No131
前回の日記ではかなり時間が進んでいたが、ここで時系列を戻そう。そうだな……アクセサリーのデザインで四苦八苦していた時にしようか。バイト、コラム執筆、勉強にアクセサリーのデザインと兎に角時間が無く、精神的にもかなり追い詰められて気が狂いそうだった。このままじゃ早晩限界が来ると感じて気分転換も兼ねてヤツに会いに行く事にしたんだ。あいつも色々と環境が変わったみたいで心細いだろうしなという親友としての優しさもある。自分で言うのもなんだが。とまあそんな感じでいっちょ行きますか。
「うーす。真司、久し振り」
「おう。元気してたか?」
「死にそう……」
「あー、クマ酷いし顔色も悪いな。どしたの?」
「話せば長くなるけどそれでも聞きたい?」
「興味あるな。玄関で立ち話もなんだし取り合えず中に入れよ」
「おう」
居間に通されて出されたお茶を飲みながら一服。……これ安いペットボトルのお茶だ。客人に出すレベルじゃねえぞ。全くこれだから頓着しない男は駄目なんだよ。
「おい。思っている事が顔に出てるぞ」
「悪い。でもさ、せめて急須で入れた茶にしてくれよ」
「そもそも急須なんて持ってねぇよ。一人暮らしだし楽なのが一番」
「気持ちは分かるけどな……。それより、お前とうとう家を追い出されたんだな」
「失敬な。追い出されたんじゃなくて、自分から出たんだよ」
「そうっすか。で、生活は上手くやれているのか?」
「お袋みたいな事聞くんだな。まあぼちぼちかな」
「真理さんからは援助とか無いの?」
「無いね。成人したんだから自分一人の力でなんとかしなさいって感じだよ」
「そっか。真司も苦労してんだな」
「昔から事あるごとに言われていたから、そんなんでもないぞ。事前に準備する時間は十分にあったわけだしさ」
「やっぱお前確りしているわ」
「サンキュ。で、なんでそんな疲れた顔をしているわけ?」
「あー……それな。実は……」
話せる範囲で現状を語ったが、自分でもオーバーワークだなと思う。若いからなんとか熟せているけど、四十代とかだったら過労死しててもおかしくないからな。
「そのさ、無理し過ぎじゃね?」
「うん。でも請け負ったからには手抜きは出来ないし、信用に関わるから無理も無茶も押し通さなきゃいかんだろ」
「それはそうだ。けど身体を壊したら元も子もないだろ」
「分かっちゃいるけど、親しい相手に無理です!って突っぱねるのも難しくて」
「そこは心を鬼にして、自分のキャパに収まる範囲で仕事をするべきだな。仮に無理って言って相手が離れていくならその程度の人だったってだけよ」
「頑張ってみるよ」
「んっ。俺も経営者になって初めて分かった事だけど、仕事に対する明確な線引きは絶対に必要だぞ。その辺をなぁなぁにするのはマジで駄目だ」
「そう言えば真司さ仕事してるんだよな」
「当たり前だろ。といっても軌道に乗ったら代理社長に丸投げだけどな」
「それでも凄い事だぞ。世間一般の男は親のすねを死ぬまで齧り続ける中で一時とはいえ仕事をしているんだからさ」
「いや……それお前に言われたくないわ」
「俺は特殊って事で。んでどうなの?」
「起業してすぐだから売り上げは雀の涙程度だな。今は貯金を切り崩しながら生活してるよ」
「貯金が底をつく前になんとかなりそうなのか?」
「意地でもなんとかするよ。失敗したら野垂れ死ぬだけ」
「まさに背水の陣だな。本当にヤバくなったら言えよ。力貸すから」
「あんがと。はぁ~、婚約者にも頼れないしお前だけが頼みの綱だよ」
「…………まて。婚約者ってなに?」
「言ってなかったっけ?」
「言ってねぇよ!」
「あー、俺婚約したんだわ。といっても家の繋がりであれこれとあってさ」
「政略結婚ってやつか」
「それ。こうなる事は分かっていたけど気分の良いもんじゃないな」
「相手はどんな人なの?」
「家柄良し、ルックス良し、学歴良し、家事全般も恙無く熟す凄い人だよ」
「超優良物件じゃん」
「そうだけど、所詮は政略結婚。そこに愛情は無いのさ」
「最初はそうでも長く付き合っていくうちに芽生えるかもしれないだろ」
「だといいな。今更決まった事を覆せるわけでも無いし半ば諦めているよ」
「まっ、そこら辺も先達者として色々と相談に乗ってやるよ」
「けっ、言うねぇ。てかお前いつの間にか彼女が五人になったんだな」
「まあね。紆余曲折あってそうなりました。でも喧嘩も無く仲良くやっているよ」
「それはなにより。てかさ、あの面子で喧嘩とか想像出来ないな」
「同感。けど恋人だからどこかで遠慮している所もあるだろうし、結婚したらまた変わるんだろうなとは思ってるよ」
「そこまで視野に入れているのか」
「当然。責任は確り取るつもり」
そこら辺をなぁなぁにするつもりは毛頭ない。というかこの世界では交際=結婚前提だからな。前世みたいに遊び感覚で付き合うなんて出来ないんだよ。性格とか習慣とかの相性は付き合う前に調べなきゃいけないし、色々大変なんだ。といっても全てが分かるわけでは無いからいざ付き合ってみて思ってたのと違うという事もあるわけで。お互い改善を試みてもどうしても駄目な場合は双方合意の上でお別れとなるってわけ。七面倒と思うけど郷に入っては郷に従えってやつで無視するわけにはいかない。
「責任ねぇ。モテる男は大変だねぇ」
「人事みたいに言いやがって」
「俺には関係ないからな。てかさ、もうヤッたのか?」
「ぶはっ!?いきなりなんて事聞くんだよ」
「当然の疑問だろ」
この場に男しかいないからってぶっこんでくるな。センシティブな話題なんだし、もっとオブラートに包んだ言い方をして欲しいもんだよ。いきなりヤッたのか?って……。
「その~、なんだ……。まだです」
「ぶはははははっ!!」
「くっそ……」
「ふはははっはは。悪い。彼女が五人もいるのに未だに童貞とか……ぷふっ」
「うっさいわ!お前だって童貞だろうが!」
「そうだけど、俺は今まで付き合った事無いし当然だろ。でもお前は彼女いるじゃん。しかも数年付き合っている彼女がさ」
「身持ちが堅いんだよ。健全なお付き合いをしていると言ってくれ給え」
「久々に爆笑したわ。マジな話さお前って性欲無いの?それとも男が好きとか?」
「性欲はモリモリだし、男色の趣味はねぇよ。ムラムラした時は自家発電で処理してるし、Hな事は結婚してからのお楽しみって考えてんだよ」
「ほーん」
本音を言うとHしたいよ。盛った猿の如き勢いでしたいけど、もし子供が出来てしまったら育てられる経済力も無いし、学生を辞める事になる。大事な時期を無為にする上、就職にも悪影響を与える事は間違いない。お互いが自立してしっかり子育て出来る環境を整えてから計画的に作るべきだと思う訳よ。俺から言わせてもらえばできちゃった婚なんて論外で無計画にも程があると言わざるを得ない。
「まっ、お前なりに考えての事だろうしこれ以上とやかく言うつもりは無いよ」
「そうしてくれると助かる」
「ちょっと話は変わるがお前に頼みたい事があるんだ」
「なに?」
「優の事なんだが、あいつはあんなんだから将来結婚も出来ないだろう。働くにしたってまともな所では無理だし、条件が緩い所でもかなり厳しいと思う。言ってしまえばこのままだとお先真っ暗って事」
「そうだな。考えられるとしたら起業するか、実家のお世話になるかくらいか」
「実家は無理だな。お袋は容赦なく家から追い出すだろうし。起業にしたってあいつは商才も無いしほぼ無理だ。それで頼み事なんだが、優の面倒を見てくれないか?」
「それはどういう意味で?」
「一番良いのは妾にしてもらう事だが無理だろう?」
「無理……とは断言できないが限りなく可能性は零だな」
「おう。でさ、お前将来お店を開きたいって言ってたじゃん。そこで優も雇ってもらえないか?」
そうきたか。俺が開きたいと思っている店の業態を考えれば悪い提案じゃない。寧ろ願ったりだ。が、本人が居ない中で決めるのは駄目だろう。それに実際に開業できるかも分からない訳だし。
「俺としては有難い話だけど、どうするか決めるのは優ちゃんだよ。それと開業できるかも分からないし、上手く軌道に乗るかも不明だ。そういった点を鑑みても正直博打みたいなもんだぞ」
「それでも、お願いしたい。兄として出来る事はしたいんだ」
「そっか。分かった。後日優ちゃんも交えて話し合いをしよう」
「本当にありがとう」
そう言いながら深く頭を下げる真司。なんだかんだで真司も弟想いなんだよな。俺には妹しかいないが、仮に葵が困っていたら出来る限り力になりたいと思うし似たようなもんなのかな。
「真司もしっかりお兄ちゃんやっているんだな」
「まあ……な」
「照れながら頬を搔くな。男がやってもキモいだけだから」
「うっせー。折角良い感じで話が纏まったのにお前の一言で雰囲気が台無しだよ」
「男二人の空間に雰囲気とか求めるなよ。てかこの方が俺達らしいだろ」
「けっ。よく言うぜ」
そう。俺達の関係はこんな感じで良いんだ。持ちつ持たれつ、何かあれば互いに助け合って前に進んで行く。真司よ、お前は俺にとってかけがえのない親友だ。これからもよろしくな。言葉にしたら恥ずかしいから心の中で呟いてみる。
あぁ、斯くも男の友情とは美しきかな。




