No64
夏休みも終わりいつもと変わらない日常を過ごしていた……んだが、ある日の教室はピリピリとした空気に包まれていた。誰も口を開ける事無く静寂が教室を包んでいる。クラスメイトは遠巻きに心配そうに見守り、廊下では他クラスの生徒が教室の中を覗いていた。そんな中怒り交じりの声が響き渡る。
「お前いい加減にしろよ。今なら謝れば許してやるぞ」
「ざけんな。なんで俺がお前に謝んなきゃいけねぇんだよ」
「謝罪する気は無しか。吐いた唾は吞めぬ事は分かっているんだろうな」
「当たり前だ。その言葉そっくりそのままお前に返すぜ」
「戦争だな」
「ああ」
この言葉を皮切りに世界戦争もかくやという争いが勃発した。さて、ここまで読んだ君にはなにがなんだか分からないだろう。なので順を追って説明しようと思う。長くはならないから心配無用だよ。
朝俺が教室で雑誌を読んでいる時に登校してきた真司に声を掛けられたんだ。
「おはよっす~」
「おはよ。そういえば今日が登校日だったか」
「そっ。今日一日よろしくな」
「んっ」
そういった後再び雑誌に目を落として特集記事を読み始めた。内容は眼鏡女子特集で様々なデザインの眼鏡をかけた女の子のスナップショットや紹介記事が掲載されている。個人的な話で大変申し訳ないんだが、眼鏡女子大好きです。顔の印象が大きく変わるって言うのもあるし、普段はかけないけど本を読む時とか家にいる時に着用する等々のシチュエーション萌えませんか?しかもその姿を見られて恥ずかしそうにこう言うんだ。
「この姿を見せるのは君だけだよ。他の人には秘密ね♡」
な~んて言われた日にはハートブローケン。君に首ったけ~ってな風になるよ。あとあと、キリッとした女教師とか女医さんとかも眼鏡が似合うイメージがある。女教師は放課後の特別授業とか受けたりしてね。女医さんは秘密の健診とかかな?内容は十八禁なので書くことは出来ないが紳士諸君なら余りある妄想力でその光景を描くことが出来るはずだ。というように眼鏡は素晴らしい物なのです。昔は野暮ったいデザインでレンズも分厚く所謂牛乳瓶眼鏡なんかもあったけど、最近はお洒落なデザインばかりでイメージも大分よくなったと思う。眼鏡=文学少女や根暗な人という印象が昔はあったんだ。視力補正の道具に過ぎないのになぜそういった印象を与えるのか、またなぜそういう考えが定着したのかは不明だが迷惑な話だと思う。翻って現代は伊達眼鏡も含めて色々な人が着用しているし、オシャレの一環として使っている人もいるだろう。芸能人や女優、アイドルでも眼鏡着用者はいるのでそういった点も眼鏡=お洒落になった要因の一つだろう。そんな訳でニヤニヤしながら雑誌を見ていると真司が覗き込んできて一言。
「眼鏡とかダッサ」
最初は何を言っているのか理解できなかった。いや、したくなかった。どうか間違えであって欲しい、なんなら俺の空耳だと思いたかった。
「あのさ、俺の勘違いだと思うけど今ダサいって言った?」
「んっ?言ったよ。眼鏡とか古いしダサいし、普通にコンタクトでよくね?」
「お前馬鹿か?コンタクトなんて魅力の欠片もねぇよ」
「眼鏡の方がダサいし古いしオタクに見えるし良い所なんもないじゃん」
「喧嘩売ってんのか?おい」
「あっ?お前がそれいうのか?この野郎」
こうして冒頭のやり取りに戻るという訳よ。自分の好きな物や事を馬鹿にされると非常に腹が立つ。当然人により好みは分かれるだろうが、言い方ってものがあるだろう。真司の大馬鹿野郎は完全に喧嘩腰で言ってきたからおれぁキレちまったよ。クラスメイトには申し訳ないと思うがこればっかりはどうしようもない。お互いの口からあふれ出る暴言の数々。このままいくと殴り合いになるのでは……という所で待ったがかかった。
「なにしているんですか?学校での争いは厳禁ですよ」
誰が呼んだのかは分からないが担任が仲裁に入ってきた。
「こいつがアホな事を抜かすのが悪いんです」
「お前が先に喧嘩売って来たんだろうが」
「あぁ?」
「やんのかこら!」
「止めなさい。まずはお互いの言い分を聞きますので話して下さい」
その後先生に今までの流れを説明すると深い深いため息を吐かれた。
「はぁ~~……。下らない事で喧嘩しないで下さい。今回の事はお互いの言い方に問題がありましたね。もう少し優しい言葉を使い、思いやりを持って対応すればこんな事にはならなかったはずですよ。それは分かりますよね?」
「……はい」
「はい」
「分かればよろしい。もう、甲野君たちが喧嘩しているって聞いて飛んできたんですよ。あなた達は男子なんですから、もしもの事があったら大問題になるんです。その辺の自覚も持って今後は行動して下さい」
「すみませんでした」
「ごめんなさい」
こうして先生の一喝により幕を閉じたわけだが、話はここで終わらない。いつの間にか有馬先輩や葵、優ちゃんも来ていてビックリしたが重要なのはそこではない。俺達が反省したのを見た先生が一言。
「甲野君は眼鏡が好きなんですか?」
「好きです。というか萌えます」
「ちなみに好きな形とか色とかはあるんですか?」
「そうですね……。色は黒か赤。形はシンプルなのが一番です。メタルフレームは冷たい印象を与えるのでセルフレームの方が良いですね」
「結構なこだわりがあるんですね。じゃあ伊達眼鏡はNGですか?」
「問題ないですよ。お洒落で伊達眼鏡を掛けたりするじゃないですか」
「そうですね。色々答えてくれてありがとうございます」
「いえいえ」
先生の何気ない質問についつい熱を入れて答えてしまった。ちょっと恥ずかしい………。
「そんなに良いもんかねぇ?付け外しが面倒だし、すぐレンズが汚れたり曇ったりするだろ。そういった面を考えるとコンタクトかレーシック手術でもした方が楽じゃね?」
「真司の言う通りすぐ汚れたり曇ったりするのは間違いない。でもそういったデメリット以上にメリットは大きいぞ。なんてったって知的さが大幅アップするし、真面目に見えるからな。女の子は可愛さ三割増しだし」
「真面目に見えるのは分かるが可愛さが増すってのは理解出来んな」
「こればっかりは実際に見てみないと分からないか……。誰か眼鏡かけている人は……」
そう言った後周りを見回してみたが誰もいない。オーノー………、マジか。どうしたもんかなと考えていると有馬先輩が近づいてきて声を掛けてきた。
「私眼鏡持っているよ」
「えっ?本当ですか?」
「うん。普段はかけないんだけど授業中とか勉強するときに掛けているんだ」
「じゃあ、今も持っていたりしますか?」
「あるよ」
これは最高ではないか!有馬先輩の眼鏡姿とかもう筆舌に尽くしがたいに違いない。早く見たいから早速掛けてもらおうか。
「あの、よかったら眼鏡をかけてもらってもいいですか?」
「かまわないよ」
そういってブレザーのポケットからメガネケースを取り出しスチャッと装着。ハッキリ言おう。これほど眼鏡が似合う人を俺は見た事が無い。知的美人でセクシーな先輩&眼鏡。このマリアージュの結果は言うまでもないだろう。周りにいた生徒や先生、真司も思わず息を呑むほどの美しさ。この世界の女性は顔が整っているから似合わないという事は絶対に無いと思っていたがこれは予想以上だ。
「マジで似合いすぎますね、眼鏡」
「そうかな?そこまで言われるとちょっと恥ずかしいな」
恥ずかしがりながら眼鏡のツルを押し上げる動作がまたあざと可愛い。これを狙ってやっている訳では無く自然にしている所がまた恐ろしい。
「どうだ真司?これが眼鏡女子だ」
「…………………俺は間違っていたのかもしれない」
「分かってくれたか。醸し出されるこの知的感、優美さ、可憐さは決してコンタクトや裸眼では表現出来ないという事に」
「悠。さっきは本当に済まなかった。許されるとは思っていないが謝らせてくれ」
「何を言っているんだ心の友よ。お前が間違いを認めた時点で許しているさ」
「おぉ!マイソウルブラザー!!」
ヒシッと抱き合う男達。その光景を冷めた目で見る周りの面々。この場の空気はまさにカオス!どうみても茶番にでしかないが、まあ一応喧嘩は回避?出来たので良しとしようではないか。
「あ~、みなさんお騒がしてすみませんでした。問題は無事解決出来たのでこれでお開きという事で」
「はぁ~……」
俺の言葉に一斉に溜息を吐かれた。気持ちは痛いほどわかるので、何も言うまい。何事かと見に来ていた他クラスの生徒たちは解散していき、残されたのはクラスメイトと担任、有馬先輩に葵と優ちゃん。そんな中結衣が口を開いた。
「ハル君眼鏡好きなんだね。じゃあ私も伊達眼鏡かけようかな~」
「マジで?是非お願いします」
「うっ、うん。凄い勢いで言ってきて驚いたけど分かったよ」
「じゃあ、私も買おうかな」
「いいですね。兄さんが好きなら私も着用すべきですね」
楓、葵も口々に眼鏡着用宣言をしていく。これは眼鏡ブームが到来か?ニュフフフフ、俺の時代キタ━(゜∀゜)━!おっと、これだけは言っておかねばならない事があった。
「あのさ、出来れば毎日掛けるんじゃなくてたまに着用してくれないかな?その方がレア感があってグッドなんだよね」
「あっ、はい……」
痛々しい物を見る目をされたが、これだけは譲れないんだ。あぁ、これで学校生活が更に潤うぜ!
「じゃあ、話はこれでお終いね。遅くなったけどHRを始めますよ。あと修学旅行も近いのでくれぐれも問題を起こさない様にお願いしますね」
先生がそう言った後HR開始となった。結構時間が押してしまったので申し訳ないっす。それと修学旅行か。色んな人と話し合いをしなければいけないし面倒臭い……じゃなかった。大変なんだよなぁ~。今から気疲れしてしまうが、高校生活の一大イベントを楽しむためにも頑張りますか。




