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この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
社会人編
150/163

No149

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「二名様ですね。お席にご案内いたします」

お客様を席へと案内して注文を取り厨房にオーダーを通す。

出来上がった商品を持っていき提供。

最早身体に染みついて無意識でも出来るようになった作業をひたすら繰り返す。

こうして言葉だけで見ると非常に単調でつまらない様に思えるが、そんなことは無いんだよねこれが。毎日来店するお客様も違うし、時間がある時は雑談なんかしたりして楽しいんだこれが。

それに夜は家族団欒タイムもあるしね。今回はそんな家族の時間についてお話ししたいと思う。


「「ただいま~」」

「ただいま帰りました」

「お帰りなさい。三人ともお仕事お疲れ様」

「いつもの席は空いてる?」

「んっ。大丈夫だよ」

「じゃあ、行きましょうか」

「「はい」」

夜になり仕事を終えて帰ってきた柚子・真白さん・莉子さんがお店の方へとやって来た。

「うーん、お腹減った~」

「そうですね。丁度お夕飯時ですし」

「そうね。私も忙しくてお昼ご飯を食べ損ねちゃったからお腹ペコペコ」

「そんな三人に今日のメニューをお伝えします。今日はハンバーグカレーとなっております」

「わー、美味しそう」

「そうですね。まだ暑い日が続いていますし、スタミナがつきそうなメニューは万々歳です」

「お腹が減っていたからボリュームのあるメニューは大歓迎よ」

「今回はスパイスとか拘ってみたからいつもとは違うと思うけど良かったら感想を聞かせてね。あと、莉子さんの分は大盛にしとく?」

「ううん。大丈夫。多分残しちゃうと思うし、いつも通りでお願い」

「了解。んじゃちょっと待っててね」

いそいそと厨房に行き、下準備をしていたハンバーグを焼きつつ、カレーを温める。その間にご飯を盛り付けてトレーに載せて後は待つのみ。……焼き加減を確認してしっかり火が通っていたのでご飯の上に載せて、カレーをかけたら出来上がり。熱々の内に持って行こうか。

ここで余談だが、なぜ家の方ではなく店舗の方で夕食を摂っているかと言うと俺・葵・結衣・楓は二十三時まで仕事の為皆と一緒に食事を摂る事が出来ない。必然的に残された人たちで食事となるわけだが、それは寂しいって言われてさ。それならお店の方で食べればいいんじゃない?ってなった訳。ちょっと公私混同をしているけど、パッと見はお客様が食事しているだけだから大丈夫という屁理屈で通そうと思っている。座る場所も隅っこの方で目立たない様にしているしさ、たぶん、きっと、恐らく問題ないはず。

閑話休題。

出来上がったカレーを持っていき提供すると三者三様の反応が返ってきた。

「おー、見た目は結構辛そう。色んなスパイスの香りがするし、美味しそう」

「お野菜が入っていないのですね。これは鶏肉でしょうか。インドカレーに近い見た目ですね」

「大きなハンバーグだけど、胃にもたれないかしら。少し心配だわ」

「柚子の言う通りそこそこ辛いけど、バターを多めに使っているからヒーヒー言うような感じでは無いよ。あとインドカレーを意識して作ったんだけど真白さん良く分かったね」

「見た目がそれっぽかったのでなんとなくでけどね」

「いやいや、御見それしました。それとハンバーグは大きめだけど、豆腐やお麩を使ってヘルシーに仕上げているからサッパリ食べられるから莉子さんが心配している胃もたれとかは大丈夫だよ」

「そう。なら安心して食べられるわね」

「さっ、冷めない内にどうぞ」

「「「いただきます」」」

「んっ、美味しい。濃厚なバターの味と辛みがマッチして食が進む」

「お野菜の形が無くなるまで煮込んでいる事で旨味が凝縮されて濃厚かつ奥行きのある味になってます」

「ハンバーグもサッパリしているのに、しっかりお肉を食べている感があって美味しい」

「ふふふっ。そこまで喜んでもらえると頑張った甲斐があったってもんですぜ」

「はぁ~、本当に旦那様の手料理を毎日食べられるなんて幸せ」

「そうですね。世界広しと言えども、毎日旦那様の手作りご飯を食べられる女性なんて(わたくし)たちくらのものではないでしょうか?」

「言えてる。もうこの為に生きていると言っても過言じゃないわね」

「俺の方こそ毎日奥さんの手料理を堪能出来ているし、最高だよ」

「もう、嬉しいこと言ってくれちゃって」

「悠様にもっと喜んでもらえるように精進します」

「ふふっ。ありがとう」

かぁ~、照れながら言う表情が最高に可愛すぎる件について。もう、俺の嫁は世界一だな!もうね、だらしない顔になってもしょうがないってもんよ。だって可愛いんだもん。


なんてニヤニヤしながら、奥さんたちの食事風景を眺めていると来店を知らせるベルが静かに鳴り響く。即座に気持ちを切り替え笑顔でお出迎え。

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「甲野君。こんばんは」

「あっ、刑事さん。こんばんは」

「三人なんだけど空いてるかな?」

「大丈夫ですよ。席はテーブル席とカウンター席のどちらがよろしいですか?」

「そうだねぇ……。カウンター席でお願いできるかな」

「かしこまりました。それではご案内致します」

そのまま席にご案内~。

「ご注文が決まりましたらお声掛け下さい」

「分かったよ。うーん、丁度夕飯時だしお腹に溜まる物を食べたいな」

「でもカフェですから軽食しか無いんじゃないですか?」

「ですね。サンドウィッチとかトーストとかですね」

「ふむ。それだと数時間でお腹が空いてしまうな。どうしたものか……」

どうやらかなりお腹が空いているみたいだな。刑事さん、そして海外旅行で護衛として共に旅をした坂本さん、山下さんの三人で来店されたんだけど坂本さんと山下さんは健啖家だからな。軽食では腹の足しにはならないだろう。……基本的にはお客様にお出しする料理じゃないけど今回は特別に提供するか。

「あの、ハンバーグカレーならお出し出来ますけど食べますか?」

「なに!?いいのかい?」

「はい。と言っても私達家族の夕食として作った物なので、お口に合うかは分かりませんが」

「構わないよ。というか甲野君が作ったの?」

「はい。基本的に夕飯は私が作っているので」

「ほほぉ。男性の手作り料理を食べられるとは正に僥倖だね」

「ですね。私達も甲野さんとは結構長い付き合いですけど、手料理なんて初めて食べますよ」

「そうね。折角の機会だし、ご馳走になりましょう」

「というわけで三人分お願いできるかしら」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

いや~、余分に作っておいてよかったよ。ハンバーグは冷凍すれば数日は持つし、カレーも次の日に食べると味も落ち着いてコクや深みが出るから数人分多めに作った俺に拍手を送りたい。ナイスファインプレーだぜ!自画自賛をしつつも、しっかりと調理は進めています。

十分ほどで出来上がり、料理を持って席の方へ。

「お待たせしました。ハンバーグカレーです」

「これは……美味しそう」

「ボリュームもあるし、満腹になりそうですね」

「うん。あっ、ちなみにおかわりってありますか?」

「少しならありますよ」

「やった!」

「じゃあ、冷めない内に頂こうか」

「「いただきます」」

三人が食べ始めたが、緊張する。妻達は美味しいって言って食べてくれたけど、多少の贔屓目もあるだろうし、純粋な他人からの評価って結構怖いものなんだよね。不味いとか言われた日には枕を濡らす事間違い無しだよ。……いや待て俺よ。Meteorで数年に渡り調理をしてきたし、家でも母さんや葵に教えてもらいながら努力してきたんだ。だから大丈夫なはず。そうは思うが果たして結果は如何に?

「んっ、これは、うん、うん」

「はふっ、はふっ、んんっ」

「はむっ、はむっ、んくっ」

えー、一心不乱に食べていらっしゃいます。

ちょっと鬼気迫る感じが怖いし、こちらから話しかけられる雰囲気じゃないからもう少し待つか。


「ふぅ。人心地ついた。甲野君」

「はい。なんでしょうか?」

「私は色々なお店で料理を食べてきたけど、こんなに美味しい料理は初めてだよ」

「同感です。ハンバーグはふわとろで、カレーはスパイスがいい仕事をしていて味に奥行きがありつつ、ピリリと刺激的で本当に美味しいです」

「私はご飯がジャポニカ米ではなくバスマティライスを使っている所に驚きました。しかも炊飯器で炊いているんじゃなくてお鍋で炊いていますよね?」

「おっ、良く分かりましたね。坂本さんがおっしゃる通り鍋で炊いています。炊飯器だとどうしても火力の問題で本来の美味しさを引き出せないんですよね。幸い調理場のコンロはかなりの高火力をだせるのでこれ幸いにと本場にならって鍋で作ってみました」

「いやー、これは商品として売りに出せるよ。というか、出して欲しい」

「あはは。そう言って頂けるのは有難いんですけど、あくまで家族の夕飯なので商品として出す予定はないですね。下準備や提供するまでの時間、コストを考えると尚更ですね」

「そうか。それは残念だ」

「うぅ~、こんなに美味しいご飯が一回きりなんて殺生な~」

「我儘を言うな。甲野君の負担も考えろ。そもそも私達は甲野君の厚意でこうしてご馳走になっているんだからな」

「はい……」

やば。山下さんがシュンってしちゃった。まるで怒られた犬みたいに項垂れているよ。くっ、居た堪れない気持ちになってしまう。う~ん、こんなに喜んで食べてくれてるし、日頃からお世話になっているしここは一肌脱ぐか。よし!

「よかったですけど、事前に連絡を貰えれば食事をお出しする事も出来ますよ」

「いやいや、申し出はありがたいけど甲野君の負担になるだろう」

「問題ないですよ。七人分を作るのも十人分を作るのも大して手間は変わりませんから」

「そうか。それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「「やった!」」

「喜んでもらえてなによりです」

妻達に振舞ったハンバーグカレーが切っ掛けでこんな話になるなんて思ってもみなかった。これを機に裏メニュー的なやつでも作ってみても面白いかもな。

なんて事を考えつつ夜の営業は続いていく。

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