No130
「二人揃って呼び出されるなんて何の話だろうね?」
「うーん、思い当たる節は無いかな。悠君も無いよね」
「無いねぇ。そもそも茜はモデルで俺はコラム書いてるだけだし、関係が見えないんだよね」
「そうだね。まあ行ってみれば分かるんじゃないかな」
「だね」
今日は俺と茜が揃って雑誌の編集長から呼び出されたんだ。さっき話した通りどっちかなら打ち合わせ等で呼ばれたんだなと分かるけど二人揃ってというのが解せない。チラッと話した感じだとなにやら大事な要件らしいから心構えはしているが、内容が分からないのが怖い。変な話じゃないといいけど……。
大学から電車に乗り最寄駅から歩く事少し。何度も来たビルに到着しました。エレベーターに乗り編集部へと行くと近くにいた社員さんの案内で応接室へ。嫌な予感がムクムクと首を擡げてきたぞ。
「おぉ、待っていたよ。さっ、座って」
「「失礼します」」
「わざわざ呼び出してごめんなさいね」
「いえ。構いませんよ」
「それじゃあお話をさせてもらうわね。前置きとして甲野君には雑誌でコラムを書いてもらっているけど、大好評で毎月の売り上げは右肩上がり。数年経った今でも微増しているわ。読者様からの反応も頗る良いし、読者アンケートでもダントツ人気なのよ。とここまで来れば分かるかもしれないけど是非コラボ商品の開発をとかプロデュース商品の開発を等の依頼が山ほど来ているの。甲野君の負担にもなるし最初は断っていたんだけど、余りにも断り過ぎると対面が宜しくなくてここらで一つ受けたいなという話になってね。勿論甲野君の意見が最優先だからこうしてお話をする機会を設けたの」
「あー……そう言う話ですか」
コラボねぇ。高校時代にケモ耳コスプレ喫茶をやる際に真司の母親の真理さんに頼んで関連会社に製作したもらった事はあるけど、あれは商品開発とは言えないしなぁ。問題はどこまでやるかだよな。その辺りをハッキリさせないとなんとも言えないし。
「質問なんですが、俺はどこまで関わる事になりますか?」
「理想は企画~デザインまでお任せしたい所だけど難しいでしょ?」
「それは……はい。俺は素人ですしプロにお任せできる所はそちらでやって貰えると嬉しいです」
「そうよねぇ。なんにしてもどこかしらに関わる事にはなるけど、なるべく負担の少ない部分で参加するという形かしらね」
「それが一番良いですね」
「編集長。今受けようと思っている依頼はどういったものなんですか?」
「とあるブランドからの依頼で服もしくはアクセサリーの商品開発をしたいというものね」
茜の質問に編集長が答えたがマジか。難易度高すぎだろ。
「正直感想を言うくらいしか出来ないと思いますよ。仮に俺がデザインしたとしてそれが商業的に売れなければ赤字になるわけですし、企業側としてもリスクが高いのでは?」
「それは先方も了承済みよ。デザインにしても描いてもらった案をプロがアレンジするし、原案そのままという事は無いから安心して」
「それならまあ……、大丈夫なのかな?」
「私としては悠君がデザインした物なら欲しいけどな」
「マジで?俺あんまセンス無いんだぞ」
「そんな事無いと思うけどな。この前悠君が選んでくれた服モデル仲間から絶賛されたんだから」
「あー、あの服か。茜に似合うと思って選んだけど間違ってなくてホッとした」
「うん。だから自信を持って良いと思うんだけどな」
「かな。茜に言われるとなんかいけそうな気がしてきた」
「それじゃあ受けてもらえるかしら?」
「はい。俺でよければ頑張ります」
「ありがとう。それじゃあ先方に話を通しておくから、実際に案件が動き出したらまた連絡するわね」
「お願いします」
「編集長。今から予約とか出来ますか?」
「気が早いわねぇ」
「まず間違いなく大争奪戦になるので、今から動こうと思って」
「完成した商品はサンプルとして送られてくるから、それでいいかしら?」
「お願いします。一つは絶対確保でお願いしますね。他のモデルに融通したりしないで下さいよ」
「大丈夫よ。でもサンプル争奪戦が編集部でも起きそうな感じね。関係者分として多めに確保しておいたいいかしら?今から頭が痛いわ」
「それは……、俺ではなんとも。貰えなかった人は予約して下さいとしか」
「そうよねぇ。はぁ……」
頭を押さえて悲哀の表情を浮かべている編集長に対して頑張って下さいとしか言えない俺を許してくれ。てか手抜かりなく商品をゲットする茜って中々に強かだな。ちょっと印象が変わったぞ。
こうして始まった企業との商品開発だが一から十まで書くと二十数話になるし、守秘義務契約もある為ダイジェスト形式で書こうと思う。ぼかした表現もあるがそこは了承願う。
まずは依頼先の企業の人との打ち合わせから始まった。相手がどの層をターゲットにしているのか・販売予定価格・販売時期・デザイン・その他諸々細部にわたってまで打ち合わせをした。そこからは条件をもとにデザインを描いていくことになるんだがこれが死ぬ程大変だった。女性受けするのは勿論の事俺らしさも必要だし悩みに悩んで夜も眠れない程。開発中の商品の為彼女達や知り合いに相談も出来ないし自力で頭を捻らせて完成させなければいけない。ラフを紙に描いては捨て、描いては捨てとその光景は陶芸家顔負けだったと思う。約一ヶ月半ほど地獄を見てようやく出来上がったデザインは連なる星々が煌めいている絵だ。一つの星では無く連なった星々というのがポイントだ。早速依頼先に見せた所デザイン自体は問題無いが製造はかなり技術力がいるとのこと。正直そこまで考えてデザインをしていなかったので、自分の認識の甘さを恨んでしまったよ。そこからは製造業者も交えてなるべく原案を変えずに作れないかを検討したが、無理でした。業者から頭を下げられた時には本当に心苦しくて申し訳ない気持ちで一杯だったなぁ。結局はプロのデザイナーが手を加えてなんとか形にすることが出来た。本来であればこれでお終いとなるんだけど、実は依頼先と話した際どうしても服の方もお願いしたいと強く言われてしまい請け負ってしまったんだよね。浅はかだなと思うけど、こんな機会は滅多に無いしチャレンジしてみようと思った次第で。というわけでアクセサリーが終わって、次は服です。こちらも外出着はハードルが高すぎるので部屋着でどうですか?と提案したらOKとの返事が。実際部屋着ならそこまで凝る必要も無いし楽勝だろと思っていた時期がありました。この時の俺をぶん殴ってやりたいよ。なにが楽勝だよ!滅茶苦茶難しいよ!と。そもそも女性の部屋着なんて家族のしか見た事無いし、他の人の部屋着を見る機会なんて皆無だろ。圧倒的な情報不足な上、前世でもとんと見なかったからマジ分からん状態。感覚的に家で着るものでも可愛いのが良いってのは女性ならあるだろうし、家族を見てもモコモコでピンクのとか着てたからな。物としては動きやすいようにショートパンツ&ジップ付きのパーカーが良いだろう。柄が問題だ。定番だとボーダー・動物・食べ物等だろうか。今回は敢えてその辺を除外して考えたい。
ネックレスは連なった星々だろ…………なら天体繋がりの方がマッチするか。
星……天体……太陽……月……流れ星……天の川……星座……。
んっ!?今いい案が浮かばなかったか?
……天の川と星座だ!!ショートパンツには天の川のデザインを、パーカーは星座のデザインなんてどうだろうか?結構いい感じじゃないか。よし、これで一つ案を描いてみよう。
こちらについては一週間ほどで描き上げて依頼先に見せる事が出来た。結果はデザインOK、製造先にも確認を取った所OKを貰えた。細部は打ち合わせで変更する事になるが概ね原案で通りそうで良かったよ。これでようやっと俺のお仕事は終わり。あとはサンプルが出来上がったら確認するだけだ。その他の事は依頼先企業の領分なので手出し無用ってね。
数ヶ月してサンプルが完成したとの連絡を受けて茜と一緒に編集部まで行き確認。
全体的にかなりクオリティが高いが、イメージと違う部分もあったので遠慮なく駄目だしさせてもらう。こういった所で妥協すると、後々後悔するし購入者に対して不誠実だからな。んで、そういったやり取りを数回して最終サンプルが出来上がりました。もうね文句無しの出来栄え。その場に居合わせた人達もこんな事を言ってたっけ。
「うわ~可愛い!アクセはどんなファッションにも合うし、部屋着も実用性と可愛さの両立が出来てて最高だよ!」
「完成度が高いわね。雑誌の読者層だけじゃなく、年齢問わず人気になりそう」
「編集長。これはいつ販売されるんですか?予備も含めて数着買いたいです」
「このクオリティでネックレスが二万、部屋着がショートパンツ五千円、パーカーが八千円って安すぎですよ。採算取れるんですか?」
「初回販売分を逃したら暫くは手に入らなそうだし、伝手をフルに使って絶対買ってやるー!」
等々絶賛されてしまった。デザインした人間からしたら嬉しい限りだね。こうして本当の意味で全ての作業が終わり生産に入ったわけよ。販売に先駆けて関係者に商品サンプルが配られたが、ちょっと無理を言って俺は多めに貰いました。家族の分、恋人の分、バイト先の店長とアリスさんの分、優ちゃんと金城さんの分と十一人分だから流石に断られるかなと思ったけど快く了承してくれてビックリした。頭を下げまくってお礼を言ったのは当然だよね。
時は流れていよいよ今日が販売開始日です。雑誌での広告、TVCM、車内広告、街頭ビジョンでの広告、宣伝カーでの広告等あらゆる方面から宣伝しまくってたからそれなりの商品認知度はあるだろうと考えていたがそれは思い違いだったみたい。店舗では開店と同時に即売り切れ、ネット通販も販売開始一分で売り切れ&アクセス過多でサイトに繋がらない事態に陥ってしまった。まさに爆売れ。即座に二次販売、三次販売の告知がされたが欲しい人全てに行き渡るにはかなりの時間を要するだろうと編集長が言っていた。あと早速次の商品開発の話が来ているみたい。しかも数社から。いや、無理ですから。勘弁してつかーさいと思ったのは致し方ないだろう。だって死ぬ程大変だし、俺自身もこれから忙しくなるから時間的余裕が無いんだよ。取り合えず編集長を通してお断りさせてもらおう。はぁ~、疲れた。




