洞窟探索
クロウとフィオ率いる一行は洞窟の中へと入っていく。
話によれば以前はゴブリンの根城だった所らしい。
マリダが先頭を歩き少し進むと木で出来た家々が点々と現れ始めやがて大きな谷間にできた巨大な町が現れた。
家はゴブリン用の為小さいが見渡す限りにそれが建てられている。
「離れるなよ、かなり複雑だ」
マリダはそう言いながらクロスボウを構え地図も見ずに先頭を進んでいく。
一行は木の縄はしごや階段を伝いまるで迷路の様な道を突き進んでいく。
すると途中でマリダが止まった。
「橋が燃やされて無くなってる」
マリダはかがみ黒ずんだ箇所を指でなぞった。
「まさか、行けなくなったか?」
フィオがそう言ったが、マリダは落ち着いてカバンをおろし地図を開いた。
「問題ないわ、ルートを変えれば下に降りれる」
そう言い地図を確認し終えると折りたたみ再びカバンの中へとしまった。
「こっちへ」
再びマリダの案内のもと進んでいく。
下から上を見ると洞窟の入り口から漏れ出る光がゴブリンの崖に建てられた何層もの家を照らしている。
自分たちはA級の冒険者に松明をもたせ明かりを得ていた。
そのまま進んでいると何か気配を感じた。
飛竜にしては小さいし多すぎる。
クロウは剣を無言で引き抜き辺りを見渡した。
「なんだライエールどうした?」
A級冒険者のガナンが話しかけてくる。
「静かにしろ、お前たちにはわかんねえのか」
フィオがそう言いガナンとハーリスは黙り言われるがままに耳をすました。
確かにと、うなずき武器を構えた。
クロウはマリダの前に出る。
その時、動く物を見た。
赤い血濡れたゴブリン。
おそらく食料が無くなり仲間同士で殺し合った個体だろう。
「レッドキャップ」
クロウがそう言った瞬間影から無数のレッドキャップが現れ襲い掛かって来た。
どうやら自分達を餌としか認識していないらしい。
クロウ、フィオは焦りもせず剣で拳でレッドキャップを亡き者へと変えて行った。
しかしA級冒険者側は手慣れては、いたが数匹マリダの方へと抜けてしまっている。
「すまん!」
マリダはクロスボウを打ち一匹倒すが装填に時間が掛かっているようでもう一匹のゴブリンが近くまで迫っていた。
バン
洞窟内に銃声が響きゴブリンはマリダの前で崩れた。
マリダがそれを見て音がした方を向くとクロウが銃を手に持っているのを見た。
「まさか、銃ですか? それ」
クロウは威力に少し問題があると銃弾が床の木で止まったのを見て思った。
これならば魔力を込めた弓の方が速い上に威力が上だ。
「まあ、こんな物か」
クロウはホルスターに戻しもうレッドキャップはいないかと周りを見渡す。
「よし、片付いたな。
行くぞ」
再び一行は進みようやく飛竜がねぐらにしている場所についた。
そこは谷の一番下の部分で辺りは骨が散乱し所々に焦げ後が残っている。
「よしお前ら三人はここで待て。
後は私達で十分だ」
フィオはそう言いA級冒険者を見た。
A級冒険者は物言いたげな表情だったがフィオがS級冒険者と言うこともあり苦い顔で飲み込んだ。
「ライエールを連れてくのか」
マリダはガナンを見てそう聞いた。
「ん?そうだろうな。
パーティーやってんだから」
「相手は飛竜よ。
確かにライエールはさっきの戦いを見ると腕は立つようだけど、B級じゃない」
そのやり取りを見て、ハーリスがマリダに告げた。
「マリダさん、これはギルドの少数しかあまり知られていないが、ライエールさんは、フィオさんと同格だとか」
ガナンは知らなかったようで目をぱちくりしマリダは疑わしそうな目で見た。
「おい、何言ってんだよ、ハーリスあのライエールだぞ。
そんなわけねえだろ」
ハーリスは真面目な顔で続けた。
「だが、噂だが、S級の勧誘を断ったと聞いた…」
フィオとクロウは3人を残し奥へと進んだ。
暗い洞窟の中、飛竜は何かの気配を感じ、閉じていた瞳を開け、体を持ち上げた。
前方から来る、飛竜は音がする方向を首を伸ばし覗き込む。
すると二つの影が姿を表した。
フィオとクロウは隠れもせず堂々と真正面から飛竜と対峙した。
直後、飛竜が口から炎を飛ばし二人を襲う。
ドォオオン
着弾と共に大きな音が起こり、炎が洞窟内を照らす。
しかし、そこには何もいなかった。
飛竜が探そうと首を動かした瞬間、今までに経験したことの無い衝撃、痛み、感覚が同時に飛竜を襲った。
フィオが飛竜の横顔を殴り、飛竜を壁に吹き飛ばしたのだ。
ギャアアアア
飛竜は悲鳴の様なかん高い声を上げ壁に衝突した。
飛竜が起き上がるとその顔を凹み変形している。
クロウはそんな飛竜に向かい近づいた。
飛竜はそれに気づき今度は尾を利用し小さな人間を今度は逆に吹き飛ばそうと試みた。
クロウは焦りも恐怖も無くただ赤い模様の入った剣を鞘から引き抜き斜めに振った。
ドサリ
という音と共に尾が重々しく地面に落ちた。
飛竜は再び悲鳴を上げ、飛び退ろうと翼を広げる。
フィオは笑い、走り、飛竜が飛ぶ前に腹部へ殴りを打ち込んだ。
飛竜はもはやなす術も無く再び壁に打ち付けられた。
しかし飛竜も負けじと壁にぶつかりながらも翼を羽ばたかせ空中へと舞い上がった。
クロウは銃を取り出し、物は試しと打つがあまり効果は無い様に見えた。
「おい、やらかしたな。
飛ばせちまったぞ」
フィオは空中を舞い、洞窟内の谷、出口を目指し上昇していく飛竜を見てそう呟いた。
「ああ、この銃も改良の余地がある様だ。
全部、弾かれた…」
クロウは銃をホルスターに戻し落ち着いた様子で飛竜を追った。
「まあ、なんとかなるだろ。
こんな時のために、ユリスを置いといた様なもんだ」
フィオは走りながらマリダを抱え走るクロウを見て言った。
マリダはクロウにリュックごと脇に抱えられ不満げな顔をしながらも道案内をしていた。
後ろのA級二人はなんとかフィオとクロウの後ろについて来ていた。
走っているとドーンと言う音と振動が洞窟内に響いた。
「どうやら、入り口を塞いだ様だな」
クロウは上の様子を見ると飛竜が方向を変え更に上昇している姿を確認した。
走り向かっている途中で飛竜の炎が爆発した音や鳴き声が聞こえ上で戦いが起こっている事が分かる。
そして突如、爆発音が聞こえ地面が揺れた。
クロウ達が音のした上を見ると飛竜が上から落下してきていた。
飛竜は翼を動かし体制を取り戻そうともがいていたが何故か上手く行かないようすだ。
飛竜が落下し横を過ぎる時、上にユリスが乗っているのをクロウ達は見た。
「おい!」
「今、誰か乗ってなかったか!?」
A級冒険者二人が騒ぐ中。
フィオはすぐさま飛竜を追い飛び降り、姿を消した。
クロウはマリダを地面に置き、フィオが降りて行った下の闇を覗き込んだ。
「フィオさん、信じられねえ…」
ガナンとハーリス、マリダも顔を出し深くの底を見る。
ドオオォン
下で音が1回そして立て続けに再び先程よりも大きな音が谷にこだました。
一連の状況を見て、クロウは底を見るのをやめた。
「マリダ、フィオを探してくれ。
俺は地上にいる奴らを見てくる」
クロウはハーリスとガナンをマリダに付け一人、上へと上がっていった。
上の階層に上がるとノエル、アルバ、メリーが同じ場所でユリスの落ちて行った谷の底を覗き込んでいる所だった。
「ライエールさん、あの!ユリスは!?」
ノエルがクロウを見て詰め寄り服を掴んだ。
クロウはそれを見て首を振って答えた。
「分からん、だがフィオが向かった。
問題ない」
クロウはノエルの手をするりと外しアルバの元に向かった。
「アルバ、傷を見せろ」
アルバは何か企んでいるのかと疑わしげに見てくる。
「なんだ?、ライエール。
どうするつもりだ」
アルバの傷を見ると薬草を染み込ませた布で覆われ包帯で巻かれているのが分かる。
「いい、処置だ」
クロウはそう言いながら懐ニ手を入れ一本の試験管を取り出した。
中には青い液体が入っている、この前、呪いにかけられていた傷口を治した液体だ。
メリーはそれを見てはっと驚きの表情を見せた。
「青色のポーション…」
クロウがアルバに否応なくそれを垂らし傷を消した。
…
その後クロウと3人は外で他のメンバーを待つことになった。
マリダとA級二人そして最後にフィオとユリスが洞窟内から出てきた。
ユリスはフィオの肩を貸してもらいようやく歩けているようだ。
クロウはすかさずユリスの頭に残りの全てのポーションを掛けた。
「ポーション?」
ユリスは驚いていたが体の痛みが消え元のように体が動かせるようになったようだった。
クロウは全員の顔を見て口を開く。
「負傷者はいないな…。
これで、飛竜討伐を完了とする。
各自、解散」
クロウはそう言うなりフィオと共に山を下りマーレへと戻った。