No66
各方面との話し合いから二週間程経ったが、なんと今日から三泊四日の修学旅行が始まります。中身がオッサンの俺だが昨夜は楽しみ過ぎてあんまり寝れなかったぜ。おかげでちょっと寝不足気味。まあ、バスや飛行機で寝ればいっかなんて事を考えながら玄関で靴を履いていると母さんから声を掛けられた。
「悠、なにかあったら必ず連絡するのよ。それと事故や怪我には気を付けてね。暗くなったら一人で出歩いちゃ駄目よ。夜は冷えるから暖かくして寝るのよ。それと……」
「母さん。俺も高校生だしそんな心配しなくても大丈夫だよ」
「でも……、悠に何かあったらと思うとお母さん心配で心配で」
「先生もいるし、刑事さんも警護してくれるから問題ないよ」
「そうなんだけど……。それに悠が四日間も居ないなんて寂しくておかしくなっちゃいそう」
「数日居ないだけだし、子離れの練習だと思えば耐えられない?」
「無理」
「う~ん、こればっかりは俺ではどうしようもないけど……。どうすれば母さんは寂しさが紛れるの?」
「毎日電話してくれたらなんとか耐えられるかも……しれない」
「分かった。じゃあ夜に電話するね」
「絶対よ。約束だからね」
「うん」
「兄さん。そろそろ出ないと間に合わなくなりますよ」
「おっと、そうだな。じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
こうしていつまでたっても子離れ出来ない母さんと別れて葵と二人で学校へと向かう。駅までの道中で会話は一切無い。普段は他愛も無い話をしているのに一言も無い。俺なにか気に障る事でもしたかな?と思いつつ学校まであと少しという所で葵が口を開いた。
「兄さんと四日も離れ離れになるのは初めてですね」
「そうだっけか?」
「はい。いつも一緒にいたのに会えないくなるなんて辛いです」
こちらを見る葵の目にはうっすらと涙が溜まっている。ずっと口を開かなかったのは寂しいからだったのか。ここは兄としてなんとかしてやらねばな。
「俺も葵と離れるのは寂しいよ。でもお互い高校生だし今後もこういった離れ離れになる事はあると思う。寂しい、辛い、悲しい。そんな気持ちになった時はこう考えてみれば良いよ。離れていてもお互いの心は繋がっているし、離れている時間がよりお互いの絆を強くするって」
「心は繋がっている……」
「そう。そう考えると少しは心が軽くならない?」
「はい」
悲し気な表情は和らぎ、笑みを浮かべる姿を見てホッと息を吐いた。兄としてもっと気遣ってやるべきだったし、葵の事を考えてやるべきだった。これは猛省せねばなるまい。妹を悲しませるなんて兄失格だ。
脳内で反省会をしていると、校門まで来ていたのでここでお別れだ。
「じゃあ、行くね」
「はい。お元気で」
なんか今生の別れみたいな台詞になってしまったが、気にしたら負けだろう。さて駐車場に向かいますか。
駐車場には数台のバスと生徒、先生がいる。集合時間までまだ余裕があるが、ほぼ全員が集まっているようだ。Aクラスの待機場所までいきクラスメイトと話をしていると、時間になったようで校長や理事長からありがたいお言葉をもらった後にバスに乗り込み空港まで移動と相成った。移動中はお菓子を食べたり、お喋りしたりしていたので寝る事が出来なかった。まあ、楽しかったから問題ないんだけどね。とりま飛行機で寝る事にしますか。そんなこんなであっという間に空港に着いてしまった。楽しい時間は過ぎるのが早いというがまさにその通りだな。引率の先生の後をついていきながら歩きつつ辺りを眺めてみる。規模としては前世で言うと羽田空港くらいだろうか。内部の施設はもっと充実しているし、先端技術を駆使した展示や広告なんかもあって近未来感が凄い。こういうサイバーパンクっぽいのって滅茶苦茶好きなんだよね。特にホログラム広告は格好良かった。映画やアニメで見るような立体的かつ超精巧なホロを見つけた瞬間列から抜けて見に行ったくらいマジ最高だった!まあ当然ながら俺の単独行動を見た先生や警備員さんが慌てて駆けつけてきて、なにか問題でもあったの?と聞かれてしまった。ホロが格好良くてつい……と答えたら呆れと怒りが滲んだ溜息を吐かれてしまった。担任にお小言をもらったけど後悔はしていない!こんなハプニングもあったが、無事保安検査も通過して後は飛行機に乗り込むだけなんだが、搭乗開始まで三十分ほど時間がある。さて、どうしたもんかな?と思っていると空港職員が俺にこんな事を言ってきた。
「甲野様、搭乗開始までラウンジでお待ちすることも出来ますがどう致しますか?」
「ラウンジですか?」
「はい。男性専用ラウンジとなっていますので、お寛ぎ出来るかと思います」
「それって俺だけしか利用できないんですか?」
「男性の同伴者様もご利用頂けます」
「じゃあ、クラスメイトと一緒にって言うのは無理ですか?」
「そうですね……。流石に全員という訳にはいきませんが数名であれば大丈夫だと思います。今上に確認しますね」
「お願いします」
職員さんがなにやらインカムで喋っている。一~二分経った位で俺の方へ戻ってきて口を開いた。
「確認した所三名までOKです」
「ありがとうございます」
三名か……。どうしようかな?班のメンバーは俺含めて五名だしアウト。変な軋轢を生まない為にもここは使わない方が無難かな?でも、ラウンジとか利用した事無いし、うぅ~~……。
「どうしたのハル君?」
「もしかして気分でも悪いの?」
「結衣と楓か。あ~、実はさラウンジを利用できるみたいなんだけど、男性専用で一緒に利用できるのは三人だけなんだ。でさ、誰かを選ぶと変な軋轢を生みそうだし止めようかと思ったんだけど、人生初の空港ラウンジ利用機会を逃すのもなぁ~って悩んでて」
「それは利用するべきだよ。私たちの事は気にしなくていいよ」
「そうね。結衣の言う通りだよ」
「そっか。じゃあ、結衣と楓一緒に行かない?」
「いいの?」
「もちろん。一人だとちょっと寂しいしね」
「ふふ。そう言う事なら喜んで」
「誘ってくれてありがとう」
「んじゃ行こうか」
こうして移動しようとした所で待ったの声が掛けられた。
「こらこら、どこに行こうとしているのかな?」
「あっ、先生。実は…………」
簡単に説明した所こんな返事が返ってきた。
「分かりました。ですが、生徒だけで行かせるのは不安なので私も一緒に行きます。三人までOKなので問題ないですよね?」
「はい。じゃあ改めて行きましょうか」
案内のもと辿り着いたラウンジは豪勢の一言。無料のドリンクに軽食。スイーツやお酒も用意されている。更にはマッサージを受けられたり、映画を鑑賞出来たり入浴施設や仮眠所なんかもある。まさに至れり尽くせりだろう。こんな豪華な施設をなんと!無料で使えるのです。どれだけ食おうが飲もうが無料!今回は時間がないので全てを楽しむことは出来ないのが残念極まりない。一緒に来た女性陣も最初はビックリしていたが今はスイーツに目を輝かせている。なにやら有名店のスイーツらしくどれを食べようか悩んでいるみたいだ。その姿はちっちゃい子供みたいで微笑ましい。さて、俺はと言えば腹は減っていない為お茶を飲みながらゆっくりすることにした。ふっかふかのソファーに座り、全面ガラス張りの壁から外を見やる。ふっ、下界の人間は今日もあくせくと働いて惨めなものだな!精々俺の為に尽くすといい!なんて魔王様ロールプレイを脳内で楽しみつつ時間は過ぎていった。
搭乗開始時刻間近になったのでラウンジを出てみんなが居る場所へと移動。ゾロゾロと飛行機に乗り込み座席を探しているが見当たらない。搭乗券に記載されている番号が無いのだ。これって航空会社のミス?どうしよう……と焦っていると客室乗務員さんが声を掛けてくれた。
「どうかされましたか?」
「あの、搭乗券に記載されている席が見当たらないのですが」
「拝見させて頂いてもよろしいですか?」
「どうぞ」
客室乗務員さんに搭乗券を渡すとサッと見た後に口を開き一言。
「甲野様は男性専用席のご利用となりますので、あちらになります」
もしやと思ってはいたがまさか飛行機にも男性専用席があるとは……。案内されたのは最後尾のカーテンで仕切りをされている場所だった。座席数は四席のみ。ここで気付く人もいると思うが、一応説明しよう。ファーストクラスもかくやという程豪華な座席、豪華極まりない飲食物がなんと無料。大画面のTVが用意されていて映画やニュースなんかを見る事も出来る。更にベッド?みたいなのもあって俺が三人横になっても余裕なほどデカい。普通であれば高額な料金を払わなければ利用できない場所なのは間違いない。それが男というだけでエコノミークラスの料金で利用できるんだからぶっ壊れである。思いっ切り満喫するのもやぶさかではないが、如何せん眠い。眠気VSファーストクラスを満喫するの対決は眠気に軍配が上がった。この後の事も考えると寝ておくのが得策だろうしね。というわけで到着までひと眠りします。おやすみなさい。




