表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で俺は……  作者: ねこネコ猫
高校編
12/163

No12

another view point


今日も病院へやって来た。兄さんは三日眠り続けている。お医者さんが言うには外傷は無し、精密検査の結果も問題なしとの事だがならなんで目が覚めないの?最悪の事態が頭を過る。そんな暗澹(あんたん)たる気持ちを抱きながら病室に向かうと、いつもの面子がいた。

「今日も来ていたんですね。兄さんの様子はどうですか?」

「いつも通り、眠ったままだよ。ねぇ、お願い。なんでもするから目を覚まして」

結衣さんが泣きながらそっと兄さんの手を握る。みんな、同じ気持ちだろう。先生も、バイト先の店長さんも仕事を早退してまで来てくれている。


時間は過ぎていきもう少しで面会時間が終わる。私達はそっと手を組み神様にお願いする。どうか、どうか兄さんが、ハル君が、甲野君が目を覚ましますように。


another view pointEND



まるで暗い海の中に漂っているような、フワフワした感覚。暗い、暗い、なにも見えないし聞こえない。あぁ、死んだらこんな感じなのかなとふと思う。ずっとこのまま揺蕩(たゆた)っていたい。そっと目を閉じて、ゆらゆらと揺られてどれくらいの時間が経っただろう。いや、時間という概念は無いのか?いつまでも、いつまでもこのままでいるのだろうか?そんな事を考えていると、僅かな明かりが目に飛び込んできた。小さな、小さな明かり。でも、暖かくて優しい明かり。無意識にまるで引き寄せられるかのように明かりに向かって進んでいく。徐々に大きく、強くなっていく光にどこか安心感を覚える。大切なもの、大事なもの、失くしてはいけないもの、忘れてはいけないもの。光に近づくにつれその思いが強くなっていく。あと少し、あと少しで手が届く。そして、光に手が触れた時世界は色を変えた。


目を開けると最初に飛び込んできたのは驚く顔だった。そして、すぐに泣き顔になった。なんで泣いているの?悲しい事でもあったの?そんな問いが口からでかかるが、医者の言葉によって呑み込んだ。

「甲野君、どこか痛い所や体が動かしづらいなどはない?」

言われて確認してみたが問題は無い。

「大丈夫です。どこも痛くありません。体も十全に動きます」

「そう。よかった。君は三日も眠り続けていたんだよ」

はっ?慌てて近くにあったスマホを確認すると確かに三日経っている。混乱する頭でなにがあったのか思い出そうとするとひどく頭が痛んだ。思わず頭を押さえてうずくまる俺に

「少し横になった方が良い。今はゆっくりと休むべきだ」

医者の言葉に横になるとすぐに意識は深い闇へと落ちていった。


目を開けると最初に飛び込んできたのは笑顔だった。

「おはよう」

そう声を掛けると、ぽろぽろと涙を流しながら向日葵のような笑顔で

「おはよう」

そう返してくれた。その後は色々話して、現状を理解した。どうやらまた半日以上眠っていたらしい。我ながら寝すぎだ……。そして授業中に倒れて病院に運ばれた事、凄く心配をさせてしまった事、学校や職場に迷惑をかけた事。まず、すべきことは謝罪だ。

「俺のせいでみんなにご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げて謝る。

「佐伯さんからお話は聞きました。登下校時やバイト中に気味の悪い視線を感じたり尾行をされていると。本当ですか?」

「…………はい」

「なぜ相談してくれなかったんですか?私は、私たちは……あなたの力になることも出来ないんですか?」

「そんな事ありません!ただ、みんなに迷惑をかけたくなくて……、一人でなんとかしようとしたんですが、結局迷惑をかけてしまった。本末転倒ですね……、本当にごめんなさい」

「これからは助けが必要な時は言って下さい。どんな事でも力を貸します。一人で抱え込まないでいいんです。あなたには私たちがいるんだから」

その言葉に涙が溢れる。とめどなく零れる雫は心の澱を洗い流していった。


その後いつからストーキングされているのかを話す事に。

「先生たちがカフェに来た時に初めて視線を感じました」

「やっぱりあの時感じたのは勘違いじゃなかったんだ……」

「結衣、どういうこと?」

「えっとね、商品を運んできてくれた時少しみんなで話してたでしょ?その時に視線を感じたの」

「あぁ、だから帰り際なにか考えている感じだったんだ」

「うん。楓ちゃんや先輩もそうですよね?」

「そうね。私も気のせいかと思っていたけど、もっと注意していればよかった」

「こう背筋が寒くなるものだったから、気にはなっていたんだ。生徒会長としてもっと気を付けるべきだった」

「そうね。でも今やるべきことはストーカーを何とかする事よ。まず警察に相談して対処してもらいます。学校としても早急に対応したいと思います」

「犯人は客として頻繁にお店に来ているはずだから、こちらでも営業中に怪しい人がいないか調べてみます」

先生と店長が対策を打ち出してくれたので、今後はその流れでいくことになった。さて、そうとなったら俺も動かなければいけない。退院は何事も無ければ明後日にはできると医者に言われたのでそれまでは待機。歯がゆいが今は待つしかない……。こうして、ストーカー対策についての話し合いは面会時間終了まで続いた。


そして今日無事に退院となった。真っ直ぐ家に帰る事はせず、警察署に行く為タクシーに乗り込んだ。そう、例の件で警察に色々話さなくてはいけないのだ。悪い事をしたわけではないのになぜか緊張してしまう……。二十分程車に揺られて警察署に到着。車を降りるとスーツを着たキャリアウーマンがこちらに近づき挨拶してきた。そのまま応接室まで案内してもらい、中に入る。部屋には三人の女性がいて見るからに仕事が出来る感じ。挨拶をして、すぐに話し合いが始まった。

え~っと、ちょっとまて。色々おかしいんだが。まずなぜ警察庁まで動くの?所轄の警察では駄目なの?それに県まで動くの?ストーカー被害って普通ここまで大事にはならないよね?なぜ?why?………………はい。どうやら男性に対する犯罪はかなりの重罪らしく、犯人検挙に全力で動くとの事。そもそも、貴重な男性に対して犯罪を犯すなど言語道断!処すべし!という考えらしい。有難いんだけど、ちょっとやり過ぎ感が否めない。そんな思いを抱きつつ時間は過ぎていった。


退院してから数日が経った。学校に登校した時はみんなに凄い心配されたけど、俺のせいで迷惑をかけたのでしっかり謝りました。ストーキングは依然として続いていて、精神的に辛いが今は一人じゃない。みんなに支えられているから頑張れる。そして今はバイト先に向かって歩いている所なんだが……。路地裏に入った所で声を掛けられた。

「こうして二人っきりで話すのは初めてだね。数日会えなかったけどなにかあったの?凄い心配してたんだよ。もしかしてあの()()共になにかされたの?ねぇ?ねぇ?ねぇ?」

声に振り返ると、見た目は綺麗で、上品な服装の妙齢の女性がいた。だが、目に言い知れない狂気を湛えている。その目を見た時彼女がストーカーだと確信した。どうする?周りに人はいない。逃げる?誰かに連絡する?店までいくか?様々な考えが頭を駆け巡る。

「なんで答えてくれないの?彼女に隠し事なんて駄目だよ。さぁ、答えて!!」

「俺はあなたなんて知らないし、彼女でもない」

「………………………アハ、アハハ、アハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「なにがおかしい。お前が尾行したり、監視したりしてたんだろ?」

「好きな人とずっと一緒にいたいの。ずっと見ていたいの。そんなの当たり前でしょ。それに私を知らない?彼女じゃない?ナニヲイッテイルノ?コンナニアイシアッテイルノニ!」

そう言った後、ストーカーはガクンと首を下に向け動かなくなった。この隙に逃げるか?一歩足を引き動き出そうとしたところで

「あなたは洗脳されたのね。ここ数日会えなかったのは洗脳されていたから!だから私の事をわすれてしまったんだわ!あなたはあなたであって違う人なんだ。私の好きな人はもういない……、だったら偽物のあなたを殺したあと私も死んで違う世界でもう一度出会うしかない。…………だから死ねーー!!」

支離滅裂な妄言を喚き散らしたあと、鞄に手をいれ鈍色に光る刃物を手に持ちこちらに走ってきた。逃げようと足に力を入れるが動かない。まるで、その場に固定されたように身体が動かない。ただ、目だけは眼前に迫る狂気を湛えた女を捉え続けていた。そして、あと少しでナイフが突き刺さるという所で女は消えた。そう、唐突に視界から消えた。かわりにスーツを着た見覚えのある女性が立っていた。

「志岐先郷子、殺人未遂の現行犯で逮捕する」

手錠を嵌める音に合わせて下を見ると組み伏せられた女がいた。必死に抵抗しているが、刑事さんはびくともしない。そのまま、他の刑事や警官なども集まりストーカーは連行されていった。呪詛を喚き散らしながら、俺への愛を叫びながら……。その様は狂愛に満ち満ちていた。



こうして、ストーカー事件は幕を閉じた。後日刑事さんに聞いた話では、電車で見かけて一目惚れしてもっと俺の事を知りたいと色々調べていたらしい。

そうしている内に、いつしか彼女の中で俺と恋仲になり、近づく女性は排除すべき敵であり害虫になった。そして、最後は俺を殺そうとした…………。まさに狂気、常人には理解できない思考だ。だけど、刑事さんが最後に『私たちは愛に飢えている。愛して欲しい、愛したい、だがそんな願いを叶えられるのはごく一部の人間のみ。今回の犯人には同情の余地はないが、誰しもが愛に狂う可能性はある。それを忘れないで欲しい』この言葉が頭から離れない。男女比が偏った世界。最初はハーレム王になるなんて考えたこともあったが、実際は酷く残酷で、厳しく、冷たい世界なんだと痛感させられた。もし、葵や結衣、楓、先輩、先生が愛に狂ったらその時俺は…………。



another view point


日記を机の上に置き深いため息を吐いた。もし私が彼の立場だったらどうしただろうか?一見すると男性の理想郷のような世界だがそこは狂気を孕んだ歪な世界。愛し愛されたい、そんな願いですら叶えられない世界。この先彼には辛い事が幾度も襲い掛かるだろう。どの様に生き、なにを成すのか。ふと机の端に目を向けると(うずたか)く積まれた日記。読み進めればそれも分かるのだろうか?私は彼の幸福を願いながら、再び読みかけのページへ目を落とした。


another view pointEND

次回更新は七月十八日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ