No63
迷路探索の勝者はなんと真白さんだった。約束通りプレゼントを渡したんだがそれはもう凄い喜びようだった。
「ありがとうございます。これは家宝にいたします」
「いやいや、そこまで大それた物ではないので適当に使って貰えればいいですよ」
「悠様から頂いた物を適当になど扱えません。大事に使いますし、毎日お手入れも欠かしません」
「あ~……、まあ喜んでもらえたならよかったです」
「はい」
俺が渡したものは櫛だ。女性なら髪の手入れで毎日使うだろうし、貰って困るものではないだろうという考えのもと選んだ。値段も千円ちょっとと高級品ではないので気軽に使えると思っていたんだけど、まさか家宝にすると言われるとは思ってもいなかった。まあ喜んでもらえてよかったよかった。さて、メインのひまわり畑も見終わったのでお次は町の観光に行きます。そこまで大きな町ではないんだけど、郷土資料館や地酒、古民家見学ツアーなんかもあって中々に見応えがありそう。その前に丁度お昼時なので腹ごしらえをしましょうとなったので、近場にある食堂でご飯と相成った。んだけど、入店した際にちょっとしたハプニング?がありました。こんな感じで。
みんなでゾロゾロと食堂に入ると店員さんが定番の声を掛けてきた。
「いらっしゃいま……せ………って男性!?」
俺の姿を見るなりそんな事を言ってきた。はい、俺は男性ですがなにか?と思ったが口には出さずに黙っていると件の店員さんが厨房の方に掛けていってしまった。その姿を呆然と見つめる俺たちの耳にこんな会話が聞こえてきた。
「て、て、店長!だ、男性が来店されました!」
「まずは落ち着きな。で、男性が来店されたって?ボーイッシュな女性を見間違えたんじゃないの?」
「そんなことありません!間違いなく男性が来たんですよ!うちの店に!」
「はぁ……。そこまで言うなら私が確認しに行くよ」
「私も一緒に行きます」
ドタドタと足音を響かせながらこちらに近づいてくる人影。そして俺たちの前までやってきて店長と思しき人が止まった。文字道理時間が停止したようにピタリと動かなくなってしまったのだ。なにか持病の発作でも起きたのかと心配になったので声を掛けてみた。
「あの、大丈夫ですか?もしかして体調とか悪いんですか?」
「…………はっ!?だ、だ、男性!?本物!?えっ、ちょっとまって!どうしようこんな格好で私ったらなにをやっているのかしら。すぐに家に帰って着替えてこないと!」
「店長落ち着いて下さい!気持ちは分かりますが、目の前にお客様がいるのにほったらかしにするのはマズイですよ」
「そ、そうね。一旦深呼吸しましょう。スーハー、スーハー」
俺たちは一体何を見せられているのだろうか?新手のコント?ドッキリ?ただ、飯を食いに来ただけなのにどういうことでしょう?全員無言で見守っていると店長さんが口を開き一言。
「いっ、いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
おっ、再起動完了したな。見た所落ち着いているようだし、このまま流れに乗ってしまおう。
「十人です。全員同じ場所に座る事は出来ますか?」
「はい、大丈夫です。お座敷席がありますので、そちらにご案内しますね」
「お願いします」
案内された席に各々座りメニューを見ながらあれこれ言いつつ注文完了。料理が出来上がるまで、他愛無い話で盛り上がってしまった。俺が注文した料理は田舎煮込みという料理でこの町で収穫された野菜や肉を使ったまさに地産地消を実現しているご飯となっている。味の方は大変美味でした。スーパーなんかで買った野菜や肉とは一味も二味も違っていて、やはり採れたての野菜や新鮮な肉は美味いんだなと思った次第です。いづれ機会があればまた食べに来るのもいいかもしれないね。こうして大満足の食事を終えてお会計の際に店長さんからこんな事を言われた。
「あの、よろしければ当店の田舎煮込みを男性一押し商品として売り出してもよろしいでしょうか?」
俺としては構わないけど、なにかトラブルとかあった際対処できないしこれはどうしたもんかな……。ここは大人の人に聞いてみるのが無難か。
「あ~、母さんや店長はどう思いますか?俺としては別に構わないんですけど」
「そうねぇ。悠の名前を出すわけでも無いし私としては問題ないと思うわ」
「うちの店でも甲野君が好きな珈琲とかスィーツを一押しとして売り出しているし大丈夫だと思うよ」
「学校側としては後で連絡さえ貰えれば構いませんよ」
母さん、店長、先生の順で答えてくれたが、全員OKとのことなので問題ないだろう。ちなみに学校に連絡というのは今回みたいな事があった場合トラブル防止やなにか問題が起こった際の対処等々の為報告しなければいけないのだ。もちろんMeteorで俺一押しの商品を売り出す際にも報告している。ととっ、店長さんにOKですよって言うの忘れていた。
「OKです。俺としても凄く美味しい料理だったので色んな人に食べて貰えると嬉しいですし」
「ありがとうございます」
この後会計を済ませて店の外に出ると、ふぅと一息。よっし、腹も満たされたし観光再開しますか。
酒造会社の見学会では試飲も出来るとの事で大人の人は試していたが、中でも店長が豪く気に入ったみたいで是非自分の店でも取り扱いたいと交渉してたのには驚いた。それほど美味いなら俺も一口頂きたい所だが、残念ながら未成年の為NG。前世では酒好きだったので口惜しい。次に行ったは郷土資料館。町の歴史が紹介されていたんだけど、中々に面白かったよ。連綿と続く人の営みの一部に過ぎないが過去を知る事で得られるものもあるし、新しい発見にも繋がる。まさに温故知新!よし、上手い事言えた!色々と見て回っていたら夜の帳が落ち始めてきていた。そろそろ宿に戻ろうかという事になり楽しい観光はこれでお終い。部屋でゆっくりと休んだ後は夕食の時間。最近の宿ではビュッフェ形式が多いがこの宿では自室で食べるか広間で食べるか選ぶことが出来る。広間で食べる場合は当然他の客と被らないように男性専用の場所で頂く。今回は大人数なので広間で食べる事にした。メニューはお刺身や焼き物、野菜を使った料理等々。こちらも食材は地産の物を使っているとの事で大変美味でした。腹も満たされたら次にやる事は一つ!お・ふ・ろ!なんと源泉かけ流しの温泉があるので早速入りに行きます。あっ、部屋風呂もあるんだけどそちらは明日の朝に入ろうと思っている。部屋に戻り着替えとタオルを持ったらレッツゴー!男性と書かれた暖簾と女性と書かれた暖簾の前で別れて脱衣所に入ると誰もいない。これは……神隠しか?それとも宇宙人に攫われたのか?なんてことはなくただ単に宿泊している男性が俺達以外にいないだけっていうね。いやさ、こういった場面に出くわすといたずら心が出ちゃって。てへぺろ~。………ふぅ。下らない事考えてないでさっさと着替えるか。ガバッと上着を脱ぎズボンに手を掛けた所で可愛らしい悲鳴が聞こえた。
「きゃっ!?」
「えっ?」
振り返ると優ちゃんが顔を真っ赤にして手で顔を押さえていた………が指の隙間から覗いているのを俺は見逃してはいないぜ。まあ、言わないけど。
「どしたの?虫でもいた?」
「いっ、いえ。悠さんがいきなり服を脱ぎだしのでビックリしてしまって」
「んん?風呂に入るんだし服は脱ぐでしょ?」
「そうなんですけど……」
「ほらほら、優ちゃんもささっと服脱いで風呂入ろうぜ」
「あの……、先に入ってもらってもいいですか?着替えを見られるのは恥ずかしいので……」
もじもじしながら、上目遣いでそう言ってくる美少女(男)。これは俺の配慮が足りなかったな。いくら男の娘とはいえ裸を見られるのは恥ずかしいか。ついつい俺の感覚で接してしまったが、これは反省せねばなるまい。
「分かったよ。じゃ、お先」
そう言って浴場に繋がる扉に向かって歩き出した。
another view point
悠さんに着替えを見られるのは恥ずかしい。けど、嫌ではない。下着も可愛いのを付けているし、問題ないし、身体だって無駄なお肉もついていないし見て不快になるような要素は無いと思う。けど……、好きな人に自分の下着姿を見られるのは恥ずかしい。今から一緒にお風呂に入るのに何を言っているんだと思うかもしれないけど……。嫌な思いをさせてしまっただろうか?男同士なのに気持ち悪いと思っただろうか?不安な気持ちが鎌首を擡げてくる。だけどここでいつまでもこうしている訳にはいかない。グッと拳を握りこみ服を脱ぎ始めた。
another view pointEND
かけ湯で身体をサッと流した後湯船にゆっくりと入る。肩まで浸かったところで思わずふぃ~と声が出てしまった。オッサン臭いけどこれは老若男女問わず出てしまうのではないだろうか?当然頭の上にはタオルを載せている。これぞ温泉スタイル!あ~、癒される~。日頃の疲れが溶けて出ていくようだ。最高。と完全にリラックスしていると、カラカラと音がした後ヒタヒタと足音が。おっ、優ちゃんが来たなと思い音の方を見ていると髪を纏めてバスタオルを巻いた美少女がいた。
「お待たせしました」
「…………あっ。いやいや全然待ってないよ」
「それじゃあ、僕も失礼して入らせてもらいますね」
「どうぞ」
華奢で美しい肢体が湯船に沈んでいく。
「はぁ……、気持ちいい」
ごちそうさまです。我が人生に一片の悔い無し!来世でまた会いましょう。冗談はさておき本当に俺と同じ男なのだろうか?しっとりと汗ばむ肌、上気した頬、桜色に色付いた肌、濡れた髪をかき上げる仕草。あまりに煽情的であり、あまりに可憐。ムクムクと邪な気持ちが芽生えそうになるが、それはいけないと理性さんが全力で阻止してくれている。ナイス!その調子で頼むぜ。湯が流れる音だけが響く中ゆったりとした時間が流れている。いつまでもこのままで居たい気持ちもあるが、湯あたりしたら大変なのでこの辺で上がる事にして体を洗ったらもう一回入って出るか。ザバッと立ち上がり洗い場に向かい頭と顔を洗ったら垢擦りを使ってゴシゴシと洗体します。ボディソープをつけていざというタイミングで優ちゃんからこんな申し出をされてしまった。
「悠さん。もしよかったら僕に背中を流させてもらえませんか?」
「いいの?」
「はい!」
「じゃあ、お願いします」
そう言いながら優ちゃんに垢擦りを手渡すと「ではいきます」という掛け声と共に背中を流し始めた。優しく丁寧な動きで流してくれているのでとても気持ちいい……んだけど小っちゃくて細い手指が肌に触れる感触が……。それと「んっ」とか「ふぅ」とか艶めかしい吐息交じりの声が耳朶を叩く。浴場には俺と優ちゃんのみ。例え間違えが起きたとしても誰も来ることは無い。美少女男の娘に背中を流してもらいながらエロい声が耳を擽るこの状況で襲わない俺はなんなんだろうか?悟りを開いた僧侶?賢者?はたまた枯れ果てたお爺ちゃんだろうか?こんなエロゲさながらのシチュエーションを何度夢見た事だろう。さあ!今こそ立ち上がる時だ甲野悠!今日お前は男になるのだ!さっきまで懸命に阻止していた理性さんはあっけなく消え去り残るのは野獣の如し欲望のみ。うへへへへ~!では、いただきま~す!!と動こうとした所で背中から感触が消え去った。
「洗い終わりました。では流しますね」
「あっ、はい」
素晴らしいインターセプトによって俺の悪行は実行に移されることは永遠になくなった。少し寂しい気持ちもあるが……否。これでよかったのだ。風呂から上がれば後は寝るだけだし今みたいな危険領域は展開されることは無いだろうから安心だ。こうなればさっさと風呂から上がってしまおう。ということでその後はマッハで風呂場から出ていきました。ちなみに風呂上がりの牛乳はしっかり飲んだのでご心配なく。
部屋で優ちゃんと雑談をしていると気づけば時計の針は十二時に差し掛かろうとしていた。明日も早いのでこれくらいで寝ることにしよう。寝室へと移動して布団に入りおやすみなさい。となればどれだけよかったか。俺の隣でスヤスヤと寝息を立てている可愛らしい女の子。暑かったのか浴衣が少しはだけていて真っ白な肌が暗闇の中でハッキリと見える。胸元や裾から見える美しい肢体、天使のごとき寝顔。おぉ、神よ!あなたはなぜこんなにも残酷な仕打ちを私にするのでしょうか?もし試練だというのであればなんと惨いのでしょう。これは私に課せられた罰であり罪なのかもしれません。そう、男の娘が大好きという私に対する。………………なんて思いながら悶々と夜は更けていった。
言うまでも無く翌日は寝不足になりました。みんなに心配されたが本当の事をいう訳にもいかず適当な嘘を言った事を許しておくれ。こうして夏のバカンスは終わりを告げた。




