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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
61/163

No60

いよいよ夏本番に入り、暑くて死にそうな今日この頃。学校も夏休みに入り去年と同じくバイトに勤しんだり、早めに宿題を終わらせる為に頑張ったりしながら日々を過ごしています。自室で宿題をやっていると葵が飲み物を持ってきてくれたり、夜遅い時間までやっている時などは夜食を作って持ってきてくれたりしてくれて本当に感謝です。こういったさり気無い気遣いを出来る人って好感度高いよね。俺とか面倒だからいいやってなったり、必要なら自分で用意するでしょみたいに考えてしまうからなかなか出来ない。本当に我が妹は良くできた子だよ。兄として誇らしい。あと、家の中で薄着になるのは構わないけどあまり刺激が強い格好は遠慮してもらいたい。タンクトップにショートパンツ姿で前屈みになると色々と見えてしまうので……。暑くて蒸れるからってブラジャーをしないのも止めて欲しい。いくら兄妹とはいえクルものがあるからさ。夏は色々と誘惑が多い季節で大変ですよ、本当に。道行く人も薄着だし、バイト先でもこんなことがあったりさ。

休憩時間になったので、更衣室兼休憩室で休んでいるとアリスさんが入ってきて椅子に座りながら一言。

「暑い……」

「そうですね。でも厨房って冷房入っていますよね?」

「そうだけど、火を使っているから暑いんだよ」

そう言いながら胸元を開いて雑誌でパタパタと風を送り始めた。汗ばんだ肌と、大人の色香が漂う下着がチラチラ見えて思わず視線を逸らしてしまった。アリスさんはこういう無防備な所があるので、ちょっと心配だ。同性でも嫌がる人はいるからね。一応言っておいてあげようかな。

「アリスさん。あまりそういった行動は良くないと思いますよ」

「うん?どうして?」

「いや……、あまりにも無防備ですし、嫌がる人もいると思うので」

「大丈夫。ここには私と君しかいないから」

「でも、俺も一応男ですし」

「それは分かっているよ。まあ、君になら見られてもいいし」

これは……、人によっては勘違いしてしまう発言だよ。もしかして俺の事が好きなのか?ってね。アリスさんが俺の事を好きなわけはないから、勘違いもクソもないんだけどでも……ね。

「あ~……、ありがとうございます?」

「素直でよろしい。それに女性の下着とか肌なんて腐る程見ているだろう?」

「たまたま目に入る機会はありますが、そこまでではないですよ」

「そうなの?家とか学校で嫌って言う程見ているかと思ったんだけど」

「俺をなんだと思っているんですか。少年漫画の主人公じゃあるまいし、そうそうラッキースケベなんて起こりませんよ」

「あははは。言われてみれば確かにそうだね」

そう言いながらも胸元は大きく開いたままパタパタと風を送っているので、改善する気はないみたいだ。職場の人のちょっとえっちい姿は背徳感があってまた良いんだけど、少し気まずくもあるんだよなぁ。店長はその点しっかりとしていて、夏だろうがピシッと決めていて格好良い。あの人のだらしない姿って一回も見た事無いし、想像も出来ない。きっと私生活も規律正しいんだろうな。流石店長。



唐突だが我が家には縁側がある。みなさんは縁側と聞いてなにを思い浮かべるだろう?お爺ちゃんがお茶を啜りながら日向ぼっこをしている姿、子供がサンダルをブラブラさせながら入道雲を見上げている姿等々だろうか?田舎の家では見かけるが、都会ではめっきり見なくなった縁側。勉強の息抜きや、ぼぉーっとしたい時に一階に降りて冷たい麦茶片手に佇んでいたりしてよく利用している。今日も今日とて降り注ぐ夏の日差しを浴びながら、ぼぉーとしていると横合いからお皿に乗ったスイカが差し出された。

「兄さん、よかったらどうぞ」

葵が横に座りながら言ってきた。果汁がしたたる、瑞々しいスイカ。早速手に取って一口。甘くて美味しい。キンキンに冷えているから火照った体に丁度いい。スイカと言えば塩をかけて食べる人もいるが俺はどうしても受け入れられない。塩をかける事により甘さが引き立つのは分かるんだけど、なんかね……。二人で座りながら言葉なく過ごす時間。聞こえるのは風が通り過ぎる音と蝉の鳴き声のみ。無言の空間だけど気まずいわけでもなく、寧ろまったりと過ごせている。もしこれが他人だったら居心地が悪くてなにか話さなきゃってなっていただろう。何も言わなくても通じ合えていて、お互いにこの時間を心地良く思っているからこそまったりと過ごせているのだろう。そんな中ふと思った事を聞いてみた。

「高校に入って初めての夏休みだけどどう?」

「特に変わりはありませんね。エスカレーター式なので、友達が別の学校に行ったという事もないですし去年と同じです」

「そっか。新しい人との出会いって言うのがエスカレーター式の学校だとないんだよなぁ。編入してくる人も少ないし」

「はい。良く言えば知り合いばかりで安心できる、悪く言えば変わり映えせず刺激が無いという感じです」

「まあ、大学とかに行けばまたガラッと変わるんだろうけどね」

「そうですね」

そしてまた無言の時間が訪れた。なんとはなしに葵の方を向くと、日差しを浴びて輝く艶やかな髪が目に入った。綺麗な黒髪で一度も染髪をしたことが無い髪特有の色味をしている。顔は造形物のように整っていて、体は一流の彫刻家が作り上げたような均整の取れたスタイルをしている。前世のアイドルなんか足元にも及ばない程の美しさ。妹じゃなければ間違いなく惚れていただろう。思わず見入ってしまっていると、葵が不思議そうに小首を傾げながら聞いてきた。

「兄さん、どうかしましたか?」

「あまりにも葵が綺麗だから見惚れていた」

「嬉しいですけど……、恥ずかしいです」

「ごめんごめん。でも本当の事だから」

「ありがとうございます」

「葵は今は好きな人とかいないの?」

「そうですね…………、ずっと片思いをしている人がいます。でも、決して報われない恋ですが」

「ということはその人にはもう恋人がいるとか?」

「いえ、いません」

「はっ!もしや既婚者を好きになったとか?」

「結婚もしていませんよ。近くにいるのに、ずっと遠くにいる存在なんです」

「問答みたいな答えだな。近くて遠い存在……、でも好きなんだよね?」

「はい。大好きですし愛しています。その人は私の希望であり、最愛の人です」

「そっか。いつの日かその人と付き合えるといいね」

俺の言葉に少し寂しそうな表情を浮かべながら頷く姿にキュッと胸が締め付けられる。俺に出来る事はなんだろうか?こうして話を聞くだけしか出来ないのだろうか?そして葵に好きな人がいるという事実に動揺し悲しくなっているのは兄としてだろうか?それとも………。



基本的には毎日バイトと宿題の毎日だが、偶には息抜きという事で今日は卒業した先輩達と遊んでいます。卒業式の際に連絡先を交換したので、メールしたり電話で話したりはしていたんだけど、こうして直接会うのは卒業式以来になる。今は色々と見て回って疲れたのでカフェで休憩中。

「そういえばさ、大学の友達に悠君の事を話したら羨ましがられちゃった」

「うん?なんでですか?」

「男友達がいるとか羨ましい~って。しかも高校時代から仲良かったとかズルいって言われちゃった」

「そこまで言う程でもないと思いますが……」

「そんな事無いよ。だって、男性の友達がいる子なんて私が通っている大学で0なんじゃないかな?」

「マジですか…………」

「マジ、マジ。しかも今度紹介してってお願いされてさ。勿論断ったけど」

「あっ、私も大学の友達に同じこと言われた。勿論断ったけど」

「あの、俺は紹介してもらっても別に構いませんよ」

「ダメだよ~。悠君にはしっかりした人と友達になって欲しいし。下心が透けている人なんか紹介出来ません」

「うんうん。その通りだよ」

なんか先輩たちが俺の保護者みたいになっているんだが。俺の事を思って言っているのは分かるんだけど、少し子ども扱いし過ぎじゃないかな?気遣いはありがたいんだけどね。

「話は変わるんですが、大学ってどうですか?大変ですか?」

「う~ん……。高校とは違って専門性の高い授業だし、自己学習を毎日しっかりしないと置いて行かれるから大変かな。あと単位の管理とかもしなきゃいけないし」

「なるほど。ちなみに男性は通っているんですか?」

「0だよ。ほとんどの男性は高校までで、大学に行く人なんて相当勉強が好きかよんどころない事情があるかだと思う。悠君は大学行きたいの?」

「まだ、進路は考えていないんですけど、俺の一個上の先輩が今年受験生なので聞いてみました」

「そっか。行く大学にもよるけど、受験勉強って本当に地獄なんだよね…………」

「分かる。私も思い出したくもないもん…………」

「あれは本当に辛かった…………」

先輩たちが口々にそう言いながら顔を曇らせている。そんなに大変なのか……。前世での俺の感覚では高校の授業をしっかり聞いていれば、問題なく合格できるもんだと思っていたけど、どうやらこの世界では違うらしい。まあ進学先がレベルの高い所だったら地獄なのかもしれんが。有馬先輩は大丈夫だろうか?まだ、夏だけど早い人は追い込みをかけている時期だから心配になる。頭がとても良い人だからあんまり心配するのも失礼かもしれないが、息抜きも兼ねて遊びにでも誘おうかな?迷惑じゃなければの話だけど。先輩達から思わぬ情報を得られたし、このお礼と言ってはなんだけどプチプライスの物でなにかプレゼントしようかな。喜んでくれるといいな。そんな事を思いながら夕方になるまで遊びました。

楽しかったぜ~~~!!

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