No26
翌日の昼頃真司からスマホに連絡が来た。内容は依頼の件はOKとの事。ただ、どの種類の耳にするのか教えて欲しいとの事で要望を伝える事に。
『定番の犬耳・猫耳は当然として、あとは狐耳・ウサ耳・ロバ耳あたりかな』
『了解。他には要望はあるか?』
『フサフサの毛を付けて欲しい。あと出来るなら各々に対応した尻尾も欲しいし、感情に合わせて動く仕様とかだとなお良い。それとあからさまな後付け感が出るのはNG。あくまで自然な、元々ケモ耳がある感じに見せたい。でもリアル過ぎても駄目で多少デフォルメして可愛らしく仕上げて』
『お前なぁ……。注文多すぎだろ!感情に合わせて動くとかどれだけ金かかるか分かってるのか?それ抜きでもかなりの金額になるぞ。予算大丈夫なのか?』
『そこは友情価格で一つお願いします。ちなみに、出せる予算は二万なんで』
『無理に決まってんだろ!二万でお前の言った要望全部叶えるなんて不可能だっての。ていうか一つでも無理だわ』
『何言ってんの?お前にはケモ耳に対する愛は無いのか?無理と思うから無理なんだ。やれば出来る何事も』
『んなもんねぇーよ!もうこっちで予算内で出来る範囲で作るからな』
『くっ……。お前がこんなに薄情だとは思わなかった。……な~んてな。まあ、無理なのは分かってて言ったし予算内でよろしくお願いします』
『たくよぉ。まあこっちでも出来る限り頑張ってみるから待っててくれ』
『サンキューな。恩に着るぜ』
『はいはい。じゃあ切るな』
ふぅ……。あとは真司に掛けるしかないか。スマホをポケットに仕舞い込み一息つくと隣から視線が。
「ハル君はケモ耳が好きなの?」
「なにを言っているのかな結衣君。当たり前じゃないか!」
「そ、そうなんだ。当たり前なんだ……」
「ケモ耳という単語から耳だけを想像しがちだが、尻尾とセットだからな。そして人間に獣の耳と尻尾が生えているという、この至高のマリアージュ!分かる?」
「えっと、私には少し難しいかな。楓ちゃんはどう?」
「私は……、なんとなく分かるような分からないような……。こう、言わんとしている事はボヤッと理解できる……のかな?先輩はどうですか?」
「あ~、うん。凄い好きなんだなぁ~っていうのは伝わってきたよ」
駄目だ。この人らなんも分かってねぇ。何れ時間をかけて説明しよう。
「なんとなくみんなの理解度が分かったので、一旦この話はお開きにして昼飯食いましょう」
こうして、お昼時間は過ぎていった。
午後からは内装や制服についての作業だ。椅子やテーブル、カーテンや小物等々。まずは、カフェのイメージだが落ち着ける空間にしようということで決まった。となると、派手目な物はNGとなる。暗めの色調がメインになり、アクセントとして少し明るい色味を加える感じか。バイト先の店を参考にしつつ意見を出してみる。
「成程。良い感じだね。でも、どこから調達しよう?リサイクルショップとか?」
「う~ん、文化祭期間しか使わないし買うのはちょっと勿体無いんじゃない?」
「じゃあ、家から持ち寄る?」
「取り合えずそれでいこう。足りないものは、買うしかないかな」
「了解」
こうして、内装に関しては一応決定。次は制服についてだ。
「カフェって言うとメイド服とかかな?」
「パッとイメージ出来るのはそんな所だよね」
「メイド喫茶的なやつね」
まあ、一般的にはそんな発想になるだろう。だが、それは駄目だ。
「それはNGです。ケモ耳メイドカフェとか要素が多すぎて迷子になりますよ」
「でも、秋葉原とかだとそういうお店もあるんじゃない?」
「確かにそうかもしれませんが、あくまでうちのクラスでやるのは正統派のカフェです。なので制服はブラウス・スカートあたりが無難だと思います」
「そっか。その服だと大体の子が持っているだろうし、そっちに予算はあまり回さなくても大丈夫そうだね」
「そうだね。浮いた予算は他の事に回せるし、良い感じだと思うよ」
といった感じで制服もほぼ決定した。このように詳細を詰めていき、日を追うごとに着々と準備は進んでいった。
今俺は電車に乗り移動している。どこに向かっているかと言うと神社だ。そう、夏祭りがあったあの神社だ。何しに行くの?と思うかもしれないが、文化祭の準備も佳境に入りみんなの疲労も色濃くなってきた。疲れていると、些細なミスから怪我をしてしまう事もある。そうなれば、頑張って準備したのに病院で怪我の治療中という悲しい事態にもなりかねない。というわけで、みんなの安全祈願をしにここに来たわけです。決して真白さんに会いたかったわけでは無い。断じてそうでは無い。最寄り駅に付き、神社に向かって歩いてようやく入り口に到着。長い階段を登り、参道を歩きながら周りを見渡してみた。はらり、はらりと落ちる色付いた落ち葉。静謐な空間にふっと通り過ぎる秋風。ついこの間まで、青々と茂っていた木々も今は美しく化粧をしているみたいだ。そんな中、白衣に緋袴の出で立ちの女性が箒をもって掃除をしていた。白衣と緋袴とはなんぞや?というと所謂巫女服の事。上に着るのが白衣、下に履くのが緋袴。まあ、そんな蘊蓄はさて置き件の巫女さんを眺めてみる。絹のような黒髪、凛とした立ち姿。実に美しく大和撫子を体現しているかのようだ。じっと見ていると視線に気が付いたのかこちらに振り向いた。俺だと分かるとパッと花が咲いたような可憐な笑顔を見せる。
「悠様お久しぶりでごさいます。壮健でしたか?」
「お久しぶりです。はい、変わりなく過ごしています」
「それは良かったです。今日はどのようなご用向きでいらっしゃったのですか?」
「実はもうすぐ学校の文化祭がありまして、凄く忙しいんです。なので疲労から怪我などしないようにと安全祈願に来ました」
「まあ!そうなのですね。なんと心優しいお方」
「いやいや、そんな大それた物ではないですよ。みんなで一緒に文化祭を楽しみたいっていうだけです」
「それでも、素晴らしいお考えだと思います。では、ご神前に行きましょうか」
こうして真白さんに案内されてお参りをすることになった。
参拝も無事に終わり、さて帰るかと言う所で声を掛けられた。
「あの、もし宜しければお茶などご一緒にどうですか?」
「ご迷惑でなければ是非」
「では、こちらに社務所があるのでそちらに行きましょうか」
案内された社務所の部屋は当然畳敷き。イ草のいい香りが充満していてホッとする。こういう所が日本人なんだなぁ~なんて思ったり。
そうこうしているうちに、ちゃぶ台の上に湯気を立てたお茶が置かれた。
「お口に合うか分かりませんが、どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
ズズッと一口。最初に感じたのは苦み。そしてすぐに僅かな甘みが通り過ぎる。美味い。お茶ってこんなに美味しい物だったんだ。
「このお茶凄く美味しいですね」
「茶葉は宇治産の物を使用しています。また、お茶の淹れ方にも一工夫しているのでより風味を楽しめるかと思いますよ」
「宇治産の茶葉ってお高いんですか?」
「そうですね……。ピンキリですが、高い物だと一万円近くするものもあります」
「一万!?えっ?スーパーで売っているやつだと数百円くらいで買えるのに……」
「宇治茶は銘品中の銘品で、世界中で愛されている高級茶葉ですからそれ位のお値段になってしまいますね」
「マジか……。ちなみにこのお茶もお高いんですか?」
「まあ、それなりに。ですが、お値段など気にせずにお飲みになって下さい。美味しいと言って下さるだけで十分ですので」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
はぇ~、高級品を当たり前のように使うとか神社って儲かるんだろうか?いや、こんなこと考えてたら罰があたるか。静かな空間に二人向き合ってお茶を啜る。決して気まずい雰囲気にはならず、むしろ心地よさを感じる。ゆったりと流れる時間の中、鈴のような涼しげな声が響いた。
「悠様は覚えているか分かりませんが、私以前から悠様の事をお見掛けしていたんですよ」
「えっと……。ごめんなさい、覚えがないんですが。どこで見たんですか?」
「商店街やCafe & Bar Meteorに行った時などですね」
はて?う~んとうなりながら記憶を穿り返してみる。
………………あっ!!思い出した。商店街で偶に見かける和服美人か。
あとお店の方は確かに着物を着た人が来店していて、夏なのに暑くないのかなと思ったりしたっけ。そっか、あの人が真白さんだったのか。世界は広いようで案外狭いのかもしれない。
「思い出して頂けたようですね」
「はい。むしろなんで忘れていたのか……。ところで真白さんって普段から着物なんですか?」
「そうですね。洋服も着る事は着るんですが、昔から和服が多かったのでそちらの方がよく着ます」
「凄く似合っているし、良いと思います。今着ている巫女装束もお似合いですし」
「ありがとうございます。そう言って頂けてとても嬉しいです」
僅かに頬を染めつつ、少し下を向いて照れながらそう言う姿はとても可愛らしい。その後も雑談をしながら時は流れていった。その中でビックリしたことがあった。真白さんは俺と同じ高校一年生ということだ。てっきり成人女性かな?と思っていたのでかなり驚いた。物腰も穏やかで、口調も丁寧、態度も大人びていてとても同年代には見えない。勿論悪い意味ではなくてね。ふと、時計を見ると夕方を少し過ぎていた。思ったよりも長く話していたみたいだ。まあ、それだけ楽しかったという事なんだが。
「もういい時間なので、そろそろお暇させていただきます」
「長々とお引止めして申し訳ありません。つい楽しくて時を忘れてしまいました」
「それは俺も同じですよ。真白さんとお話しできてとても楽しかったです」
そうして、社務所を出て二人並んで参道を歩く。少し冷たい秋風が二人の間を通り抜けた。その際片手で髪を押さえながら、茜色に染まった空を見上げる真白さんの姿は儚く、どこか寂寥感にも似た思いを抱かせた。その姿は後々まで俺の心に燻り続ける事になる。入り口で真白さんと別れて最寄り駅に向かって歩く。まさか、六月に商店街で見かけた人とこうして知り合えるなんて、人生とは何が起こるか分からないものである。この先にはどんな出会いが待っているのだろうか?そんな思いを抱きながら家路を辿った。




