No105
おはようございます。今日も清々しい気持ちで一日を始めたいと思います。本日の予定ですが午前中は病院で定期健診、午後は講義となっております。バイトは本日はありません。というわけで電車に揺られていつもお世話になっている病院へと向かっています。
さて、毎度おなじみの病院へと着きました。受付で手続きをして診察室へと向かい中に入ると見慣れた人が椅子に座りながらこちらに笑顔を向けてくれる。
「お久し振りです。先生」
「お久し振り。変わりないようで安心したわ」
「今日もよろしくお願いします」
「こちらこそ」
簡単な挨拶を交わした後診察開始。といってもやる事はいつもと変わらないから気楽なもんだけどね。
「最近体調を崩したり、どこか痛かったり、不調があったりはしない?」
「ここ一、二週間寝つきが悪いんです。眠ろうとしても変に頭が冴えてしまってかなり時間が経ってからようやく寝れる感じで困っています。身体は疲れているんですけどね」
「そうねぇ、環境の変化が主な原因だと思うわ。こればっかりは慣れる他ないんだけど、どうしても辛いようなら睡眠導入剤を処方する事も出来るけどどうする?」
「あんまり薬には頼りたくないのでもう少し頑張ってみます。ちなみにいい睡眠をとる為にリラックスグッズとか使った方がいいんでしょうか?」
「その手の商品はあまり効果が無いからお勧めできないわね。アロマを焚くのは効果があるけど、場合によっては逆効果になるから使うなら専門店でしっかり話をしてから買った方が良いわね。あとは一番簡単なのは寝る一時間くらい前にお風呂にゆっくり入って、湯上り後二十分くらいクールダウンした後お布団に入るとよく寝れるわね」
「なるほど。その方法が一番お金もかからないし、手軽にできてよさそうですね」
「よかったら試してみてね」
「ありがとうございます」
「他にはなにか問題があったりする?」
「特には無いですね」
「分かったわ。それと大きく環境が変わると体調も崩しやすいから普段よりも気を付けてね。最近は寒暖差も激しいから尚更注意しないとあっという間に風邪を引いたりするから」
「分かりました。マスク着用、手洗いうがい必須でいきます」
「いい心がけね。そうしてくれると私も安心だわ」
うむうむ。笑顔を浮かべながら言う女医さんは大変美しい。この人を悲しませない為にも体調管理をいつも以上にしっかりとやろう。このおっぱいと魅惑のスリットスカートから伸びる脚が見れなくなるのはツライからじゃ断じてない。断じてそんな事はないからな。そこん所よろしく!
問診が終わった後は、各種検査が待ち受けている。担当医と女医さん、看護師さん二名が付き添って行うんだが、最初は上着を脱いだら恥ずかしそうにしていたのに今では平然としている。人間どんな事でも慣れるもんなんだなとか思ったり。逆にいつまで経っても顔を真っ赤にして恥ずかしがられても困るけどね。お互いにやりにくいったらありゃしないだろうし、医療に携わる者としてどうなの?って所もある。とまあ、感想を述べたんだが検査なんてやる事は毎度同じなので機械的にこなしていき終了。挨拶をした後病院を後にして大学へ向かいます。
時刻は丁度お昼時。大学に着いた俺は憩いのスペースに向かい歩いている。まさかボッチ飯か?と思った方もいるかもしれないが、そんな事は断じて無い!その証拠にほれ見てみ。彼女達が俺に向けて手を振っているではないか。その姿を見て小走りで駆け寄るとこんな言葉を掛けてくれた。
「おはよう~」
「おはよう、ハル君」
「おはよう」
「うん。おはよう」
結衣・楓・柚子と挨拶を交わした後は早速昼食に入りたいと思います。結構歩いたからお腹減ったぜ。
「今日は私がお弁当を作って来たよ。ハル君の好物も入れてるからね」
「おっ、ありがとうございます」
「じゃあどうぞ」
楓からお弁当を受け取り蓋を開けようとした所で柚子から疑問の声が上がる。
「待って。お弁当って楓ちゃんの手作りなの?」
「はい。私と結衣が交互に作ってるんです」
「悠君。私そんな話聞いていないんだけど……」
「あーっとですね、こう……なんとなく話の流れで決まったので柚子には言わなくても大丈夫かなって思って報告してなかったです」
「もう!私だって手作りお弁当を悠君に食べて貰いたいのに」
「有難いけど柚子は違う大学だし中々難しいだろ。今回みたいな機会もあまりないしさ」
「そうだけど……」
これは俺が悪いな。彼女の手作り料理が食えるって舞い上がって柚子の気持ちを考えていなかった。結衣と楓だけ依怙贔屓している様に見えても仕方ないよな。
「ハル君、提案なんだけどデートでお弁当を用意する場合は柚子さんに作ってもらうのはどうかな?」
「俺は構わないけど二人はそれでいいの?」
「全然OKだよ」
「もちろんOKです」
「柚子はどうかな?」
「任せて。結衣ちゃん良い提案をしてくれてありがとう。それとハル君、我儘を言ってごめんなさい」
「我儘だなんて思ってないよ。俺の方こそもっと柚子の気持ちを慮るべきだった。ごめんね」
恋人同士だからといって言わなくても分かるなんて事は無く常に相手を思いやり、気持ちは言葉にしないと伝わらないという事を改めて実感する出来事だったな。こういった些細なすれ違いが重なって次第に取り返しのつかない大きな溝となり最終的には破局、離婚となるのだろ。そんな悲しい事態は何としてでも避けたいから今後も気を付けていこう。
「じゃあ、お話はここまでにしてご飯食べよう」
「だな。じゃあ頂きます」
楓お手製のお弁当は彩り豊かで、ぱっと見でもバランスの取れたメニューだった。味もやや薄味で素材の旨味を十二分に引き出していて美味い。ご飯は白米では無く雑穀米でこれまた美味い。雑穀米に関しては苦手な人もいるが俺は結構好き。歯応えがあるし、食べ応えも十分。健康にも良いしいい事尽くめなんだけど、お値段が高いのがネックかな。家でも偶に出るくらいだし、毎日とはいかないよね。
「ハル君、美味しい?葵ちゃんから聞いて好みの味付けにしたんだけどどうかな?」
「うん、美味しいよ。もう毎日食べたいくらい」
「そっか。よかった~」
「むうっ、その言い方だとプロポーズにも聞こえちゃうね」
「ぶうっ!?結衣何言ってんだ?」
「だってそう感じたんだもん。私もハル君に毎日美味しいご飯を作りたいな~」
「私も同じ。大好きな人に美味しいご飯を作りたいよ」
かぁー、なんて嬉しい事を言ってくれるんだ。美少女に毎日飯を作ってもらえるとか最高かよ。可愛い子の料理とか例え暗黒物質でも笑顔で美味しく頂くけど、出来れば美味い方が良いからな。
「なんかにやけてる~」
「いやさ、二人に嬉しい事を言われたからついね」
などどイチャイチャしながら飯を食っていれば当然目立つわけで。近くにいる人や通り過ぎる人の視線を集める、集める。好奇の視線なら問題無いんだけど中には嫉妬心や敵意を持ったものも感じられる。そして、僅かに耳に届く話し声も。
「なにあれ。見せつけているの?」
「ねっ。ちょっと顔が良いからって調子に乗ってるんじゃない?」
「どうせお金を積んで男性にお願いしたんでしょ」
「もしくは体を使ってとかね。どちらにせよ最悪の女だよね」
「言えてる。そもそもあんなに格好良い男の人と仲良くしてるとか絶対裏があるに決まってる。大学に来た奇跡ともいえる唯一の男性に対して最低の手段を使って独占とかマジ死ね」
「あれ何年生なの?一年かな?」
「じゃない?見ない顔だし。ていうか私の方が尽くすし可愛いからアタックしてみようかな」
「その話のった。私も参加する。あんなクズ女には負けないし」
「あははは。あんた口悪すぎ」
「人の事言えないでしょうが。あんたも十分酷い事言ってたじゃん」
「確かに。あはははは」
なんとも最低な会話だ。胸糞悪くなるし、彼女を馬鹿にされて黙っているほど人間が出来ている訳じゃない。すっごいムカつく。怒りに任せて注意してやろうと立ち上がりかけた所で裾を引かれてしまう。
「ハル君落ち着いて」
「落ち着いていられるか。馬鹿にされたんだぞ」
「もう慣れっこだから。それにね男性と付き合うとこんなの当たり前だよ。何を言われたって痛くも痒くもないから大丈夫」
「でも……」
「結衣ちゃんの言う通りなんとも思ってないから本当に大丈夫。嫉妬、嫉み妬み、嫌がらせ、悪口は通過儀礼みたいなものだし、こんなので心が折れたら男性と付き合う事なんて出来ないしね」
「そうだよ。覚悟が無い人はそもそも土俵にすら立てないし、ハル君が気にする事じゃないよ」
口々にそう言ってくれるが、だからと言ってはいそうですかとはならない。三人の話を聞いて理解はした。男性が極端に少ないこの世界では勝者と敗者が明確に分けられる。数少ない勝者に向ける感情は怨嗟渦巻くものになるのも当然だろう。だが理解はしたが納得は出来ない。彼女が悪し様に言われてなにも思わない奴なんかいない。深い部分まで根付いてしまったものをどうこうする事は出来ないが、彼女を守る盾にはなれる。悪意から俺が守ってやるんだ。
こうしてなんとも後味の悪いまま昼食の時間は過ぎて行った。今回の出来事はこの世界の闇の一片に過ぎないのだろう。女性社会という陰湿でどこまでも深い闇が漂う世界のほんの一角を見ただけ。これから先比較にならないくらい悲惨で凄惨で陰鬱な出来事が起こるだろう。その時俺は彼女達を本当の意味で守れるのだろうか?心に自分自身でも気付かない程小さな影が差したのをこの時は知る由も無かった。




