No5
夕食時に家族にアルバイト部に入部したと伝えたら
「そう。部活に入ることにしたのね。でも男の子が働くなんてお母さん心配だわ」
「私も同感です。兄さん、どの職種にするか決まっているんですか?」
「まだ決めてないよ。情報誌でも見てどこにするか決めようかなって思ってる」
「じゃあ、応募する前に教えてね。悠を働かせて問題ないか調べるから」
「いや、母さん調べるって……、そこまでしなくても変なところでは働かないよ」
ここまで心配されるって過保護だなぁ。ブラックな職場で働くつもりは無いし心配無用だよ。
自室の机で学校帰りに買ったバイト情報誌をパラパラと見ていたんだが、応募条件で男性可が一つも無い。いや、おかしくね?と思いネットで調べてみたんだが、基本的に男性は働かないらしい。結婚するまでは実家で悠々自適な生活をし、結婚したら奥さんが働きにでて男性はなにもしない。いや、ただのニートじゃねーか!! いやここまできたら寄生か?どうも貴重な男性を働かせるなんて有り得ないらしい。なるほど、母さんや葵が心配するのも納得だわ。そして男性可のバイトが無い理由も。そういえばクラスメイトや有馬先輩にどの部活にするか相談したときアルバイト部も候補だって言ったら凄い驚いていたな。あの時はなんでそんなに驚いているのか分からなかったが、これが理由か。ん……?でも、部長や先輩方は特に反応はなかったな。なんでだろう?
後日部室で男性可のバイトが無いと話したら
「えっ!?君本当に働くつもりだったのかい?」
「そのつもりですけど、あの……なにか問題があるんですか?」
「私はてっきり取り敢えず入部してあとは幽霊部員になるものと思っていたから」
「部長失礼ですよ。でも、うぅ~~ん……これは先生も交えて話し合いをしないといけませんね」
「だね。うちらだけでどうこうできる話じゃないし」
「では、私は先生を呼んでくる」
部室で先程話した内容を先生に伝えると
「なるほど。まず甲野君がアルバイトをする場合様々な手続きが必要になります。一:学校への届け出、二:警察への届け出、三:行政への届け出、四:ご家族の同意書の提出等です。ほかにも細々とした書類提出等がありますが」
「そこまで必要なんですか?学校への届け出くらいなものじゃないんですか?」
「男性が働く場合法的に色々な決まりがあるんです。まあ、働く人なんて滅多にいない為半ば形骸化しているんですけどね」
「結構面倒なんですね。でも、せっかく入部したんだから諦めたくはないです」
「そうね。じゃあ私の方でも良い職場がないか探してみるわ」
「私たちの方でも探してみます。副部長、菫もよろしく頼むよ」
「「分かりました」」
そうして俺のアルバイト先探しが始まった。
さて、バイト情報誌は駄目だったしどうしたもんか?ここは足で探すのが一番かな~。という事で街に来ました。よくお店の窓にバイト募集の張り紙とか張ってあるしそこに一縷の望みをかけてみたんだが……、どれも男性可は無し。
数時間は歩き続けただろうか、疲れたので休憩しようと思いカフェに入ったんだがどこも満席で座れなかったので空いているお店を探してウロウロ。歩いている内に路地裏に来てしまったみたいだ。こんな所にカフェなんてないだろうと思い踵を返そうとした所一軒の店が目に入った。Cafe & Bar Meteorと看板に書かれている。
えっ?こんな所にお店なんて経営していけるのか?そんな益体も無い考えが最初に浮かんでしまうあたり、社畜魂が抜けていないらしい。はぁ~~。取り敢えず疲れたしここなら空いているだろうと思い入店。ドアベルがカランカランと涼しげな音響かせるなかカウンターから「いらっしゃいませ」と声がかかった。
「お一人様ですか?」
「はい」
「お好きな席にどうぞ」
端の方のボックス席に座って改めて店内を見回してみたが、モノトーン調で纏められたシックな内装、調度品も数は少ない物のお店の雰囲気とあっている。良いお店だ。素直にそう思う。メニューを見ながらどれにするか迷ったが珈琲にするか。
あとは甘い物……チーズケーキも注文ッと。店員さんに声をかけて珈琲とチーズケーキを注文。あまり待つことなく届いたのでさっそく珈琲から頂くとするか。
美味い!それ以外の言葉が浮かばないくらい美味い。スターバッ〇スとかド〇ールとかと全然違う。味にうるさくない俺でも違いがハッキリ分かるくらいだから相当だな。次にチーズケーキを食べてみたんだが、言わずもがな美味い!濃厚なチーズがガツンとくるが、僅かな酸味がアクセントになり飽きずに食べる事ができる。
総じてレベルが高い。カウンターの向こうの棚に見えるスピリッツやリキュールも充実していたしこれはお酒の方も期待できるな。夕方まではCafeでお酒の提供は無し、夕方以降はBarでお酒の提供をしているのか。今は飲めないのか……、残念。
……あっ、俺高校生だった。頭から抜け落ちてた。くっ恐るべし酒の魔力!
「お客様、大変申し訳ありませんが、お酒は二十歳になってからお願い致します」
「あっ……、すみません。棚に沢山あったのでつい目がいってしまって」
「そうですか。当店は様々なお酒を取り扱っているので大人になったら是非お越し下さい」
「ありがとうございます。それと珈琲もチーズケーキも凄く美味しかったです」
「お褒め頂きありがとうございます。珈琲は厳選した豆を使っていまして、珍しい種類も置いていますのでご興味があればお試しください。ケーキに関しては当店の専属パティシエが作っています。三ヶ月に一度新作が発売されますのでそちらもおすすめです」
「それは楽しみですね。今度家族や友人と来たいと思います」
「では、その時を心よりお待ちしております」
ふむ、てっきり他店からケーキを仕入れていると思ったが、専属パティシエがいるのか。にしても本当に美味しかった。母さんや葵、クラスメイトにも教えてあげよう。今から新作が楽しみだ。忘れないようにスマホにメモしとこう。後日家族とクラスメイトに話したら今度一緒に行くことになった。楽しみだな。
さてさてバイト探したが、さっそく部活の先輩と先生がいくつか見繕ってきたらしい。部室で詳細を聞くことになった。う~~ん、どれも人前にはでない裏方のバイトばかり。不思議に思い聞いてみると
「接客業や大勢の人と接触する仕事は色々と大変なので省いています」
「先生の言う通り男性が接客業なんかをやると女性が殺到するからね。邪な事を考える輩もいるだろうし安全のためにも裏方の仕事を進めているんだ」
なるほど、そういうことか。でも、表に出る仕事もやってみたいんだよな。今まで経験したことが無いし、自分の成長にも繋がると思うし。
そういった事を話してみたら
「そうですか。うん、向上心があるのはいい事です。先生も頑張って探しますがどうしても時間がかかってしまいます。せっかく部活に入ったのにごめんなさい」
「いえいえ!せっかく探してきて貰ったのに俺の我儘で無しになったんですから、こちらこそすみませんでした」
「君は気にしなくていいよ。こちらこそもっと詳しく要望を聞いてから探せばよかったね。よし、では改めてそこら辺を聞かせてくれ」
そうして、再度細かい要望を伝えて探してもらう事になった。
朝鼻歌を歌いながら登校の準備をしつつ時間割を確認すると体育があるではないですか。運動あまり得意ではないから今から気が滅入るなぁ~……。そんな気分を上げるには美味しいご飯を食べる事!という事で居間に行って朝食を食べてやる気充填します。ご飯を食べながら他愛もない話をしていたら葵が
「兄さん。前に話していたカフェ今週末に行きませんか?あっ、もう予定が入っていますか?」
「入って無いよ。じゃあ今週末にカフェに行こうか。母さんもそれでいい?」
「ごめんなさい。週末も仕事が入ってしまって一緒に行けないわ。せっかく悠が誘ってくれたのに本当にごめんね」
「ううん。気にしないで。じゃあ母さんとは日を改めて行こうよ」
「ありがとう。じゃあ、予定が空いている日が分かったら教えるわね」
「その日は私も一緒に行きたいです。いいですか?」
「かまわないよ。じゃあそんな感じで決定で」
「兄さんとカフェ……今から楽しみで仕方ないです」
「お母さんも今は仕事が憎いわ。よりにもよって悠が誘ってくれたタイミングに予定が入るとか……最悪」
そんな悲喜交々のなか食事は進んでいった。
座学を眠気と闘いながらこなし、ついにやってきた体育の授業。体操服に着替える為服を脱ごうとしたら、教室中から悲鳴が!すわ何事かと周囲を見回してみると、顔を真っ赤にした女子がいた。そして鼻を押さえる子も。そしてこちらに駆け寄ってきた二人が
「ハル君なにしてるの!?こんな所で服を脱ぐなんてハレンチだよ~!」
「そうですよ。ちょっと刺激が強すぎます。暑かったんですか?だから脱いだんですか?じゃあ私も暑いので脱ぎます」
「楓ちゃんがバグった~~!落ち着いて!脱いじゃ駄目だよ!ほら深呼吸して」
「ひっ、ひっ、ふぅ~、ひっ、ひっ、ふぅ~」
「違う!ラマーズ法じゃないから!いつもの楓ちゃんに戻って~~」
まさに阿鼻叫喚、いやここまでくると地獄絵図に近いかも。その後なんとか落ち着きを取り戻したクラスメイトに囲まれながらなんでいきなり脱いだのかの説明をすることになった。
「男子は教室で着替えて、女子は更衣室で着替えるんじゃないの?」
少なくとも前世の学生時代ではそうだった。
「違うよ。男子は専用の更衣室で着替えて、女子は教室で着替えるんだよ」
「専用の更衣室?そんなものがあるの?」
「うん。あれ?中学でも同じなんだけど知らないの?」
やばっ!どうしよう……、この世界に意識だけ転生?転移?してきました~なんて言えるわけも無いし上手い言い訳を…………浮かばねぇ~~!
「あ~、うん、俺中学の時は体育の授業に出てなかったから知らなかったわ~」
「そうなんだ。なら仕方ないね。えっと更衣室は体育館の隣にあるからすぐわかると思うよ」
「サンキュー。じゃまた後で」
ふぃ~、なんとか誤魔化せた……のか?まあ、なんとかなってよかった。さてと、時間も無いしさっさと行きますか。
another view point
「ねぇ、見た?甲野君の身体」
「見た、見た!引き締まっててチラッと見えた腹筋とか最高だった!」
「服を着てたら華奢に見えるのに脱いだら凄いとかもうごちそうさまです!」
「ちょっと、よだれ、よだれ」
「あっと、失礼。でも、中学の時は体育の授業は欠席してたんでしょ。運動苦手なのかな?」
「それで、あの身体はないでしょ。多分他の理由があるんだよ」
「逆にスポーツが得意で女子にキャーキャー騒がれるのが嫌で授業に出ていなかったとか?」
「あぁ~、それはあるかも。となると私たちも気をつけなきゃね。下手に騒いで同じ事になったら嫌だし」
「そこは徹底させよう。他の子にも伝えておくよ」
「よろしく~。あっ、あと鼻血出してた子とか大丈夫かな?」
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