No47
四月。新社会人や新入生を迎え会社や学校に新しい風が入ってきて色々な事が変わり始める季節。俺が通う学校でも新一年生が入ってきて今までとは違った様子になっている。といっても殆どの生徒が内部進学組なので勝手知ったるなんとやらという感じなんだが。おっとそうだ。今年は編入組が例年に比べて多いらしい。担任からこそっと教えてもらったんだが、例年では二~三人程度だが今年は十人ほど編入したらしい。なんで?と思って質問したら「あなたいるからです」なんて答えが返ってきた。俺がいるから?意味が分からないと考えていたのが顔に出たのか少し詳しく説明してくれた。
「我が校は男性学生が多数在籍しています。その数は他校と比べて二割ほど多いです。理由は当校がかなりのお金をかけて男性が快適に過ごせるよう環境を整えているからです。当然他校も同様ですがうちの学校は規模が違います。そう言った事もあり、男性とお近づきになりたい学生が入学してくるわけですね。基本的には中高一貫なので編入する人は少ないのですが、どうやら男性なのに毎日学校に登校している人がいるという話が広まったせいで今年は編入希望者が殺到したのです」
「でも、俺以外の生徒も月一で登校していますよね」
「そうですね。ですが、登校しても昼頃で早退したり最後までいても誰とも話さず過ごす人が殆どです。なので甲野君みたいに誰とでも交流をもったり毎日登校するなんて前代未聞なんですよ」
「なるほど。そんな人がいるなら行ってみたいとなるわけですか」
「そう。これでも相当絞りに絞って結果なんだけど、十名の入学となったの」
「なんかすみません」
「甲野君が謝る事じゃないわよ。それにここだけの話だけど、二年生の学力がかなり向上したの。B~Eクラスの面々はなんとかして上のクラスに行きたい、Aクラスは絶対にランク落ちしたくないって必死になってたみたい。結果テストの平均値が大幅に向上。これには先生達も驚いていたわ」
「なんというか……、まあよかったです?」
「あははは。こんなこと生徒に話す事じゃなかったね」
「まあ、なにも知らないよりはいいですから」
とまあ、こんな感じで今年の一年はいつもとは違った毛色になりそうだ。葵は大丈夫だろうか?なんでもそつなくこなす子だけど少し心配してしまう。そうそう、葵なんだが高等部の制服が届いた時にお披露目をしたんだ。すっごい可愛かった!中等部はセーラー服だったけど高等部はブレザーなので印象が全然違って驚いた。まあ、どちらを着ていても超絶可愛いのは変わらないんだが。シスコン?はっ、兄が妹を可愛がるのは絶対の真理なんだよ!そこんとこ夜露死苦!!
さて、そんな事があった訳だが今日も元気に登校です。教室に入り元気に挨拶を交わす。俺がいるAクラスの面子は一年次と変わらない。なので変化はないが、気心知れた人達ばかりなので気持ち的には楽でいい。一~四限目の授業が終わりお昼休みに入った。いつもなら結衣や楓と学食に行くんだが二年になった今は違う。廊下の方を見ると二人の生徒がこちらを見ているのに気付いた。立ち上がり手を挙げながら近づいて声をかけると、こう返してくれた。
「よっ。今日もここまで来るの早いね」
「当たり前です。兄さんをお待たせするわけにはいきませんから」
「そうですね。悠さんの顔を早く見たかったのもありますし」
「あはは。ありがとう。じゃあ行こうか」
会話した相手は葵と優ちゃんだ。ん?優ちゃん?と思った方もいるだろう。ここで少し時間を遡って説明しようか。
ヤンキーに絡まれた事件のお礼に山本邸にいった後の話だ。高校入学が間近に迫っていたが、どの学校に行くか未だに決まっていなかったらしく真理さんが早く決めなさいと急かしていたらしい。だが、ある日私立蒼律学園に行きたい、そして毎日登校したい。女装をしたままで。と伝えたみたいだ。これには真理さんも相当反対したらしい。登校は月一でいいのでは?それに女装するなんて言語道断とかなり怒りながら言ったみたい。でも、優ちゃんは頑として譲らなかった。真理さんだけでなく真司も説得したらしいが聞く耳持たず。どうしたものか……、と相当頭を悩ませた。ここで俺にも話が回ってきて三者面談よろしく俺・真司・真理さん・優ちゃんの四人で話し合いとなった訳よ。その時の会話はこんな感じだった。
「わざわざ来てもらってごめんなさいね」
「いえ。お気になさらないでください」
「ありがとう。じゃあ早速本題に入りましょうか。私としては優には月一登校、男性として学校に通って欲しいと思っているの」
「俺も同じだ」
「僕は毎日登校したいし、女装して通いたいんです」
「なるほど。では真理さんにお聞きしたいのですが、なぜ月一登校と男性として通って欲しいんですか?」
「毎日登校する意味がないし、優は男の子なんだから男性として通うべきでしょ」
「分かりました。じゃあ優ちゃんはどうして毎日通いたいの?」
「それは…………。甲野さんが毎日登校しているからです。それに女装は僕のアイデンティティなので止める事は考えられません」
「ふむ……」
う~ん、完全に意見が違っている。この状況からどうやって折り合いを付けて落としどころを見つけるかだが……、難しい。あ~、マジで天才的頭脳が欲しいぜ。
「お話をお聞きした上での俺の意見ですが、正直どこかでお互いに妥協するしかないと思います。なのでなんとか落としどころを見つけましょう」
「ふぅ……。そうね」
「はい」
「まず、毎日登校か月一登校かに関してですが俺としては問題ないと思います。約一年過ごしましたが、色々な発見や交流を持てましたし、友人と過ごす時間はかけがえのないものです。これらは月一登校では決して得られないでしょう」
「まあ、確かにそうだな。正直俺が学校に行っても話す相手はお前くらいだし、クラスメイトや先輩達と仲良くしているのをみると羨ましいなんて思うよ」
「そうなのね。………………経験者がそういうなら間違いないんでしょう。分かりました。毎日登校するのは認めます」
「お母さん、ありがとう」
「では次は女装に関してですね。これは正直かなり難しいと思います」
「そうね。学校にとっても貴重な男子生徒が女装して通っているとなったら色々とマズいでしょうし」
「お袋の言う事もそうだけど、クラスで相当浮くと思うぜ。せっかくAクラスに入ったのに居るのは女装した男とかどういった反応になるか明らかだろ」
「まあ、相当頭にくるよな。場合によってはイジメに繋がる可能性もある」
「悠の言う通り。だからな優。これはお前だけの問題じゃないんだ。学校やお袋、それに通う生徒にも影響を与える事になるんだぞ。だから我儘はこの辺にしろ」
「……………………」
真司の言葉に優ちゃんが黙ってしまった。確かにこれは周りにも多大な影響を及ぼすことになる話だ。一番は優ちゃんが折れてくれる事だがそれは難しいだろう。さてどうしたものか。
「優。何か言ったらどうなの?」
「……僕はそれでも女の子の格好で学校に通いたいです」
「はぁ……。さっき真司が話した事を理解しているの?」
「分かっています。それでもこれだけは譲れないんです」
「いい加減にしなさい!あなたの我儘でどれだけ周りの人が迷惑を被るか分からないの!」
真理さんが怒声を上げ、優ちゃんに言葉を投げつける。俺としてはどちらの気持ちも理解できる。親としては我が子を守る為でもあるし、周囲に迷惑を掛けない為に諭し、またこうして叱っている。優ちゃんも自分の芯の部分を曲げたくはない。例えどんなに自分が不利になり、奇異の目で見られようとも。それからも暫く話し合いは続いたが平行線を辿ったまま。ただ、時間だけが流れていった。
一旦休憩となりそれぞれお茶を飲みながら過ごしている。その間も俺は考え続けた。どうすれば双方納得できる答えに辿り着けるかを。男性、男の娘、迷惑、学校、今年入学…………、まてよ。もしかしたらいけるかもしれない。かなり、いやあまりにも強引な方法だがこれならなんとかなるかも。妙案を思いついた俺は早速提案してみる事にした。
「あの、俺から提案があるんですけどいいでしょうか?」
「あら、なにかしら?聞かせてもらえる」
「はい。突拍子もない話ですし、強引な手段を取る事になりますが俺が考えた案はこうです。まず、学校には優ちゃんが男の娘として通う事を伝えます。その上で全校生徒にも同様に伝えます。そうして周知させた上で通えばイジメ等の問題は軽減できると思います。また、妹の葵が今年高等部に進級するので妹に優ちゃんのフォローをしてもらい、周りとの緩衝材になってもらいます。俺の方からも同学年の人や先輩達に事前に伝えて気にかけてもらえるよう働きかけます。学校外の人たちに関しては、なにか問題が起きた場合は俺の伝手を使って対処します」
「話は分かったわ。確かにそれならなんとかなるかもしれないわね。でも、悠君の負担が大きすぎるわ」
「いえ、提案したのは俺ですからこれぐらいさせて下さい」
「そう……」
真理さんは返事をしたあと、目を瞑りしばらく考え込んでしまった。真司はなにか言いたそうだったが、真理さんの様子を見て口を閉ざした。どれくらいの時間が経っただろうか。五分?十分?体感的にはもっと長く感じたが真理さんがようやく口を開いた。
「色々と考えましたが、今取れる最善策は悠君が言った案しかないみたいね」
「では、俺が提案したお話で進めるということでよろしいですか?」
「ええ。…………ふぅ。これから忙しくなるわね。真司も優もそれでいいわね?」
「はぁ。分かったよ。お袋が決めた事なら従うよ」
「ありがとう。お母さん」
こうして、なんとか決まった訳だが本当に大変だったのはこの後だ。関係各所に話をしに行ったり、根回ししたり、俺も葵や同級生、先輩たちへの説明やお願いに奔走した。ちなみに優ちゃんの私立蒼律学園への入学は無問題。男性なので各種審査や入学試験なんかもあってないようなものだからね。そんなこんなでこの四月に無事入学を果たしたわけよ。ここまで本当に苦労したが、入学式に見た満面の笑顔で報酬としてはお釣りがくるくらいだ。長々と振り返ってしまったが回想はここまでにしようか。
俺、結衣、楓、葵、優ちゃんという一年の時から二人増えた面子で学食へと向かって行った。今までと変わらないもの、変わっていくもの、この一年はどんな風になるのだろう。廊下の窓からは桜がハラハラと舞い落ちる景色が見える。桜の花言葉は『優美な女性』だったろうか。隣を歩く彼女にぴったりだななんて思いながら歩を進めた。




