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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
78/163

No77

休憩と言いつつ、思いのほか話が盛り上がりあれから一時間程経ってしまった。体調も問題なし、気分も上々という訳で温泉街へ向けてGO。宿から緩やかな坂を下りながら十分程歩くと目的地に到着となる。薄っすらと雪が積もっている為歩く際は注意しなければならないし、特に坂道は要注意だ。転んだらそのまま下までツルゥ~と転がり落ちるというギャグ漫画みたいな事になるからな。気を付けながら歩を進め見えてきたのは湯けむりと微かな硫黄の臭いする宿場町だ。道行く人は浴衣にコートやダウンを着込んで寒そうにしながらもどこか楽し気で、そんな光景を見ると日本っていいなぁ~なんて思ってしまう。かく言う俺達も浴衣姿なんだけどね。さてさて~、まずはどこから見ようかしら。ちょっと聞いてみるか。

「最初はどこから見る?」

「う~ん、あの飲む温泉というのが気になるんだけど」

「おっ、実は俺も気になっていたんですよ。有馬先輩も同じだったとは」

「ああいうのはこういった場所でしか体験出来ないし、やっぱり興味持つよね」

「ですです。でも本当に飲んで大丈夫なんですかね?」

「売りに出している以上身体に毒ということは無いと思うけど……」

「う~ん、飲むべきか飲まざるべきか……、迷う」

「飲泉は飲み方を間違えなければ身体に良いのよ。成分によって様々な効能を得られるし、昔から湯治の一環として行われてきた行為なんだって」

「おぉ~、先生物知りですね。流石教師をやっているだけあって知識が豊富!」

「……褒めてくれてとっても嬉しいけど、さっきスマホで調べただけなんだ……」

「あ、……あの~、えっとなんかごめんなさい?」

「謝らないでぇ~。ドヤ顔して答えた事を後悔しているから許して」

「あはは。了解です。じゃあ、身体に悪いわけじゃないなら試してみようかな」

俺がそう言うと何人かが同じ意見の様で早速買いに行ってみよう。ワクワクしながら売り場までいくとなんと!一杯五百円と値札に書かれいた。おい、これぼったくりじゃない?観光地価格だとしても高すぎだろ。目算で百mlくらいしかないのに五百円とか、缶ジュース四本も買えるじゃねえかよ。果たしてその価値があるのかどうかが問題だ。値段相応の効能があるなら買いだが、ぼったくりの可能性もあるし……。どうしようか迷っていると、横合いから景気のいい声が響く。

「すみません。これ五本下さい」

「えっ?あの俺お金出しますよ」

「いいのいいの。こういう時くらい大人に出させて」

「ん~、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。ありがとうございます、先生」

「うん。その言葉だけで十分だよ」

有難い事に先生が全員分の代金を支払ってくれた。マジで感謝です。これは今度お礼しなきゃなと思いつつ、店員さんから手渡されたお湯……もとい温泉をドキドキしながら口に運ぶ。ゴクリと飲めば何とも言えない味が口内に広がり、思わず微妙な顔になってしまったよ。いやさ、美味しいとは思っていなかったけど、こう……、兎に角微妙。正直興味本位で一回飲んだら今後は二度と飲まない位に微妙。飲泉という珍しい事を経験できたと思えばなんとか自分の中で消化かな?多分、きっと、おそらく。そんな気持ちを抱いているのは俺だけでは無いようで、他の面々も何とも言えない顔をしているので気持ちは推して知るべしだろう。初手からやらかした感があるが、気を取り直して散策の続きをしましょう。


次に訪れたのは温泉饅頭や温泉卵、煎餅等々が売られているお店だ。ラインアップは定番中の定番だが、だからこその良さがあると俺は思う。あまりお腹は空いていないが折角だし少し食べてみるかと思い、選んだのがししゃもの塩焼きです。おい、なんで定番商品を食べないんだよ!とお怒りになるかもしれないが、そんなのいつでも食べられるしさ~、今じゃなくてもよくね?それにししゃもは今の時期が旬だし一番美味い時を逃すなんて出来ないでしょ。という訳で注文をして暫し待機。他の人は温泉饅頭やかりんとう、甘納豆なんかをチョイスしたみたいだ。やはり女子なだけあって甘いものに目が無いらしい。

「お饅頭フワフワで美味しい~」

「このかりんとうは黒糖ではなく蜂蜜を使っているんですね。優しい甘みでおいしいです」

「んっ~、温泉で温めた熱燗はまた格別だね」

「この最中(もなか)職人が作ったんじゃなくて、食品工場で作ったやつだ。雑味が多いし、生地も僅かに固くて美味しくない」

優ちゃん、真白さん、店長、アリスさんが口々に感想を言い合っている。店長が早速お酒を飲んでいるのはまあいいだろう。アリスさんの感想は流石パティシエと言うべきなのか、はたまた職業病というべきか迷う所ではある。なまじっか自分の作るお菓子が超一流だから、ちょっとした事まで気になるんだろうな。でも、仕事をしていれば大なり小なりそう言った面が出るのは仕方ないけどさ。とっ、そうこうしている内に俺のししゃもが焼き上がったみたいだ。ホクホクと湯気を立ててとても美味しそう!温かい内に食べましょう。はむっと頭から噛り付いてモグモグ。

「うっま~~!なにこれ!?滅茶苦茶美味いんですけど!」

思わず声に出してしまうくらい美味。今まで食べたししゃもは紛い物だったんじゃないかと思うくらいう・ま・い!適度に脂がのっているし、身も引き締まっていて最高。嬉々として食べている姿を見て食べたくなったのか葵からこんな言葉が投げかけられた。

「兄さん。よかったら一口もらってもいいですか?」

「んっ?葵も食べたくなったの?」

「はい。兄さんがあまりにも美味しそう食べているので」

「じゃあ、はいあ~ん」

「んっ……、あ~ん」

小さく開けた口にそっとししゃもを入れてあげると、可愛らしく口をもごもごし始めた。う~ん、我が妹ながら可愛すぎませんか。くっそ~、キュート過ぎて思わず頭を撫でてしまったよ。

「うん。凄く美味しかったです」

「だろ。これは当たりだよ。お土産で持って帰る事は出来ないのかな?」

「多分お持ち帰りは出来ると思いますけど、こういうのは出来立てが一番美味しいので味は数段落ちると思いますよ」

「そっか。それじゃあお持ち帰りは諦めるしかないか……。明日帰る前にもう一度来て食べたいけどそんな時間あるかな?」

「大丈夫だと思いますよ。予定では午後一くらいに帰る事になっているので」

「よかった。なら問題ないな」

そんな話をしつつ残りも平らげてお腹も膨れたし、次はどこに行こうかな?



昔の温泉街と言えば見る所も殆どなく、まさに湯治場といった風情だったが今は全く違うんだね。足湯、コスプレ写真館、湯もみ体験等々遊べる所が盛りだくさん。色々と見て回っていたらあっという間に時間は過ぎて、夜の帳が降り始めていた。みんなで寒い、寒い言いながら旅館に戻り部屋でぬくぬくと過ごしているともう夕食の時間。バイキング形式or広間が選べるが今回は広間をチョイス。疲れている事もあって他人と一緒の空間で食事をするよりも、気心知れた人達とゆっくりとご飯を楽しみたかったのでね。出てきた料理はお刺身、すき焼き、小鉢、毛蟹、茶碗蒸し、焼き魚、デザートとなっている。量に関しては女性客が殆どなのでかなり控えめとなっているが、俺も小食なのでこれくらいで問題なし。特にすき焼きに関しては程よく脂が乗った見るからに良い肉で火が通るのを今か今かと待ち構えている。霜降り肉も良いけど、すき焼きだと脂でギトギトになってしまい、美味しくないので赤身が多い肉の方が好きだ。あくまで個人的な好みだけどね。それはさておき、美味しいご飯と楽しい会話を楽しみつつゆったりと時間は流れていき食事は終了となった。しばらく腹ごなしで休んだ後は浴場へレッツ~ゴ~!!


脱衣所でササッと服を脱ぎ、浴場へと足を踏み入れるとまずはかけ湯で体を綺麗にしてから湯に浸かります。まずは足先から入れて、徐々に体を沈み込ませていき肩まで浸かった所で思わず声が出てしまう。

「あぁ~~、気持ちええ~」

タオルを頭に置きながら恍惚とした声でそう言う様はオヤジか変態のどちらかだろう。じわじわと熱が体を温めていき、疲れが溶けていくようだ。男湯には俺達以外に人はいない為湯が流れる音と僅かな吐息しか聞こえない。そう、今この空間には俺と優ちゃんしかいないのだ。夏にみんなで旅行に行った時一緒にお風呂に入ったので、特にドキドキしたりチラチラと目で追ったりはしない。俺に彼女が出来て精神的に余裕があるというのも要因の一つだろう。そんな雰囲気が出ていたのか、前回とは違い優ちゃんも緊張したり、恥ずかしそうにしたりという事がなかった。つかず離れずの距離で肩を並べながら湯に浸かりまったりと過ごしている。会話はないが、温泉でペチャクチャと喋るのはこう……風情がないというか情緒がないというかあまり好きではないので今の感じは凄くいい。天井を見上げながらぼ~っとしていると不意に隣から声を掛けられた。

「悠さん、この宿には混浴があるって知ってました?」

「混浴?あるの?」

「はい。男性とその知り合いしか利用できないみたいですけど」

「マジか~。それって利用する際になにか手続きとかあるのかな?」

「う~ん……、多分必要なんじゃないかと思います。詳しくは受付で聞いてみないと分かりませんが」

「そっか。ありがとう。利用したいけどみんな風呂に入っちゃっているし連絡とれないな」

「仲居さんに頼んで伝えてもらう事は出来ないですかね?僕が女湯に行くわけにもいきませんし」

「いや、優ちゃんならなんの問題も無く女湯に入れると思うけど……、まあ仲居さんに頼むという線で一ついってみますか。じゃあ、早速手続きしてくるね」

「はい。僕はここに残りますね」

「うん。じゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい」

勢いよく湯船から立ち上がり、急く気持ちを必死で抑えながら小走りで脱衣所へ向かう。

全ては混浴の為に!あわよくば裸を見れるかもしれないという可能性の為に!俺は!走る!どこまでも!

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