No17
暑い……、まるで砂漠にいるような暑さだ。喉がカラカラになり、水を求めるもどこにも無い。このままでは干乾びてしまう。暑い……、暑い……、暑い……。ハッと目が覚めたら汗が目に入った。痛って~、クッソ。汗を拭い起き上がると見慣れた自室。室温は高く黙っていても汗が滴る程。寝る前にクーラー付けたはずと思い見てみると止まっていた。オーマイガー!なんてこったい……。夏休み初日の目覚めは最悪でした。
顔を洗い、歯磨きもして居間に入ると冷蔵庫に直行。お腹が減ったのでガサゴソ漁っていると
「兄さん、おそようございます」
「ああ。おはよう」
「もうお昼ですよ。少し寝過ぎでは?」
慌てて時計を見ると十二時を過ぎていた。
「寝過ぎた……、貴重な時間を無駄にしてしまった」
そう言った後お腹がグゥ~と鳴り栄養を催促してきた。
「今からお昼ご飯を作るので少し待っていて下さいね」
「んっ。サンキュウな」
葵がご飯を作ってくれるので大人しく待つ事にする。椅子に座って料理している後姿を眺めているんだが、キャミソールにショートパンツ姿でエプロンをしているので見ようによっては裸エプロンに見えなくもない。そんな事を思った後ほんっとうに下らない事考えてんな俺……、なんて少し後悔。しばらくするとテーブルに料理が並び食べる事に。手を合わせて二人一緒に
「いただきます」
今日のお昼はお蕎麦です。薬味はネギ、梅、生姜、大根おろし、大葉、オクラ。夏と言えば蕎麦や素麺が定番だろうか。冷やし中華なんてのもいいかもしれないが今日は蕎麦だ。ツルツルっと啜り噛んで飲み込むと、梅の香りが鼻から抜けていく。美味い!
「う~ん、美味しい。葵は料理上手だな」
「ありがとうございます。薬味は定番の物を用意したんですが、どうですか?」
「うん、どれも美味しいよ。冷たくて火照った体を冷やしてくれて心地好いし」
「最初はご飯ものにしようかと思ったんですけど、兄さんが汗をかいていたので冷たいものに変更したんですよ」
「ありがたい。さすが葵、よくできた妹だ」
「ふふふ。そう言われると照れますね」
こんな会話をしつつお昼を食べていった。
さて、午後からはどうしようかな?今日はバイトも無し、予定も無し。母さんは仕事でいないし家には俺と葵だけ。取り敢えずソファに座って考えるか。どうすっかな~と思案していると、トスンと横に座る人が。
「兄さん、今日は何か予定があるんですか?」
「んにゃ、なんもないよ。なにしようかなって考えている所」
「じゃあ、ゲームしませんか?」
「おっ、いいね。なにする?二人でプレイできるのがいいよね」
「う~んと、マ〇オカートとかどうですか?」
なん……だと……。自慢じゃないが前世ではマリ〇カートの鬼と言われた俺だぞ。腕は鈍っていないはずだし、やるか。
「いいよ。ただ手加減はできないぜ」
「構いませんよ。でも私へたっぴなので迷惑をかけるかもしれません……」
「大丈夫、大丈夫。ゲームは楽しむものだしね」
そうしてプレイし始めたんだが……。最初は俺が圧倒してドヤ顔を決めてたんだけど、やればやるほど葵がどんどんと上達していき徐々に負け始めてきた。このままでは俺の渾身のドヤァが出来なくなる……、間違えた。兄の威厳が無くなってしまう!今から本気出す!!………………なぜ……負け続けているのだ?もしかして、俺ヘタ……なのか?プレイしながらチラリと対戦相手を見ると、コーナーで身体を傾けたりジャンプする所で自分も小さく飛んだりと可愛らしい動作をしている。
もしやこれが勝利の秘訣なのか?真似するか迷うが、俺のプライドがそれを許さなかった。その後も何戦か遊んだが、負け越している。急激に上手くなっている以外にも、画面のキャラの動きに合わせて葵も動くものだから当然隣にいる俺に接触する事になる。腕とか脚とか胸とか当たるわけですよ。別に妹なんだし気になんないんじゃないの?なんて思うかもしれないが、前世では俺には姉妹はいなかった。
そして、この体に憑依?意識のみ転生?している訳で生まれた時から一緒にいるわけではない。なので妹とはいえ多少なりとも身体的接触があればドキドキするわけで……。こう言った点も負けている要因ではないかと思う。まあ、お前が下手なだけだよと言われてしまえばそれまでなんだが……。
しばらく遊んでいるとふぁ~と欠伸をする音が聞こえた。隣を見ると目を擦りながら眠そうにしている姿が。
「眠いなら少し寝たらどうだ?」
「うぅ、そうします。兄さん、膝枕してもらってもいいですか?」
「あぁ。構わないよ」
そうして、横になった後すぐに寝息が聞こえてきた。可愛らしい寝顔を見ながら思いを馳せる。俺は兄としてしっかり出来ているのだろうか?この身体に俺が入る前はどんな接し方をしていたのだろうか?そして……、好意を持たれていたのだろうか?好意……、葵が向けるものは家族愛ももちろん有るが、異性に向ける物も確かに感じている。俺の勘違いかと最初は思ったものだが、毎日一緒に居れば嫌でも分かる。異性として俺を好きだという事が。この世界では男性が少ない為、兄弟を好きになる事もあるかもしれない。だが、前世での倫理観で言えばそれはタブーだ。決して実らぬ恋であり、兄としては早々に他の男性に目を向けてもらうのが当然だとも理解している。そう……、理解はしている。だが、葵が他の男と親しそうに話したり遊んでいる所を想像するとなんとなくモヤッとする。まあ、大事な妹なんだし、そう思って当然だろう。そうして、自分の中に生まれかけた何かに蓋をした。
時刻は夕方を少し過ぎたくらいか。モゾモゾと動きがあったので下を見ると目を擦りながら
「おふぁようございます」
「おはよう。よく寝てたな」
「兄さんの膝枕が気持ちよくてぐっすりでした」
「それはなにより。でも夜眠れるか?もう夕方少し過ぎてるぞ」
その言葉にバッと時計を見て
「うぅ……、もうこんな時間とは……」
起き上がり手櫛で髪を整えつつなにやら準備を始めだした。冷蔵庫の中を確認したり、着替えに行ったり。準備を終えたのか居間に戻ってきた後
「兄さん、夕飯でなにか食べたいものはありますか?」
「ん~、なんでも『なんでもいいは無しで』……はい」
喋っている途中で華麗にインターセプトされた。どうすっかな~。冷たい物ばっかりだと体に悪いし、かといって鍋とか暑すぎてキツイしな。ここはみんな大好きなあれにしようかな。
「ハンバーグとかどうかな?」
「ハンバーグですか。んっと……、うん材料は大丈夫ですね。じゃあ夕飯はハンバーグに決定です。じゃあちょっと買い物に行ってきますね」
「量は沢山買うのか?」
「そこまで多くはないです。ただ、お米を買うので少し大変ですね」
「なら、俺も行くよ。荷物持ち担当で」
「良いんですか?お米結構重たいですよ?」
「大丈夫。米袋の一つや二つ余裕だよ」
「さすが兄さんです」
「じゃ、行こうか」
こうしてスーパーに買い出しに向かった。
米袋の一つや二つ余裕だよと言ったな、あれは嘘だ。正直舐めていた。重い……、しかも袋の持ち手が手に食い込んで痛い……。だが、一度言った手前撤回はしない。武士に二言はないのだ。そんな俺をチラチラ見つつ少し思案気な顔をする妹。
「兄さん、ちょっといいですか?」
「ん?どした?」
「袋の持ち手を片方貸して下さい」
言われたとおりに渡してみる。するとどうでしょう!袋の持ち手を片方ずつ持つ形になった。これは稀にアニメやドラマでみるシーンではないか。これは貴重な体験だぞ!なんて思っていると
「少し恥ずかしい。でもこれで重さは半分なので兄さんも少し楽になったかな?」
「米袋くらい余裕って言ってたのに情けない所を見せたな。でもありがとうな」
「いえいえ。これくらいお安い御用です」
スーパーの袋を二人で持ちながら夕焼けに照らされた道を歩く。
「最近はバイトや期末試験で忙しそうだったので、こうして二人で出かける事が出来て嬉しいです」
言われてみれば確かにそうだな。買い物とかどこかに遊びに行ったりとかしてなかったな……、寂しい思いをさせてしまっただろうか?兄として失格だな。今後はもう少し気を付けよう、大事な妹なのだから。
こうして夏休み初日は過ぎていった。初手で寝過ぎという失敗をしたが、その後は概ね良い感じだった。葵との仲も少し深まった気がする。うん、悪くない一日だった。そんな事を考えながら眠りについた。
あっ、ちゃんとクーラーはタイマーをセットして朝まで稼働するようにしているので無問題。二度同じ過ちは犯さないのだよ! ニュフフフ




