No29
活動報告でも書きましたが、本作の全面改稿をしました。
内容は縦書きPDFでも読みやすいように、無駄な改行を減らしています。
ブックマークをしていて本話からお読みになる場合は、今までと文体が違っていて違和感があるかもしれませんが、ご了承頂ければと思います。
秋も深まる今日この頃、皆様はどうお過ごしでしょうか?個人的な話になるが俺は秋が一番好きな季節だ。気温も過ごしやすく、食べ物も美味しいし最高だ。
だが、その先には冬が待っているんだが……。手紙の様に季節の挨拶から始めたが、まさに今秋を満喫している。住んでいる街には大きな自然公園があって、そこで紅葉狩りをしているのだ。遊歩道を歩きながら色付く木々を見ていると、その美しさに心が癒される。やらなければいけない事は多いが、戦士にも休息は必要なのだ。しばらく歩き続け、お昼になったので広場に出てお昼休憩。
芝生の上にシートを敷き、バッグからお弁当を取り出す。ちなみに今回は家族のみで来ている。母親の仕事が一段落したので、労いも兼ねてこうしている訳だ。弁当は母親と葵の合作。俺は……、食べる専門という事で。手伝おうと思ったら、やんわり断られたからじゃないよ。早速手を合わせて頂きます。
「美味い。この竜田揚げ最高!」
「悠は唐揚げじゃなくて竜田揚げの方が好きだものね」
「うん。パリッとした食感と控えめた味が好きなんだよね」
「唐揚げは香辛料や味がかなり主張しますから、嫌いな人は嫌いですよね」
「そうなんだよね。ちなみに北海道にはザンギ?があるけど唐揚げとは違うの?」
「基本的に違いは無いです。ただ、醤油ベースのかなり濃い味付けなので好みは分かれるかと思いますよ」
「あ~、じゃあ俺は無理かな」
「兄さんは薄味派ですからね。健康面からみてもその方が良いですし」
「そうね。悠の健康を守るのも私達の務めだしね」
母さん……、嬉しい事を言ってくれる。これからも健康第一で生活していこう。前世では酷い食生活だったから尚更そう思う。
昼飯を食った後は散策再開。食後の運動にもなるし、少し高くなった体温を優しい秋風が冷ましてくれる。そんな中ふと思いついた事を聞いてみる事にした。
「母さん。この街に大きい図書館とかある?」
「あるわよ。街から少し移動した所に」
「んっ。ありがとう。今度行ってみようかと思って」
「あら。なにか借りたい本でもあったの?」
「この前の文化祭で歴史に関する展示物があってさ、興味を持ったから少し勉強しようかなと思って」
「良いことね。行き方は分かる?後で地図書いてあげようか?」
「大丈夫。スマホで調べるから」
「あの、兄さん。私もついて行っていいですか?」
「う~ん、出来れば一人で行きたかったんだけど……」
「ダメ……、ですか……」
ぐっ、そんな潤んだ瞳で上目遣いで言っても……
「分かった。良いよ、一緒に行こう」
「はい!」
断れませんでした。いや、無理だろう!これでNOと言える奴がいるなら見てみたい。これぞシスコンの鏡と言えるだろう。oh yeah!さてさて、ゆったりと話しながら歩いていたが、そろそろ良い時間だ。午前中に到着してからかれこれ数時間はここに居ただろうか。夕焼けに染まり始めた空を見ながら、帰宅の途に就いた。
翌週の週末。今日は図書館に行く予定だ。開館は十時からなので、九時には家を出る事になっている。ノートや筆記用具を鞄に詰めて、外に出る用の服に着替えて準備完了。居間に降りて葵を待っていると、トタトタと可愛らしい足音が聞こえてきた。扉を開けて入ってきた妹はいつにも増して気合が入っている。
黒ストッキングにプリーツミニスカート、上はニットセーターを着てポシェットをたすき掛けにしている。髪は両サイドを一房編み込んで後頭部で纏めている手の凝ったヘアスタイル。実に可愛らしい。葵も準備が出来たみたいだしいざ出発。
電車に乗り繁華街で降りたら、次は路線バスで移動。そして辿り着いた図書館は予想よりデカかった。これ、国立図書館と言っても過言じゃないよな……。建物を見ながら呆然としていると横合いから声が掛けられた。
「兄さん、どうしましたか?」
「いや~、想像していたよりデカくて立派だからビックリしてた」
「初めてだとそうですよね。でも、蔵書の数にはもっと驚くと思いますよ」
「んっ?そう言うって事は葵はここに来た事あるの?」
「はい。調べ物をする時などに何回か来ました」
「そうなんだ。じゃあ、案内お願いしてもいい?」
「お任せください」
こうして、葵の案内の元目当ての書物がある場所まで行く事になった。書架を巡りながら目ぼしい本を取りながら歩く。四・五冊程見繕ったらテーブルに置いて、早速読み始めるとしよう。葵もなにやら何冊か持ってきて読んでいるので、そちらは気にせず集中できる。ペラペラとページを捲りながら読み進める。
…………ふと顔を上げて時計を見ると二時間ほど経っていた。集中して読んでいたんだなと思いつつ、情報を整理する為ノートに書く事にする。
まず、入れ替わり現象(便宜上こう呼ばせてもらう)は室町時代(西暦千四百年代)に確認されたのが最古となっている。という事は約六百年前からこの現象は存在していたという事だ。また、この街は南北朝時代中期に誕生したとされていて、そうとう歴史がある。ここで一つ疑問に思ったことがある。歴史が古い街に入れ替わり現象が起こるのか?それとも、関係なく起こるのか?そして国内のみなのか?海外では同様の現象が起きているのか?残念ながら海外については資料が無かったので分からなかった。ただ、国内については俺が住む街以外では確認されていないらしい。医者や歴史学者の見解では、ある種の局地的な風土病ではないかとの意見が多い。まあ、確かに傍から見れば病気と片づけるのが妥当だろう。入れ替わった当人からすれば、そんなはずない!と声を大にして言いたいが。
まあ、それはさておきなぜこんな事が起きるのか?という事を考える必要がある。これは飽くまで仮説だ。しかも突拍子もない、妄想の域を出ないあまりにも現実離れした仮説だ。まず、俺が居た世界を世界線Aとする。Aが本線でそこから枝分かれした世界線がB・C・D・E~と無数に存在する。Aの俺はなにかしらの力?世界線の干渉?そういうもので存在が消えてしまった。そして、肉体と言う物は消えたが、精神は時空を超えてこの世界(Fと呼称する)の甲野悠の中に入った。
では、元の甲野悠の精神はどこに行ったのか?
一:消滅した
二:所謂二重人格状態で、甲野悠の人格は眠っている
三:別の世界線に飛ばされた。
今ざっと考えられるのはこれくらいだろうか。三の場合、別の世界の誰かに入った甲野悠の精神のせいで、元の人間の精神体はまた別の世界に飛ばされる。という事は永遠と入れ替わりが続く事になる。これは可能性としてはほぼ0だろう。もしそんな事になったら永劫に終わらない地獄では無いか。まあ、一か二が妥当だろう。次になぜこの街限定で起こるのかという点だ。これについては検討もつかない。世界線が干渉しやすい地域なのか、なにかしらの周期がありそれの影響によるものなのか、はたまた神の悪戯か……。そして、なぜ男性限定で現象が発生するのか。普通に考えれば圧倒的に人数が多い女性に発生する方が合理的である。なのに少数の男性のみに起こる。これについては、逆に男性だから発生するんではないかと考えている。総じてこの世界の男は女性を嫌う。まあ、嫌うとまで行かなくとも敬遠したり、良い感情は持っていない。となれば、恋人になったり結婚したりと言った事が極端に少なくなる。ただでさえ男が少ないのにだ。当然の帰結として少子化待った無しの状態になる。子孫を作るのは人間としての義務であるからして、どうにか対策が必要だ。現代では男性は月に一度精子を提供する義務があり、精子バンクに保管されて妊娠希望者に提供される仕組みが出来ているが、昔はそうでは無い。以上の点を踏まえて考えるならば、人類存続のために男性限定で入れ替わり現象が起こるのではないかと推測できる。この図書館に保管されていて、一般人が閲覧できる書物ではこれが限界だった。もっと本質的なものを知りたかったが、それこそ由緒ある長い歴史をもつ家柄に保管されているであろう文献等を読まないと分からない事ではないかと思う。考察をノートに書き終えふぅ~と一息つく。
それと同時に葵が顔を上げてこちらを見てきた。
「熱心に本を読んでいましたけど、何を調べていたんですか?」
「んっ?いや、この街の歴史についてだよ」
「そうですか。なにか面白い物でもありましたか?」
「そうだな……、入れ替わり現象なんていう眉唾物の話があったな」
「入れ替わり現象…………」
その言葉の後しばし頤に手を当てつつ考え込んでいた。なにか気になる事でもあったのだろうか?まあ、俺がその入れ替わった人だとは思いもよらないだろうな。などと思いつつ眺めていると、こちらを真っ直ぐな目で見つめて口を開いた。
「もし……、もし兄さんが入れ替わった別人だとしても私は兄さんが好きです」
「ありがとう。俺も葵が好きだよ」
そう、家族として兄妹として好きだ。だが、この時葵が言った好きと俺が言った好きには決定的な温度差があった。この違いが後々大きな亀裂をもたらすことになるとは露程にも思わず。
調べたい事も全部調べたので本を元の場所に戻して、図書館を後にする。まだ、明るく時刻は十四時を過ぎた辺り。このまま帰るのも勿体ない気がするが、脳をフル稼働させたせいか疲れた……。ひと眠りしたい気分だ。
そんな俺の気持ちを察したのか葵が
「兄さん。帰ったら少し寝た方が良いですよ。疲れた顔をしています」
「ありがとう。せっかく街に来たのにどこにも寄らずに帰る事になってごめんな」
「いえ。こうして兄さんと一緒に出掛けられただけで幸せです」
微笑みながらも、どこか寂しさを感じる声音でそう答えてくれた。
秋の空を見ながら思う。測り難きは人心。
分かっているようで、俺は妹の事をなにも知らないのかもしれないと。




