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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
8/163

No8

週が明けて月曜日。授業を受けつつ改めてあの場所に思いを馳せていた。今更だが接客業の経験は無い。別に対人関係が苦手というわけではないのでそこは無問題。問題は男が働くという事だ。事前に先生から聞いてはいたがどの程度の影響があるのか?お店に迷惑や負担を強いるのでその辺りも大丈夫なのか?色々考えると足踏みしそうになるが、一度やると決めたことをやっぱやめたなんて絶対にしたくない。当たって砕けろだ! ……いや、砕けたら駄目か。


放課後部室で先生も交えて話をする事に。

「あの、働いてみたいお店が見つかったので報告したいです」

「あら、そうなんですね。どんなお店ですか?」

「Cafe & Bar Meteorというお店です。場所は繁華街の路地裏にあります」

「う~ん、Barも兼ねているというのと、立地も気になります」

「先生の言う通りですね。安全性や客層を考えるとかなり難しいのでは?」

「うちもそう思う。せめて人通りが多い場所の方が良いと思う」

「ぐぅ、言いたい事は分かりますが、どうしてもそのお店で働きたいんです。一目惚れというかこう、ピンとくるものがあって他で働くのはちょっと考えられません。我儘なのは分かっているんですが……」

俺の言葉に沈思黙考する一同。しばらく静かな時間が流れたが、先生が口を開き

「ふぅ。意思は固いという事ですね。分かりました、ではそこで働くという前提で関係者と話を詰めていきます」

「待って下さい。まだ応募もしていないし、採用されてからの方が良いのでは?」

「大丈夫です。まず間違いなく採用されるので」

その言葉にウンウンと頷く一同。なぜにそんな自信満々なんだ?兎に角話は纏まった為これにて俺の報告はおしまい。その後はみんなの話を聞きながら時間は過ぎていった。


自室で履歴書を書き、応募の電話をする為スマホを手に取ったんだが……。緊張で手汗が凄い事に……。いい年して情けないと思うが、こんなの就活の時以来だからな。ええぃ、ままよ。こういうのは勢いが大事だ!いくぞ!コール音が鳴り響き二コール目で声が聞こえた。

「ありがとうございます。Cafe & Bar Meteorです」

「もしもし。アルバイトの応募をしたくてお電話したのですが」

「はい。アルバイトの応募ですね。では、面接をしたいので都合の良い日時があれば教えて下さい」

「今週の土曜日の十一時ではどうでしょうか?」

「分かりました。ではその日時にお待ちしています。必要なものは履歴書・筆記用具・身分証明書となります。ちなみに、男性の方でしょうか?」

「はい。あの、募集要項では男性可だったと思うのですが、違ったでしょうか?」

「男性でも問題ありません。一応確認のためにお聞きしました。では、土曜日の十一時にお待ちしております」

「はい。よろしくお願い致します」

はぁ~、緊張した~。第一段階はクリア。あとは面接か……、服とか買いに行った方がいいかな?少しでも印象を良くしたいし。でも、気合入れてる感が出るのもな~……。うだうだ考えながら夜は更けていった。


そして土曜日。今日は面接の日だ。緊張しつつ扉を開けて中に入ると対応してくれた店員さんに応接室に通された。そのまま、面接開始。んっ?なんかおかしくね?

「では、面接を始めます。履歴書を見せてもらってもよろしいですか?」

履歴書を渡しつつ改めて見てみてもここまで案内してくれた店員さんだ。普通店長とかが面接官するんじゃないの?そんな思いが顔に出ていたのだろうか、対面の面接官が口を開き

「挨拶が遅れましたね。私はこの店の店長をしている佐伯です」

「私は甲野悠と申します。よろしくお願い致します」

店長だったとは。ていうか前に来た時に接客してくれたのもこの人だったし、もしかして俺以外にホールスタッフがいないのか?あとで聞いてみよう。


つつがなく面接は進み終了。サービスでケーキと珈琲を出してもらい頂きながらホッと一息つく。ずずっと珈琲を飲んでいるときに店長が

「甲野君。面接の結果ですが、合格です」

ブフッと思わず飲みかけの珈琲を噴き出すところだった。慌てて飲み込み一言。

「あの、ありがとうございます。もう少し日数がかかると思っていたんですが……」

「履歴書の内容、そして話をしてみて君なら問題ないと思ったからね」

なるほど。こちらとしても数日悶々とした日を過ごさなくていいのはありがたい。

「あとは、いつから働くかだが、関係各所に届け出やら話をしなければいけないので諸々が決まったらこちらから連絡します」

「分かりました。よろしくお願いします」

そうして無事アルバイト先が決定した。


家に帰り家族に働き先が決まった事を伝えたら

「おめでとう。なにかあったら遠慮なく言うのよ。それとお母さん心配だからなるべくお店に行くようにするね。あとあと……」

「お母さん、それくらいで。私も兄さんの様子を見にお店に行くし大丈夫だよ」

「でも……、悠にもしもの事があったらと思うと……」

「大丈夫だよ。確かに路地裏にお店があるけど、別に治安が悪いとかじゃないから安心して」

「そう……。でも、色々と気を付けてね」

「うん、分かった」

こうして家族への説明は終わり。案の定心配されまくったけどもう高校生なんだけどなぁ~……。


翌日学校でアルバイト先が先日みんなで行ったカフェに決まったと報告したら、喜んでくれたが同時に心配もされた。ここら辺の反応は家族に話した時と同じで思わずクスッとしたのは内緒だ。部活の先輩や先生にも報告して学校側での対応を進めていくとの事だった。さて、働くからには身だしなみを整える必要がある。

別に今までいい加減だったわけではないが、改めてしっかりしようという事だ。まずは、美容室の予約。そしてバイト先は男性の制服はないので黒のスラックスとシャツが必要になる。そこら辺も買いに行かなくては。クラスの女子にお勧めの美容室を聞いてみよう。

「あのさ、髪切りに行こうと思っているんだけど、どこかいい美容室知らない?」

「駅前の美容室とか人気だよ。あとは、私がいってるところも腕は良いよ」

「でも、男性対応している場所じゃないと駄目じゃない?」

「そっか。となると大型店か人気店くらいになるのか」

「まって。男性対応ってなに?普通の所と違うの?」

「あ~、えっとね髪を切る場合頭とかに触るでしょ。貴重な男性に触れられる機会だから邪な気持ちをもって対応する人が多かったの。ベタベタ身体を触ったり、必要以上に時間をかけたりね。その結果女性恐怖症になる人が増えてね。法律で研修を受けて認定したお店のみ男性対応が可能になったの」

なんじゃそりゃ。この世界の女性アグレッシブ過ぎだろ。うん、認定店に行こう。

「そうなんだ。教えてくれてありがとね」

「かまわないよ~。認定店でオススメか~、誰か知らない?」

その言葉にみんな一斉にスマホを見ながら調べだした。結果良いお店を紹介してもらったので休日に行くことにした。


さて、採用されてから二週間程たちいよいよ初出勤です。お店に入ると二人の女性が迎えてくれた。

「おはようございます。今日から働くことになりました甲野悠です。よろしくお願い致します」

「おはよう。私は店長の佐伯です。よろしくね」

「専属パティシエの伊藤です。よろしくお願いします」

おぉ~、この人があの美味しいスィーツを作ってる人か。帽子にコックコートを着ている為いかにもな感じだ。帽子からチラリと見えた髪は金髪だった。それはもう綺麗なプラチナブロンド。伊藤という苗字だし外国人ではない。染めてるのかな?

「甲野君にはホールスタッフをやってもらいます。慣れてきたらキッチンのお手伝いもお願いしたいと思っています。覚える事はそこまで無いので一つずつ説明していきますね」

そうして、少しの疑問を抱きつつ仕事が始まった。


バイトは週に三日・夕方~二十一時となっている。賄いもでるとの事でありがたいです。オープン前に色々教えてもらい、開店となりました。さっそくお客様がご入店。元気よく挨拶をしよう。

「いらっしゃいませ、二名様でしょうか?」

「はい。あのできればボックス席がいいんですが大丈夫ですか?」

「かしこまりました。ではご案内させていただきます」

席に案内して注文をとりオーダーを通して出来上がりを待ちながら一息。ふぅ~、緊張した。えっと、グラスを置くときは音を立てないようにして…………。色々と提供する際の手順を考えていると注文の品が用意できたみたいだ。お客様のテーブルに持っていき

「お待たせ致しました。珈琲とショートケーキ、紅茶とミルクレープになります。ごゆっくりお過ごしください」

無事初めての接客を終えて持ち場に戻ると店長が小さくグッと親指を立ててくれた。どうやら、合格らしい。よかった。



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「ねぇ、だ、男性が働いているよ!見間違いじゃないよね?」

「大丈夫。私にも男性が働いてるのが見えているから。これなんて奇跡?もう私死んじゃうの?」

「お、お、落ち着いて。取り敢えず深呼吸しよう」

「す~~、は~~。うん、落ち着いてきた。今まであの店員さんいなかったよね?新しく入ったのかな?」

「う~ん、見た感じ高校生くらいだしバイトとして入ったんじゃない?」

「そっか。ここのケーキ美味しいからちょくちょく通ってたけど頻度あげよう」

「分かる。もう太るの覚悟で毎日通いたいくらい。それにしても、格好良くない?男性のエプロン姿最高!」

「それね。黒のスラックスに白のシャツ、そして焦げ茶のエプロンというモノトーン調がまた似合っていて男前度をグッとUPさせてるよね」

「う~ん、目の保養になる」

「友達には悪いけど、このことは秘密にしない?」

「そうね。聖地が汚されるわけにはいかないもんね」

「聖地って……、まあ間違ってはいない。じゃあ、この出会いに感謝しつつ食べようか」

「イケメンを見ながら美味しいケーキを食べる。今日は最高の日ね!!」


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