No28
文化祭二日目開始です。今日も午前担当で接客や裏方の仕事に勤しみます。昨日の事もあって人員は大幅増。万全の体制でお客様をお迎え出来る。さぁ、オープンです。いきなりどっと流れ込む人・人。あっという間に満席になり、廊下には長い行列が。これ予想以上だぞ……、激務になりそうだ。
…………気付けば午後になっていた。ひたすらお客様を捌き続けていた記憶しかない。あれだ、滅茶苦茶集中してると時間の流れが速くなる現象。ゾーン?というのだったか。本当に疲れたよ……。だが、今日は後夜祭も含めて夜まである。ふんすっ!と気合を入れ直して昼飯をまず食べる事に。今日の面子は有馬先輩・アリスさん・店長という面子です。結衣と楓は午後担当なのでいないし、先生は見回りでいない。よってこのメンバーな訳だが、なぜバイト先の人がいるのかというと……。某日のバイト先でのやり取りでこんな事があった。
「これうちの学校の文化祭の招待状です。平日開催なので来れたらでいいのでよかったら来てください」
「うん、分かったよ。ありがとうね」
「あ~、まあ受け取っておくよ。でも人多そうで疲れるからちょっとなぁ~」
店長とアリスさんが各々受け取ってくれた。ていうかアリスさん人混み苦手なんだ。まあ、普段からぐでぇ~とするのが好きな人だしさもありなん。これは期待薄だな、なんて思っていたんだが今朝スマホに昼頃に遊びに行くからと連絡が入った。という事があって今に至るというわけだ。
今日のお昼ご飯はアリスさんの意見でスイーツ系となった。クレープ、ワッフル、団子等々和洋折衷様々なお菓子がテーブルに並んでいる。正直男の俺にはキツイものがあるが、肉食いたい!ご飯もの食いたい!とは流石に言い出せなかった……。いつだって男は女性には勝てない生き物なのさ……、ふっ。はい、自己弁護終了。珈琲片手にお菓子を頬張る。甘い口内を洗い流すように珈琲を飲むと、苦みが良い感じに中和してくれる。
よくアメリカ人がドーナツ片手に珈琲を飲んでいるが、理に適っているんだな。女性陣は紅茶片手に美味しそうに食べている。そしてアリスさんは吟味するように一口づつ食べては何やら思案している。
「アリスさん。あんまり美味しくなかったですか?」
「んっ?いや、そんな事はないよ。ただ職業病というのかな。どういった作り方をしているのか、材料は何を使っているのか等々色々考えてしまってね」
「あ~、パティシエですからね。それは仕方ないかもしれませんね。ちなみにうちの妹も同じような感じなんですよ」
「ほう。君の妹さんはお菓子作りをするのかい?」
「たまにしますね。基本的には料理がメインですけど」
「ふむ。君の妹さんは普段から食事の際調理方法について考えたりしているの?」
「そうですね。外食する際は考察していますね。もう癖になっているみたいです」
「私が思うにセンスがあると思う。将来は料理人とかいいんじゃないかな」
「こればっかりは本人が決める事なのでなんとも言えませんが、コック帽にエプロン姿も良いかもしれませんね」
他愛無い話に花を咲かせて、ゆったりと時間は流れていった。
食事の後は文科系の出し物を見て回ることになった。街の歴史紹介だったり、自作の短編小説だったり。その中で目を引く文章があった。神隠しと男性に起こる説明できない不思議な現象についてという一文だ。ちなみにこの街の歴史は古く所謂古都といわれている。文章の概要はこんな感じだ。
昔から人が突然消える神隠しが度々起こっていた。男性、女性問わず唐突に神隠しに遭うので当時の人たちは祭壇を作り、神に祈りを捧げたらしい。それが功を奏したのかある時からパタリと無くなった。人々は神が祈りを聞き届けてくれたと、大層喜んだらしい。それで終われば良かったんだが、そうはいかなかった。ある日一人の男性が人が変わったようになった。性格が変わり、自分の名前すら間違う。まるで中身だけ別人になったみたいに……。見た目は今までのままなのに、どこか違う。あるものは狐憑きだと言い、あるものは神がお怒りになったといった。その男性は隔離され、厄付きとして村八分にあった。だが、しばらく時が流れて人々の記憶が薄まり始めた頃また現れた。まるで中身だけ入れ替わったとしか思えない現象が発生したのだ。当時の人々はなぜこんな事がおこるのか必死で考えた。なにか悪い物でも食べたのか?頭でも打ってしまったのか?はたまた呪いなんていう意見もあったらしい。懸命に考えるも答えは出ず、ごく稀に発生する病気として片づけてしまった。その後も数十年に一人か二人の割合で現れ、それは現代でも続いている。そう締めくくられて文章は終わっていた。
背筋が冷たくなり、頬を冷汗が伝う。なんだこれは……、まるで、まるで今の俺じゃないか。病気?違う!そんなものではない!俺には俺としての記憶もあるし、前の世界で生きていた思い出もある。………………だが、それは本当なのだろうか?仮にだ、その記憶や思い出が都合よく脳が作り出した幻想だとしたら?解離性同一性障害や脳の病気という事も考えられる。サラサラと砂が零れる様に、俺と言う存在が崩れていくようだ。消えてなくなりそうな俺の肩にぽんっと優しく手が置かれた。
「大丈夫?気分が悪いなら少し休もうか?」
「あっ……、だっ、大丈夫です。少しぼっーとしていたみたいで」
「そう。ならよかった。なにかあったら遠慮なく言ってね」
有馬先輩の優しい言葉と笑顔が胸に染みる。このままでは駄目だと、パンッと頬を叩き気分を入れ替える。考えなければいけない事、調べなければいけない事は山ほどある。だが、それは今やるべき事ではない。心にしこりを残したまま、残りの時間を楽しんだ。
夕方になり校内放送が流れだした。
『これにて蒼律学園文化祭二日目は終了となります』
『繰り返しお伝えします。これにて蒼律学園文化祭二日目は終了となります』
『また、十九時より後夜祭を開催しますので、是非参加して下さい』
二日間に渡る文化祭はこれにて終了と相成った。クラスのみんながハイタッチしたり、抱き合ったりして喜んでいる。まさに怒涛の二日間だった。だけど心は充実感で満たされている。そんな俺に声が掛けられた。
「まだ、後夜祭が残っているし楽しみだね」
「ああ。キャンプファイヤーとか花火の打ち上げとかあるんだよね」
「そうだよ。あっ、夜は寒いから何か羽織って参加した方がいいよ」
「ありがとう。そうするよ」
楓からのアドバイスを頂きつつ、夜までまったりと過ごした。
時刻は十九時。いよいよ後夜祭の開始だ。グラウンドではキャンプファイヤーが焚かれ周囲を明るく照らしている。各々楽し気に会話したり、二日間を振り返ったりと様々だ。俺の周りにはいつものみんなが横並びに座っている。パチパチと木々が爆ぜる音、ゆらゆらと揺らめく炎。会話は無くても心地良い雰囲気が流れていた。
「甲野君、初の高校の文化祭はどうでしたか?」
「凄く楽しかったです。みんなで一緒に頑張ってきてよかったなと思います」
「そうですね。クラスの全員で一丸になって物事にあたる。そう言った事は社会に出てからも頻繁にあるので、今のうちに色々経験しておく方が良いですね」
「はい。それにみんなの事をより知れて、仲が深まったと思います」
「うんうん。とってもいい事です」
そう言いながら頷く先生の顔は立派な教師だった。いや、普段から教師然としてはいるが、イメージがね……、ほらロリだし……。失礼な事を考えていると横合いから別の声が響いた。
「もう!真面目な話はあとにして下さい。今は後夜祭を楽しまなきゃ」
「あはは。ごめん、ごめん」
結衣のお小言に苦笑いしつつ平謝り。カフェ大成功だったねとか、先輩のクラスの出し物楽しかったです等感想を言い合っているとひゅるひゅる~と少し間抜けな音が響いた後、空に大輪の花が咲いた。秋空を彩る色とりどりの光。周りの生徒たちも歓声を上げて見ている。どんっ、どんっと次々に打ちあがる花火。
その時風に乗って聞こえてきた声は誰のものだったのだろう。
「 き で す。 ずっ あ と に た い」
花火の音にかき消されハッキリとは聞こえなかったが、横に座っている結衣、楓、有馬先輩、先生の誰かが言ったのだと思う。
見上げていた空から、隣に目を移してみる。
花火と揺らめく炎の灯りで照らされた横顔は見惚れるほど美しかった。




