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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
41/163

No40

世の中どんなに気を付けていても何がしかに巻き込まれることがある。それは本人の意思とは無関係に、唐突に襲い掛かってくる。果たしてそれは運命か宿命か。はたまた見えざる力によるものか。今回日記に書くのは俺がとある事に巻き込まれ、大きな出来事に発展したお話だ。


その日は雪がチラつく空模様で、はぁ~、夜には止んでくれよなんて思いながら仕事に勤しんでいたら真白さんが来店してくれた。どうやら街に用事があったらしく、ついでに寄ってくれたみたいだ。今日はお客様が多く来店していて、あまりお話が出来なかった。せっかく来てくれたのに申し訳ないななんて思いつつテキパキと仕事をこなしていく。厨房にオーダーを伝えに行った際アリスさんから「もうすぐ上がりの時間だから今日はここまででいいよ」と言われて、はたと時計を見ると仕事上がりまであと十分を切っていた。お言葉に甘えて時間より少し早いけど、帰る準備をしようかと更衣室に向かい着替えを済ませて裏口へと向かう。ドアを開けると冷たい空気がサァと入ってきて思わずブルッと震えてしまった。そんな俺に優し気な声がかけられた。

「大丈夫ですか?葵さんもまだ来ていませんし、中で待ちますか?」

「そうですね。真白さんを寒い中待たせるわけにもいきませんし」

(わたくし)は平気ですよ。それよりも悠様が寒い中外にいる方が心配です」

「ありがとうございます。じゃあ中で待ちましょうか」

「はい」

こうして葵が来るまでしばし待つ事にした。ここまで読んでなんで真白さんも一緒に帰る事になっているの?と思っている人もいるかもしれない。まあ、単純にここ最近会えなかったから少しでも一緒に居たいと言われたからなんだけど。そういわれると、バイトが終わるのは遅い時間だから早めに帰った方がいいですよなんて言えるわけもなく……。二つ返事でOKしてしまいました。そんなわけで今日は葵と真白さんの三人で帰る事になったわけです。しばし他愛無い話をしつつ時間を潰していると、裏口のドアが開き葵が姿を見せた。

「兄さん、真白さんお待たせして申し訳ありません」

「いや、大丈夫だよ」

「いえ、全然待っていませんよ」

「ありがとうございます。じゃあ、帰りましょうか」

「おう」

「はい」

三人揃って駅に向かって歩き始めたんだが、俺のバイト先は路地裏にある為夜になると人気が少なくなる。表通りに出るまではポツンポツンと街灯に照らされた薄暗い道を歩かなければいけない。だが、もう慣れたもので誰も気にする事なく歩を進めていたら、前から数人の人影がこちらに向かってくるのが見えた。道路の片側に寄り、ぶつからないように歩いていると人影が灯りに照らされて露わになった。見た目はいかにも悪そうな感じで、唇や鼻にピアスを付けてジャラジャラとアクセサリーを沢山身に着けている。完全にヤンキーである。関わり合いになりたくないので、目も合わせず足早に去ろうとしたんだが、ヤンキーの一人がこちらを指さしながら声を張り上げた。

「おい、ちょっと待てよ」

そう言われて待つほど馬鹿じゃない。無視してその場を後にしようとした所で

「待てって言ってんだろ!」

大声を出しながらこちらに向かって歩いてきた。ご丁寧に俺達を囲むように来た為逃げ場がない。ここは大人しく様子見をするしかないか。いざとなれば俺がなんとかしなきゃな。女の子を守るのは男の務めだし!

「よお。ちょ~とさ、うちら金に困ってんだよね。だから貸してくんね?」

「お金はありません」

「無いわけないだろ。いいから財布出せよ」

「嫌です。あの、これって恐喝ですよね。警察呼びますよ」

「あ~!ゴタゴタとうるせえヤツだな!さっさと金をよこせ」

ここで大人しく金を渡すべきか?それとも警察を呼ぶべきか?逡巡している間に葵が財布を手にして声を上げた。

「今財布に入っているお金はこれで全部です。これで満足ですか?」

「ははっ!ありがてぇ。ひ~、ふ~、み~……、これだけだとちょっとたんねぇなぁ。よお、そこの兄ちゃんも金出せや」

ここで拒否したら、最悪葵や真白さんに危害を加えられる可能性がある為大人しくお金を渡した。

「はぁ?これだけしかねぇ~のかよ!もっとあんだろ!!だせよ!」

「ないです。それが全財産です」

「嘘つくんじゃねぇ!おい!その場でジャンプしてみろ」

「はぁ。分かりました」

ピョンピョンと飛んでみたが、当然お金が出てくるはずも無く。てかさ、カツアゲの時に小銭を持っているか確認するためにジャンプさせるとか昭和かよ!スケバンとかがいる時代のやり方だぞ。よく知ってたなこの女ヤンキー。

「ちっ。マジで無いのかよ。使えねぇ」

「あの、お金も渡したのでもう行ってもいいですか?」

「あっ?な~んかおめぇムカつくな!お前らをどうするかはウチらが決めんだよ。お前は従ってりゃあいいんだよ」

「じゃあ、せめて彼女たちだけでも先に帰して貰えませんか?」

「さっきから、ピーチクパーチクうっせえな!あ~、もう我慢の限界だわ!!」

そう言った後女ヤンキーは俺目がけて殴りかかってきた。気付いた時には地面に倒れこみ、すぐに頬の痛みと生暖かい液体が流れる感覚が襲ってきた。痛い、流れているのは血か?鼻先を手で拭ってみると真っ赤になっていた。鼻から口に流れ込んだ血のせいで思わず「ゴホッゴホッ」と咳き込んでしまう。その音で我に返ったのか葵と真白さんが血相を変えて俺に近寄ってきた。

「兄さん!大丈夫ですか?」

「悠様!血が、血が出ています。救急車を呼ばないと」

「あぁ、大丈夫。ただの鼻血だから心配しなくてもいいよ」

「ですが、あぁハンカチで止血しないと」

「兄さん、立てますか?無理なら肩をかしますよ」

「んっ。大丈夫。一人で立てるよ」

そういいながら立ち上がり、真白さんから手渡されたハンカチで鼻を押さえる。しばらくすれば止まるだろうし、まずはこの状況をなんとかしないとと考えていると、ヤンキー達が後退る音が聞こえた。なんだ?誰かが通報して警察でも来たのかと思ったが、違った。葵と真白さんが悪鬼羅刹もかくやという形相で睨んでいたのだ。そして、底冷えするような冷たい声音で言い放った。

「お前たちは絶対に許さない。どこに逃げようと、隠れようと必ず見つけて殺す」

「あなたたちは煉獄の炎に焼かれ続けるのさえ生温い。考えうる限りの残虐非道な行為を延々と続けてやる」

いつもの二人だったら絶対に言わない言葉を吐く様は怖い、只々怖い。普段の優しい葵も、楚々として大和撫子な真白さんもそこにはいなかった。ジリッ、ジリッと距離を詰めていく二人に対して、ヤンキーは少しづつ後ずさりをしていき、終いには背を向けて逃げ出してしまった。追いかけるのかな?と思ったが、逃げ出したのを見た後再び俺の所にきて怪我の様子を確認しだした。まあ、そこまで大した怪我でもないのでこのまま帰ろうとしたんだが

「ダメです。素人判断は危険です。病院に行って調べてもらいましょう」

「そうですよ。今タクシーを呼んだので少しだけ待ってて下さいね」

「えっと、兄さんが定期健診を受けている病院に連絡しないと。担当の先生の名前を教えてもらってもいいですか?」

こうして、タクシーに乗り込み病院に向かった。途中で警察と母親、学校に連絡をしておいた。母さんと警察の人はすぐに病院に来るらしい。学校の関係者はこれからすぐという訳にはいかず後日という話になった。

病院に着くとエントランスには定期健診でお世話になっている女医さんと看護師さんが待っていた。俺の姿を見るなり駆け付けてきて状態をチェックし始めた。

「あの、殴られただけなので大した怪我はしていませんよ。せいぜい鼻血が出たくらいです」

「ふむ。見た目は大きな怪我は無いようだね。でも、念のため検査をしよう」

「分かりました」

こうして、各種検査をする事になった。……………………諸々の検査が終わった所で母親と刑事さんが到着。母さんの第一声はひどく心配気なものだった。

「悠大丈夫?葵から連絡を受けた時は心臓が止まりそうだったわよ」

「ごめんね。でもお医者さんからも特に問題は無いって言われたよ」

「そう。よかった」

「お話し中済みません。少し甲野君にお話を聞きたいんですがよろしいですか?」

「はい。なんでしょうか?」

「どういった経緯で殴られたのか教えてもらえるかな?」

「分かりました」

時々葵や真白さんに補足してもらいつつ説明した。

「ふむ。恐喝に傷害罪だな。話を聞く限り、秋頃から現れ始めたヤンキーだね」

「あっ!それって刑事さんがお店に来た時に話していた人達ですよね」

「そうだよ。我々の力不足で怪我をさせてしまって申し訳ない」

「刑事さんが謝る事じゃないですよ。俺ももっと気を付けて行動していればよかったです」

「いえ!兄さんは何も悪くありません。イチャモンをつけてきただけでなく、暴力まで振るったバカ共が悪いんです!」

「そうです。悠様の対応は間違っていませんでした。本当にあのク……」

葵が珍しく語気を荒げてはなし、真白さんは最後に何を言いかけたのだろう?クズ……と言おうとしたのか?まさかな。あの純情可憐な真白さんがそんな事言うはずが……ない……よね?そうして話が一段落した所で女医さんが口を開いた。

「では、今日は用心して明日の昼過ぎまで入院して下さい」

「えっ!?でも、検査でも問題なかったですし、流石にやり過ぎでは?」

「そんな事はないわ。取り敢えず用心に越したことはないでしょう?」

「そうよ。もしもの事があったら大変だしお医者さんの言う通りにしなさい」

「分かったよ」

母さんの一言もありそのまま入院することに。ちなみに刑事さんはこれから署に戻り仕事らしい。お疲れ様です。こうして、病院で一夜を過ごすことになった。



明けて翌日。朝から大勢の人が病室に来てくれた。結衣や楓、有馬先輩に先生、店長にアリスさん、それとクラスメイトも。いやさ、情報伝達速度が異常じゃない?昨日の夜にあった事が翌朝には知れ渡っているってどういうことなの?ちょっと怖いんですけど……。まあ、それはさておきみんなの反応はというと凄く心配してくれた。と同時に隠しようがないくらい怒ってもいた。それはもう……言葉では言い表せられないくらいに。女の人を怒らせちゃダメ!と強く心に刻みました。お見舞いに来てくれた人達と話していたらもうお昼になっていた。ほんとあっという間だな。これで退院できるなと思っていたら病室のドアが開き女医さんが入ってきた。

「甲野君。体の調子はどうですか?」

「はい。多少頬が痛むくらいで他は特に問題ないです」

「そう。じゃあこれで退院になるけど、何かあったらすぐに私の所に来るように」

「分かりました。本当にお世話になりました」

「いいのよ。これが私の仕事だもの」

いい先生だ。例えプライベートの携帯番号とアドレスが書かれた紙を渡してきて、今度遊びにでも行きましょうとか言われたとしても、いい先生だ。もらった紙は家族に見つからないようこっそりとしまったから大丈夫。美人女医と遊ぶとか……、あざ~す!これは期待してもいいのかな?ニュヘヘヘ。邪な考えが顔に出ていたのか、母さんと葵から訝しむ視線を浴びたが気にしてはいけない。

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