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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
社会人編
159/163

No158

「あなた。ちょっといいかしら?」

「大丈夫だけど、どうしたの?」

「実はお客様から昨日で終了した季節限定のスウィーツを何とか売ってもらえないかって言われて」

「あー、それはタイミングが悪かったとしか言えないけどお客様には昨日で終了したって伝えたの?」

「うん。そしたら凄い残念がってて失礼だと思ったけど理由を聞いてみたの。そしたらSNSでスウィーツを見てどうしても食べたくて遠方から遥々お越しになったんだって。それを聞いたら何とかしてあげたくて」

「そっか。そう言う理由なら特別に何とかできないか葵に聞いてみるよ」

「お願い。無理を言ってごめんなさいね」

「構わないよ。理由が理由だしね」

楓から話を聞いた後厨房へ。こう言った事はごく稀にだがある。理由は様々だが出来る限り商品を提供するようにはしているんだけど、実際問題これが正しいのかは分からない。チェーン店であれば問答無用で無理ですと言って終わる話だし、個人店ならではの問題だから本当に難しい。

頭の中で考えを捏ね繰り回しながら厨房へ行くとすぐに葵の姿が見つかった。

「葵。今大丈夫?」

「はい」

「来店中のお客様が昨日で終了した季節限定のスウィーツを目当てに来たらしいんだけどさ、今から作る事は可能かな?」

「そうですね……、材料は少し余っているので二人分までならなんとかなりますが、何人くらいですか?」

「一人だよ」

「では問題ありませんね。今から作るので少し時間がかかるのでその旨お伝えして貰ってもいいですか?」

「OK。じゃあ出来上がった頃合いにまた来るね」

「はい」


こういう場合は材料が無くて断念する場合もあるから、今回は運が良かった。スウィーツに関しては材料や原価含めて葵が管理しているから俺は帳簿の上でしか分からないからな。見た感じきっかり提供日数通りに材料を用意している感じだから今回は迷惑を掛けてしまった。

あとでお礼と共になにかしてあげよう。もしくは今日の晩御飯に一品葵にだけ付けたそうかな?

葵へのお礼を考えつつホールへと戻り仕事を再開。

暫し後お客様へと商品を提供した所大層喜んでくれた。俺としても笑顔を見れて大満足です。

客商売をしてて思うのはお客様の笑顔や喜んでくれる様は無い物にも代えがたいなという事だ。一般的に接客業は三Kと言われていて離職率が非常に高い。確りとした目的や、理由が無いと続けられない仕事だけど、その分やりがいはあるし楽しい事も多い。個人的には色々なお客さんとお話をしたり、知り合えたりするのが一番かな。この男女比が歪な世界だからこそそう思うのかもしれないけど。

なにはともあれお仕事、お仕事。


「優ちゃん、時間になったから休憩しようか」

「はい」

「それじゃあ、休憩にいってきます」

「「いってらっしゃい」」

ふぅ。疲れた。休憩室の椅子に座りながらだらしなく身体を伸ばしてしまう。

「お疲れ様です。今日はお客様が多くて大変ですね」

「だね。お店としては嬉しい限りだけど、働く身としてはちょっとキツイ」

「ふふっ、分かります。全員フル稼働なのに手が回らないのでお客様には申し訳ないですけど」

「それは仕方ないよ。どうしたって全てを網羅するのは難しいしさ」

ズズッとお茶を飲みながら仕事に関しての話をしているが、限られた人数で営業している為どうしてもキャパは小さくなってしまう。じゃあバイトを雇えばいいんじゃない?と考える人もいるだろうが、そう簡単な話じゃない。人件費や教育にかかる時間、職場に慣れるまで相応の期間が必要だし、そこまでやっても途中で辞めてしまう事もある。大手のチェーン店ならば話は別だろうが、個人経営だと本当に難しいんだよ。それに毎日混雑して手が回らないって訳じゃないしね。

「それはそうと、優ちゃんもいい年だし結婚とかは考えていないの?」

「結婚ですか……」

「あっ、話したくなかったら言わなくて良いよ」

「大丈夫ですよ。今の所結婚は考えていませんね。というか女装している男性を好きになる女性はいないと思いますし。それに今の環境に満足しているっていうのもありますね」

「そっか。でもウチの子達の相手とか大変じゃない?」

「全然です。寧ろ『優おねえちゃん』って懐いてくれて、こう言うと変かもしれないですけど僕にも子供が出来たみたいで凄い嬉しいんです」

「なるほどね。傍から見ていても仲の良い親子って感じだし、他人から見たら尚更だろうね」

「えへへっ。もし二人で子供と歩いていたら悠さんと僕の子供って思われるんでしょうか?」

「間違いないんじゃないかな」

優ちゃんも二十代だし、超美人でスタイル抜群だからな。客観的に見て引く手あまただと思うけどそれは男性目線であって女性からしたら相当訳あり物件に映るだろうな。優ちゃんも言っていたけど子供達も凄く懐いていて実の母親の様に甘えたり、接しているから俺も時々勘違いする事もあるくらいなんだ。それに妻達と優ちゃんの関係も(すこぶ)る良好で、女子会を開いたり買い物に行ったりしているくらい。そういえばこの前も買い物に行っていたけど、何を買ったのか聞いたら秘密って言われたんだよな。

気になるし聞いてみようかな。

「そういえばさ、この前妻達と買い物に行ったじゃん?」

「はい」

「妻達に何を買ったのか聞いたら秘密って言われたんだけど、もしよかったら教えてくれない?」

「う~ん、それは僕の口からはちょっと……」

「マジか。かなーり気になるんだけど」

「…………それじゃあヒントだけ。悠さんが喜ぶ物です」

「俺が喜ぶ物……。それは身に着けるもの?それとも食べ物系?」

「身に着けるものです。でも外からは見えないです」

「おっ、急になぞなぞ感が出てきた。外からは見えないけど身に着けるもの……。もしかして下」

「そこまでです。それ以上は言ってはいけません」

「お口にチャックだね」

「はい」

まあ、ほぼほぼ当たりだろう。ていうかこれ以外は考えられないし。そして俺が喜ぶという点に注目だ。〇着で男が喜ぶなんてエロ方面しかない!もうスケスケとかクロッチ部分に穴が開いているとか、パール付きとか布面積が皆無に等しいのとか。グヘヘヘッ、これはナイトライフが捗りますな~!

「悠さん、鼻の下が伸びきっていますよ」

「おっとこれは失礼。想像したらついつい」

「もう、仕方ないですね。男性らしいって言えば男性らしいですけど」

「えぇー、優ちゃんも想像したら鼻の下を伸ばすでしょ?」

「僕の場合はそういった物を身に着ける方ですから、無いですね。着用している姿を見てもらいたいって感じです」

「言われたみれば確かに。……うん、凄く良いと思う」

「今想像しましたね」

「ちょっとだけ。でも最高に似合う事間違いなしだよ」

「ありがとうございます。いつか機会があればお見せするかもしれないですね」

「…………えっ、ちょ、マジで!?」

「機会があれば、ですけど」

さてはてその機会が巡ってくるのか否かは神のみぞ知る。

だがこう願わずにはいられない。エロ神様よ、俺に優ちゃんのエロ下着姿をみせてくれ!!と。



時刻は二十時。仕事終わりの人が沢山来る時間を過ぎた辺りで、今は客足は落ち着いている。ラッシュは十八時~十九時で近場の職場からお店に来る人で溢れかえる。夕食前に軽く一杯と言う人や、軽食目当ての人など様々だがそれは今は置いておこう。

二十時と言えば遅めに仕事が終わった人が来店するタイミングだが、今回は珍しい人が来てくれた。

「いらっしゃいませ」

「甲野君、こんばんは」

「あっ、どうもお久し振りです」

「ふふっ、病院では定期的に会っているけれどこうしてお店で顔を合わすのは久し振りね」

「はい。ではお席に案内させてもらいますね」

「お願いします」

今来たお客様はなんと定期健診でお世話になっている女医さんだ。

彼女には妻達の妊娠の際にも色々手助けしてもらって大変お世話になっている。

病院勤務という事もあって割と不規則な生活をしていて、かつ多忙で休みが中々とれず残業まみれ言う超絶ブラックな職場だと愚痴っていたけど今日は早く上がれたんだろうか?

「この時間にお店に来るなんて珍しいですね」

「今日はたまたま仕事が早く片付いてね。それで寄ってみたの」

「そうでしたか。それはなによりです」

「こんな時間に帰れるなんて本当に久々で嬉しいわ」

「いつもご多忙ですからね。おっと注文を取り忘れていました。ご注文はどうしますか?」

「そうね……。この時間だし夕飯もかねて野菜スープとオムライスをお願いしようかしら」

「畏まりました。少々お待ち下さい」

注文を受けた後厨房へ。因みに俺はホール担当兼軽食調理担当でもある。両方を熟すのは大変だがMeteorでバイトをしていた時からずっと続けているので慣れたものよ。葵の城であるスウィーツ作りをするキッチンとは別に軽食調理用のキッチンがあるそちらで調理開始。

今回オーダー頂いた品はどちらも時間がかからないのでささっと作りプレートに載せて女医さんの元へ。

「お待たせ致しました。野菜スープとオムライスになります」

「わぁ、美味しそう。早速頂くわね」

「はい」

お腹が空いていたのか、スプーンが勢いよく動いている。それなのに上品さがあり、所作が綺麗なのは彼女が良家出身だからだろう。暫しカウンターの中で仕事をしつつ様子を眺めていると、予想だにしない事を言われてしまった。この時はこの話があんな事に繋がるなんて思って見もみなかった。

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