No56
ジュージューと食欲をそそる音が響き渡り、パチパチと炭が爆ぜる音が耳朶を叩く。良い焼き色をしたお肉や、こんがりと焼かれた野菜など実に食欲をそそる。肉は高級肉でグラム千円を超えている一品だ。野菜も旬の物を用意していてこれまたお高い品だ。食材の合計金額は目を伏せたくなる額だが、まあそれだけ気合が入っているという事にしておいてくれ。あと肉や野菜だけでなくおにぎりも用意してある。こっちは真白さんと先生、有馬先輩が用意してくれた。最初は食材と一緒にこっちで全部用意するよって言ったんだけど、流石にそれは悪いとの事でおにぎりは三人にお任せすることになった。という訳で準備は全て終わった。いよいよ実食です。まずはお肉から頂きます!
「………………美味い」
ただただそれだけしか言葉が出ない。もちろん空腹だった事や、良い肉を炭火で焼いている事もあるだろう。だが、それだけではないものを感じるんだ。みんなで食べているからかな?
「美味しいですね。こんなにいいお肉を食べたのは初めてかも」
「確かにそうですね。いつもは安いスーパーのお肉しか食べないし」
「そうよね。そういえば前田さんは一人暮らしだったわね。私もそうだけど、なかなか高い品物には手が出ないのよね」
「分かります。でも先生って割といい物を食べている印象があったんでちょっと意外です」
「あら、そんな事無いわよ。教師って思っているほど高給取りではないのよ。まあ、公立の教師よりは貰っているけど頻繁に高級品を食べられる程ではないわね」
「う~ん、社会人もなかなか大変なんですね」
「そうよ。まあ、単純にお給料で考えると違う仕事に就いた方がいいしね~」
「そうですね。私もカフェの経営をしていますが、正直大変ですからね」
「うんうん。甲野君がうちの店に来る前はギリギリでやってたからね。佐伯がいつも帳簿を見ながら悩んでたし」
「あの頃は本当に大変だったよ。伊藤の作るお菓子も知る人ぞ知るって感じであまり買いに来る人もいなかったし、夜のBarも立地が立地だからそんなにお客様がこないし……。本当に大変だった」
「やっぱり、個人経営は難しいんですか?」
「難しいね。まず、お店を知ってもらわない事には始まらないし、来てもらっても満足できなきゃ二度と足を運んでもらえないしね。広告を打とうにもかなりの金額がかかるし、税金も高いし、気軽にやってみようって軽い気持ちでは出来ないね」
「なるほど。ありがとうございます」
「上原さんはなにかお店でも将来やってみたいのかい?」
「いえ。ちょっと興味があったので聞いてみました」
「そっか。まあ、もし将来お店をやってみたいと思ったら声をかけてくれ。力になるから」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
「楓ちゃんお店を開くなら私も誘ってね」
「もちろん。せっかくなら、ハル君も含めたみんなで出来たら面白そうじゃない?」
「そうだね。そんな未来があってもいいかも」
聞こえてくる話がなにやら真面目な感じになっているな。将来ね~。まだ高二だけど進学するのか就職するのか今から考えておこうかな。早め早めに人生設計をしておいた方が、絶対にいいし。まっ、それは後で考えるとして今は肉を食おう。おにぎりと一緒に食うとマジで美味い。米と肉ってなんでこんなに相性がいいんだろうか?ちなみにおにぎりは色々な具を楽しめる様に小さめに作られている。こういったさり気無い気遣いって嬉しいよね。具はおかか、梅、高菜、辛子明太子、鮭、ツナマヨ、昆布、筋子等々沢山の種類がある。流石に全部の種類を食べる事は出来ないが、なるたけ多く食べたいな。
「悠様。おにぎりのお味はお口に合いましたか?」
「うん。凄く美味しいよ。真白さんが作ったのって高菜と昆布のおにぎりだよね」
「はい。お口にあったならよかったです。高菜は福岡産の物を使用していて、昆布は北海道産の物を使っています。味付けも悠様が薄味が好きという事なので、なるべく濃い味にならないよう作りました」
「そこまでしてもらって本当にありがとうございます。肉の濃厚な味をさっぱりとした高菜や昆布が上手い具合に中和してくれて食が進んでとまりません。真白さんって料理上手なんですね」
「それほどでもありませんよ。ですが、悠様のお口に入るものですから、出来るだけいい物を使うのは当たり前の事ですし、機会があれば私の手料理をごちそうできればなと思っています」
「おお!それは楽しみです。期待していますね」
「はい。腕によりをかけて作りますので楽しみにしていて下さいね」
やったぜ!今度真白さんの手料理をご馳走してもらう約束を取り付けたぜ。多分和食かな?真白さんのイメージ的に洋食とか中華とかはちょっと合わないし。何はともあれ楽しみだ。
みんな楽しそうにお喋りしながら、食事を進めていき用意していた食材は全て無くなった頃アリスさんが口を開いた。
「みんな食事も済んだようだし、ここで食後のデザートはいかかですか?」
そういってクーラーボックスから取り出したのは、プチサイズのケーキやシュークリーム。丁度甘いものが欲しいと思っていたタイミングだったので嬉しい限り。でも市販品なのかな?わざわざアリスさんが作るとは思えないし。面倒だからやだとか言って。
「アリスさん。これって市販品ですか?」
「いや。私が作った物だよ」
「えっ?本当ですか?」
「疑うとは酷いね。昨日の夜に仕込みをして、今日の朝に作った物だ」
「マジか……。アリスさんの事だからてっきり面倒だからそこら辺で売っているやつでいいかなんて言いそうだなって思っていました」
「いや、まあ……間違ってはいない。普段ならそうするんだけど、今回は作りたくなったから作っただけだよ」
「な~に言ってるんだか。相当気合を入れて作っていたじゃないか。下手したらお店で出すものより時間をかけて丁寧に作っていたのを私は知っているんだぞ」
「なぁ……!?覗き見とか趣味悪いぞ」
「ふんっ。帰る時に偶々お前の姿が見えたから少し確認しただけだ。あと、別に隠す事ではないだろう?」
「そうだけど……、なんか恥ずかしいし」
まあ、自分が気合を入れて何かしたのを他人に知られるのって確かに恥ずかしいよね。でもさ、そんな事よりもアリスさんが恥ずかしそうにモジモジしている姿が可愛すぎてもう最高!照れる姿は時たま見るけど恥ずかしくてモジモジしているのは初めてみるから尚更可愛くてもうね!キュンキュンしちゃうよ。そんな姿も見つつ、食べたシュークリームはとても美味でした。
お昼ご飯が終わった後は、食後の運動も兼ねてアスレチックジムで遊びます。ざっと見て回って気になったのはボルダリングです。岩を模した突起物に掴まりながら上に登るあれです。下にはマットも置いてあるので万が一落下しても安全なのでOK。選んだのは一番簡単なやつ。では早速やってみますか。手にチョークを付けて突起物を掴み猿のごとく登り始める。途中で下を見るとハラハラと見守っている面々が。最初は怪我をしたら大変だからとみんなから反対されたけど、どうしてもやってみたかったので無理を言ってなんとか押し通した。インストラクターから一通り指導を受けので問題はないはず。…………よっしゃー!一番上まで登りきったぞーーー!!達成感が凄いね。これはハマりそう。さて後は下りるだけ。登ってきた順番を逆にして下りればいいのでサクッといきますか。地面に降り立ったのを見てホッと胸を撫で下ろすみんなをみて一言。
「次はエベレスト登頂にチャレンジしてみようかな!」
「…………………………」
「えっと……、冗談だったんだけど…………」
盛大にスベリました。真顔でじっと見るのは止めて下さい。視線が痛いよ~。
「冗談ってわかっているけど、なんて返していいのか分からなくて」
「あ~……なんかごめん」
なんか微妙な空気になってしまった。どうすっかな……。
「あっちにボールプールがあるから、みんなで行きませんか?」
「賛成!」
おっ、葵ナイス!助かったぜ。葵の提案によりお次はボールプールに行く事になった。ボールプールとは文字通りボールが敷き詰められたプールだ。ボールを投げ合ったり、泳いだり、飛び込んだりして遊ぶ遊具となっている。ここでは、大人も童心に戻ってわちゃわちゃとはしゃぎながら盛大に遊びました。母さんとか先生とか店長とかが子供みたいにはしゃぐ姿は新鮮であり、可愛かった。普段はキリッとしている人が子供みたいな一面を見せるとギャップでドキッとしてしまうよね。良きかな良きかな。その後もあれやこれやと遊びつくして、時刻は夕方に差し掛かっていた。楽しい時間はこれでお終い。身体は疲れているけど、心は満たされている。本当に楽しかった。
「時間なのでそろそろ帰りましょうか。みなさん忘れ物などないようにしてね」
母さんの一言によりいそいそと帰り支度を整えて、車に乗り込み帰路につく。
またこうしてみんなでなにかしたいな。次の機会は夏休みかな?それ以降だと纏まった休みは当分ないし、いまの内から企画を練っておこうかな。いま頭に浮かんでいるのは花火大会かな。去年は海に行ったし今年はパスかな。よ~し、家に帰ったら早速作業に取り掛かるか。
こうして、初夏のバーベキュー大会は終わりを告げた。




