(1)来島
東京から、寄り道もしながらではあったけれども、都合七時間近く新幹線に乗って(飛行機は嫌いだ)鹿児島まで、さらに一時間半ほど高速船に揺られて、いつの間にか目の前に平坦な島影が現れる。そして西之表という港に着いたのは、ちょうど正午近くだった。
春の日差しと暖かさが心地よく、まばらにしか雲のない青空と、小さく、静かな港が僕を出迎えた。同じ船に乗っていた人々は、めいめい目的地や出迎える人(レンタカー屋であったりもする)のところへと向かう。
僕はほとんど呆然としていた。桟橋から港の待合所のような建物まで向かっても、何か夢でも見ているような気分だった。
なぜ僕はこんなところにいるのだろう、ここはいったいどこなのだろうと、馬鹿な疑問が頭の中にぼんやりと浮かんだ。
晴天の空の色は、今まで見てきた空のうちで、飛びぬけて青く見えた。その空気は、とてつもなく澄んでいるような気がした。人がはけてしまった港では、控えめな波の音や遠くの車の音が聞こえるばかりで、ひどく静かな気がした。人の気配がほとんどせず、そういうものの密度が、とても希薄に思えた。
きっといくらかは、全く見知らぬ土地、少なからず憧れを抱いていた土地に来たという感慨によって色がつけられているにしても、その場所は、自分が訪れたことがあるどんな場所、端的に言ってしまえば『本土』とは、何もかもが、あまりにも違っているように感じられた。
僕は死ぬために、こんな島までやってきた。死に場所を探すために、死に場所として選ぶために。