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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
47/163

No46

三月末日。本日は卒業式があります。朝登校すると校門には第〇〇回私立蒼律学園卒業式と看板が立てられている。これは中等部も同様で葵も今日中学校を卒業となる。昇降口で内履きに履き替えてクラスに向かうと、扉の前には先輩達が沢山いた。何事?と思ったが俺の姿を確認するなり押し寄せてきてこう言ってきた。

「悠君、私達今日で卒業するけど忘れないでね」

「忘れるわけないじゃないですか。卒業してもいつでも会えますよ」

「うん。そうだよね。これでお別れってわけじゃないもんね」

「はい。それよりもこんな所にいて大丈夫なんですか?」

「あっ……。もう教室に戻らないと」

「あはは。卒業式なのに遅刻とかシャレにならないですよ」

「そうだよね。じゃあ行くね。また後でお話ししようね」

そう言い残して先輩達は去って行った。教室に入ると、クラスメイトが一斉にこちらを見てなにか言いたそうにしていたが、気にせず自分の席に向かって行った。机にバッグを置いて一息。朝からちょっとビックリする事があったけど、今日は何事も無く過ぎるといいななんて思っていると後ろから声をかけられた。

「ねぇハル君、先輩達と何話していたの?」

「なんだ楓か。先輩達とは今日で卒業だけど忘れないでねって言われたよ」

「そっか。それ以外は何もなかったんだよね?」

「なかったよ。どうしてそんな事を聞くの?」

「なんか気になっちゃって。深い意味はないよ」

「んっ。ならいいや」

そんな会話をしている内に担任が入ってきてHRが始まった。今日の流れを簡単に説明された後、体育館へ移動開始。ずらっと並ぶ生徒が座る椅子と、後方には保護者や関係者が座る席が用意されている。一年・二年が全員椅子に座ってからしばし経って、いよいよ三年生が入場してきた。そちらに目を向けるとすでに涙ぐんでいる人や、緊張からか顔がこわばっている人など様々だ。なかには顔が青ざめている人もいて心配になってしまう。途中で倒れたりしなけりゃいいが、大丈夫だろうか?そんな心配をよそに理事長の挨拶が始まり卒業式スタートとなった。内容は偉い人の挨拶、関係者の挨拶と話、そして在校生が送辞、卒業生が答辞等々みなさんも経験したであろうお決まりの流れだ。普段は眠くなるような長ったらしい話も今日だけは真面目に聞いている。ここで、だらしない態度やいい加減な態度でいるのは卒業生に対する侮辱であり、送り出す俺たちの品位にもかかわる問題だ。周りを見てもみんな真剣な表情で聞いているので、俺と同じ思いらしい。


そんなこんなで式は終わりクラスに戻り帰りのHRをして終了。さて、このまま帰りますか……、とはならない。教室の外には卒業生がわらわらといるからだ。席を立ちそちらに向かい歩いていき先輩たちに一言。

「卒業おめでとうございます」

「…………あり、ありが……とう」

涙ぐみながらそう返してくれた。

「三年間色々あったけど楽しかった。でも一番は三年生になってからの一年間なんだ。悠君と出会えたから」

「俺も先輩と出会えて、そして一緒に過ごした一年間は宝物です」

「うぅ……そんなこと言われたら、涙が……とまらないよ」

ポロポロと透明な雫が頬を伝って流れ落ちる。悲しみから流れる涙では無く、喜びから流れる涙はこうも美しいのか。俺が言った言葉に嘘偽りはなく心からの本心だ。とめどなく流れる涙をハンカチでそっと拭ってあげる。少しづつ雫の流れる量は減っていきそして止まった。

「ごめんね。あまりにも嬉しくて泣いちゃった」

「いえ。謝る事ではないですよ」

目を赤くしながら言った言葉に対して俺はそう返した。

「ねぇ、みんなで写真を撮ろうよ」

「じゃあ、ここで一枚撮って、外でも何枚か撮らない?」

「賛成。あとあと、個人的に悠君とツーショット写真を撮りたい」

「わたしも」

他の先輩たちがどんどんと話を進めていき、なぜか撮影会と相成った。さっきまで泣いていた先輩も笑顔を浮かべているしまあいっか。まずは三年の教室まで移動して教室前で撮影。各クラス毎にみんなで集まって撮ったのだが、これが結構大変なんだ。当然一枚で終わることは無く何枚もとるから時間が思いのほかかかってしまった。お次は外での撮影だ。校庭には早咲きの桜が満開となっていて見応えがある。桜をバックに先程と同じようにクラス毎に集まってはいチーズ。今回は一枚のみなのでサクサク進みいよいよ個人撮影がスタートした。これはマジで大変だった。もうね、最後だからってみんなはっちゃけたり自棄(やけ)になったりでやりたい放題。腕を組む、抱き着くなんてのは当たり前でなかにはほっぺにチューをする猛者もいた。流石にこれにはブーイングがあったが、「最後なんだし思い出作りに、ね♡」なんて言って全く堪えていなかった。メンタル強えなぁ~なんて思っていたが、その言葉を聞いた他の先輩たちが目の色を変えたのを俺は見逃してしまった。ここで気付いていれば止められたかもしれないのに……。その後は言うまでも無くほっぺにチューはデフォルトになりましたとさ。さらにはその様子を見ていた保護者も記念にという事で写真を撮ったり、お話したりと意味不明な事態になってしまった。親御さんに一言。娘の卒業式なのに当人を放っておいて俺と喋っているのはどうなんでしょうか?ちょっと気まずいですよ、俺としては。なんとか怒涛のラッシュを乗り越えて、最後に先輩達と言葉を交わしてお別れとなった。

「改めて卒業おめでとうございます。みなさんは大学に進学するんですよね?」

「そうだよ。でも、少ないけど就職する子もいるんだ」

「そうなんですか?」

「うん。実家の仕事を手伝うっていう子が少しね」

「なるほど。家業がある人はそっちに進む場合もあるんですね」

「極少数だけどね。ほとんどの子は大学に進学するかな」

「ちなみに皆さんはこの地域にある大学に行くんですか?」

「うん。地方にある大学で私たちのレベルに合った所ってないから」

「あ~。そういえばうちの学校進学校でしたもんね」

「そうだよ~。まあ、悠君がいる場所から離れたくないって気持ちもあるけどね」

「それは……、ちょっと照れますね」

「うふふ。照れちゃって可愛い。でも本心だしそんな子も多いんじゃないかな」

「じゃあ、これからも連絡を取り合って遊びに行ったりしましょう」

「約束だよ?ていうか連絡先まだ交換してなかったよね?」

「あれ?そうでしたっけ?てっきり交換済みだと思ってました」

「あぶない、あぶない。今スマホ持ってる?」

「持ってます」

「じゃあ、サクッと連絡先交換しちゃおっか」

なんだかんだで他にもまだ連絡先を知らない先輩が数名いたのでその場で交換となった。最後にしては締まらない様に思うがこれも()()()かなっなんて思ったり。


高等部の卒業式はこんな感じで幕を閉じたが、今俺は中等部に向かっている。葵を迎えに行く為だ。思わぬ事で時間を取られてしまったが、まだ待っていてくれているだろうか?不安な気持ちを抱えながら昇降口までいくと、桜舞う中に一人佇む少女を見つけた。少し足早に近づき俺は口を開いた。

「待たせて本当にごめん」

「いえ、そんな事はないですよ」

「遅れたけど卒業おめでとう」

「ありがとうございます。無事中等部卒業となりました」

そう言いながら手に持つ卒業証書が入った丸筒を持ち上げた。今はあまり見なくなったが、当校は未だに丸筒に入れて渡している。人によっては古臭い、なんて思うかもしれないが俺は好きだ。電車とかで制服に丸筒を持っているとあっ今日卒業式があったんだなって思ったりして懐かしんだりできるしね。

「今日でこの校舎ともお別れですね。この制服ももう着る事はないんですよね」

「そうだね。三年間お世話になった場所とお別れは悲しいものだよな」

「はい。でも悲しいだけでは無くて、四月からは高校生として新しい生活が始まるので楽しみでもあります」

「悲しい別れがあり、新しい出会いがある。それを繰り返して大人になっていくのかもな」

「そうかもしれないですね。でも、私は兄さんと別れるくらいなら大人になれなくても構いません」

「そっか。ありがと。でもな、いつかは必ず別れは訪れる。それを忘れてはいけないよ」

「分かっています。それでも……、それでも私は……」

桜の花びらが舞い散る中、彼女が呟いた言葉は春風によってそっとかき消された。



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ふぅ……。長かった高校一年のお話はこれでお終いか。わずか一年の出来事とは思えない程密度が濃い内容だったな。次編からは高校二年のお話になるのか、と思いながら机に置かれている日記に目をやった。ここまで読んだのに一向に量が減っていないのを見て少しばかり溜息がでる。ここまで読むのに一月(ひとつき)はかかってしまったので、残りを読み終えるにはどれだけかかるのだろうか?まあ、時間はたっぷりとあるので気楽に読み進めていこうか。今一番気になっている恋模様についてどうなるのかも知りたいしね。個人的にはじれったいのでさっさと誰かと付き合えと思うが、甲野悠自身にも何かしらの理由があるのだろ。なにかは今は分からないが、ここまで恋愛を躊躇う理由がきっとあるはずだ。ふと思ったんだが、仮に複数人と付き合った場合二股、三股とかになるんだろうか?そもそもそれが許されるのか?私だったら、嫌だな。私だけを見て、私だけを愛して欲しい、そう思ってしまう。だが世界が変わればまた違うんだろうか?そう言った事も含めてどのような結末になるのか楽しみだ。あぁ、気付けばこんな時間か。そろそろ寝なきゃいけないし、続きはまた明日。


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