表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

クロウ・ビトリーク

 俺にとって世界とは苦痛である。

 この世界は呪われている。なぜこれほどの残酷な事が出来てしまうのか。なぜ生命はこの世に生まれ、犠牲無くしては生きられず、そして死ななければならないのか。

 世界は喜びの表に対し常に悲しみが裏で必ず共存するように出来ている。

 故に人は争い傷つけ奪い失う。

 あまりに残酷だ…この世界を作った者はよほど残虐な奴らしい。

 故に、世界とは苦痛でしかない。

 …

 「あいよ、ご注文の酒だ」

 そう言いドンとガラスのコップに入った酒が置かれた。

 底には小さな紙切れが挟まれており

それを酒と共に受け取る。

 クロウ・ビトリークはガラスのコップを揺らし、液体を回し眺めた。

 クロウはそれを一口も口にせず顔につけた狐の仮面も取らない。

 この店は相変わらず薄暗く客はクロウを含め三人程ほどいるだけだ。

 「聞いた話だけどよ、お前また派手にやったんだってな」

 横にいた男が小声で話しかけてくる。

 クロウは何事も無かったかのようにそれを無視し、烏の紋章が入った金貨をテーブルに置いた。

 「ありがとう、また来るよ」

 クロウはそう言い手をつけていない酒を横の男のテーブルに滑らせその場を去った。

 その店を出ると路地に出た。

 先程手に入れた紙をちらりと見ると、クロウは簡単な魔法を使いそれを燃やした。

 手に持っていた紙が燃えていく。

 「なるほど…」

 「なーにが、なるほど何だ?」

 クロウが上を見るとフィオが屋根の上に座っていた。

 「宿で寝てたと思ったが…」

 フィオは軽く屋根から飛び降りクロウの前に着地しクロウを壁に押し付けた。

 「前にも言ったが私を置いていこうとするな」

 フィオはゆっくりとそう言いクロウの目を見てはっきり告げた。

 大通りで行き交う人達が路地を見て女性が黒ずくめの奴を壁ドンしていると話しながら通り過ぎていく。

 最も拳で壁を殴っていたが。

 「わかったから、離れろ」

 クロウはフィオを押し退け路地の奥へと歩き出した。

 フィオがクロウの横を歩きチラチラとこちらを見てくる。

 どうやら先程の紙が気になっているらしい。

 「騎士国の情報だよ。

 騎士王ユーサーが城で襲撃され殺された際

 どうやらアーサーは、なんとか逃げ延び、生きていたらしい」

 「おっ、朗報だな。

 それを調べるって事は、あの依頼を受けるんだな!?」

 フィオは嬉しそうに拳を叩き拳を何もない所に軽く放った。

 「あの馬鹿げた依頼をか?

 一体誰が依頼してきたのかは知らないが。

 受ける気はない…少し調べただけさ」

 クロウはフィオにそう言い歩き続ける。

 やがて大通りに出て人混みの中に消えた。

 人混みの中クロウが歩いていると小さな子供がぶつかってきた。

 「あっごめんなさい」

 子供はそう言い慌てた様子で去っていった。

 フィオはそれに怪訝そうな表情を見せクロウを小突く。

 「おい、どうせ気づいてるだろうが、すられたぞ。

 いいのか?」

 クロウは何でもないと肩をかすめる。

 「情報屋だよ、緊急用の」

 クロウは先程には何も無かったはずのポケットから手紙を取り出しひらひらとフィオに見せた。

 …

 その後二人は宿に戻り椅子に腰掛けていた。

 部屋の中は広くカーペットが敷かれ奥には暖炉が備え付けられ、窓からは大きなコロシアムが目の前に立っている。

 下を見れば人々が行き交いコロシアムを見ては近々行われる闘技大会の話をしていた。

 「んで? さっきのは何だったんだ?」

 フィオが遅めの朝食を取りながらクロウに聞いてきた。

 「ああ、イリュジオンの花だよ」

 「なんだ、薬か。

 騎士国の方じゃないんだな」

 フィオは拳を叩き不満げだ。

 おそらく暴れられるのを期待していたのだろう。

 「まぁ、そっちも対処しなきゃならないが、先にこっちが優先だ」

 クロウはそう言い続けた。

 「どうやら、向こうではいろいろと起こってるらしい」

 クロウはふっと鼻を鳴らす。

 「飛竜が出たそうだ。

 それで、ついでに狩ってほしいとの依頼だ」

 フィオはそうこなくちゃ、とばかりに笑い指を鳴らした。

 「なるほど、で、場所は?」

 「マーレだ」

 フィオは自分の朝食を終え、クロウの分の食事にも手を伸ばす。

 「先程の話に戻すが、おまけに見たことの無い新種が町中に現れたと書かれてる。

 角の生やした人型の魔物。

 それに黒ずくめの人物にルナが深手を負わされた…か」

 フィオがモゴモゴと言いながら反応した。

 「口の物を飲み込んでから話せ」

 「ぷはっ、ルナがやられたのか!?

 あいつ、まあまあのやり手だったろ」

 クロウは頷き手紙を読み進める。

 「ああ、もとA級冒険者だ」

 クロウはフィオにそう言い、手紙の未知の魔物を倒した冒険者の名前に目が止まった。

 「ユリス…」

 …

 クロウとフィオは食事を終えるや、すぐさま荷物を整え冒険者ギルドへと向かった。

 町中の人達を避け進む。

 冒険者ギルドは街の中心闘技場の真下にある一階。

 その横には挟まれるように錬金術ギルド、魔法使いギルドが建てられていた。

 クロウが冒険者ギルドへと足を踏み入れた瞬間、カウンターからガシャガシャと物がいくつか落ちた音と共にブロンド髪の受付嬢が慌てて出てきた。

 「ライエールさん!!」

 フィオはその受付嬢を見てしかめっ面をし、睨んだ。

 出てきた受付嬢はフィオを無視してクロウの近くまで走りわざとらしく転けた。

 クロウはすっと彼女を支え起こす。

 「ちっ、そのまま、倒しときゃあいいんだ」

 フィオは小声で悪態をついた。

 「ありがとうございます。

 ライエールさん、お礼に今度お茶でも…」

 クロウは毎度の事ながらと、首を横に振った。

 「いや、プワレ、忙しいから遠慮するよ。

 それより、何か話があるんじゃないのか?」

 プワレはクロウに寄りかかって立ち上がりフィオを見て睨み返した。

 「はい、実は飛竜の討伐の依頼が来てまして。

 マーレのルアさんからです。

 メンバーは他にB級パーティーとA級パーティーの方達はこちらですでにお願いしてあります」

   緊急

 依頼 飛竜の討伐

 

 賞金 相談次第

 

  S級 フィオ様 A級 B級

 クロウがどれを見ると、フィオがそれをのぞき見たようで、怪訝な顔をしてプワレを見た。

 「おい、これ私への依頼だろ。

  なんでわざわざク…」

 クロウがフィオを小突き止めた。

 「ライエールに渡す必要があるんだよ」

 プワレはなんの事かさっぱりと白々しく肩をすくめた。

 

 「おー! フィオ殿、飛竜の緊急依頼とは真にでござるか?」

 後ろから声がかけられ男が話に割って入ってきた

 フィオはため息を付き後ろを振り向いた。

 「全く、面倒なのが次々と。

 最上さいじょう、盗み聞きとは趣味が悪いな」

 男は和服の服を着こなし腰には日本刀をぶら下げていた。

 フィオと同じS級の冒険者だ。

 「盗み聞きとは人聞きの悪い。

 先程すれ違った若者達がそう言っていただけでござるよ。

 ふーむ、それにしても、どうせ名前を読んでくださるのであれば、まことと読んでほしいでござる。

 拙者の国では名前が逆なんでござるよ」

 フィオは相変わらず面倒くさそうに続けた。

 「そんな事は知ってる。

 別にそんな間柄じゃない、ただそれだけだ、さいじょう。

 全く、いつこの街に来やがったんだ」

 「つい先日、着いたばかりにござる。

 それにしてもこれ程、煙たがれているとは」

 まこと、は笑いフィオの態度になんとも思っていないようだ。

 プワレはキョロキョロと真とフィオを見回しクロウの腕を引いた。

 「どうやら私達、お邪魔しているようですから、他の場所に行きましょう。

 私とってもいい雰囲気のお店、知ってるんですよ」

 フィオはすかさずプワレの手をクロウから離し逆に引っ張ってギルドを出た。

 「まあ、フィオ殿なら某の助太刀もいらぬか」

 まことはそう言いギルドの中へ、プワレはフィオが人混みで見えなくなるまで睨み続けた。

 クロウとフィオはそうして王都パンテーロから目的地となったマーレへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ