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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
74/163

No73

このお話は甲野悠の過去編となります。

(過去・現在が混在した構成となっています)

人によっては不快に感じるかもしれません。

読んでみてダメだと思った方は読み飛ばして頂いて構いません。

Haruka's background


結衣と楓と別れて家に帰ってきたが、どうやってここまで来たのか思い出せない。心の中は彼女達からの告白で埋め尽くされていたからだ。二人の好意については知っていた……いや、去年の夏頃から分かっていたんだ。もちろん好意を向けてくれるのは嬉しいし、有難いと思う。けれどその気持ちにどう答えればいいのかが分からない。ベッドに横になり目を瞑りながら考えを巡らせていると、次第に思考は過去へと遡っていった。


俺……甲野悠の前世または中の人だが、極々普通の一般家庭で育った。父親は中堅企業に勤めるサラリーマンで母親はパート勤め。まさに中流家庭であり、なんら変哲もない家族構成となっている。ちなみに兄弟姉妹はおらず一人っ子です。幼稚園、小学校と学年が上がっていき、あれは中学に上がった時だったか。この年頃だと彼氏彼女が出来始めたりして俺も友人から彼女が出来たと報告を受けた事が何度もある。そしてその度に思った。()()()()()()?と。知識としては理解しているし、言葉で説明する事も出来る。知識として知ってはいても実体験が無い状態と言えば分かりやすいだろうか。そして好きには二種類ある。お菓子が好き・アイドルが好き・音楽が好き・車が好き等々と特定の人物を好きと言う場合だ。前者はlikeで後者はLoveと明確な区分けが出来るが、俺はLoveについて前述したとおり理解は出来ても実体験が無いのだ。こうして話すと家族から愛情を受けて育たなかったんだな等と思うかもしれないが、そんな事は無く母親からも父親からも沢山愛情を受けて育ったと思う。なので決して両親が悪いわけではなく俺が人間として欠陥を抱えているだけと言う話だ。少し話が逸れたが知らないというのは思った以上に怖いし、ましてやそれがみんな当たり前に体験している事となると尚更恐怖は増す。一種の強迫観念に似た思いを抱くまでになった俺は色々な事を試してみた。ナンパをしたり、仲の良い女の子に告白して付き合ってみたり、好意を向けられるよう細工をしたりと様々な事を試してみた……が、結局好きと言う気持ちは理解出来なかった。女の子と付き合った時に手を繋いだり、キスをしたり、デートをしたりと恋人らしい事もしてみたが、なにも感じないし、なにも思わなかった。感覚としては女友達と話したり遊んだりしているのと同じ。そういった気持ちが相手にも伝わったのだろう、結局付き合っても数ヶ月で別れる事になったが逆に考えればそれも当たり前だろうと思う。自分を好きでもない人と恋人ごっこをするなんて侮辱以外のなにものでもないからな。でも、どうしても好きを知りたかった俺は中学・高校・大学と同じことを繰り返して、繰り返してそして気付いた。俺に人を愛する事は出来ない、好きにはなっても愛する事は出来ないと。前述したとおり俺は人間として……いや生物として致命的な欠陥を抱えている。誰しもが当たり前に持っていて、当然の様に享受している感情が俺には無い。悩んで、悩んで、苦しんで、苦しんで足搔き、醜態を晒しながら求め続けたものは終ぞ手に入らなかった。それからは誰かと付き合う事は一切せず、当たり障りのない関係で留める様に注意しながら生活をしていくようになった。勿論こんな異常者でも好きになってくれる物好きな人もいたが、『俺は愛を知らない為あなたとは付き合えない』なんて言えるはずも無く、言葉を濁して断る事しか出来なかった。世界に紛れ込む異物、怪物、化け物……俺はそんな存在なのかもしれない。なんで……、どうして俺なんだ?他の人でもよかったじゃないか!なぜ俺だけこんなに苦しまなくてはいけないんだ!誰か……誰か俺に愛するという事を教えてくれ。叫んだ所で何かが変わるわけも無く心の叫びは虚空へと消えていくだけ。それは心に澱のように溜まり蓄積していくが、もう限界だった俺は全てを見ない事にした。そうすれば楽だから、普通の人間として生きていけるから。そうして月日は流れ社会人になり、仕事に日々忙殺される生活。だけど余計な事は一切考えなくていい……いや、考える余裕さえ無いように仕事に打ち込んだんだ。その行為が逃げだとは分かっているが、そうする他にどうすればいいのか分からなかった。そんな生活を十数年続けたある日、俺は不思議な世界に転生か転移かは分からないがしたんだ。そこは男女比が1/10という偏った世界。アニメやラノベで腐る程使われた手垢塗れの設定。それが現実として目の前に突き付けられた時の俺の気持ちは()()だった。だってそうだろう、これだけ男女比が偏った世界であれば男性の重要性は否応に増すし、半ば強制的に恋人なり結婚なりをしなければいけない状況に追い込まれる可能性が高い。好きではあるが、愛していない人と付き合うなり結婚するというのは苦痛以外のなにものでもない。果たして俺はこの世界で生きていけるのだろうか?そう思うのも仕方ない事だろう。まあ、結果として無理に恋愛や結婚をする必要は無いと分かったので、その心配は杞憂に終わった訳だけど。家族や友人知人にも恵まれて、何不自由なく生活できて金銭に困る事も無く、日々楽しく生活できている。一見幸福に見えるかもしれないが、この世界でも愛を知る事は出来なかった。前世でもこの世界でも知る事が出来ないのならば一生無理だろうし、来世というものがあるのならばこんな怪物にはならない事を切に祈ると同時に思う。なぜ俺はこの世界に来たのだろうか?欠陥を抱えた俺ではなく、まともな人が代わりに来ていたら多くの人を幸せにできただろうし、この世界にも貢献できただろう。男の夢であるハーレムも実現出来るだろうしね。結衣や楓を悲しませる事もなかったはずだし、彼女達も幸せになれたはずだ。以前ストーカー被害に遭った際に刑事さんが言っていた言葉がある。『私たちは愛に飢えている。愛して欲しい、愛したい、だがそんな願いを叶えられるのはごく一部の人間のみ。今回の犯人には同情の余地はないが、誰しもが愛に狂う可能性はある。それを忘れないで欲しい』

この時はふぅ~んと思った程度だったが、改めて考えてみると思う所が多々ある。


過去の回想を終えて目を開けると、ふぅ……と一つ息を吐きだす。結局の話告白を受け入れるにしろ、断るにしろ中途半端は絶対に駄目だし、ダラダラと返答を長引かせるのも駄目だろう。前者はお互いに気持ちを引きずる事になるし、後者は相手に対して失礼極まりない上、悶々とした日々を過ごさせる事になる。そして俺が抱える問題は愛を知らない事だけではない。

一:複数人と付き合う事を良しとするのか?

二:俺は甲野悠ではない。別人である。

三:元の世界に帰る方法があるが、現在は帰り方は不明。それが判明した際俺はこの世界に残るのか、元の世界に帰るのか?

細々とした問題は他にもあるが、目下最大の問題は先に挙げた三つだろう。ではこれらを仮に付き合うとして全て話すべきなのか?それとも隠しておくべきなのか?隠し事があるというのは相手に対して真摯に向き合っていない証拠だという意見もあるだろう。だが、こんな突拍子も無い事を言われてはいそうですかとなるだろうか?普通だったら頭を疑うだろう。そしてこの問題は結衣や楓だけでなく俺と親しくしている人にも話しておくべきであり、そうなると話は更に面倒な事になる。特に家族にとってはまさに青天の霹靂だろうし、言い方は悪いが甲野悠を殺した奴なんだ。母さんや葵に恨まれ、殺されても文句は言えない。その点に関しては俺は当然だと思うし受け入れる覚悟は出来ている。ただ、いつ伝えるのかが問題であり頭を悩ませている所だ。そういった点も踏まえてもし付き合うとしたら考えなくてはいけないわけで、でも時間は限られている。内容が内容だけに誰にも相談できないし、自分の力でなんとかしなくちゃいけない……とは分かっているがどうしたもんだろうか。溜息を吐きつつ窓から外を見るとシンシンと雪が降っている。真っ白に染まる街並みを見ながら、思う。もっと自分自身と深く向き合って、悩んで、考えて悔いのない答えを出そう。それが俺に出来る唯一の事なのだから。



another view point


これは……、なんといっていいのだろうか。ようやく恋愛が始まると思った矢先にこんな展開になるとは。愛を知らない男が、愛に飢え、愛に狂う世界にやってくる。なんという皮肉、なんという喜劇。脚本家がいるとしたら三流も良い所だろう。普通であればさっささと付き合ってラブラブして終わりと言う所に余計な要素をぶち込むなんて読んでいる方はストレスでしかない。しかも問題は複数ありどれもこれも一筋縄ではいかぬものばかり。そして彼に好意をもっているのは二人だけではないし、彼もそれは分かっているだろう。先の事も考えるならばここで確りと覚悟と意志を固めるべき。彼がどの様な答えを出し、彼女たちがどう答えるのか?それはこの先を読み進めていけば分かるだろう。チラリと時計を見ると深夜と言っていい時間になっていた。先が気になるしこのまま読み進めるべきか、寝るべきか。時間だけはたっぷりとあるのでどちらでも良いと言えばいいのだが、一先ず温かい飲み物でも用意してから考えようか。安楽椅子から立ち上がりキッチンへ向かう途中で外を眺めると雪が降り、辺りを白く染めていた。ふふっ、甲野悠君。君は本当に面白い人だね。私の退屈を紛らわせる事が出来たのだから。


another view pointEND

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