蠢くマーレ
飛竜が討伐された夜…
「はい、その様に…」
とある一室の部屋そこには絵画が並べられ一つ額に穴の空いた鹿の首が飾られた部屋。
「できるかね?」
その部屋にいる人間は二人…一人は貴族の服を来た男…もう一人はメイド服を着たの女。
「確かに、あのミノタウロスに続きタラスクを仕留める程に彼女は強いです。
しかしながら、一度手合わせさせて頂いた感想を言わせていただくと、まだ未熟…と言ったところでしょう」
男はそれを聞き笑った。
「まだ、未熟か…これ程の事をしておいて、お前も冗談が上手くなったもんだな」
メイドの女はそれを聞き顔を男からそむけ絵画を見る。
「確かに、彼女は強いです。
が、経験が浅く、対人戦に慣れていないようで…いや、あの感覚は傷つけないようにと私に気を使い手加減しているようでしたか…。
もったいない…」
男はメイドの話を聞き終えため息をつく。
「お前の悪い癖だ…ターゲットを決め成長をするまで待ち、殺す。
それさえ無ければ完璧な殺し屋と慣れただろうに…」
メイドはそれをどうでも良いかのように聞き流す。
「そんな事は私にとってはどうでも良い取るに足らぬ事…
あの完成された獲物を痛ぶり殺す感覚は旦那様には分からぬことでしょう。
あの絶望に満ちた目、痛みに上げる声…」
メイドは体を震わせ美しい顔を崩しにんまりと恐ろしい笑みを浮かべた。
男にそれは見えなかったがそんな事はどうでも良い事だ。
男は話しを進める。
「こちらも面子が立たん。
それに上からの命令だ…あの小娘を消しておかねば後で何を言われるか分かったものでは無い。
悪いがお前の悪趣味は我慢してもらう事になるな」
メイドはそれを聞いて笑顔が消えた。
「それ…命令です?
私、あの子の事気に入ったのですが。
後、数年…いえ何か刺激を与えればああ…一体どれ程の快感が得られるのでしょう…」
男はそのメイドが打ち震える様子を見て顔を手で抑えた。
「全く…頭痛がするよ。
命令だソフィア。
あの娘、ユリス・アラフェルを抹殺しろ…」
ガタ…
その時、何か物が動く音が聞こえ会話を止めた。
「誰かね?」
ソフィアが扉に近づき開けると
ミャーと声と共に一匹のピンク色の猫が入って来た。
「猫か?」
ソフィアは猫を見ずに廊下先の階段の方を見て言った。
「はい、そのようです。
どうやら、子猫が迷い込んだ様ですね」
「子猫?」
ソフィアはそう言いながらにたりと再び顔を歪ませる。
その彼女の頬には切り傷の跡が残っていた。
…
はっはっ…息を切らす音。
暗くなっていくマーレ。
その人のいない道の中…アイラは走り急いでいた。
早く…早く、この事を知らせなくちゃ。
「ユリス…お姉…ちゃん」
息を切らし下を向く彼女は何かにドンッとぶつかり後ろに腰を着いて倒れた。
アイラはぶつかった物が何かと見上げると底には影で分からなかったが女性の姿が確かにそこにあった。
「ユリス、お姉ちゃん!!」
しかし帰って来た声は思っていた声とは違いとても冷たくそしてまるで獲物を味わうかのようにねっとりと絡みつくような声が夜闇に聞こえた。
「そんなに慌ててどこに、行くのですか?」
…
クロウ達は地下の闇市の中を魔族を引き連れ歩いていた。
道の脇には店が並びその中には世界各地から集まったであろう物品が並んでいる。
中には盗まれた品、密輸した物。
中には砂国サハラから盗掘されたであろう金品までもがマーレの地下にあった。
更には奴隷までも売られている。
「お願いします。せめて娘と一緒にっ…」
「お母さんっ!!」
「この娘は20ガロン こっちは15ガロンだ、さあさあ買った買った」
奴隷商人であろう黒いスーツにハットをかぶった小太りの男が奴隷を売りさばいている。
フィオはクロウの後ろを歩き、拳を握り締め、あたりを睨みつけていた。
「おい、クロウ。
暴れてもいいか?」
フィオは怒りを顔に出しクロウに聞く。
クロウは冷静な声でフィオに振り向かず歩き続け、小声で話した。
「落ち着け…今暴れてなんになる?
まずはギルドに…ルアとルナに報告するのが先だ。
証拠が無ければ、クローバを捕らえる事もここにいる奴ら全員を捕える事も難しいだろう」
「分かった、私はお前に従う…」
フィオは苛つきながらもクロウの言葉を飲み再びび睨みつけながら黙ってクロウに続いた。
クロウ達は街の端を歩き目指していた出口へと辿り着いた。
そこは二人の傭兵が端に立つ大きな手掘りの穴でその穴は明らかにマーレの外まで続いている様だった。
クロウはそのまま通路を行くわけにはいかないため街を見た。
「馬車と馬を買うか」
クロウはそう言いフィオに向いた。
「フィオ ここに残って魔族達を管理しているふりをしていてくれ。
俺は、少し街の中で馬車を手に入れてくる」
フィオはそれを聞きクロウの肩を掴んだ。
「待て、私も行く…」
「フィオ、少し行って買ってくるだけだ危険な事はしないよ」
そう言いフィオの手を外す。
そうして、クロウは闇市の中へと入っていった。
闇市の中は治安がとても悪そうで、全員が武器を携帯している。
周りには喧嘩の喧騒、怒鳴り超え、脅し。
様々な雑音が聞こえる中クロウはあたりを見渡しながら進んだ。
馬車と馬が手に入る場所…。
しかしあるのは麻薬の詰められた袋やら武器道具ばかりだ。
クロウは仕方なく酒場の中に入った。
酒場では賭博が行われており狂喜と絶望の声がひしめき合っている。
入るとその店は入り口が2階部分の様になっている店で下が見下ろせるようになっていた。
下を見下ろせば闘技場が開かれ、武器を持った裸に近い剣闘士が武器を持って戦わされている所だった。
その賑わいぐあいは物凄く酒と金貨、銀貨を片手に騒いでいる。
「よっしゃ、俺はあいつに二十ガロンかけてやる。
これで全部、取り戻す」
「大きく出たな、いいだろ」
クロウはその中の一人、大きな賭けをしている男に目をつけた。
男が賭けた剣闘士は青色の軽い装備を着た男だ。
対するは赤色の剣闘士。
試合は鐘の音と共に開始され両者動き出した。
赤が最初に斬りかかり青はそれを剣で弾く。
青い剣闘士はそこから拳で相手を殴った。
赤も負けておらずすぐさま体制を立て直し剣で男の足を突き刺した。
勝負はそれを起点に青い剣闘士は勢いを無くし気絶したのか死んだのか容赦なく打ちのめされ動かなくなった。
体中から血が流れている。
「があああ、負けた。
クソっ、も一回だ今度は俺の馬と馬車もつけてやる、なっ」
やはり思っていたとおりここに来ている奴らは馬車や馬を持っている奴が大半らしい。
男の服装から金を持っている所から見て馬車もあるかもと見ていた感があたった。
「駄目だ、今確実に手に入る金じゃなきゃ、信用出来ん」
今目の前で人が死んでいるかも知れないのに彼ら…いやここにいる連中は次の試合の話で盛り上がっている。
いかれてるな…。
クロウはそう思いながら階段を降り男のもとへ向かった。
「なら、俺が建て替えよう。
20でどうだ?」
クロウが近づきそう言うと、男は渡りに船だとばかりにクロウの話に食いついてきた。
「いや、低すぎだ 俺のは屋根付きでな50は軽くいく」
「屋根付き?あれは支えの上に布を被せてるだけだろ。
間を取って35だこれ以上、上げん」
クロウは実際に見たわけではないがそう言い鎌をかけてみた。
男はしかめっ面をしクロウが袋から取り出した金貨を取った。
「ちっ、困ってなきゃ、こんな値段で売らねえんだがな」
男は外を指さした。
「ほれ、札だ、これを持ってけばお前のもんだ」
そう言い終え男はクロウから目を離し賭け事をしている相手に向き直った。
クロウが酒場を出る前その男を見ると金貨を全額、赤へとつぎ込んでいる所だった。