No81
冬休みが明けて暫く経ったが、大きな出来事も無く日々を過ごしている今日この頃。結衣、楓と恋人になったがだからと言って生活が一変するようなこともなく、だけど些細な幸せは確かにあるわけで。例えば登下校時に手を繋いでみたり、会話する際の距離が近かったり、ご飯を食べる際何も言わなくても調味料取ってくれたりサッと水を注いでくれたりと熟年夫婦もしくはツーカーの仲かよ!と言いたくなるような出来事があったりとさり気無い事で嬉しくなったり幸せになったりしている。人前でイチャついたりしていないので周りの人には付き合っている事は気付かれないだろうと思っていたんだが……。ところがどっこい早々にクラスメイトに気付かれて尋問を受けてしまいました。
「ねえねえ悠君。もしかして結衣と楓と付き合ってるの?」
「あ~、うん。付き合ってるよ」
「やっぱりか~」
「そう言うのって見てすぐに分かるものなの?」
「ん~……、なんとなくね。前までと違うな~っていうのがあるんだ。強いて言うなら女の勘ってやつかな」
「マジか。いや、別に隠していた訳じゃないからいいんだけどね」
「うん。それでいつから付き合ってるの?」
「去年の大晦日からだね」
「おぉ~!で、どっちから告白したの?」
「結衣と楓からだね。でも俺の方から改めて告白したからどっちもかな」
「んんっ?どういう事?」
「これ俺が言っても良いのかな?」
チラッと二人の方を見て確認した所すぐに答えが返ってきた。
「うん。言ってもいいよ」
「別に話して困るわけでも無いし大丈夫だよ」
「二人ともありがとう。えっと、結衣・楓から告白されたんだけど返事は保留にしたんだ。それで答えを出すまで数日悩んだ末改めて俺の方から告白したって感じ」
「へぇ~。返事を保留にした理由は聞かないけど、男性から告白されるなんて夢みたい。そんなの物語の中でしか有り得ないと思っていたのに現実になるとは……」
「そこまで大それたことじゃないと思うけど。割と普通じゃないの?」
「普通じゃないよ!基本的に女性の方から告白するし、他にもアクションを起こすのも女性だし。男性はただ寄ってくる女を品定めしているだけ。だから男性から行動を起こすこと自体凄い珍しいし、ましてや告白なんて……奇跡だよ」
「おうふぅ。マジか。そうなると俺ってかなりの変わり者ってことになるのか?」
「うん」
「……………………はぁ……」
「あぁ~、落ち込まないで。悪い意味で言った訳じゃなくて良い意味だから。女性の理想が形になった男性が悠君であり一般男性と比べると違うって事だから」
「あはは。ありがとう」
「これで悠君の恋人枠が二つ減ったって事かぁ。残り二~三枠をかけた戦いは熾烈になりそう」
「なんで二~三枠になるの?」
「一般男性の場合付き合う、結婚するってなると四人~五人が多いんだ。だから悠君もそれくらいかなって思って」
「成程ね。でも今二人と付き合ってるし増える事は無いかも。ただ、好きになった人がいて結衣と楓が許してくれるなら人数が増える可能性はある……かも?」
「ふむふむ。悠君に好きになってもらえれば私にもワンチャンあるって事だよね?よっし!今まで以上に気合入れて頑張ろう!」
あの~、本人の目の前で声を大にして言うのはどうなんだろう?本人は気にしてないみたいだけどちょっと気まずい。あと話を聞いていた他の女子達の目が爛々としているのも怖いのでやめてくださいお願いします。この後俺が付き合う人数を制限していないという情報はマッハで学内に広がり女磨きに力を入れる人が増えたとかなんとか。女子の情報網半端ないな。某国の諜報機関も顔負けだな。
ところ変わってバイト先の喫茶店での出来事。その日も労働に勤しんでいたんだが、いつもより常連さんが多い気がする。しかも何か聞きたそうな顔でこちらをチラチラ見たり、口を開きかけて止めたりと非常に気になる。『わたし気になります!』と氷〇の千反田〇るバリに言いたくなるのをグッと堪えるが大変だよ。そんな中一人の常連客が勇気を振り絞って声を掛けてきたのだ!その様はまさに勇者、否死地に飛び込む戦士宛ら。思わずこちらも身構えてしまう。
「あの、甲野君に聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「なんでも聞いて下さい」
「単刀直入に聞くけど誰かとお付き合いしているの?」
「はい。クラスメイトと付き合っています」
「そうなんだ。それって私も知っている人かな?」
「前田結衣と上原楓って言うんですけど、クリスマスパーティーにも参加していたのでもしかしたら話したりしているかもしれませんね」
「あぁ~、結衣さんと楓さんか。そっかそっか。うん、二人とも凄く良い子だし安心かな」
「んっと、もし二人じゃなかったらなにかマズかったんですか?」
「それはもう。大事な甲野君がどこの馬の骨か知らない人と付き合っていたら注意していた所だよ。変な女に引っかかったら大変じゃない」
「色々とお気遣いありがとうございます。一応俺の方でも気を付けてはいるんですけど、妹曰く『兄さんは抜けている所があるので注意して下さいね』って言われた事があって。こう……、兄の威厳がないなぁ~なんて思ってたんですよ」
「良い妹さんじゃない。お兄ちゃんの事が大事だからそう言ってくれてるんだから。それと甲野君はしっかりお兄さしていると思うけどな」
「俺の事を心配して言っているのが分かっているので確かにありがたいんですけどね。あと妹にとって頼れる兄なのかなって少し思う所があったんですけど、そう言って貰えて少し自信が出ました」
「うんうん。もっと自信を持っていいと思うよ。それとなにか困った事があったり、悩み事があれば相談に乗るから声を掛けてね」
「ありがとうございます。その時はお世話になります」
いや~、どんな事を言われるのかドキドキしていたけど杞憂だったみたいで良かったよ。……んっ?なんで俺が誰かと付き合ったって知っているんだ?クラスメイトなら俺達の行動なりを見て勘付く事もあるだろう。だけど常連さんの場合そんな事は無い訳で、二人がバイト先に遊びに来ることもあるけどあくまで店員とお客さんとして接しているからこいつら付き合ってるんじゃね?と思わせるような行動はしていないはず。となると尚更疑問なんだけど。恐らく聞いたら答えてくれるだろうが、な~んか嫌な予感がするんだよね。……世の中には知らない方が幸せな事もあるしこの件は忘れることにしよう。うん!藪をつついて蛇を出すような真似をしたくは無いしね。さて、残りの時間も仕事に精を出すとしますか。
季節は三月に入り俺が通う学校でも卒業式が近づいてきて、俄かに騒がしくなっている今日この頃。俺も今年は有馬先輩が卒業するのでなにかしらのイベントなりパーティーなりをしたいと思っていて、色々計画進行中な訳です。もちろん三年生には仲の良い人も多いのでその人たちも含めて開催したいなと思っているよ。それ以外にも学校では卒業式の予行練習や送辞の練習、もう少しでお別れになる先輩達と最後の時を過ごす為にアクティブに動く生徒等々で前述したように俄かに騒がしくなっているのだ。普段あまり交流が無い先輩達が話しかけてきたり、有馬先輩を含めて一緒に学食で食事をしたり、遊びに行ったりと他の皆とは逆に先輩達からアクションを起こしているので、予定の調整も含めて何気に忙しかったりする。その中で先輩達が口を揃えて言うのが卒業したくないという言葉。なぜ?と思い聞いてみると『悠君に会えなくなるから』、『毎日悠君の顔を見れるのが幸せだったのに』、『甲野君と離れたくないよ~』というもの。俺も先輩達に会えなくなるのは寂しいけど、もっとこう……さ、友達と離れ離れになるのが寂しいとか、人生で一番楽しくて輝いているであろう高校時代をもっと堪能したいとかあるんじゃないかな?どれもこれも俺に関する事ばかりなので申し訳なく思うけど、連絡先も交換しているしいつでも遊べるんだからそんなに悲しがることはないんじゃないかなと思わなくもない。そして有馬先輩に関してだが、卒業式の後大事な話があるから時間が取れないかと聞かれたんだが、なにか用事でもあるんだろうか?う~む、思い当たる節は特に無いが、なんだろ?…………あっ、あれか?制服の第二ボタンが欲しいとかか?あ~、でも結構古い風習だし今どきの若い人はやらないのかも。となると……卒業、高校、春、出会いと別れ。言葉を羅列しているとふと頭にある言葉が浮かび上がる。まさか……告白とか?いやいやそれことまさかだよ。美人で頭も良くて、性格も良い有馬先輩が俺の事を好きとか思い上がりもいい加減にしろよって感じだよね。多分感謝の気持ちとかを伝えたかったとかだろう。多分、きっと、おそらく。告白は絶対に無いね。はぁ~、下らない事を考えてないでバイトに行こうか。家に帰ったら皆への連絡と卒業プレゼント選びをしないと。取り寄せていたカタログを見て、あとWEBでもチェックしとかないと。あ~も~、時間が足りないよ~!!




