No159
「甲野君は最近休暇とか取っているの?」
「お店の定休日しか休んでいませんね。流石に何日も休むのは色々と影響が大きいので」
「飲食店だものね。でも精神的にも肉体的にも纏まった休みを取ってリフレッシュするのは大事よ。まだ若いから無理は効くだろうけど後々影響が出てくるからね」
「分かってはいるんですが、なかなか……」
「貴方の担当医として言わせてもらうなら、ここらで三・四日休みを取ってもらいたいわね」
「んー、仮に休みを取ったとして今の時期だとどこに行くのが良いんですかね?」
「あら、そんな貴方に朗報よ。実は知り合いからキャンプ場の無料チケットを貰ったの。それで良かったらどうかしら?」
「良いんですか?」
「勿論よ。私は仕事で行けないし、それなら有効活用してくれる人にあげる方がいいわ」
「ちなみに俺キャンプとかした事無いんですけど、設備とかはある程度揃っているんですか?」
「チケットと一緒にパンフレットも貰ったんだけど、それによるとテントに寝泊まりするパターンとログハウスに泊るパターンがあるみたい。ログハウスはキッチンやトイレ、お風呂も完備していてその他も必要な物は一通り揃っている感じね」
「それなら初心者でも問題ないですね。場所はどこになるんですか?」
「ここから車で二時間くらいね。そこまで遠い訳じゃないから、負担もそこまで大きくないと思うわよ」
「ですね。子供もまだ小さいのであまり遠くには行けないので良かったです」
「そういえばお子さんは今幼稚園に通っているんだっけ?」
「はい。上の子も下の子も幼稚園に通っています」
「そう。暫く会っていないけどきっと成長しているわね」
「ですね。家でも元気一杯で大変ですよ」
「あら、てっきり甲野君にべったりだと思っていたわ」
「それは間違ってないです。すぐに抱き付いてくるし、どこに行くにも後ろを付いてくるんですよ」
「可愛らしいわね。お父さんが大好きなのね」
「将来はお父さんと結婚する~って常々言っていますよ。……でも思春期を迎えたら、『お父さん臭いから近寄らないで』とか『お父さんの物と一緒に洗濯しないで』とか言われると思うと今から憂鬱です」
「あははは。それは杞憂だと思うわ」
「そうですか?こういうのは定番だと思うんですけど。ある意味父親の宿命と言うか、悲しき運命と言うかそういった感じで」
「甲野君に限ってそれは無いと思うな。というか、父親と一緒に暮らしていてしかも仲が良いなんて事例は見た事が無いから予想になるけど」
「やっぱり相当珍しいんですか?」
「恐らく世界で数例あるかないかくらいじゃないかしら?……下手したら世界初かもしれないわね」
「そこまでですか!?」
「ええ。正直学術的観点から言って甲野君のお子さんがどの様に育つのか非常に興味があるわ」
「でしょうね。俺としてはすくすくと成長して、何時までも健やかでいてくれれば十分です」
「親としてはそうよねぇ。……おっといけない。話が大分脱線してしまったわ」
「えっと、キャンプ場ですよね」
「そうそう。それでね、そのキャンプ場の売りが満天の星空なの。それはもう凄く綺麗でリピーター続出らしいのよ」
「良いですね。今時分は暑くも無く寒くも無く丁度良いですし、秋に差し掛かり木々も色付いてきているので景色も楽しめるしでタイミングとしてはバッチリか」
「そうそう。それにお子さんにとっても良い経験になるんじゃないかしら?」
「ふむ……。よし!それじゃあ近いうちに休みを取って行ってみようと思います」
「分かったわ。それじゃあ、チケットとパンフレットは今度郵送するわね」
「お願いします」
こうしてキャンプ旅行行きが決定したのであった。
女医さんと久し振りに沢山話した日から数日。
今日は定休日でお店の営業は無し。どこかに出掛ける事もせず、居間のソファに座りぼぉーとしている。お前さぁ、子供達と遊ぶなり奥さんと交流するなりしろよ!と言われるかもしれないが、こうして何もせずダラダラしている時間も大切なのだよ。だってすぐに子供たちが……ほら。
「おとーさん!あそぼー」
「んー、何して遊ぶ?」
「えっとね、たんけんー」
「探検?どこを探検するのかな?」
「おうちのなか~」
「いいよ。じゃあ探検しよっか」
「うん!」
ダラダラとした時間は僅か十分ほどで終了しました。ありがとうございます。
さてさて、娘たちと家の中を歩きだして最初に訪れたのは庭だ。
そこには洗濯物を干している莉子さんと柚子の姿が。
「あら、どうしたの?」
「おとうさんとたんけんしてるの」
「あら、そうなのね。今お母さん達はお洗濯をしているんだけど、手伝う?」
「うん!」
「それじゃあ、これをハンガーにかけてくれる」
「わかったー」
いつの間にか探検が洗濯物干しに変わってしまったが、すぐに飽きるだろう。
それまでは微笑ましい光景でも見ているかな。
物干し竿に掛けられている洗濯物は大量にある。それはもう大量に。十三人分なので当然なんだけど、何回見ても圧巻だな。なにより目を引くのが色とりどりかつ多種多様なサイズが並んだ下着だ。六人ともサイズや趣味が違うので当然だけど、マジで目の保養になる。着用している姿を見るのも勿論最高だけどなんて言うのかな……干しているのを見るのもまた興奮するんだよ。俺が特殊性癖持ちって訳じゃなくて男性なら多くの人が共感すると思う。
「あなたったら、ジッと下着を見てどうしたの?」
「んっ、ちょっとね」
「そう。エッチな事を考えていたのかしら?」
「…………否定はしない」
「やっぱり。でも干している下着に興奮するよりも身に着けている姿を想像して欲しいな」
「それも考えていたよ。どっちが良いかなんて言うまでも無いよね?」
「ふふっ。ありがとう。今夜は一杯サービスするわね」
「それって」
「おとうさん、つぎのばしょにいこう!」
娘からの催促により俺の言葉は尻切れトンボになってしまった。
気になるがはやく、はやくとせがんでいる為早々に移動せねば。はぁ~、残念。
と意気消沈していたが、去り際莉子さんが艶めかしくウィンクをしてくれた事で全ては繋がった。これは栄養ドリンクを飲んでおいた方が良いだろう。
ハッスルハッスル!!
お次に訪れたのは俺の自室だ。
……普通にもっと行くところがあると思うんだけどなぜに俺の部屋なんだろう?
特に珍しい物や面白い物があるわけで無し、特に楽しいもんでも無いだろうに。因みに俺の自室は結構殺風景だ。PCに本棚、ベッド、机、後は書類を整理するBOXくらいなもんで改めて考えると物が少ないな。でもこれと言って困る事があるわけで無しいいんだけどさ。あー、妻達からはもう少し物を置いてみたら?と何回か言われた事があるが、なんか違うんだよな。ごちゃごちゃした空間ってこう……落ち着かないんだよ。賛同する人は少数だとは思うけど。まあそれはさておき、子供たちはと言うと……。
「わー、おとうさんのにおいがする~!」
「ねー!いいにおい~」
「えぇ、もしかして臭かったりする?」
「ううん。わたしこのにおいだいすき!」
「わたしもー」
「そっか。まあ臭くなくてよかったよ。それで探検に来たけど何か見たい物はある?」
「おとうさんのベッドでねるー」
「んっ?お昼寝の時間にはまだ早いよ」
「でもねるー」
「わたしもー」
「そっか。じゃあ寝ていいよ」
「「やったー!」」
俺の了解を得たと同時にベッドへとダイブしてゴロゴロと転がり始めた。
キャッキャッと楽しそうにしていて、見ているこっちも癒される。
はぁ~マジ天使と思っていると、いきなり布団を徐に鼻に押し当てスゥ~と深呼吸をしだした。すわ何事と心配する間もなく恍惚とした表情を浮かべる娘達。目はトロンと蕩けて、口元はだらしなく開き身体は脱力しきっている。この光景だけを見たならヤバイ薬をキメているジャンキーだが、ただ布団の臭いを嗅いだだけだ。別に娘に薬物をキメさせた訳では決してない。そこを勘違いしないように。
「こんどからおとうさんといっしょにねる」
「うーん、構わないけどお母さんが悲しむよ」
「じゃあたまにおかあさんともいっしょにねるー」
「そっか。でも俺のベッドは大きくないから二人位しか一緒に寝られないよ」
「じゃあ、じゅんばんこにする。それならだいじょうぶ?」
「じゅんばんこか。うん、大丈夫だよ」
「やったー!」
「それじゃあお母さんには俺から言っておくね」
「おとうさんありがとう」
今は幼いからこうして可愛らしい事を言ってくれるが、小学生に上がれば二度と無いんだろうな。今だけ味わえる幸せと言うやつか。諸行無常とはよく言ったもので、だからこそ今この瞬間を大切にしなければいけない。折角だから写真でも撮っておこうかな。昔はこんなだったんだぞーって話のネタに出来るようにさ。あ~でも嫌がられるかな?見せるとしたら思春期を過ぎてからの方がいいかも。
なんて考えているとどうやら睡魔が襲って来たらしく、娘たちの瞼がどんどんと下がっていく。
「おとーさ……」
「もっと……あそぶ……の」
「一杯遊んで少し疲れたみたいだから、少し早めのお昼寝をしよっか」
「「う……ん」」
「おやすみ」
限界を迎えたのかすぐにスヤスヤと寝息をたてはじめる。
一時間もすればお昼だし、それまでは寝かせておいてあげよう。
起きたらまた元気一杯に走り回るだろうし、今はゆっくりとお休み。
愛娘の頭を優しく撫でながら、寝顔を見る幸せな時間は暫く続くのだった。




