No10
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今日もカフェに来た。彼は週に三日、夕方~二十一時まで働いている。なので彼がいる日にはかならず行って彼を見るのが日課だ。今日も愛しの彼を観察しながら幸せな時間を過ごしていると、見知らぬメスが仲良さそうに話しているのが目に入った。ユルセナイ!ワタシノオトコトハナスナ!カレハワタシダケノモノダ!排除しなければ。彼は私を愛しているし、私も彼を愛している。それを邪魔する者は誰であろうと許さない!
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早いものでもう少しで、入学してから一ヶ月が経とうとしている。そう、一ヶ月だ。朝のHRで明後日に俺以外の男子生徒が登校する旨が伝えられた。それを聞いた女子たちはどことなくソワソワした様子。俺もどんな奴が来るか気になっているので気持ちは分かる。この世界に来て初めて会う同年代の男だからな。良い奴だと嬉しいんだが……。
朝先生と一緒に入ってきた男は至って普通だった。名前は山本真司中肉中背でこう……、普通以外になにも浮かばない感じ。HRが終わったので早速話しかけてみる事にした。
「よっ。俺は甲野悠。よろしくな」
「おう。さっきも自己紹介したけど俺は山本真司だ。よろしくな甲野」
「俺の事は悠でいいよ。真司って呼んでもいいか?」
「おう。構わないぜ」
「真司は今日が初登校なんだよな。どうだ?」
「う~ん、面倒、疲れた」
「朝から?なんかあったのか?」
「色々説明受けたり、レポート提出したりで結構長時間拘束されてな」
「あぁ~、それはお疲れ様だな」
「悠は毎日学校来てるんだよな?月一登校で良いのになんで?」
手短に理由を説明すると
「ほ~~、なんつうか物好きだな。わざわざ面倒臭いことするなんて」
「そうかな?毎日楽しいし逆に自宅学習とかの方が嫌かな」
「見解の相違だな」
「だな。まあ、今日一日よろしくな。なにか困った事とか分からない事があったら声かけてくれ」
「さんきゅ。そん時は頼む」
うん。話しやすいし良い奴だな。あとで連絡先交換しよう。
その後授業の合間の小休憩の時間の度に声をかけられて色々話した。んだが、女子が声を掛けたそうにしていたので、話をふってみたら
「いやいやいや。苦手なんだよ女は」
なんて返事が。
「いや、クラスメイトだぜ?別になにかあるわけでもなし」
「お前怖くないのか?俺は家族以外の女はちょっと……な」
「別に怖くはないよ。みんないい子ばっかりだし」
「お前勇者か?電車とか街歩いてる時とか見られるだろ、肉食獣の目で」
「あぁ~、うん……まあ。でも流石に慣れたよ。一々気にしてると疲れるしね」
「メンタル強すぎだろ。俺には無理だ」
「そっか。じゃあ女子には俺の方からそれとなく伝えておくよ」
「悪いな。この借りはぜってー返すから」
なるほど、この世界の男は豆腐メンタルなんだな。……冗談はさておき、真司が普通だとすると俺はかなり変わっている。積極的というかオープンな男ということか。今更どうこうしようとは思わないが、知識として頭に入れておこう。
昼休みになり真司に食事はどうするのかと聞くと俺に合わせるとの事。いつも結衣、楓、最近先輩も一緒に食べるようになったので、女子もいるが構わないか尋ねてみると
「くっ……、一人で食うよりはマシだから一緒に行く」
「そうか。無理はしなくていいからな」
「ああ。ありがとな」
そして学食で先輩と合流して食事を始めた。う~ん、なんかぎこちない雰囲気だな。あまり会話も無くモクモクと食べてるのがなんかな……。
「なあ、真司はいつもそんなに飯食ってるのか?」
「んっ?ああ、大体こんくらいは食べるな」
「凄いな。ある意味羨ましい」
「お前は小食過ぎだろ。女子と同じ量しか食ってないし」
「食事は物足りないくらいで終わった方が美味しく食べられるからね」
「そうか?俺は腹一杯食った方が満足するけどな。それにそんな量だと午後に腹減らないのか?」
「減らないな~。普通に夜まで持つよ。結衣たちはどうなの?」
「私は身体小さいからあんまり食べられないし、今くらいの量で十分かな」
「私は体形維持の為にも今くらいかもうすこし少ない量かな。間食もしないし」
「生徒会の仕事で遅くなることもあるから間食はするけど、その分夜はあまり食べないようにしてるね。朝・昼はこのくらいの量で十分だよ」
結衣、楓、先輩の順で各々言ってくれたが、みんなあまり食べないんだな。
「みんな小食なんだね。もう少し食べてもいいと思うけど」
「基本的に太るっていうのは女を捨てる事と同義なの。男性とお付き合いとか結婚とかを考えているなら美容に心血注ぐのは当たり前で、その為の努力ならいくらでもするっていうのが一般的な考えだからね」
「そうだね。楓ちゃんの言う通りで私も頑張って毎日牛乳飲んでいるんだけど背が伸びない……、せめてあと五センチは欲しい」
「いやいや、前田さんは今のままでいいと思うよ。小っちゃくて可愛いし」
「うぅ~、先輩は背が高くて羨ましいです」
「私は平均位だよ。まだ成長期だし可能性は有るから希望を捨てないで頑張って」
努力か……、俺も男性だからと胡坐をかかないで頑張ろう。そうして、昼休みは過ぎていった。
全ての授業が終わり放課後。真司はまっすぐ帰るみたいなので校門まで一緒に行く事に。お喋りしながら歩いていると校門前に高級車が停まっていた。不思議に思っていると、黒服の女性が前に来て一礼。
「お疲れ様でした坊ちゃま。鞄をお持ちします」
「坊ちゃまは止めてくれ。恥ずかしい」
えっ?なに?真司はもしかしてどこぞの御曹司なの?
「なあ、お前ってもしかして金持ちだったりする?」
「あ~、言ってなかったっけ?俺の親が手広く事業をしててさ。Mond und Himmelって聞いた事無い?」
「はぁ?あの大企業だよな。製薬とか金融とか色々やっている」
「そうそれ。そこの経営者なんだよ。うちの親」
「…………マジで?」
「マジ。だからって遠慮とかしないでくれよ。他人行儀にされるとか嫌だしな」
「わかった。てか最初に言ってくれればよかったのに」
「最初に言ったら距離置くだろ。こう遠巻きに見る感じでさ」
「たしかに……、そうだな」
「それが嫌で言わなかった。悪いとは思ってる。ごめんな」
「気にしてないからいいよ。それよりも早く車に乗った方がいいんじゃない?」
頷きながら車に乗り、窓から別れの挨拶をして後去って行った。まさかの衝撃的な事実が判明したが、唯一の男友達だしこれからも仲良くしていこう。
今日はバイトは無いのでそのまま家に向かう事に。ちなみに葵は用事があるみたいで今日は一人で帰ります。電車に揺られながらボーとしていると、覚えのある視線を感じた。そう、あのカフェで感じたネバつくような気持の悪い視線だ。
軽く周囲を見回してみるが、特に変な人はいない。だが、最寄り駅につき電車を降りて自宅までの道のりでもずっとそれは続く。流石に怖くなったので走って家に駆けこんでようやく一息つけた。あの時は俺以外の人に向けている可能性もあったが、今回の事で完全に俺が標的だという事が分かった。くっ、一直線に自宅まで来てしまったが、遠回りして家を特定されないようにすべきだった。
今更後悔しても遅いが、不審者に家を知られてしまったのは手痛い失敗だ。誰かに相談するか?…………いや、今回は偶々だ。そう自分に言い聞かせて今回の事は気にしないようにしようと決めた。だが、この時の決断を後に後悔することになるとは思わなかった。
あれから二週間ほど経った。例の視線は日を追うごとに頻繁になっていき、精神的に追い詰められていく。学校でも職場でも面に出さないよう気を付けていたんだが、店長が怪訝な顔で
「甲野君。顔色が優れないが、体調が悪いなら無理はしないでいいからね」
「はい。お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です」
「そう。なにかあったらどんな些細な事でも良いから言ってね」
店長に心配をかけてしまった。このままじゃ駄目だな。もっとしっかりしないと、みんなに迷惑をかけてしまう。それが、より自分を追い込む結果になるとは知らずに無理に無理を重ねてゆく……。
さらに一週間ほどたちそれはおこった。
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ハル君の顔色が悪い。土気色を通り越して青褪めているし、目の下のクマも濃い。何度も大丈夫?無理してない?と聞いてみたが、問題ないよと言うのみ。
何か隠しているんだろうと思うけど、私に言えない事なのかな?授業を受けながらチラチラとハル君を見ているとフラフラと身体が揺れだし、そのまま椅子から真っ直ぐ床に倒れていった。ドサッと床に身体を打ち付ける音と椅子がぶつかった音がいやに耳に響く。シーンと静まり返る教室。みんななにが起きたか一瞬理解出来なかったんだろう。そして沈黙を打ち破るように悲鳴が鳴り響いた。
私も急いでハル君に近づいて様子をみるが、息はしているようでホッとした。だが、勢い良く倒れたのでどこかしら怪我をしているかもしれない。こういう時の対処法を勉強していなかった自分に腹が立つ。先生が養護教諭を呼んでくるよう指示を出し、次いで救急に電話をしている。もどかしい。もどかしい。
生徒の悲鳴を聞いて隣のクラスの教師や生徒が何事かと見に来た。見世物じゃない!どっかに行け!そう叫びたい気持ちをグッと抑えて改めて容態を確認する。血は出ていない、息もある、目に見える範囲では問題は無い。養護教諭がきて状態を確認していると、救急車が到着し急いで担架に乗せられて病院に搬送された。
その後は緊急会議とやらで残りの授業は中止。このことは他の生徒に口外禁止と強く言われて話す事は出来ない。私の心は暗く、重く、ただただ無力感に支配されていた。
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