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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
62/163

No61

俺が住んでいる街では毎年花火大会が開催されている。規模としてはかなり大きくて、毎年他県から大勢の人が観に来るほどだ。そんな花火大会が今日の夜開催される。参加メンバーは俺・葵・結衣・楓・有馬先輩・真白さん・優ちゃん・金城さん・先生となっている。母さんと店長、アリスさんは仕事の為参加できず。子供達だけというのも心配という事で、保護者として先生が参加となった。さて、夜までは暇なので時間を潰すために今は去年からずっと考えているあの件について調べている。そう、神隠しについてだ。ずっと進展がなかったんだけど、最近新しい情報が入った。定期健診でお世話になっている女医さんにそれとなく話を振ってみた所、同じ病院内に勤めている精神科医の先生がこんな事を漏らしていたらしい。

『医者になって三年目くらいの時かな。勉強のために過去の事例を調べていた時に男性の精神錯乱についてっていうのを見つけてね。内容を簡潔にまとめると、ある日人が変わったようになった男性がいました。頭を打ったとか、なにかしらの違法薬物を使用した形跡も無し。原因は不明。その男性曰く俺は別の世界から来たって言って憚らない。検査の結果はどこにも問題がなかったんだけど、経過観察のために長期入院したもらったの。それから数年過ぎた辺りで、()()()()()()()()()()()()()()って叫びだして狂喜乱舞した。そして翌日になると、昨日までとは別人のようになっていたの。急いで家族に連絡を取り確認してもらうと、精神錯乱する前の状態に戻っていた。まるで、憑依した別人が消え去ったかのように』

話を聞いた女医さんは完全に眉唾な話だと思って聞き流していたらしいけど、この話は俺にとって非常に重要な要素を含んでいる。それは、()()()()()()()()()()()()という事だ。件の男性がどういった経緯で発見したのかは分からないし、戻り方も分からない。だけど、方法はあるんだ。必死になって考えているが、なにもヒントが無い状況ではどうしても行き詰ってしまう。病院という閉鎖空間で可能なやり方となると、例えばスタンガン等を使って身体にショックを与えるとか、致死量ギリギリの量の毒物を服用して瀕死状態になるとかでは無い。そういった方法以外の実現可能な方法となると………………、全く思いつかない。一歩進んで立ち止まっている状態だ。あれこれとノートに書き殴っては、消しを繰り返しているとどんどん深みに嵌まっていく。本当に頭がおかしくなりそうだよ。でも、もういいやって投げるわけにはいかない。何としてでも見つけてやる。意気込みを新たにした所で時計を見ると、もう十八時に差し掛かろうとしていた。集中していると時間はあっという間に過ぎてしまうものだな、などと思いつつ出掛ける準備に取り掛かった。



浴衣に着替えて葵と一緒に家を出て駅に向かい、電車で最寄り駅まで移動。辿り着いた駅構内から外に出ると夏祭りの時と同じかそれ以上の人だかり。もみくちゃにされながらなんとか待ち合わせ場所までたどり着いた時には疲労困憊になっていた。ベンチは埋まっていたので柵にもたれ掛かりながら一息ついていると、良く通る声でこんな言葉を投げかけられた。

「お久しぶりですわ!まだ花火大会は始まってもいないのになぜそんなに疲れているんですの?」

「あ~………、金城さんお久しぶり。ここまで来るのに凄い人でもみくちゃにされてさ。そのせいで少し疲れちゃって」

「あらあらまあまあ!それは大変でしたわね!言って下されば私の方で車を出しましたのに」

「えっ?マジ?」

「本当ですわ!私ここまで車で来ましたのよ!」

道理で疲れた様子が無いわけだ。他の面々は俺と似たり寄ったりで疲れを浮かべているのに、一人だけ元気一杯だから不思議に思っていたんだよ。金城さんには悪いけどここは少し休憩してから移動しよう。言い忘れてたけど、全員浴衣姿です。優ちゃんと金城さん以外は見た事があるので感想は割愛する。なので優ちゃんと金城さんの浴衣姿をお伝えしよう。

優ちゃんは紫陽花柄の浴衣で全体的に古風な雰囲気で纏めている。髪型はいつもと変わらず。

金城さんは派手。ドリルヘアーも相まってとにかく派手で目立つ。ぱっと見で分かる程上質な浴衣を着用しているし、(かんざし)も一流の職人が作った高級品と一目で分かるものを挿している。まさに成金スタイル……間違えました。雑誌の表紙を飾っていそうな見た目です。まあ、目立つといえば俺もなんだが。まあ~、見られる見られる。去年の夏祭りもそうだったけど、浴衣姿の男性なんて見る機会なんて皆無、いや絶無だからじ~~~と見られるし、スマホのカメラでこっそり撮られたりもする。完全に盗撮なんだけど、なんせ同じことをしている人が多い為全員に注意する事なんて不可能。なんで諦めています。さって、大分体力も回復したし、会場まで移動しますか!ということでレッツゴー。


辿り着いた場所は河川敷。といってもしっかりと整備されていて今回みたいな大きなイベントにも対応できるようになっている。普通だったら場所取りが滅茶苦茶大変だけど、今回は違う。なんと男性専用の観賞席が用意されているのだ。これは例えば映画館や舞台、演劇なんかでも同様で男性用の席が用意されている。ただ悲しいかな利用客は限りなく0に近い。年に一人か二人利用するかしないか程度。非常に勿体ないし、使わないんだったら一般開放すればいいのにと思うが、男性が来た際に席がありませんでは大問題になってしまう為そういう訳にはいかないという話を聞いた。ちなみに男性に同伴している女性も利用できるので無問題。案内された席はまさに一等席。プレハブを建てていて床は畳敷き、そして飲み物やお菓子などが用意されている。建物の周りには警備員が立っていて酔客やはしゃいで気が大きくなった人がもし入ろうとしてもガッチリガードしてくれるので安心だ。して、開始時間まであと少しとなった所で夕飯を頂くことにしよう。今回はみんなが花火を見ながら食べられる食事を一品ずつ持ち寄ってくれたのだ。各々の作った料理はどれも美味しそうで、見た目も美しい。特に金城さんが持ってきた料理は重箱に入っていて中身も豪華絢爛。ぱっと見で分かるけど、絶対に自分で作ってないよね?明らかにプロの料理人が作りましたよね?そんな俺の考えを読み取ったのか金城さんが一言。

「この料理は私の家の専属シェフに作らせましたのよ!お味は保証しますわ!」

「やっぱりそうなんだ。まあ、味に関しては間違いないと思うけど……」

「えぇ!私も味見しましたけど、大変美味しかったですわ~!」

そうっすか。まあ、金城さんらしいからいいのかな?気を取り直してみんなで手を合わせていただきます。その時丁度タイミングよく一発目の花火が打ちあがった。夜空を照らす大輪の華に合わせて声を出す。

「た~まや~」

「か~ぎや~」

う~ん、これぞ日本の夏だろう!最高!たまやと言ったのは俺で、かぎやと言ったのは真白さんだ。この花火が打ちあがる際の掛け声の由来については少し長くなるので興味がある人は調べてみてくれ。現代ではたまや~という人が多いが、個人的にはさっきみたいにかぎや~と返してくれると嬉しい。ヒュ~~、ドンッ!!と次から次へと打ちあがり夏の夜空を明るく照らし、色とりどりに染めていく様は圧巻だ。花火のサイズも大きくて見応えが十分にあるが、メインはナイアガラ花火だ。これは去年も観たけど本当に凄かった。今年は更にパワーアップしているとの事でワクワクが止まらないぜ!食事を食べながらまったりと花火観賞とかどこぞのお貴族様よと思うし、前世ではずっと仕事をしていたので見る機会も無かったし、仮にあったとしても酔う程の人混みが嫌で行かなかっただろう。それを思うとこの世界は本当に良いよな。特等席まで用意してもらって、人混みとは無縁でいられるんだから。

「綺麗ですね」

「そうだね。優ちゃんは今まで花火大会に来た事はあるの?」

「ないです。何度か行こうとしたんですけど、女装して行くのは禁止って言われてしまって……」

「なるほどね。じゃあ、今回が初めてなんだ」

「はい。こうしてみなさんと一緒に楽しめて本当に嬉しいです」

「それはよかった。俺も誘った甲斐があったよ」

「悠さんにはどれだけ感謝してもしたりません。改めてありがとうございます」

「そんな事はないよ。俺は少しだけ後押ししただけさ」

俺の言葉に優ちゃんが微笑んでくれた。これが返事という事だろう。マジで可愛い!思わず頬が緩んでしまう。優ちゃんは生粋の女性では醸し出せない可愛さや美しさがあるんだよな。マジ可愛い!

「なぁ~に、ニヤニヤしているのかな?」

「有馬先輩!?い、いやにやけてなんていまちぇんよ」

「そうかな?随分と鼻の下を伸ばしていたけど?それに噛んでいるし」

「ぐぅ……。これは認めるしかなさそうですね」

「うん、諦めて認めなさい。それと今日は誘ってくれてありがとうね」

「こちらこそ、受験勉強で忙しい中迷惑じゃなかったですか?」

「ううん。少し行き詰っていて息抜きしたいなって思っていたから」

「やっぱり大変ですか?」

「そうだね~。私が目指している大学が難関だから尚更ね」

「あまり無理しないで下さいね。先輩にもしもの事があったら大変ですから」

「心配してくれてありがとう。頑張れる範囲でやっているから大丈夫だよ。それともしよかったらまた遊びに誘ってね」

「もちろんです」

夏空と花火と仲間たち。この楽しいひと時がずっと続けば良いなと思いながら輝く夜空を見上げた。

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