No48
二年に進級したからと言って何か劇的に変わるという事は無い。だが些細な変化はあるわけで……。例えば制服のネクタイの色が変わったり、上履きのラインの色が変わったりね。うちの学校は学年によって色が決まっていて、進級の際に新しい物に変える決まりになっている。まあ、変化と言えばそんな所だろう。クラスの座席も窓際の後ろ側と言う最高のポジションを確保出来たし満足満足。でも、問題もある。春の心地よい暖かさの中授業を受けていると眠くなるのだ。特に昼食後の授業は眠気との戦いになる。恥ずかしい話だがここでやらかしてしまった話をしようか。あれは学食で新メニューが出たという事で食べてみたら、滅茶苦茶美味くて食べ過ぎてしまった日の五限目の授業の事だ。ポカポカの陽気にお腹いっぱいというかなり危ない状態だったんだが、そこに追い打ちをかける様に古典の授業という最低最悪の組み合わせ。俺は必死で戦った。なんとか寝まいと手を抓ったり、シャーペンで腕をツンツンしたりと抵抗したんだ。だが、奮闘空しくうつらうつらと舟をこぎ始めいつの間にか眠りについてしまった。眠るものかと抗えば抗う程眠くなるのはなんでなんだろうか?医学的に証明されていたら是非教えて欲しい。おっと話が逸れたが、体感で十分位経った頃だろうか、いやに静かで、多数の視線を感じたんだ。その違和感に徐々に心地よい眠りから覚めていき、瞼を開くと先生とクラスメイトが微笑ましい顔でこちらを見ていた。やべっ!寝てたのバレてらぁなんて思い慌てて姿勢を正して平静を装ったが、無駄な行為だった。先生がこちらを見ながら一言。
「よく眠れましたか?」
「あの……、はい」
「お昼ご飯を食べた後の授業なので眠くなるのは仕方ないですが、次からは気を付けて下さいね」
「分かりました」
「先生が悠君の寝顔見ながらにへら~ってしてたの、私は見逃していませんよ~」
「うっ……、だって可愛かったから。男性の寝顔を見たのは初めてだったし」
「分かります。すっごい可愛かったです。思わずスマホで写真撮るくらいには」
「わかる~。家のPCにデータ保存してずっと眺めていたいよね」
「あのさ、それって盗撮なんじゃ?俺の肖像権はどこいったの?」
「ごめんね。でもこれを逃したら二度と見れないかもしれないし、記念って事で許して?」
「くっ……。分かったよ。でも今回だけだからな」
「やった~!悠君ありがと」
「ねぇ、後で先生にもデータ送ってくれない?」
「いいですよ」
こうして、俺の寝顔写真はクラス全員が手に入れ、更には先生の手にまで渡ってしまった。この時俺は決意した。どんなに眠くても絶対に寝ないと。これ以上醜態を晒してたまるかとね。あと単純に恥ずかしかったし。(〃ノωノ)
春、学校繋がりで一つお話ししたい事がある。問おう、あなたは胸派か脚派か。Fa〇eの某セイバーみたいな問いかけから始まったが気にしないで答えて欲しい。まさに二大派閥といって過言ではない胸派と脚派。どちらが優れているかの論争は後を絶たず、過去を振り返れば第一次フェチズム戦争、第二次フェチズム戦争という世界戦争が起こっている。小さな規模の争いは日夜繰り広げられ、カウントするのも面倒なほどだ。また、二大派閥以外にも大小様々な組織が乱立している。だが、母数が圧倒的な二大派閥には到底勝ち目が無い為ひっそりとした活動に止まっているが。胸派、脚派どちらも一枚岩とは言えず、内部で派閥抗争が繰り広げられているのは周知の事実だろう。俺も黒スト協会会員No3として日夜活動に精を出している。胸と聞いて何を思い浮かべるだろうか?パッと思いつくのは貧乳・巨乳だろうか。おっぱいに貴賤は無い!という名言があるが、これには疑問を持たずにはいられない。おっぱいにはいくつかの種類がある。一:お皿型 二:お椀型 三:ヤギ型 四:半球型 五:円錐型 六:釣鐘型だ。また、乳首や乳輪の形や大きさ、色艶や張り、触り心地等も重要な要素だろう。全てを理想の形で兼ね備えている人間は存在しない。例え整形をしようとも、その身が人間である以上完璧にはなれないのだ。どこかで妥協しなければいけないが、ボーターをどこに持っていくかはその人次第なのでここでは論じない。ここからは個人的な意見になるが、大きさはD~Eカップ・形状はお椀型・乳首と乳輪はピンク色・染みや皺は一切無しが俺の理想のおっぱいだ。二次元みたいな超巨乳は絵では最高だが、現実で見ると言葉は悪いが気持ち悪い。あれは飽くまで全てのバランスが完璧に取れた上で成り立っているものなので、現実と比較するのはナンセンスだろう。少し話が逸れるが、乳輪のぶつぶつがどうしても受け入れられない。調べた所によると、モントゴメリー腺と呼ばれる皮脂を分泌している皮脂腺らしい。男女問わずあるものなので気になった人は自分のを見てみるといい。でだ、エロ画像を漁ってお世話になりますかと意気込み動画を見始めると、件のぶつぶつが気になってしまい萎えてしまう事が凄く多い。二次エロ画像ではツルツルとしてそれはもう美しいのに……。これらの要素も俺が胸派に属さない理由の一端である。
翻って脚派はどうだろうか?脚にも幾つか種類がある。一:正常な形 二:O脚 三:X脚 四:XO脚だ。当然一番美しいのは一だが、それ以外にも脚の長さ、膝下の長さと膝上の長さのバランス、脹脛と太股のバランスなど挙げればキリが無いほど美脚の要素は多数存在する。俺が一番美しいと感じるのは太股と脹脛の太さが少しだけ太股の方が太い脚だ。見た目はほぼ一直線になっているといえば分かりやすいだろうか。まあ、これも人によって好きな脚は変わってくるが、黒スト協会としてはほぼこの意見で統一されている。更にニーソ派、ハイソックス派、ローソックス派、生足派などの派閥があり、我が黒スト協会は現状会員数はトップを保っているがニーソ派の攻勢が激しく今期は首位陥落かといった窮地に追い込まれている。といった中でこの男女比があべこべな世界に放り出された訳だ。当然この世界には各派閥は存在しないし、俺が所属していた黒スト協会も無い。長々と語ってきた今までの話は全て前世での事だ。果たして首位は守れたのか、それとも健闘空しく首位陥落したのか。それが最大の心残りだ。だが、どちらにせよ俺のやる事は決まっていて話の冒頭部分で語った通り日夜活動に精を出すのみだ!よっし、これからも頑張るぜ。
俺が通う学校は進学校だが、校則は割かし緩かったりする。染髪、ピアス、制服の着崩しはOK。限度はあるが、ここまで寛容な学校は珍しいのでは?と思う。朝玄関で靴を履いて葵を待っていると、パタパタと音を立てながらこちらに向かってくる姿が見えた。その格好はいつもと少し違っていて、頭にベレー帽を被っていたのだ。学校までの道すがら改めて見てみると、大変可愛らしい。男が被っていると、軍オタかグリーンベレーに憧れているの?なんて思うが、女の子だとあら不思議。フワフワっとした優しい感じになりso cute!葵はいつでも可愛いし、美少女だがベレー帽を被る事によって更に可愛くなってしまった。もう、お兄ちゃんは萌え死にしちゃいそう。燃え盛る萌えに突き動かされて思わずこんな事を口走った。
「葵、今日はベレー帽被ってるんだな。あまりにも可愛すぎて直視できないよ」
「も、もう。兄さんってばなに言っているんですか」
「いや、俺の偽らざる本心だよ。それに髪型もいつもと変えてるだろ」
「はい。帽子を被るので少しアレンジしてみました。似合ってますか?」
少し不安げな表情で伺うように聞いてきた妹に対して言う言葉はこれしかない。
「似合ってるよ。いつもの髪型も良いけど、今日のアレンジヘアも超可愛い!」
「か、可愛いですか。嬉しいです」
頬を染めてハニカミながら言葉を返す姿はてぇてぇ。もうね、俺このまま死んでもいい。こんな最高の妹がいるなんて俺は……、くっ、目から涙が零れそうだよ。そんな俺を見ながら葵がそっと語るように口を開き言の葉を紡ぐ。
「兄さんが中学を卒業してからの一年間は通学は一緒でしたが、寂しかったです。中等部時代は一緒の校舎で勉強して、お昼は兄さんと一緒に食べて、沢山お喋りして幸せな時間を過ごしていました。でも、兄さんが高等部に進学してからの一年間は本当に寂しくて辛かったです……」
「ごめんな。こればっかりは俺じゃ力になれなくて」
「いいえ、兄さんが謝る事じゃないです。それにこうしてまた一緒に勉強して、お昼を食べながら一杯お話出来るんですから」
「そっか。じゃあ、空白の一年を埋められる程楽しい思い出を作ろうか」
「はい!」
俺は高等部に入学してからの事しか分からないし、中等部時代に兄妹がどのように過ごしていたのかは知らない。でも、寂しくて、辛くて、悲しい思いをさせてしまったのなら楽しい思い出で上書きすればいい。兄として出来る事はすべてやろう。兄として……、本当にそれだけか?心に芽生えた小さな疑問。妹が可愛い、守ってあげたいと思うのは自然な事だろう。兄妹なんだから。……本当に?別の思いもあるんじゃないか?徐々に膨れ上がっていく疑問に飲み込まれそうになったその時、柔らかく優しい声が耳朶をたたいた。
「兄さん、大好きです」




