No25
夏休みも終わり残暑厳しい中、学校に通う毎日。若干の長期休暇の名残を残す校内は、少しだけ浮足立っていた。俺が高校生だった時は日焼けしてたり、髪を染めてたり、はたまたガラッとイメチェンをしていたりとそんな奴が必ずいたものだが、Aクラスではそんな事はない。進学校というのもあるのだろう。みんな真面目で大変宜しい。そんなこんなで、緩くてそれでいていつも通りの日常を過ごしている。家と学校とバイトと、変化の無い毎日。だけど、そんな普通が唐突に壊される事もある。夜コンビニに買い物に行った際に、前から人が歩いてきた。夏なのにロングコートを着ていて暑くないの?と思いながらも、距離は近づく。そして、すぐ近くに来た女が突然立ち止まり声を上げた。
「ねぇ、あなたに見せたいものがあるの」
「はぁ?そういうのは結構ですので。ではこれで」
そう言って立ち去ろうとしたが、それよりも早く女は行動した。いきなりコートの前をご開帳したのだ。露わになったのは、裸。そう裸、全裸、服は着ていないし下着も付けていない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
女は顔を紅潮させて、荒い吐息を吐いている。そう!この変態は露出狂だったのだ。夏になるとおかしな行動をとる人が現れるが、まさか夏の終わりに出くわすとは。
「どう?興奮する?私は最高の気分よ~!」
「…………そうっすか。ではこれで」
「ちょっと待ったーーー!!もっと、こう……あるでしょう!!私の裸に興奮して襲うとか、舐める様に見るとか!」
「特にそういうのは無いですね。というか妄想逞しいっすね」
「うぅ……、私って魅力が無いの?暑い中こんなコートまで着て歩いて、歩いて、ようやく見つけた男の人に塩対応されるなんて」
「いやいや、普通の対応でしょう。警察を呼ばなかっただけ有難く思って下さい」
「でも、少しくらい興奮したでしょ。あと警察は勘弁して下さい」
「はぁ……。あのですね、夜の道路で裸見せつけられて興奮するわけないでしょ。普通に怖いわ」
「うっ……、冷静に考えると確かに。…………変なものを見せてごめんね」
「そう思うなら今後はこうした事はしないで下さいね。マジで通報されますから」
「分かりました。気を付けます」
「ほんと頼みますよ」
「あの……、今回のお詫びに何かしたいんだけど私に出来る事ある?」
「そうっすね~。じゃあ、俺が働いている店の売り上げに貢献して下さい」
「分かったわ。ちなみになんのお店なの?」
「Cafe & Barです。繁華街の路地裏にあるMeteorって店知ってますか?」
「あぁ~、知ってるわ。私の職場がすぐ近くなのよ」
「おっ、それはよかった。俺そこでバイトしているのでよかったら来てください」
「必ず行くわ。毎日でも行くわ」
「いやいや、週に一回でも来てくれれば大丈夫なので」
こうして夏の終わりに出現した、変態に出くわす事件?は終わりを迎えた。ちなみに、この会話中相手はずっと裸のままというシュールな光景でした。余談だが、この変態もとい女性は頻繁に通ってくれる上顧客となりましたとさ。
時の流れは早いもので、夏は過ぎ去り秋になった。あれだけ高かった気温も大分下がり涼しくて過ごしやすい。そんな中我がクラスでは喧々諤々の議論がされている。内容は文化祭の出し物についてだ。お化け屋敷だの、展示物の掲載だの、自作映画の上演だのと意見が上がっている。俺?俺はなにも考えていませんよ。
だって、クラスで俺以外男子が居ないんだぜ。
(真司は月一しか学校に来ないのでノーカン)
そんな中で意見を言えるほど豪胆ではない。決まった内容に唯々諾々と従うのみ。と思っていたんだが、委員長が甲野君はなにかやりたい事はありませんか?なんでもいいので意見があればどうぞなんて言ってきた。
「そうですね……。コスプレカフェとかどうでしょう?」
「コスプレカフェ?」
「はい。俺Cafeでバイトしているので色々と融通を効かせられるし、良いかなと」
「ちなみに、コスプレはなにをするんですか?」
「あくまで一つの案ですからね。その上で俺が提案するのはケモ耳コスプレです」
「……ケモ耳とは、犬とか猫の耳を頭の上に着けるやつですよね?」
「はい。普通のカフェだと面白くないので、コスプレ要素を入れたらどうかなと」
「なるほど。では、一案として黒板に書いておきますね」
そう言って黒板にケモ耳コスプレカフェと書かれた。なんというか、凄く目立つ。他の案が定番所や真面目な感じなのに俺のだけ異彩を放っている。まあ、普通に考えて選ばれることは無いだろう。その後はあーでもないこーでもないと話し合いながら、煮詰まっていき最後にどれにするかの投票が行われる事になった。もちろん俺はケモ耳コスプレカフェに投票したぜ。委員長が、投票箱から一枚づつ紙を取り出しては開く。そして、集計の結果選ばれたのは……………………
なんと、ケモ耳コスプレカフェでした~!!!
得票数はなんと、百%!いや、おかしいだろ!!百%ってクラスの全員が同じのに投票したって事だからな。不正投票ってレベルじゃねえぞ!これは政治家もビックリの事態ですよ。なにが起きたか分からないと思うが、俺も分からねぇ。これは、あまりにも不自然なため問いただす事にした。
「委員長。俺の案が採用されるのは嬉しけど、得票数百%っておかしくない?」
「なにもおかしくないですよ。甲野君が意見を出してくれたんです。その案一択です。他のなんて存在しないし、これは当然であり、必然なのです。ねっ、みんな」
「もちろん!」
俺を除くクラス全員が異口同音に答えた。……オーマイガー……、思わず額に手を当てて上を向いた。なにこの狂信的なクラスメイト。どこぞの怪しい宗教団体も真っ青ですよ。教主は私甲野悠です。と思わず意味不明な考えをしてしまったが、マジどうしよう……。
「では、クラスの出し物は決まったので明日はどういった形で行うか詳細を決めたいと思います。各自どうしたいか考えておいて下さい」
委員長がそう言った後解散となった。初っ端から波乱に満ちた展開だが、こうして文化祭への準備がスタートした。
あれから数日、方向性も決まり各々準備や制作に取り組んでいる。俺はバイト先の店長やアリスさんに話を通して、協力を取り付ける事が出来た。余談だが、ケモ耳コスプレカフェの話をした際、店長がうちでもやってみようかな?といいだしてかなり焦った。ホール担当は俺と店長しかいないから、俺もケモ耳をつける事になる。想像してみて欲しい。男が猫耳をつけて、いらっしゃいにゃーとか言っている姿を。……うっぷっ、吐き気が込み上げてきた。ああいうのは可愛い子がするから絵になるのであって、男がやると大惨事だ。店でやるなら店長とアリスさんだな。ホール担当ではないけど、アリスさん絶対に似合う。色白、金髪だから、ウサギ耳とか合いそう。アリス……、不思議の国のアリス、三月ウサギ。いや、三月ウサギだとイメージが悪すぎるな。白兎といった所だろうか。うん、可愛い。
「アリスさんはウサギ耳とか似合いそうですよね」
「そうか?う~ん、私的には定番の犬耳、猫耳とかの方がいいんだが」
「いえ、絶対にウサ耳です。めっちゃ可愛いと思います!」
「うっ、そ、そうかな?」
「はい!超お勧めです」
「じゃあ、機会があれば試してみるよ」
顔を赤くして、少し照れながらそういう姿は正直萌え死ぬレベルで可愛い。この人本当にギャップ萌えがヤバいんです。仕事をキリッとしながらしている時、休憩中のぐでぇ~としている時、今みたいに些細な事で顔を赤くして照れる時と本当に色んな顔を見せてくれる。そんな俺とアリスさんを店長は優しく見守っていた。
着々と準備が進む中、問題が発生した。要となるケモ耳についてだ。コスプレグッズを取り扱っているお店ではチープな物しかない。出来栄えは推して知るべしだ。正直そんな物は使いたくない。自称ケモナーマスターとしては妥協は許さない。かと言って、そっち方面にアテがあるわけでもなし。う~~ん……。考えながら、なんとなくスマホをポチポチしてみる。偶々開いた電話帳に希望があった。モブキャラ、じゃなくて唯一の男のクラスメイトの真司だ。ヤツの親が有名企業の経営者で手広く事業をしているらしい。ということは、服飾雑貨なんかにも伝手があるかもしれない。早速聞いてみよう。
『おう、俺だけど今大丈夫?』
『どしたん?今授業中じゃないの?』
『今文化祭の準備期間で五・六限目は授業免除なんだよ』
『マジか。もうそんな時期なんだな。で、なんか用事でもあったのか?』
『ちょっと聞きたいんだけど、お前の親の伝手で服飾雑貨の製作お願い出来るお店とか紹介して貰えないかな?』
『あ~、いいけど物によるな。なに作るの?』
『ケモ耳』
『はっ?ごめん、スマホの調子悪いみたいでさもう一回言ってくれない』
『ケモ耳』
『……、お前頭大丈夫か?』
『いきなり失礼な奴だな。大丈夫に決まってるだろ。クラスの出し物がケモ耳コスプレカフェに決まったんだよ』
『どうしてそうなった……。いやさ、普通のカフェじゃ駄目だったのか?』
『普通のカフェだと面白くないから、コスプレ要素を入れたらどうかな?って提案したら採用された』
『マジか。はぁ……、分かった。親に聞いてみるよ。明日には結果を連絡するわ』
『よろしく。マジで頼むぜ』
『期待しないで待っててくれ。じゃあな』
こうして、明日まで悶々とした時間を過ごす事になった。




