No24
悲しい出来事もあったが、屋台巡りは続く。焼きもろこしを食べたり、なんとケバブ屋台があったので初めて食べてみたり。休憩場所が用意されていたので、そこに座ってくっちゃべったりして満喫していたら、アナウンスが流れ始めた。
『間もなく奉納舞が開始されます。皆様是非ご鑑賞下さい』
奉納舞とは字の通り、神様へ納める舞のこと。神事での舞の起源は日本最古の書物である「古事記」や「日本書紀」の神話の話へ遡るらしい。詳しくはW〇kipediaを参照下さい。まあ、神道で行う儀式と思ってくれればいい。実はこの奉納舞が夏祭りの目玉だったりする。なんでも、舞を舞う女性が物凄い美人らしい。いや、それが目当てな訳ではないが、まあ……ね。という事で移動開始。舞台を中心にかなりの人だかりになっている。それだけみんな関心があるんだろう。
しばらくすると、女性が出てきていよいよ始まりだ。
……………………言葉が出ない。唯々美しい。神々しい、天女の様、神憑り。そんな思いだけが頭を支配する。流れるような舞、荘厳で歴史の重みを感じる和楽器の演奏。気付けば周りの人も食い入るように舞台に視線を向けている。
そして演舞は終盤に差し掛かる。より躍動的に、そして美しく。蝶のようにヒラヒラと、そして花びらが落ちるように華麗に舞う。演奏が止み巫女が動きを止めた。シーンと静まり返る観客。一拍おいて万雷の拍手が鳴り響いた。俺も割れんばかりの拍手喝采を送る。本当に、本当に素晴らしかった。胸の内を満たすのは感動。
去り行く巫女を目で追っていると、チラリとこちらを向いて微笑んだ気がした。気のせいかもしれないけど、俺に笑顔を向けた様な……。どこかで会った事あるっけ?いやいや、巫女さんに知り合いなんていないし。その時はそれ以上考えるのを止めてしまった。だが、もう少し記憶をほじくり返せばよかったと後に思う事になる。
さて、目玉イベントも見たし、屋台巡りも概ね終わった。後は帰るだけ……、とはならない。お参りをせずして帰れば罰が当たる。手水舎で手、口を清めた後は、鈴を鳴らしお賽銭を投げる。そして二礼二拍手一礼。願い事は『 』とした。なぜ日記に書かないのか不思議に思うかもしれないが、これは後に俺の前世での過去について語る時に分かると思うので少し待って欲しい。みんな終わったようなのでこれで俺たちの夏祭りは終わりだ。あとは帰るだけ……、と言う所で声を掛けられた。振り返ると舞を踊っていた巫女さんが立ってこちらを見ている。
「あの、なにか御用でしょうか?」
「突然申し訳ありません。私先程舞を踊っていた者です。あの、是非感想を聞きたいなと思いお声を掛けさせてもらいました」
「大変素晴らしかったです。言葉が出ない程美しく見入ってしまいました」
「まあ!そう言って貰えて大変嬉しいです」
「質問なんですが、夏祭りの時のみ奉納舞を行うんですか?」
「いえ。夏と年越しの際の年二回行います」
「そうですか。年末が今から待ち遠しいです。早く見たいな~」
「ふふふ。ご期待に沿えるよう私も頑張ります。……あのもし宜しければお名前を教えて貰ってもいいですか?」
「構いませんよ。甲野悠といいます」
「悠様……。私は望月真白と申します。以後お見知りおきを」
「こちらこそよろしくお願いします。では、これで失礼しますね」
「お気をつけてお帰り下さい」
なんか巫女さんと知り合いになってしまった。帰り際女性陣がコソコソと喋っていたが、何を話していたのやら。神社の最寄駅から電車に揺られながら地元へと戻ってきた所で解散となった。こうして海に続くイベント【夏祭り】が終わった。
いよいよ夏休みも終盤に差し掛かった。宿題も終わって特にやる事がない。暇……、ヒマ……、ひま……。まさに暇を持て余すを体現しております。あまりにもやる事が無い為居間で床に寝転がりゴロゴロ転がってみた。なんか楽しい。意味不明な行動だけど楽しい。ゴロゴロ~、ゴロゴロ~。転がる、転がる、だんご〇兄弟~。ネタが古くて若い人には分からないと思うが、だん〇三兄弟は昔流行った歌です。下らない事をしていると、足音が近づいてくる。ちょうど仰向けの態勢でいたのがいけなかった。足音の主である葵が俺の頭の方で立ち止まり一言。
「兄さん、なにやっているんですか?」
「あ~、いや、そのね。あまりにも暇だから転がってた」
「…………程々にして下さいね」
「はい……」
悲しきかな兄の威厳は最早存在しない。アーメン。じゃなくて、そんな事より今の流れで大事な伏線があったが気付いただろうか?仰向けの態勢の俺に対して葵が俺の頭の方で立ち止まっている。そして、葵の格好はミニスカートにキャミソールだ。そこから導かれる答えとは……、パンツまる見えである。妹のパンツを見たからってなに?と言う方。それは間違っている。甲野悠にとっては実妹、中の人?精神体?の俺にとってはあくまで他人だ。言うなれば偽妹と言った所。
当然パンツが見えればハッスルするわけです。今日は薄い青かぁ~、なんて思いつつ凝視していたら流石に気付かれた。
「あの、私には幾らでもそう言った視線を向けても良いですけど、他の人には駄目ですよ。男性からの視線ってハッキリ分かりますから。どこを見ているのかも」
お叱りを受けてしまった。反省します……。少し話は変わるがこの日記を読んでいる諸兄・諸姉の皆様には妹はいるだろうか?よく聞く話では仲が良くない、ウザがられる、昔は可愛かった等だろうか。俺に兄妹はいなかったのでそういうものなんだ~と漠然と思っていたんだ。だが!うちの葵はどうだ?まさに完璧な妹ではないだろうか!仲は良好、可愛い、料理上手、兄を慕ってくれるetc。理想的な妹がここにいる。ただのブラコンじゃね~かよと思われるかもしれないが、甘んじて受け入れよう。それほど良くできた妹だ。だがいつかは嫁に行くのだろうか?それを思うと胸が締め付けられる。ずっと傍にいて欲しいというのは俺の我儘だと分かっている。葵には葵の幸せがあり、俺は全力でそれを応援する。この気持ちはそっと胸の内にしまっておこう。
今日も今日とて仕事に勤しみます。労働の喜び~!と馬車馬のように働く。兎に角忙しい。今日は最高気温が三十五度を超えるみたいで、朝から凄く暑かった。当然日中はもっと暑くなるわけで涼を求めてお店に来るお客様が激増。そして最初の流れになるわけだ。コールドドリンクが飛ぶように出る為、氷が心許無くなってきた。というわけで買い出し隊の俺が商店街まで行く事に。裏口から外に出るとむぁ~っと物凄い熱気が襲ってきた。この時点で足は店内に向かいかけたが、気合を入れてなんとか歩き始めた。ハンカチで汗を拭いながらサハラ砂漠かよ!といいたくなる暑さの中歩く、歩く。ようやっと目的のお店に到着して店内に入ると、クーラーの涼しい風が。あぁぁ~~、気持ち良い~。涼んでいる俺に店長さんが話しかけてきた。
「ハル君いらっしゃい。今日は何を買いに来たの?」
「はい。氷が無くなりそうなので纏まった量が欲しいのですが」
「ん~、結構売れちゃってそんなに残ってないんだけど大丈夫?」
「確認させてもらっても良いですか?」
「構わないわよ」
ちょっと足りないけど、なんとかするしかないか。
「じゃあ、ある分全部下さい。領収書はCafe & Bar Meteorでお願いします」
「はい。じゃあ少し待っててね」
買った氷を持参したクーラーボックスにいれて肩に掛ける。ズシっとかなりの重たさで思わずたたらを踏んでしまった。
「大丈夫かい?」
「はい。結構重いですけどなんとか運びます」
「気を付けてね。無理はしちゃ駄目だよ」
「ありがとうございます。じゃあこれで失礼します」
暑い中激重のクーラーボックスを運ぶ。トライアスロンもかくやと言う程ハードだったが、なんとか店に付いた。その足で厨房に向かい冷凍庫に氷をいれて任務完了。死ぬ……、マジで死ぬ。
「お疲れ様。本当に助かったよ。少し休んでから仕事に戻ってくれ」
「ありがとうございます。じゃあ休憩室行ってきます」
「んっ。後で冷たい飲み物持って行ってあげるから」
「おぉ~、アリスさんが優しい」
「こらっ、私はいつでも優しいだろう」
「あ~、はい……」
「含みのある返事だけど、今は気にしないでおくよ。それより早く休憩しなさい」
その後は死に体から回復したので、仕事を猛烈にこなした。仕事が終わり帰る時になっても相変わらず暑い。夏休みもあと数日で終わる。秋になれば文化祭や体育祭がある。気が早いが今から楽しみだ。夏の思い出を振り返りながら歩き続け、ふと見上げた夜空には瞬く星たち。この空を彼女も見ているのだろうか?心に輝く星の数は五つ。まだ小さくて霞んで見える星は二つ。この先どうなるかは分からない。誰かと結ばれるのか、誰ともなにも無く終わるのか。未来は無数に分岐していて、一度選んでしまえば後戻りはできない。躊躇して、足踏みして前に進むことを躊躇ってしまう。今があまりにも幸せだから。このままでいられたらと思うが、時計の針は否応なく進む。諸行無常、常に変わり続けてとどまることは無い。
果たして俺が掴み取る未来とはどんなものなのだろうか?
夏の夜空を見ながらそっと星を掴むように手を伸ばした。




