうしたの?柚子に用事?」

「えっと、今日は先輩達に卒業プレゼントを渡そうと思って来ました」

「……………………」

俺の言葉に教室中から音が消えた。今までワイワイと喋っていたり、騒がしかったのに一切の音が消えたのだ。ただただ静寂が支配する空間に耐え切れなくなってしまい恐る恐る声を掛ける事に。

「あの、大丈夫ですか?なにかありましたか?」

「は、悠君。今プレゼントって言ったの?」

「はい。皆さんに卒業プレゼントを持ってきました」

「「「えぇ~~~!!」」」

教室に居た全員が異口同音に驚きの声を上げたのでマジでビビったんだけど。

「クッキーなんですけど、何分作ったのが初めてなので不格好ですがそこはご容赦ください。でも、味に関しては間違いないので安心して下さいね」

「もしかして、て、て、手作り……なの?」

「はい。あ~、男の手作りクッキーとか嫌でしたか?」

「「「とんでもない!!最高だよ!」」」

またしてもクラス全員が声を合わせて答えてくれた。この人たち仲良すぎだろ。そう思いつつバッグから個別包装したクッキーを取り出し一人づづ言葉を添えて渡していったんだが凄く喜んでくれて良かったよ。ここで渡した時の反応を少しだけ紹介したいと思う。

「ありがとう。防腐剤を大量に入れて永久保存するね」

「男の子の手作りクッキー。これ一枚で数万の価値があるね」

「どうしよう?どうしよう?あっ……嬉しすぎてもう無理」

「これはもう家宝ね。神棚に飾って毎日感謝しなくちゃ」

「ぐすっ、ぐすっ、あ゛り゛か゛と゛う゛」

などなど。最後の人とかカ〇ジかよ!藤原〇也かよ!とツッコミたくなるような反応だったが何も言うまい。総じて喜んでくれたので良かったが、どこからか話を聞きつけた他クラスの人達が我も我もと欲しがった為大変な事態に。一応Aクラス全員分+@で用意した為余分にはあるが全員に渡せるほどは無い。という事でクッキー争奪じゃんけん大会が開催されることに。たった四個のクッキーを巡る血で血を洗う死闘。その様はまさに阿鼻叫喚、地獄絵図。不正を働こうとする輩、詐欺師も真っ青な口八丁手八丁で相手を蹴落とす様子は言葉では言い表せない。仮に、仮にだよ表現したらこの日記はR十八指定待った無しになる為()()()割愛させてもらう。こんな風に騒動もあったが、最後にはみんな笑顔を浮かべていたし、一イベントとして楽しんでもらえたみたいで良かった、良かった。


やるべき事が一つ終わり残りは有馬先輩からの呼び出しのみ。チラリと当人に目線を送るとこちらに近づいてきて周りに聞こえないようにこそっと手短に用件を伝えてくれた。

「この後校庭裏の桜の木の下で待ってます」

一言だけ告げた後去ってく姿を見て俺も自分の教室へと踵を返す。結衣や楓、葵には先に帰っていいよと伝えてあるので問題ないし、有馬先輩を待たせるわけにもいかないからさっさと移動しましょう。


校庭裏の桜の木は隠れスポットで普段は滅多に人がこない。一本桜がポツンと鎮座している様は圧巻であり兎角美しい。なぜこんな場所に桜の木があるのか?どういう意図で植えたのか?は謎だが今はどうでもいい事だろう。さて待ち合わせ場所にはまだ先輩の姿は無かったので少し待つ事に。五分程経ったあたりで待ち人が小走りでこちらに来る様子が見えたので、もう少しで到着するだろう。

「お待たせしてごめんね」

「いえ、俺も今来た所ですから」

小走りで来たからか少し荒れていた息を整えるまで待ち、俺の方から口を開く。

「それで、お話ってなんでしょうか?」

「うん。すぅーはぁー」

深呼吸をしてから覚悟を決めるように、勇気を振り絞るように言葉を紡ぎだす。

「私は甲野君の事が好きです。付き合って下さい」

「俺は結衣と楓と付き合っています。それでも良いんですか?」

「構わないよ。男性が複数人の女性と付き合うのは当たり前だしね」

「そうですか。……これは結衣や楓にも伝えた事ですが、俺には人間として欠陥があります。俺は愛を知りません。理屈や理論では理解していますが、実体験が無いんです。好きになる事はあっても、愛する事が分からないんです。こんな俺でも本当に良いんですか?」

「…………」

「ははっ。軽蔑しますよね。異常ですよね。俺は人間として、いや生物として欠陥品なんです。だからもう一度考え直して下さい。有馬先輩ならもっといい男と出会えますから」

「そっか。うん……。私には甲野君の気持ちは分からないし、どれだけ辛かったか、心が痛かったか分からない。でも貴方が辛いなら寄り添いましょう、貴方が愛を知らないなら一緒に探しましょう。私は貴方の事が好きで、愛しています」

「気持ちは変わらないという事ですね?こんな俺でもいいんですか?」

「あなたへの気持ちは永遠(とわ)に変わる事は無いし、甲野君だから好きになった、愛したの」

「ありがとうございます。そう言って貰えて嬉しいです。……俺も有馬先輩の事が好きです。付き合って下さい」

「はい」

春風が吹き桜の花びらが舞い踊る中彼女が浮かべた笑顔を俺は生涯忘れる事は無いだろう。こうして俺に三人目の彼女が出来た。

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