LastNo
「準備出来た?」
「うん。大丈夫だよ」
「それじゃあ荷物を車に積もうか」
「気合入れていくよ~」
そう言って結衣が腕まくりをしだす。
それにつられたのか子供達も同じようにしだした。
「わたしもがんばるー!」
「いっぱいにもつはこぶー」
「頑張るのは良いけど無理はしないようにね」
「うん!おとうさん、たくさんはこんだらほめてくれる?」
「勿論だよ。これでもかってくらい褒めるよ」
「がんばる~!」
こりゃ、張り切りすぎないようにこまめに見ておいた方がいいな。万が一怪我でもしたら折角の旅行が台無しになるし、悲しむだろうからな。
「あなた。私達も見ていますから安心して下さい」
「んっ。ありがと。葵も無理はしないようにな」
「はい」
こうしてキャンプ用品やらなんやらの積み込みが始まる。と言っても人数が多い為割とサクサクと進んで約二十分ほどで完了した。その後は施錠の確認をして車に分乗してレッツゴー。
あっ、ちなみに一台では全員は乗れないので二台に分かれて乗っています。子供が幼稚園に上がるタイミングで一台新車を購入したんよ。高かったけど、こうして全員で移動する際には便利だし買って良かったと思う。
それはさておき目的地までは何をしているかと言うと、妻や子供たちのお喋りに付き合っている。
幼稚園児というと言葉もある程度覚えて兎に角話したがる年頃。家の子も例に漏れずこれでもかと言う程喋っている。例えばこんな感じで。
「おとうさん、おかしたべたい」
「今食べたらお昼ご飯食べられなくなるよ。もう少しだけ我慢できない?」
「うぅ~、おなかすいたのー」
「んー、柚子。お菓子って何があったっけ?」
「スナック菓子とお煎餅しかないわ」
「了解。どっちが食べたい?」
「おかし~」
「あはは。お菓子か。両方ともお菓子なんだけどスナック菓子の方かな?」
「すなっくがし?」
「ポ〇トチップスとかう〇い棒とかの事だよ」
「すなっくがしたべたい」
「んっ。分かったよ。えっとどこに仕舞ってたっけ……」
「はいどうぞ」
「ありがと」
「食べる量は半分くらいにして下さいね。食べ過ぎないように注意してないとついつい全部食べてしまうので」
「了解。ありがと柚子」
「どういたしまして」
柚子から手渡されたスナック菓子の袋を開けると、車に乗っている子供達が一斉に群がってくる。普段は葵お手製のお菓子を食べているんだけど、流石に旅行の時にまで用意して貰うのは違うから今回は市販品となっております。
「美味しい?」
「お母さんが作ったおかしのほうがおいしい」
「それはそうだ。葵が作ったお菓子は凄い美味しいからね」
「うん!でもりょうがすくないのがいや」
「食べ過ぎは身体に悪いし、太っちゃうよ?それでも良いの?」
「いやー!ふとっちょになったらおとうさんにきらわれるもん!」
「いやいや俺は例え太っても大好きだし、可愛いと思うけどな」
「でもいや!」
うーむ、この年にしてスタイルを気にするとは大したもんだ。俺がガキの頃なんて一切考えなかったし、ご飯とかモリモリ食べてた気がする。男女差もあるだろうが、子供の頃なんてそんなもんだろ。
当然この世界では違う訳だが、刷り込みと言うか同調圧力というか常識と言うかそう言ったものが全力で働いた結果がこれなのだろう。今更悪いとか変だとか言うつもりはないけどさ。
「あらあら。女の子ねぇ」
「わたしおんなだよ?」
「ふふっ。そうだけど体型に気を使ったり、お父さんが大好きで嫌われたくないという所を言っているのよ」
「おかあさんはおとうさんがすきじゃないの?」
「勿論大好きよ。この世の誰よりも愛しているし、大事な人よ」
くっそ、真顔でそんな事を言われると照れる。
思わず耳まで真っ赤になってしまったよ。
「あなたったら顔を真っ赤にして。可愛い」
「くっ、柚子がいきなり照れることを言うからだろ」
「あら、私の本心ですよ。あなたは違うのかしら?」
「……俺も同じだよ。愛しいるし、大事な人だよ」
「ありがとう」
ぐぐ~、あっさりと返されてしまった。こういうのはどうしたって男に分が悪い。
いつだって男は弱い生き物なのさ。ふっ…………。
なんてやり取りをしている内に目的地に到着。
ささっとログハウスに荷物を移動して少し休憩。
ざっと家の中を見回ったけどパンフレットで見たよりも諸々整っている。正直持ってきたものの中で要らない物もあったけどまあそれはいいだろう。使う機会があるかもしれないしさ。
お茶を飲みつつ他愛も無い話を暫しした後は、散策をします。
都会では決して味わえない大自然を堪能出来るし、大人にとってはリフレッシュになり、子供にとっては未知の発見や新しい経験を得られる機会だろう。という訳で早速行ってきます。
「ふー、風が気持ちいい」
「そうですね。木々の香りと柔らかく吹き抜ける風が心地良いです」
「こういう気持ちを抱くのも普段コンクリートジャングルに住んでいるからなんだろうな」
「自然が多い場所で暮らしていたらまた違った感想になるんでしょうね」
「だね。……なんだかんだ言ってこうして森の中を歩くなんて高校時代の林間学校以来だな」
「あー、懐かしいですね。兄さんが数日居なくて凄く寂しくて枕を濡らしていた思い出があります」
「そうなの?それは葵には悪い事をしたな」
「いえいえ、昔の事ですから。今となっては良い思い出ですよ」
葵と昔話をしていたら、横から莉子さんが懐かしい出来事を暴露してきた。
「そういえば林間学校の時悠から幽霊に間違えられたのよね」
「えっ!?そうなんですか?」
「ええ」
「ちょ、莉子さん!それは俺の黒歴史だから言わないで」
「私気になります」
「要点だけ纏めるとその日の夜は雨が降っていてね。私は見回りで廊下を歩いていたんだけど、そこに悠が前からやって来たの。その時生徒はもう寝ているだろうと思ってパックをしたままだったんだけど薄暗い廊下、しかも外は雷鳴が鳴り響く雨模様。そんな中真っ白の顔をした人が居たらどう思う?」
「私だったら叫んじゃいます。幽霊が出た~って」
「そう。悠も同じ反応をしたのよ。あんなにビックリして混乱している悠を見たのは後にも先にも初めてだったわ」
「ふふっ。私も見てみたかったです」
「うぅ、二人とも勘弁してくれよ」
「「はーい」」
全く付き合いが長いと色々と知っているから困ったもんだぜ。
俺は完璧超人な妻達と違って結構やらかしている事が多々あるからなぁ。それらをほぼ全部知っている存在が六人もいると思うと薄ら寒い物を感じる。
くっそ、何時か俺も妻達の黒歴史を探し出して暴露してやる。
そんな無駄な決意を胸に抱きつつ散策は続く。
時間は流れ今は夜。辺りは既に真っ暗で周りのログハウスから漏れる僅かな明かりしかない。既に夕飯も食べ終わり、準備も終わった所でキャンプのメインを楽しむ時間となった。
そう!星空観賞だ。このキャンプ場の売りであり大人気の星空観賞。今回俺達が見る場所は特別に用意して貰ったマル秘スポットだ。運営会社からのご配慮により幸運にも一般人が立ち入れない場所で見れる事になったのは有難い限りです。
場所は明るい内に一度足を運んでいるので、案内が無くても問題なく辿り着ける。
そうして今俺はここに立っている。
「うわー…………なんていうか言葉が出ないな」
「うん」
「そうだね」
「はい」
「綺麗」
「凄いです」
「思わず溜息が出るわね」
結衣、楓、葵、柚子、真白さん、莉子さんの順で答えを返してくる。
満天の星空という言葉が霞むくらい辺り一面に敷き詰められた星々。
まるで手を伸ばせば届きそうな程近くにあると錯覚させられる程大きく、そして綺麗に見える。
子供達もはしゃいだ様子はなくただじっと美しい星空を眺めている。きっと子供ながらに思う事はあるのだろう。この決して都会では見る事の出来ない光景を幼い時に見る事が出来るのは人格形成に置いて非常に良い方向に役立つ事だろう。
「おとうさん。おほしさまたくさん!」
「そうだね。普段は少ししか見えないけど空にはこんなにも沢山の星々が輝いているんだよ」
「キラキラしててきれい。あっ、あのおほしさまほかのよりたくさんキラキラしているよ!」
「うん。あれは一等星っていって一番輝いている星なんだよ。それにほら、あの星の天頂近くにはぺガススの大四辺形が広がっていて、ゆっくりと夜空を駆けて行っているんだよ」
「おとうさんすごーい!たくさんしっているんだね!」
「あはは、今回の為に少し勉強したんだよ」
「わー、おとうさんかっこいい!」
そう言って抱き付いてくる娘の頭を撫でながら、再び夜空を見上げる。
この世界に初めて来たときは何も分からず、混乱と恐怖で一杯一杯だった。
元の世界に帰れる方法があるかもしれないと知った時は興奮と歓喜に包まれた。
恋人が出来た時は喜びよりも不安や、恐れが強かった。
俺がこの世界の人間では無いと告白した時は殺されても仕方ないと思っていた。
結婚なんて夢物語だと思っていたが、六人の妻を娶る事が出来た。
子供が生まれ父になり、四苦八苦しながらも楽しい生活を経験できた。
俺は愛を知らない。
好き=Likeでは無く、好き=Loveを前世の俺は終ぞ知る事は無かった。
それが悲しいとか、寂しいとか、空しいとか思う事も無く。
何の因果か男女比が一対十の世界に迷い込み暮らす事になった訳だが、それは夢幻ではなく現実なのだ。この世界で俺は何を成して、何者になれるのだろう?
その答えは未だ分からないが、ただ一つだけ分かる事がある。
この世界で俺は……大切な人と出会い、愛を知り、幸せを手に入れた。
どこまでも広がる満天の星空よりもなお光り輝く宝物をこの手に掴むことが出来たのだ。
これから先様々な問題や困難に直面するだろう。
苦しくて、辛くて、逃げ出したくなる時があるかもしれない。
でも、愛する妻達と子供達が居れば乗り越えられる。
星々が輝く空に一筋の軌跡が描かれる。
どうかこの幸せが何時までも続きますようにとそっと流れ星に願う。
横を見れば同じように願い事をしている妻と子供の姿が見える。
俺の旅路はまだまだ続いていくが、記録を残せるのはここまでだ。
最後に今この日記を読んでいる君に伝えたい。
『ありがとう』
完




