No21
白熱したビーチバレー大会を終えて戻ってきた。汗だくで気持ち悪い……。
さて、ここで選択肢が二つある。
一:海の家に併設されているシャワー室でシャワーを浴びる
二:海にル〇ンダイブする。さあ、どちらにするか?
俺は迷わず片方を選択して、水中ゴーグルとシュノーケルを掴んで走り出した。
そう、俺が選択したのは海にルパ〇ダイブする方だ!不〇子ちゃ~ん!と勢いよく海に飛び込んだ……所まではよかった。だが、思いっ切り腹を打ってしまった。当たり前だが、ジャンプして飛び込めば腹を打つ。どうしてこんな事に気付かなかったのか……。
「ぐおぉぉ~~~、いてぇ~~、はら、腹が~」
「おかーさん、あのおにいちゃんばかなの?」
「しっ!見ちゃいけません。そっとしておきなさい」
最悪だ……、幼い子供に情けない姿を晒してしまうとは。そして、母親よ。リアルで『しっ!見ちゃいけません』なんて初めて聞いたよ。
ふぅ、大分痛みも引いてきたし遊ぶか。ゴーグル装着よし、シュノーケル装着よし。とぷん、と潜り水中遊泳を楽しむ。海の中はワカメが漂っていたり、ゴミが浮いていたりする事はなく透き通っていてとても綺麗だ。心が落ち着くし、こう無重力感とでも言うのかすごくリラックスできる。火照った体も程よい感じになり、海の中をゆらゆら漂っている。あっちの方に行ってみようかなと移動を開始したんだが、その時衝撃が襲った。脚、尻、そして泳いでいるのかチラリチラリと女性のエロス地帯が見えるのだ。聡明な紳士諸君ならエロス地帯がなにか分かると思う。
泳いでいる後姿を水中で見ている。あとはなにが見えるかお分かり頂けるだろう。フォーー!!フォーー!!レイザーラ〇ンHGばりに叫んでしまったよ。あっ、シュノーケル咥えているから声は出てないよ。ここで天啓が降りてきた。このまま水中にいればいろんな人の尻やらなにやらを見れると!天才か俺!我ながら自分の才能が恐ろしい。そのまま、気づかれないように息を潜めてジーっと視姦もとい、観察をする。まるでス〇ークだな。ダンボールは被っていないけど。
ふぅ……、堪能したぜ(^_-)-☆
ザバザバと海から上がりビニールシートに座って一休み。みんなは海で泳いだり、砂浜で山を作って遊んだりしている。しばらくぼーっとしていると首に冷たい感触が。
「ひゃっ!なに?」
「お疲れの様だね。これ良かったらどうぞ」
「先輩?今ヒヤッとしたのってこれだったんですか?」
「そっ。ちょっと驚かせようと思ってね。ドッキリ大成功」
「くっ……、してやられてしまった」
「あはは。まあ、温くならない内に飲んで、飲んで」
「じゃあ、いただきます」
有馬先輩から貰ったコーラをグビグビっと飲む。シュワシュワの炭酸が喉を刺激して気分爽快!
「ぷはぁ~、生き返る~」
「もう、おじさんみたい」
「でも、思わず言っちゃうくらい美味いですよ」
「キンキンに冷えているのを選んだから火照った体には丁度良いね」
「ですね。ところで先輩はなにして遊んでたんですか?」
「シャチの浮き輪に乗って漂っていたよ」
「あ~、定番ですね。誰かにひっくり返されたりしなかったですか?」
「された……、二人掛かりで盛大にやられたよ。しかも落とされた時水着が取れちゃって大変だったんだ」
「すみません。そこのところ詳しく」
「随分と食い気味に聞いてきたね。取れたのは上の方の水着だったんだけど波に乗って遠くまで行ってしまってね。まあ、周りは女性しかいないしそのまま泳いで回収したんだ。二人にはしっかりお説教してやったけど」
ということはしばらくトップレスでいたのか。なぜ……、なぜその現場にいなかったんだ俺よ……。こんな機会はもう二度と無いかもしれないのに……。
「うん?どうしたの?いきなり元気なくしちゃって」
「あっ、いえ。ちょっと人生の理不尽さを嘆いていました」
「ふふっ、変なの」
そんな話をしながらまったりした時間を過ごしていった。
現在時刻は十五時です。え~、三時のおやつの時間です。海でおやつと言えば一つしかないでしょう。ス・イ・カ割り!もう定番中の定番。これをやらずして何をやるのかという話ですよ。クーラーボックスから冷えたスイカを取り出しシートの上に乗せて準備完了。順番決めの為のジャンケンをしましょう。みんなを見回して
「せーの!じゃんけんぽん!」
栄えあるトップバッターは楓となりました。目隠しをして棒っ切れをもったらスタート。よろよろと歩き出した姿に
「そのまま真っ直ぐ~」
「あっ、ちょっと右に移動~」
「行き過ぎー。戻って戻って」
「そのまま~……、ストップ」
「思いっきりいっちゃって!」
「えい!」
可愛い掛け声と共に棒が振り下ろされた。結果は……、残念ながら少し外れてしまったようだ。
「う~、少しずれちゃった……。くやしい」
少し肩を落としながらトボトボと帰ってきたので少し慰めるか。
「どんまい。かなりいい線いってたし大健闘だったと思うよ」
「ありがとう。でも悔しい……。この敵は次の人に取ってもらおう」
次の選手は有馬先輩。健闘むなしくスイカを割ることは出来なかった。そして、二人の無念を晴らすべく先生が立ち上がった。が……、スイカに棒はヒットした。ヒットしたんだが……、小柄なため力が足りず割ることは出来なかった。その時の顔と言ったら、もう……、ね……。この世の終わりみたいな表情で声を掛ける事は出来なかった。ここまで、三人が失敗に終わっている。次の選手は俺だ。ここらへんで一丁格好良い所を見せてやりますかと、気合を入れて棒を持った。俺のターンで全てを終わらせて見せる!目隠しをしている為前は見えない。だが、心を研ぎ澄まし集中すれば第三の目は開眼するはずだ。すぅ~、はぁ~。まさに明鏡止水の境地に至った時ついに、飛〇よろしく、額に目が現れる。見える!見えるぞ!スイカの位置が手に取るように分かる。そのまま迷わず辿り着き裂帛の気合をもって必殺技を放った。邪王〇殺剣!!!
パカッと少し間抜けな音を響かせ敵は真っ二つになった。ふっ、スイカ風情が俺に敵うはずがないんだよ。ニヒルな笑みを浮かべながら目隠しを取った。決まった!これは格好良いだろう。俺に惚れるなよ、火傷するぜ。なんて自分に酔いしれていると、周りから生暖かい視線が……。あれ~?おっかしいな~?
「あの、みんなどうかした?俺スイカ割ったぜ」
「兄さん、邪〇炎殺剣って叫ぶのはちょっと……」
「えっ?マジ?俺叫んでた……?」
「はい。幽遊〇書が好きなのは良いんですが、そういうのは出来れば一人の時にした方がいいと思います」
ぎゃあーーーー!恥ずかしい~!もう消えてなくなりたい……。
「あの、よく分からないけど格好良かったと思うよ」
「そうね。こう……いいんじゃないかな」
やめて~!追い打ち掛けないで……。先輩と先生の優しい言葉で俺のライフはゼロになった。
体育座りをしていじけていると、にょきっとスイカが目の前に現れた。
「ほら、いつまでもいじけてないで食べなさい」
「ありがとう。あと別にいじけてるわけじゃないよ」
「もう。私としては悠の子供時代を見ているようで嬉しかったんだけどね」
「はぁ~。母さんがそう思ってくれたならまあ……良かったのかな」
「ふふふ。本当に悠は可愛いわね」
「ちょ!頭撫でなくていいって。子供じゃないんだから」
「私にとってはいつまで経っても可愛い子供よ」
まったく……、でもこういう時間も悪くないな。柄にもなくそんな事を思ってしまった。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、空は茜色に染まりだしていた。そろそろ帰る時間なのでシャワーを浴びて、着替える事に。俺は着替えは車内でするので、行きと同じく葵と一緒に車に移動して着替えた。ちなみに、パンツを忘れてしまうなんていう初歩的なミスはしてないのであしからず。子供の頃はパンツを忘れてノーパンで帰った事もあったが……。みんな一度は経験しているんじゃないかな?車に荷物を積み込んでいると、着替え終わった面々がやって来た。ささっと残りの荷物もトランクに放り込んで出発進行。車内は車の心地よい振動と、疲れもあって寝息が響いている。窓から夕焼け空を見ながら今日を振り返ってみた。前世では海なんて子供の時以来行っていないからかれこれ二十数年ぶりだろうか。楽しい事、恥ずかしい事色々あったが、一番はみんなの新しい一面を見れた事だろう。
こうして一緒に遊んでみて初めて分かることが一杯あった。もっと彼女たちの事を知りたいと思うのは我儘だろうか?少しずつ、少しずつお互いの事を知っていけたらなと思う。そして心に小さく小さく芽生え始めたこの花を大切に育てていこう。肩にコトンともたれ掛かってきた彼女の寝顔を見ながらそう思った。
車が速度を落として、停車する。どうやら駅前についたようだ。寝ている人を起こしつつ、荷物をトランクから出していく。
「今日は本当に楽しかった!また遊ぼうね」
「私も楽しかった。ハル君の面白い一面も見れたし」
「今日はありがとう。楽しい思い出が作れてよかった」
「甲野君、誘ってくれて本当にありがとう。これで仕事を頑張れるわ」
結衣、楓、有馬先輩、先生の順でお礼を言ってくれた。
「こちらこそ、楽しかったです。次はみんなで夏祭りに行きたいですね」
「も~、気が早いよ~」
「でも、楽しそう」
「う~ん、となると浴衣の準備をしなくちゃ」
「仕事を前倒しすれば行ける……かな?」
さっきと同じ順番で答えるとは何気に仲いいな。
「まあ、まだ先の話だしそれは追々ってことで」
さて、人通りも多いし長々と居座るわけにもいかない。ここでお別れしよう。
「じゃあ、今日は本当にありがとうございました。気を付けて帰ってね」
こうして海イベントは終わりとなった。車で家に向かっている中、葵が口を開いた。
「兄さん、今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。」
「んにゃ、楽しんでくれたのならよかったよ」
「それと、腕赤くなってますけど、日焼け止めこまめに塗りなおしてました?」
「いや。最初に塗ったっきりだけど」
「それじゃあ、明日辺りヒリヒリすると思いますよ」
「ノォォォォーー!」
明日から日焼けのヒリヒリ地獄が始まると知って俺の雄叫びが木霊した。最後の最後でなんとも締まらないオチである。




