No101
皆さんは大学と言えばどんな事を考えるだろうか?楽しいキャンパスライフ、サークルであんな事やこんな事をする、自由で沢山遊べる最後の学生時代、将来の為の人脈作りの場等々人によって様々だろう。
俺にとっては地獄だ。これは前世の話になるが、一年次、二年次は進級できるギリギリの単位取得で抑えて遊びまくっていたんだ。その結果三年次、四年次はまさに地獄となった。あの時程過去の自分を呪った事は無い。単位の仕組みをよく理解していなかったのも要因だし、未来の自分が頑張ればいいよと楽観的に考えていたのも要因だろう。それらを踏まえて今回は年間で取得できる単位数上限一杯まで履修選択するつもりだ。目一杯詰め込むためかなり忙しくなるが、後々の事を考えれば無問題よ。そもそも大学は学びの場であって、合コンしたり、サークルに入ってパコパコする場所じゃないからな。悟りを開いた俺には色欲なんて存在しないし、性欲?なにそれ?状態よ!フハハハハハッ。
前置きはこの辺にして今日も朝から大学へ向かっています。葵とは途中まで一緒で、大学最寄り駅からは結衣と楓と一緒という流れです。トコトコと歩いていると唐突に結衣がこんな事を聞いてきた。
「ハル君、経営学部はどんな感じ?変な人とかいない?」
「変な人はいないかな。まだ最初だしみんな様子見な感じで滅多に話しかけられたりはしないね。ただ、友達……というか話し相手みたいな人は出来たよ」
「そうなんだ。どんな人?」
「んー、一言で言えば真面目なお嬢様系かな」
「むうっ、ライバル登場かな?」
「確かに美人で知的だし、スタイルも良いけどライバルにはならないと思うよ」
「というと?」
「だって俺には可愛い彼女がいるから他の人は目に入らないよ」
「きゃっ♡もう~照れちゃう」
「ねぇねぇハル君。それって私もだよね?」
「もちろんだよ。楓も俺の可愛い彼女だよ」
「ふふっ、嬉しい」
「それに、俺みたいに目一杯詰め込んで講義を受ける人なんて早々いないだろうし、接点も少ないと思うから二人が思っている様な事にはならないよ」
「そっか。なら大丈夫かな」
「だね。あっそうだ。先輩達がハル君に会いたいって言ってたよ」
「あぁ、高校の先輩達もこの大学に通っていたんだよな。ん~、今度時間を作って会いに行くか」
「そうしてあげて。喜ぶと思うし、色々話も聞けると思うから」
「だな。その時は二人も一緒にどう?」
「「うん」」
イチャイチャ、吐くほどの砂糖全開で歩く俺達はまさにリア充!嫉妬と羨望の眼差しを浴びながら歩くのは気持ちい~~!!…………わけが無くなんか申し訳なくなる。朝っぱらから見せつける様な真似してごめんなさいと心の中で謝りながら歩を進めた。
大学構内で結衣、楓と別れて教室へ行くと六割くらいの席が埋まっていた。あちゃ~少し出遅れたか。いい席は取られちゃっているしどこに座るかな?と思案していると耳に心地いい声が耳朶を叩く。
「悠君。ここ空いていますよ」
「ありがとう」
返事をして近くまで行き席に座って一息。
「おはよう茜」
「おはようございます」
「ふぁぁ」
「あら、寝不足ですか?」
「んー、昨夜は早めに寝たんだけどなんか眠くてさ」
「まさに春眠暁を覚えずですね。私もベッドから抜け出すのに時間がかかって大変です」
「そうなんだ。茜のイメージ的に目覚ましを掛けなくても時間になったらすんなり起きると思ってた」
「実は私朝弱いんですよ。起きてからもヨロヨロしながら準備してます」
「あはは。本当に全然イメージと違うね」
「私って悠君からどう見えてたんですか?」
「全てをきちっと管理して、そつなくこなすって感じかな」
「うぅ……。全然違って幻滅しましたか?」
「そんな事ないよ。むしろ好感が持てるし、親近感も湧く」
「そう言って貰えてホッとしました」
いやー、話し相手が居るっていいですね。初日に茜が話しかけてくれなかったらぼっち街道まっしぐら間違いなしだったからな。大学では高校と違い距離の詰め方とか接し方が一気に難しくなる気がする。茜以外にも友達というか知人みたいな関係の人を作りたいけど、今一歩踏み出せない。時間が経てば経つほど難しくなっていくしアクションを起こさないとなと思ってはいるんだけどね。おらに勇気を分けてくれ!ってドラ〇ンボールの孫〇空ばりに両手を空に向けながら叫びたいよ。……仮にそんな事をしたら『おまわりさん、この人です』ってなるから現実では多分やらない……と思う。
授業が終わり背伸びをするとボキボキと大きな音が鳴ってしまった。最近体を動かしてないからヤバいなと思ってはいるんだが、なかなか行動に移せない。健康の為にもウォーキングとかした方がいいんだけどね。分かってはいるんだよ分かってはさ。ただ……面倒なんだよ。
「凄い音鳴ったね」
「だね。最近運動不足だったからなー」
「そうなの?身体は引き締まっているように見えるけど」
「脱いだら悲惨だよ。ブヨブヨってわけじゃないけど筋肉もあまり無いしそんなに見た目は良くないよ」
「へー。でも私はムキムキな人より悠君くらいが好きだな」
「ありがと。でも男としては程よく筋肉がある身体に憧れるんだけどね」
「そっか。女性もそういう感覚はあるから一緒だね」
「んっ?マッチョになりたいって願望があるって事?」
「ううん。丸みがあってボンキュッボンかつ引き締まった身体が理想ってこと」
「そういう意味ね。ふむ……」
茜の言ももっともだが、この世界の女性はその理想に近い人が多いんだよね。今まで太った人は見た事無いし、服の上からになるがスタイルが良い人ばかり。ぱっと見の違いは胸のサイズくらいかな。
「どうしたの?何か考え事?」
「あー、ちょっとね。それは兎も角次の授業に行かないと」
「ねぇ、悠君って講義は結構詰めて入れているの?」
「うん。年間で取得できる単位数上限一杯まで履修選択するつもりだよ」
「えっ、凄い。かなり大変だけど大丈夫なの?」
「まあ、そこは気合でなんとかするよ」
「そうなんだ。…………私も頑張らなきゃ」
「頑張ってね」
another view point
教室にはまだ大勢の学生が残っていたが大多数が悠と茜の話に聞き耳を立てている。抜け駆けした女を監視している……もといチェックしているのだ。中々話しかける切っ掛けがなく焦燥が募っていた時に天の恵みの如くある言葉が耳に届く。
『うん。年間で取得できる単位数上限一杯まで履修選択するつもりだよ』
という事はどの講義にもほぼ悠がいる。これは距離を詰める最大のチャンスであり、絶好の機会。代償として勉強漬けになり、プライベートの時間が大幅に減りさらにはサークル活動も諦めなければいけなくなるだろう。だがそれがどうした!そんな下らない事で男性とお近づきになれる機会を逸するなんて言語道断!そう、この時皆の思いは一つになった。あぁ、その思いは美しきかな。ただ、邪念に塗れているが。
another view pointEND
一致団結した事など露知らず残りの講義も淡々と熟していく。講義は最初という事もあって然程難しくも無く事前に予習していた内容をなぞっているだけなので特に問題も無く終わっていく。最後の講義が終了して片付けをしたらバイト先へGO……という所で茜から声がかかった。
「悠君はこの後どうするの?」
「バイトに行くよ」
「えっ?アルバイトしているの?」
「うん。高校時代から続けているんだ」
「冗談とかじゃないよね?本当に男性が働いているの?」
「そっか。それが普通の反応だよな。本当だよ」
「凄い。よく親御さんや周りの人から反対されなかったね」
「理解がある人達で快くOKしてくれたよ。まあ、最初は色々と心配されたけどね」
「当然だよ。もしもの事があったら一大事だし。私も心配だよ」
「大丈夫だよ。かれこれ三年以上働いているしさ。あっ、もし良かったら今度お店に来てよ」
「いいの?迷惑じゃない?」
「寧ろ歓迎だよ。場所は繁華街の路地裏にあるCafe&Bar Meteorって名前のお店だよ」
「分かった。今度絶対に行くね」
「売り上げの為にもお願いします~」
「うふふっ。分かりました」
よっし!お客さんGET。話を聞いていた人たちも何人かは来店してくれるだろうし、俺がバイトしているって話が広がれば興味を持って来てくれる人もいるだろうから売り上げUPだぜ。……一気に客数が増えるなんて事は無いと思うけど一応店長とアリスさんに大学で宣伝しておいたよって伝えておくか。
「ということがあって宣伝しておきました」
「「…………」」
早速バイト先で店長とアリスさんに報告したんだが二人して黙り込んでしまった。もしかして迷惑だったろうか?事前に一言伝えておけばよかったかな?
「まず、宣伝してくれてありがと。助かるよ」
「ありがとうございます」
「さて、問題はその宣伝の効果があまりにも大きくなる事だろう。恐らくこちらのキャパシティを越えるくらいには客数が増えるはず」
「そんなにですか?精々日に数人大学の人が来るくらいかと思っていたんですが」
「甘い。あまりにも甘いよ。甲野君は自分の影響力を下に見過ぎだよ」
「それは私も思う。佐伯の言う通り暫くはうちのキャパオーバーが続くだろうね。その後はある程度は落ち着くと思うけどギリギリの状態になると思うね」
「それは……。ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
「なに、甲野君が気にする事はないよ。伊藤の言う事は確かだが回せないって程じゃないし、事前に対策していれば何とかなるよ」
「そうですか。俺も今までより頑張ります!」
「うん、その意気だ」
「はぁ~、私のぐーたらタイムが削られるー。ダラダラしたいよ~」
うん、アリスさんの一言で全てが台無しだ。まあ、なんだかんだ言いつつ仕事は完璧にこなすし、文句はないんだけどね。アリスさんのぐーたらタイム確保の為にもいっちょやったりますか。




