No37
冬休みに入った訳だが、朝起きるのが辛い……。布団が俺を離してくれないんだ。外は寒いけど、布団の中はぬくぬくで心地いい~!だから二度寝しても許されるはず。( ˘ω˘)スヤァ
「兄さん、いつまで寝ているんですか?いい加減起きて下さい」
そんな言葉と共に、いつの間にか部屋に入ってきた葵に布団を剥ぎ取られた。
「ぎゃぁ~~!寒い!布団返して~」
「ダメです。起きて下さい」
「無慈悲過ぎる……。マイシスターは鬼だった……」
「もう、そんなこと言って……。もう十時ですよ。朝から勉強するから二度寝してたら起こしてって言ったのは兄さんですよ」
「あれ?そうでしたっけ?記憶にございません」
「そんな政治家みたいな事言ってないで着替えて勉強して下さい」
「はい、はい」
「はいは一回でいいです」
「はい」
妹には母親属性もありました。これは新発見です!これは将来良い母親になるぞ、などど考えながら着替え始めた。
それからはかなり集中して勉強をして気付けば夕方に差し掛かっていた。グゥ~とお腹の虫が鳴って初めて朝食も昼食も取っていない事に気付いた。時間的に夕飯まで我慢した方がいいんだろうけど、少しだけなにか食べようかなとリビングへ移動開始。冷蔵庫に向かう途中で、和室にある炬燵が目に入った。そして炬燵の上にあるミカンも。コタツの上にアルミ缶。なんちゃって……………………あ~、なんか急激に寒気が襲ってきたから炬燵でぬくぬくしよ~っと。スイッチを入れて暫くすると、ぽわぁ~っと暖かくなってきた。ミカンを食べながらぼ~っとするこの至福の時間。さ・い・こ・う!!マジで炬燵考えた人は天才だわ。ありがとう~と見知らぬ誰かに感謝を捧げていると、向かいに侵入者を発見した。そう、鬼だ。間違えた、葵だった。決して邪な考えを見破られて睨まれたから言い直したんじゃないぞ。さて、炬燵に向かい合って座った場合とある問題が発生することが多々ある。それは、お互いが足を伸ばした場合ぶつかるという事だ。どちらかが、引っ込めれば済む話なんだが、両者共に引かない場合、ゲシゲシと蹴り合いになり、終いには蹴り合いながらの口論となりちょっと洒落にならない事態に発展することもある。対面に座るのはそれほどデンジャーな行為である。さて、葵はどうでる?と伺っているとどうした事でしょう?一向に足が当たらない。はて?これは戦争は回避できたと見ていいのか?だが、気を抜くわけにはいかないし、ここは偵察一択だな。という訳で体勢を変えてこたつ布団をそっと持ち上げて中を確認。…………偵察の結果侵入者は女の子座り(アヒル座りともいう)をしていた。ふむ、戦争は完全に回避できたなとホッと安堵の溜息をついた所で頭上から声が聞こえてきた。
「兄さん、なにしているんですか?」
「いや、ちょっと確認をな」
「よく分かりませんが、寒いのでこたつ布団を戻してもらってもいいですか?」
「悪い、すぐ戻す。てかさ、冬なのにショートパンツとか寒くないの?」
「モコモコの素材ですし、暖房もしっかり効いているので寒くはないですよ」
「ん~、こうズボンとか履いた方がより暖かいと思うけど」
「ズボンは可愛くないのであまり好きではないです。でも兄さんがどうしてもと言うなら履きますが……」
「いや、今のままで良いよ。そっか可愛くないか……。そういえばズボン姿一回も見た事無いけどそういった理由だったのか」
「はい。スカートとショートパンツ、あとはワンピースしか持っていません」
「冬なのにスカートとか寒くないの?」
「寒いですよ。タイツを履いても気休め程度ですし。でも、オシャレは我慢という言葉もありますしそこは妥協できません」
「凄いな。俺だと見た目より暖かさや防寒優先でオシャレなんて二の次だよ」
「私はどんな服を着てても、兄さんは格好良いと思いますよ」
「サンキュ」
う~ん、クソ寒いなかオシャレの為に我慢してスカートを履くとか、男の俺には到底真似できないな。ある意味その精神性は見習いたものであるが。寒いで思い出したんだが、北海道では暖房をガンガン効かせた上でアイスを食べるらしい。普通に考えてこれってすっごい矛盾しているよね。寒いから暖房を入れるわけで、なのにアイスを食べたら意味なくないか?…………はっ!もしやなにか深い理由でもあるのだろうか?こう、体に暑さと寒さを同時に与える事によって強くなるとか?だから北海道の人は寒さに強いのか!?だとしたら理に適った行為なのかもしれない。くっ、真実を知りたいが知り合いに北海道出身の人はいないし、真相は闇の中か……。残念至極!
場面は移り変わり、お次はバイト先での出来事。
雪降るなか寒い、寒いと思いながら歩を進め、お店に辿り着き中に入った時のふわっと包み込むような暖かさときたら言葉では言い表せない程。分かるかな?本当にあ~、あったけ~って声出てしまうくらい最高なんだよ。寒さが厳しい日なんかはこのありがたみを特に感じられる。他の人も同様なのか暖を求めて来店するお客様も多い。それに今日は二十九日で仕事納めの人もいる為、早い時間から満席に近い状態が続いている。まあ、二十八日か二十九日が仕事納めという方が殆どだろう。Meteorも本日が仕事納めだ。飲食店なのに早い段階で休みに入るんだと思われるかもしれないが、チェーン店や大規模なお店ならいざ知らず、うちは個人店で小さいから可能なんだ。それに面倒臭がりのアリスさんが、三十一日だけ休みとか許すわけがないしね。そんな提案をしようものなら最悪ボイコット運動をしかねない。さて、明日から休みでウキウキしているアリスさんにオーダーを通しに行きますか。
十九時になり、いつもより早いが本日の営業は終了。いつも通りに片付けと清掃を終わらせて、飲み物を飲みながら少しだけ雑談をする事になった。
「今年もお疲れ様でした。年明けは二日から営業再開するからよろしくね」
「ん。いつも通りね」
「分かりました」
「今年は甲野君も入ってくれて、お店の売り上げもかなり伸びたし本当に良い一年だったよ」
「確かに。お店を始めてから一番忙しかった年だった。その分疲れたけど」
「アリスさん、お疲れ様でした。それと店長。お客さんの入りも落ち着いたので、今後は今くらいの感じでいくんですかね?」
「そうだね……、何かしらのキャンペーンなり、出来事が無い限りは今のお客さんの量と考えていいんじゃないかな」
「これ以上増えたらキャパオーバーだからもう来ないで欲しい」
「こら!変なフラグ立てるんじゃない。仮に今以上にお客さんが来て、それが続くようであれば新しいバイトを雇うなりするから、心配しなくていい」
「出来るならホール担当じゃなくて厨房担当でお願い」
「分かった。まあ、その時が来たら話し合いをしよう」
「了解。あ~、明日からずっとダラダラするぞ~!」
「アリスさんは実家に帰ったりとかはしないんですか?」
「しないよ。面倒だし」
「相変わらずですね。店長はどうなんですか?」
「私も実家には帰らないよ。お酒でも飲みながらゆっくり過ごすよ」
「そうなんですね。ちなみにお二人は初詣には行くんですか?」
「どうしようかな?って思ってる。普段は行かないんだけどね」
「私は毎年行っているから来年も行くよ」
「あの、もしよかったら一緒に行きませんか?」
「ああ。構わないよ」
「う~~。佐伯と君が行くなら私も行こうかな」
「おっ、是非一緒に行きましょう」
「そこまで言うならしょうがないなぁ~」
「素直に行くって言えばいいのに」
「うるさいよ!」
「あははは。じゃあ、時間と待ち合わせ場所はどうしましょうか?」
「二十時に神社の最寄り駅に集合でどうかな?」
「分かりました」
「わかった」
「ちなみに、私服で行きますか?それとも振袖ですか?」
「振袖だよ」
「あ~、私自分で着付けできない……」
「はぁ~。しょうがないから私が着付けてあげるよ」
「よろしく頼む」
「店長自分で着付けできるんですか?」
「ああ。昔から着物を着る機会が多くてね。今はあまり着る機会はないけど、腕は鈍っていないはずだよ」
「凄いですね。浴衣と違って振袖って着付けはかなり大変なんじゃないですか?」
「そうだね。手順が面倒だし、時間もかかるけど慣れればそこまでではないよ」
「なるほど。じゃあ、俺も着物を着てみようかな」
「着付けは大丈夫かい?」
「はい。母親が出来るので大丈夫です」
「じゃあ、安心だね。さて、そろそろ良い時間だしここら辺でお開きにしようか」
店長の一言で帰り支度を整えてお店の外へ。扉の鍵を閉めて三人揃って最寄り駅まで他愛無い話をしながら歩きつつ、アリスさんと店長の振袖姿を想像してみる。最高ですね。ええ、端的に言って最高!想像でこれなら実物を見たらヤバいことになるかもしれん。そうだ、せっかくだしいつもの面子も誘ってみよう。帰ったら連絡してみるか。さてはて、女性陣の振袖姿を見れるのか否かは俺の誘導……もとい話の持っていき方しだいか。よし、頑張るんば!果たして間違った努力は実るのか?




