No38
本日は三十一日。大晦日です。今日の予定は夜に舞の奉納を見た後、屋台を巡りながら時間を潰して初詣をして解散という流れになっている。さて、夕方までやる事も無いしどうすっかな?勉強は論外として、ゲームか本を読むか……。う~ん、ネットでも徘徊するか。ダラダラとネットサーフィンをしていると、ある話題が取り上げられていた。某ゲームでタップストレイフという技術が削除されるみたいだ。この技術はPC版のみ可能でCS版では出来ない。運営によると、CS側が不利になるから削除という決定を下したらしい。う~ん、CS版にはエイムアシストもあるし、その点で見てもCS側が有利だと思うんだが結局はユーザー数が多いCS側を優遇した形になるのかな?PC・CSの軋轢は昔からあって、話題には事欠かない。完全に平等にするのは不可能だし企業なんだから利益優先でプレイヤー人口が多い方を優遇するのは分かるが、これは些かやり過ぎではないかと個人的には思う。最悪過疎る事もあるわけで、そうなれば本末転倒だろうに。あと、チーター対策ももっとして欲しい。チートは絶対に駄目です!!ふぅ……、熱くなってしまった。ネットはこれぐらいにしておくか。ゲームもやる気が起きないし、暇なのでリビングに行ってみよう。ついでに飲み物でも飲むか。
リビングに入ると、なにやら美味しそうな臭いが漂ってきた。ふらふらと臭いのつられて歩いていくと、キッチンで母さんと葵が料理をしていた。なに作っているのかなっと見ていると
「あら、どうしたの?お腹でも空いた?」
「ううん。なに作っているのかなと思って」
「おせち料理よ」
「へ~。おせちって作る種類も多いし大変なんじゃないの?」
「そうね~。確かに手間暇かかるけど、お正月には欠かせないものだしね」
「そっか。今はお店で注文する人が殆どで手作りする人とか少ないのかな?」
「う~ん。そもそも、おせち料理を食べる人が少ないんじゃないかしら?」
「そうですね。私のクラスメイトもお正月は出前だったり、簡単な料理で済ませるって言ってました」
「という事は若い世代だけ食べないのかな?」
「あら、そんな事無いわよ。お母さんの友人も出前で済ます人が殆どよ」
「じゃあ、全世代で食べなくなっているのか。なんか日本の伝統文化が失われていくようでちょっと悲しいな」
「まあ、しょうがない面もあるんじゃないかしら。昔は年末年始なんてお店は一軒も開いて無かったのよ。外に出る人も殆どいないし、それが当たり前だったの。でも今は年末年始関係なく営業しているし、コンビニなんて二十四時間営業だしいつでもご飯を確保出来るようになったでしょ。昔みたいに事前に食料を確保していないと、数日なにも食べずに過ごすなんて事もないし」
「利便性の向上と引き換えに伝統が失われる。これを良しとするか否か。難しい問題だね」
「でも、完全になくなる事は無いと思うわよ。少なくともお母さんはこうして毎年おせち料理を作っている訳だしね」
ふむ。それは知らなんだ。甲野悠の身体に転移?転生?して初めての年越しだから、今までどんな感じだったかが全く分からない。ボロを出さないように気を付けよう。よし、いつまでも邪魔してちゃ悪いし退散しよう。TVでも見て時間潰すか。
時間は流れて夕方。そろそろ準備を始めなければいけない。まずは母さんと葵が着物に着替えて、その後俺が着替える流れだ。母さんは三つ紋の色留袖、葵は振袖となっている。ちなみに俺は色紋付だ。着物には格があり、シーンによって使い分けなければいけない。実はここら辺が面倒で間違った選び方をすると恥をかくことになるので注意したい所だ。だが、初詣に関しては格を気にする事はなく自分が着たいものを着ればいいので、ジーンズ等でもOK。流石にジャージはどうかと思うが。そういえば着物には下着を付けないとよく聞くがこれは間違いだ。着物用の下着というのがあり、肌襦袢、裾除け、長襦袢がそれにあたる。現代で着用されているブラジャーやパンツは出来るだけ使用しない方が美しく見えるのでお勧めだ。男は褌が一番いいのだが、線が細い俺には似合いそうもない。グラップラー刃〇の花山〇くらいの迫力とガタイが良ければ似合うんだが……。まあ、妥当にトランクスでいきます。待つ事数十分。着替え終わった母さんと葵がリビングに入ってきた。
「おぉ~。二人とも凄く似合ってる」
「ありがとう。悠にそう言われると嬉しいわ」
「ありがとうございます。兄さんの着物姿も楽しみです」
「まあ、あまり期待せずに待っててくれ」
「じゃあ、悠の着付けもしましょうか」
移動して母さんに着付けをしてもらう。もうね、手際が良すぎ。あっという間に終わって、髪型までセットしてもらいました。万能過ぎませんかね、うちの母さん。さて、全員の準備が終わった所で時計を見ると十九時に差し掛かろうという所。移動するのにも着物だから時間かかるだろうし、電車も混むだろうという事で早めに待ち合わせ場所に移動することにした。
案の定電車は激混みでもう、芋洗い状態。東京のラッシュ時の電車もかくやという混み具合のなかなんとか神社の最寄り駅に到着。これで一息付けると思っていた俺がバカだった。駅内も人が一杯。一向に進まない流れに多少イライラしつつ、ようやく目的地に着いた時には疲労困憊。座りたい所だが、ベンチは満席の為我慢します。さて、他の人たちは来てるかなと見回すがまだ誰も来ていないようだ。時間は十九時四十分。少し早く着すぎたかな?まあ、休憩がてら休みますか。
時刻が二十時を少し過ぎた辺りで全員が無事集まる事が出来た。みんな着物姿で非常に麗しい!既婚者である母さんは留袖だが、他の人は未婚なのでみんな振袖だ。柄も現代的なものではなく、古典的な柄なのもGOOD!そして北欧とのハーフのアリスさんだが、彫りが結構深い為似合うのかな?と少し心配だったが杞憂に終わった。プラチナブロンドに彫りの深い顔だが、こう……、不思議とマッチしてるんだよね。違和感も無いし、いつもより美人に見える。あと、ロングヘアの人はアップスタイルにしていてこれも普段とは違う印象を与えている要因だろう。簪を挿していたり、巾着を持っていたり、草履を履いていたりといった所も好感度高しだ。さて、みんな集まった所でゾロゾロと神社に向かって移動開始。
舞の奉納は二十一時からなので、時間的には余裕があるなと思っていたんだ。が!前になかなか進まず、牛の歩みでようやく着いた時には開始五分前。ギリギリ間に合った~、なんて思う暇も無く舞が始まった。
……………………夏の時は厳かでありながらも躍動感があった。かたや目の前の舞は厳粛であり、静謐さと神々しさを感じさせるものだ。空からハラハラと降ってきた雪がさらに拍車をかける。その様子をただただ、息を吞み見入っていた。
気付けば冬の舞の奉納は終わっていた。夏と同じ舞なのに季節によってこうも印象が変わるものなんだな。あとで、真白さんと話した際に伝えておこう。
年が明けるまでまだ二時間と少しあるので、屋台を巡る事にしよう。おでん、豚汁、肉まん、焼き芋等々温かい商品がズラッと並んでいる。さて何を食べるべか?
「みんなはもう何食べるか決めたの?」
「おでんかな~」
「じゃあ私も結衣と同じおでんにしよう」
結衣と楓はおでんっと。
「ん~、焼き芋も捨てがたいけど豚汁かな」
「あっ、私も豚汁にしよう」
「肉まんと焼き鳥どっちも食べたいけどどうしよう?」
「じゃあ、俺が焼き鳥買うからシェアしよう」
「兄さん、ありがとうございます」
有馬先輩と先生は豚汁、葵は肉まんね。
「佐伯。この甘酒ってなに?」
「甘酒は日本の伝統的な発酵飲料だよ。冬と言えば甘酒は定番だね」
「なるほど。興味あるから飲んでみようかな」
「ふむ。なら私も甘酒にしようかな」
「私も甘酒かな」
アリスさん、店長、母さんが甘酒か。大人勢は食べ物はいらないんだろうか?まあ、適当に見繕えばいいか。各々食べ物・飲み物を買ってきて、イートインスペースで遅めの晩御飯を食べます。さあ、手を合わせていただきます。モグモグと食べるが、味は屋台なので押して知るべし。ただ、暖かい物を食べているので寒さが和らぐのがありがたい。一応ジェットヒーターもイートインスペースには設置されているんだが、それでも寒いしね。みんなでワイワイとお話をしつつ時間を潰していると、年明けまであと三十分となっていた。拝殿へ続く道は凄い混みようで、この様子だといつお参り出来るか分かったものでは無い。が、どうする事もできないし、大人しく並ぶかと移動しようとしたところで涼やかな声が響いた。
「こんばんは。参拝に行かれるのですか?」
「真白さん、こんばんは。はい。これからみんなでお参りしようかと思ってて」
「そうですか。ですが、今の様子だとかなり時間がかかると思いますよ」
「ですよね。まあ、あまりにも待つようなら後日に改めてお参りしようって話になっているので大丈夫です」
「う~ん……。悠様を寒い中待たせるなんて私には出来ません。なので、もしよろしければ神社の関係者しか入れない場所でお参りしませんか?」
「えぇ!?いや、それは流石にまずいんじゃないんですか?」
「問題ありません。当神社の巫女である私が許可します」
「おぉう……。ではお言葉に甘えさせてもらいます。みんなもそれでいいかな?」
そう聞くと全員首肯してくれたので、真白さん案内の元移動を始めた。
真白さんの強権発動によって、特別な場所でお参りをしました。もうね、空気とか部屋の作りとかホント凄いのよ。ガチでこれは一般人が入ってはいけない場所だってヒシヒシと感じたよ。マジで大丈夫なんだろうか?あとで神罰とか下らないよね?ちょっと心配……。なんやかんやありつつ無事初詣も終わったので最後に新年の挨拶を交わして解散という流れになった。各々口を開き一言。
「明けましておめでとうございます」
唐突だがこの新年の挨拶でよく『新年明けましておめでとうございます』と言う人がいるがこれは間違いだ。新年と明けましてが重複しているので、頭痛が痛いとか腹痛が痛いみたいな意味不明な言葉になってしまう。『明けましておめでとうございます』もしくは『新年おめでとうございます』が正解となる。実は間違った言い方をした人がいたら、からかってやろうと思っていたんだがそんな人はいなかったよ……。まあ、みんな何気に頭いいしそんな間違いはしないか。よし!年明けの挨拶も済んだので帰るとしよう。深夜なのでかなり冷え込むなか、みんなで寄り添いながら帰路についた。




